TS転生したクズ野郎は勇者としての人生を強いられている   作:中の人

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プロローグ 俺は強いられている

 とある街の広場。

 

 その中心で、一人の少女が大勢の人間にとり囲まれていた。

 

 芸術と呼んでも差し支えないほどに整った顔立ちに、シルクのようにきめ細やかで透き通った白い肌。

 

 絹糸に勝るとも劣らないサラサラの銀色の髪と、海を思わせる青い瞳。

 

 少女の容姿は人間離れしていて、白と青のコントラストが鮮やかな衣服が、彼女の魅力をいかんなく引き出していた。

 

「勇者様、ありがとうございました!!」

「助けてくれてありがとう!!」

「手伝ってくれて本当に助かりました!!」

「私は当然のことをしたまでですよ」

 

 勇者と呼ばれた少女は、嫌な顔一つせずに優しげな笑みを浮かべながら、一人一人と丁寧に言葉を交わす。

 

 その姿は慈愛の女神と呼んでも過言ではない。

 

「それでは私はこれで失礼いたしますね」

「えぇ~、もう行っちゃうですか!?」

 

 広場にいた人々と十分に話をした勇者は、宿に帰ることに。

 

 しかし、住民たちが残念そうに別れを惜しむ姿を見て、会話を続けることを選んだ。お人好しと言わざるを得ない。

 

「分かりました。もう少しお話しましょうか」

「やったぁ!!」

「流石勇者様!!」

 

 数時間後、勇者はようやく住民たちから解放された。

 

 宿に向かって歩き出し、周囲に人がいないのを確認して舌打ちと悪態を一つ。

 

「ちっ、誓約さえなけきゃこんなこと死んでもしねぇのによぉ!!」

 

 顔から笑みが消え、怒りが浮かんでいた。

 

 先ほどまで広場でにこやかに話をしていた人物とは思えない。まるで近づくもの全てに威嚇する獣のようだ。

 

 しかし、人が見えた途端、立ち振る舞いが輝きを取り戻す。その姿は紛れもなく勇者と呼ばれていた少女そのものだった。

 

「勇者様、この前はありがとう!!」

「いえいえ、どういたしまして」

 

 勇者は話しかけられる度に立ち止まっては、完璧な笑顔で対応する。だが、回数が増えるたびに、誰にも見られていない時の表情がどんどん険しくなっていく。

 

 にもかかわらず、宿に着くまで一度も、無視したり、邪険に扱ったりすることはなかった。

 

 勇者は自室のカギを開け、入口を(くぐ)る。

 

 ――パタンッ

 

「はぁ……」

 

 ドアを閉め、扉に背を預けて大きくため息を吐いた後、ずんずんと奥へ進んで思い切りベッドにダイブ。

 

 枕に顔を埋め、手足をバタバタさせながら思いきり叫んだ。

 

「あぁああああっ!! なんで俺がこんなことしなきゃいけねぇんだよぉっ!!」

「おやおやぁ? はしたないですねぇ」

 

 勢い余ってスカートが捲り上がるが、気にする素振りはない。粗野で粗暴。淑女のような気品が完全に消え去っていた。

 

 喚き散らす勇者の傍に、突然二十センチ程の小さな少女が姿を現す。背中に半透明の羽を生やし、空中に浮いていた。

 

 まるでテレポートでもしてきたかようだ。

 

 少女は勇者の周りをくるくると飛び回り、ニヤニヤとした意地の悪そうな笑みを浮かべている。

 

「ふっざけんなっ!! それもこれも女神のせいだろうが!! 女なんかに転生させやがって!! 今すぐ俺を元に戻せ!!」

「あれあれぇ、忘れたんですかぁ? あなたがご自分で転生するのを望んだんですよぉ? それに女の子として生まれたのに男に戻せるわけないじゃないですかぁ」

 

 勇者が飛び起きて少女に詰め寄るが、勇者の言葉などどこ吹く風。少女は小馬鹿にするように笑った。

 

「んだとぉっ、こらっ!! 二度目の人生を一からやり直せますよってだけ言って、意図的に情報を伏せたのは女神だろうが!!」

「あはははっ、犯罪者のクズ野郎に本当のことを言うはずないじゃないですか? バカなんですか? ぷー、くすくすっ」

「ふざけんなよ!! 今すぐ殺してやる!!」

「やれるものならやってみてくださいよぉ」

 

 売り言葉に買い言葉。

 

 勇者は挑発に乗って少女を掴み取り、その手に力を込めていく。

 

 人形のように小さな少女の体がギチギチと悲鳴を上げた。あと少し力が加われば全身の骨が折れてしまいそうだ。それでも少女が意に介す様子はない。

 

 ――ギュルギュルギュルッ

 

 その時、勇者の腹から大きな音が鳴った。

 

「うっ!!」

 

 勇者はその美しい顔を醜く歪め、足を内股に閉じて手で腹を押さえる。

 

「あれあれぇ、どうしたんですかぁ? 大丈夫ですかぁ?」

「わ、分かってる……うっ……くせに!! うっ……このっ!!」

 

 少女は白々しさを隠しもしない。

 

 心配していないのが丸わかりだった。むしろ楽しそうに勇者を見上げている。

 

 勇者は顔を真っ青にして、何かを堪えるように眉間に皺を寄せ、百面相しながら少女を睨みつけるが、言葉には力がなかった。

 

「くすくすっ、誓約を破ったら天罰が下るなんて、ぜーんぜん知りませんよぉ?」

「ちっ、覚えてろよっ!!」

 

 嘲笑う少女の態度に苛立ちながらも、勇者は少女を離し、ひょこひょことした足取りで室内にある扉を開ける。

 

 中は小さな個室。奥に滑らかな曲線を持つ陶器製の白い置物が佇んでいた。機能性と美しさを兼ね備えた洗練された造形だ。

 

 傍に近づいて蓋を開けると、深く湾曲したボウル状になっていて、淵が人間が座れるような造りをなっている。

 

 急いでスカートをたくし上げ、パンツを下ろして置物の上に腰を下ろした。

 

 そう、勇者が今いるのはトイレだった。まごうことなき便器の上だ。

 

「はぁ……間に合った…………くそっ!! 俺は……俺は!! 女勇者としての生活を……強いられているんだっ!!」

 

 勇者は天を仰いだ、悔しさを滲ませ、涙を流しながら――。

 

 

 

 

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