TS転生したクズ野郎は勇者としての人生を強いられている   作:中の人

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第2話 0歳から努力するのが当たり前

「あらあら、お腹が空いたのかしら。ミルクのお時間でちゅよぉ」

 

 泣き声を勘違いした母親が服の前をはだけさせ、俺の顔を胸の前に持っていく。

 

 ちげぇよ!! 俺は女にされたことに怒ってんの!! 母乳なんかいらねぇよ!!

 

「おぎゃああああっ」

「本当にお腹が空いているみたいね。たくさん飲んで大きくなるんでちゅよぉ」

 

 心の中で叫ぶが、子供の本能か、体が勝手に動いて吸い付いてしまった。

 

「食欲も旺盛みたい」

「これはきっと将来大物になるぞ?」

「そうね」

 

 両親がなんか言ってるけど……くそっ、母乳うめぇ、なんだこれ、美味すぎる……いや、そうじゃねぇ!! なんで俺は母乳で感動してんだよ!!

 

 まさか前世で悪逆の限りを尽くした俺が、母乳を吸わざるを得ないとは。なんて屈辱なんだ。

 

 あの女神、絶対許さねぇ。今度会ったら……ピー(自主規制)して、ピー(自主規制)してやる!!

 

 飲み終わった後、肩に背負うような形で背中を叩かれる。

 

 ――トントントントンッ。

 

 うわっ、なんだ? 新手の虐待か?

 

 そう思っていたら、腹の中から何かがせり上がってきた。

 

「けぷっ」

 

 ゲップが出た。

 

 腹の中の苦しさがなくなった。

 

 あれはゲップを出させるための行為だったのか? いや、そうやって油断させるつもりなのかもしれない。親に気を許してはいけない。

 

「うぁ……」

 

 その途端、今度は急に抗えないほどの眠気が襲ってきた。

 

 くそっ、親の前で気を抜く訳にはいかねぇのに……。

 

 瞼が下がってきて、目を開けていられなくなる。

 

「あらっ、今度はお眠みたいね。それじゃあ、おやすみちまちょうねぇ」

「わうあぅあ~」

 

 寝て起きたら、暗い牢屋の中にいるに違いない。前世の親も寝ている間に俺を売り払いやがったからな。前世では後できっちり復讐してやった。今世でも必ず復讐してやる。

 

 しかし、どうにか起きていようとするが、体もろくに動かせず、起きていられそうにない。

 

 俺の意識は闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

「あぅあっ」

 

 目を覚ますと、寝る前と同じ部屋で目を覚ました。

 

 どうやら、両親は俺を売り払わなかったようだ。

 

 生まれたばかりじゃ世話が大変だからな。ある程度動けるようになったら売り払うんだろう。そうに違いない。

 

 そんなことより、女に転生させられたことの方が問題だ。せっかくモテモテのバラ色な第二の人生を送るつもりだったのによぉ。

 

 あぁ~、くそ。思い出すだけで腹が立つ。

 

「おやおやぁ、やっとお目覚めですかぁ?」

 

 目の前に突然、妖精のように小さな少女が姿を現す。

 

 まるで転移魔法を使ったみたいだ。気配に全く気づかなかった。

 

「あうあ、あぅあぅ!!」

「私はナビちゃんですよぉ。よろしくお願いしますねぇ?」

 

 お前は誰だ、という俺の声に、妖精は確かに自分の素性を話した。

 

「おぅうあ、あうあうっ(お前には俺の声が分かるのか!?)」

「はい、当然、あなたの言葉は私に伝わっていますよぉ。誰にも言葉が伝わらなくてかわいちょうでちゅねぇ」

 

 妖精が目の前まで飛んできて、馬鹿にしたようにクスクスと笑う。

 

「おんぎゃああああっ!!(このくそやろうがぁ!!)」

 

 前世の俺なら、目の前でそんなことをされたらボコボコにしていただろう。

 

 だが、今の俺はただの赤ん坊で何もできそうにない。

 

「あれれぇ? 反撃はしないんですかぁ? もしかしてできないんですかぁ?」

「おんぎゃっ、おんぎゃっ!!(くそっ、くそっ!!)」

 

 体を動かそうとしてもジタバタするだけで何もならない。

 

「最悪最凶のクズと呼ばれた悪党も、赤ん坊じゃばぶぅ~? 形無しですねぇ。ぷー、くすくす」

「あうあぁあああ、うあああっ!!(ふっざげんなよ、てめぇ!!)」

「え、なんですかぁ? 私、分かりませんー」

「んぎゃああああっ!!(このクソ妖精が死ね死ね死ね!!)」

 

 ずっと俺を小馬鹿にする妖精に切れ散らかす。

 

 ただ、赤ん坊のせいで息が切れてきた。

 

