現在、蛮竜を使えるのは私と武藤カズキだけ。
まだまだ発展途上の成長速度は中々に素晴らしく、いつ私を追い抜いても不思議ではありませんが、そう簡単に私の愛槍を差し上げるほど優しくはありません。
「賛、武藤と戦うつもりか?」
「いいえ、武藤君はお坊っちゃまの好敵手ですから私はあくまで蛮竜を貸すに値するのかを確かめるだけですのでセーフです」
「そうか」
「そうでございます」
私の言葉にムッとするお坊っちゃまにクッキーを差し出して、腰を少し曲げて齧りつく彼の口許をハンカチで優しく拭いてあげる。
「美味いな」
「フフ、お坊っちゃまのための特別品です」
にっこりと微笑む私達を見ながら何かを考え込むように首を傾げる武藤カズキと、溜め息を吐きつつ私達のやり取りを見つめる津村斗貴子にもクッキーを差し出す。
二人とも警戒せずに受け取って、目を見開いて私の事を見つめてくる。そんなに見つめて此方はクッキーはお坊っちゃまにあげるものです。
「賛さん、このクッキーって」
「秘伝のレシピです」
「なら、糸色景の味に似ているのも納得できる」
そう言うと二つ目のクッキーを食べ進める津村斗貴子は懐かしむように小さな笑みを浮かべ、武藤カズキも同じように笑っています。
私よりも長く向こう側に居たわけですから、それなりにひいひいお婆様と仲良くなっているというのは予想していましたけど。
そこまで仲良くなっていたんですね。
「俺は体験していない話か」
「お坊っちゃまも行けるようになりますよ。ただ、ホムンクルスを嫌っている方もいるので、やはり少しばかり面倒臭い人もいますから」
特に近年の継承権を得ていたお婆様の下──私のお父様とお母様の世代に居る又従兄弟の方とかマジで面倒臭い人なのは事実です。
立ち位置としては分家筋なのですが、無鉄砲さと少し人を煽る癖の酷い方です。おそらく糸色姿の子孫なのでしょうが、私は苦手です。
「あ、そういえば賛さんに聞きたいことがあったんだ。賛さんは集中した一瞬《コンセントレーション・ワン》って使える?」
「使えますよ。ただ、私の場合は集中しすぎるため無闇に使えば歯止めが聞かなくなるので相手の攻撃を回避するときだけですが」
「じゃあ、阿部さんって知ってる?」
「御陵衛士の阿部十郎でしたら幕末志士伝や幕末最強の一人としてテレビに出ることもありますね。それに明治時代に林檎産業を確立させ、相楽グループや糸色本家の支援を受けている北海道の大果樹園の方です」
私の言葉に歴史の教科書を思い出したのでしょう。津村斗貴子も一緒になって驚いている。やはり、過去の方々と出会えるのは素敵な事ですね。