TS転生したクズ野郎は勇者としての人生を強いられている 作:中の人
「ここは……」
俺は真っ白な空間で目を覚ました。
目を覚ます前のことが思い出せない。
「グラヴィス。ようこそ、死後の世界へ」
目の前に突然、むしゃぶりつきたくなるような体つきの絶世の美女が現れた。
その神々しさに思わず、跪きそうになるが、グッと堪えた。
心を鷲掴みにされてしまいそうなほどに聞き心地の良い声で、この女の言うことなら思わずなんでも聞いてしまいそうだ。
そこでふと女の言葉が脳裏に蘇る。
見た目と声に意識が奪われていたが、この女は聞き捨てならないことを言っていた。
「死後の世界?」
「はい。あなたは死にました」
「……あぁ、そうか。俺は死んだのか」
女の言葉を聞いて、俺は自分が殺されたことを思い出した。
確か、世界でも禁忌として指定されていた魔導兵器に使用され、周囲数十キロを大地ごと消し飛ばされたはずだ。
まさかそんな非人道的な兵器を持ち出してくるとは思わなかったが、とにかく俺が強すぎたせいだろう。
耐えられると思ったが、流石に無理があったらしい。
「あの兵器を人間が耐えるのは無理ですね」
「ん? もしかして俺の考えていることが分かるのか?」
俺は今、声に出していなかったはずだ。
「ええ、私は女神ですから。あなたの心のうちは筒抜けですよ」
「そうか、女神か、通りで。それじゃあ、あんたを見た感想も丸聞こえってわけだ」
今まで生きてきた中で一番強く抱きたいと思ったのは伊達じゃなかった。
「そうですね。私を見て欲情していることは丸わかりです」
「まぁ、それはあんたがエロいのが悪いな」
それにしても、まさか心の声が漏れているとは思わなかったな。
しかし、俺は好き勝手生きてきた男だ。当然そういうことも相手の意志など無視してやりたい放題やってきた。女と見れば、まずそういう目で見てしまうのは俺にとって自然な行為だ。
「仕方ありませんか。何せ、あなたは悪行を積み重ねた史上最悪のクズですからね」
「それは自覚してる」
強すぎた俺は、暴力に任せて好きなように生きてきた。そのせいで最後は世界中から魔王認定されて、禁忌の兵器で殺されたんだからな。
それだけ悪いことをやってきたという自覚はある。ただ、それについて微塵も後悔したことはない。
力が弱ければ奪われる。
俺は生まれた頃からそういう世界で育ち、そういう世界を生き抜いてきた。奪われ、虐げられるのは弱い奴が悪い。それだけの話だ。
俺は唯一知っている生き方を貫いただけに過ぎない。
「それで? なんで俺はここに呼ばれたんだ?」
俺のような悪党が、なんの用もなしに神と対面するはずがない。
地獄とやらに落とされるのか、はたまた……。
「はい、実はあなたは抽選で現在の記憶を保ったまま転生する権利を獲得しました。あなたには二度目の人生を歩むチャンスがあります。いかがしますか?」
「あれだけの罪を犯した俺がそんなものに当たるのか?」
女神の思いがけない言葉に疑問を抱く。
「抽選ですからね。罪のあるなしは関係ありません」
「そうか、もう一度人生をやり直せるのか――」
降って湧いたチャンスに、心が弾んだ。
前世ではずっと嫌われて生きてきた。もしやり直せるのなら、そういう人生とはおさらばしたい。
「あなたの望む、大多数に嫌われることのない人生は叶うと思いますよ?」
女神が俺の心の声を読んで先に答えた。
「本当か?」
「はい、別の意味で大変なことになるかもしれませんが」
「どういうことだ?」
「全人類からモテすぎてヤバいってことです」
「それはいいな!!」
モテモテすぎて困るなら言うことなしだ。
「必ずそうなることを約束しますよ。ちなみに転生しない場合、あなたは現在の意識を保ったまま、ほぼ悠久にも近い時を数多の苦痛に苛まれ続けることになるでしょう。その代わり、転生すればなんと、罪が帳消しになります」
「……どうにも俺に美味すぎないか?」
ただ、うまい話には裏がある。そういう話は死ぬほど見てきた。ここまで俺に都合がいいと逆に不安になる。
「あなたが転生することが、世界にとって大きなメリットになるんですよ。あなたの願いを叶え、罪を清算できるほどに」
「なるほどな」
確かにそれならあの条件も納得できる。それに、元々俺には転生以外の選択肢はない。
それなら開き直って別のことを尋ねる。
「どんな家に生まれるかの指定はできるのか?」
「ある程度は可能です」
「そうか。それならやっぱり裕福な家がいいな。金で苦労はしたくないからな。後は健康な体があればそれでいい。次の人生も俺は好き勝手に生きていく」
「かしこまりました。他に要望はありますか?」
「いや、特にないな」
「分かりました。そのように取り図らせていただきますね」
女神は手元で何かをいじり始める。
「まさか本当に二度目の人生があるとはな。俄然楽しくなってきた」
二度目の人生も俺は好き勝手に生きていきたいと思う。好き勝手してもモテモテで人に好かれる人生を歩めるなら最高だ。
「準備が整いました。ぜひ二度目の生を思う存分楽しんでくださいね?」
「あぁ、楽しませてもらうぜ」
「それでは、よい人生を」
ワクワクしたまま、俺の意識が光の中に消えていった。
「うっ」
目を覚ますと、二人の若い男女が俺を覗き込んでいた。
「あぁ、目を覚ましたのね?」
「天使のように可愛い子だ。君にそっくりだよ」
「ふふふっ、あなたにそっくりで利発そうね」
どうやら、この二人が俺の両親らしい。目覚めた瞬間から両親がイチャイチャしてるシーンを見せられることになった。
親ってやつは碌なやつじゃない。平気で自分の子供を奴隷として売り払うからな。前世で売り払われてひどい目にあわされた。こいつらも同じだろう。
「ほーら、だっこしましゅよぉ」
「おぎゃー、おぎゃー」
止めろ、何をするつもりだ。俺を売り払うつもりか!!
心の中で思っても口が思うように動かずに泣き声へと変換されてしまう。無敵を誇った俺の体も、今は赤ん坊に逆戻りしていてなにもできない。
俺は、なす術なく母親に抱きかかえられた。
「本当に可愛いな。俺の娘は」
「何言ってるの? 私たちの娘よ」
「ほぇ……」
二人は聞き逃せない言葉を言った。
むす……め?
俺の視線の先には鏡があった。
映っているのは明らかに女児用の衣服を着せられている赤ん坊の姿だ。俺が手を挙げると、その赤ん坊も手を挙げる。頭を振れば、頭を振る。
あぁ、これは間違いない。
「おぎゃあああああああああっ!!」
女になってんじゃねぇかっ!! 話が違うぞ、あのクソ女神がぁあああ!!
俺は女に転生していた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「さあ、始まりましたね、あなたが
女神は小さく手を叩き、舞台の幕が上がるのを楽しむ観客のように微笑んだ。