「それじゃあ、お遊びはここまでにして、私の目的をお話ししますねぇ」

 

 俺が疲れたのを見て、ナビが少し真面目に話し始める。

 

「あう……あ(目的……だと)?」

「はい。あなたにはこの世界を救う勇者になっていただきますぅ。私はそのサポートを仰せつかったんですよぉ」

「ぶぶっ(勇者だぁ? そんなものになるわけねぇだろ)」

 

 俺はナビの言葉を鼻で笑う。

 

 女に転生させられ、こんな屈辱を味わわされて世界の救済に力を貸すはずがない。

 

「いえいえ、あなたはならなければなりません。そうしないと――」

「うぎゃぎゃぎゃっ!?(な、なんだ、この腹の痛みは!?)」

 

 ナビが話した直後から、腹痛が襲い掛かってきた。

 

 ぐぅううううっ、な、なんだこれは!?

 

 赤ん坊のせいか、括約筋が仕事せず、下からドバっと漏らしてしまう。それでもなお、体の痛みは治まらない。

 

「おんぎゃああああっ、おんぎゃああああっ!!(いてぇええよぉ、いてぇええよぉ)」

 

 俺は喚き散らす。

 

 ――バタバタバタッ、ドンドンドンッ!!

 

「リシェル!! どうした!!」

 

 俺の父親らしき男が駆け寄ってきた。

 

「おんぎゃぶあっ(こっち、来んな)!!」

「うっ、これは……そうか。ちゃんとうんちできたんだなぁ。えらいぞ、よしよし!」

 

 父親が臭そうに顔を顰めた後、なぜか俺を褒めた。

 

 そんなことを褒められても嬉しくねぇ、俺は騙されねぇぞ!!

 

「おぎゃぎゃぎゃっ(やめろやめろやめろ)!!」

「はーい、ふきふきしようねぇ」

 

 俺は丸出しにされて、おしめを変えられる。

 

 くそっ、またしても屈辱だ!!

 

「ほらほらっ、いい加減なることを決めたらどうですかぁ? 認めたら楽になるかもしれませんよぉ?」

「おぎゃぎゃっおぎゃおぎゃ!?(なんでお前そこにいるんだ!? なんだ、この男には姿が見えてないんだ!?)」

 

 目の前にいる父親にはナビの姿が見えていないように見える。

 

「私はあなたにしか見えませんし、声も聞こえませんからねぇ?」

 

 そういうことかよ。

 

「ばぶばぶばぁっ、あうあっ!!(くそ、分かった! 勇者になる! なればいいんだろうがぁ!!)」

 

 そして、俺が認めた瞬間、腹痛が不思議と収まった。

 

 今はとにかく適当に言っておいて、後でサボればいいだろう。それに、どういう理屈なんだ? こいつを殺せばなくなるのか?

 

「やっとその気になりましたかぁ? 最初に言っておきますが、私を殺しても意味はありませんよぉ?」

「あ、あうあうあ?(いや、そんなことは考えてないが?)」

 

 まるで心を読まれたような物言いに、俺は顔を逸らした。

 

「まぁいいでしょう。それじゃあ、まず、リシェルちゃんには魔力量を増やしてもらいます」

「あうあ?(魔力量を増やす、だと?)」

 

 魔力は枯渇させたら、増える。つまり、枯渇させればさせるほど、魔力量は増えるということだ。

 

 ただ、魔力量の上昇は成長期の終わりとともに急激に効率が落ちる。

 

「勇者として圧倒的な魔力を手に入れるためにはどうしたら良いと思いますか?」

「あうあう?(できるだけ小さい時から魔力を枯渇させる?)」

 

 俺は嫌な予感がした。

 

「そうです。つまり、今から魔力を枯渇させまくれば、他の誰よりも圧倒的な魔力が手に入るのですよぉ。世界を救う勇者ならそのくらい努力するのは当然ですよねぇ?」

「ばぶばぶばぁっ!!(なんだよ、それは!? 俺は好き勝手に生きて皆に好かれる人生を歩めるんじゃなかったのか!?)」

 

 だからこそ、俺は転生した。

 

 それじゃあ、小さい頃から修業漬けの毎日が確定じゃねぇか!!

 

「だから、世界を救う理想の勇者になれば、当然全人類から好かれますよねぇ? ほら、あなたが望んだ“皆から好かれる人生”ですよぉ? それにぃ、誰も好き勝手に生きられるとは言ってませんよぉ?」

 

 ナビが俺をあざ笑う。

 

 そこで俺は女神の言葉の真意に気づいた。

 

「おんぎゃあああああっ!!(そういう意味だったのかよ、騙された、ちくしょおおおおおっ)!!」

「リシェルは元気だな!!」

「さぁ、頑張っていきましょうねぇ」

 

 ニッコリと笑う父親の横で、ナビが無垢な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

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