カードゲーム世界にTS転生したら、初戦敗退したヴァンプデッキ使いでした 作:銀層
俺の趣味は、『バースト・モンスターズ』っていうカードゲームのプレイだ。
使ってるのは“ヴァンプ”っていうマイナー種族のデッキ。回してて楽しいけど、正直、勝率はお察し。まあ、ファンデッキだからな。負けても仕方ないって、もう何度も自分に言い聞かせてる。
大会じゃティア1のデッキばっかりが跋扈してて、俺みたいな変人の居場所なんて、どこにもない。
運営もさ、プレイヤーの声なんて聞きやしない。強化されるのはいつだって、売りたいカードばっかだ。俺の推しカードは、今日も倉庫番のまま――。
それでも、俺はあきらめきれなくて。少しでも戦える構築を求めて、今日もカードリストとにらめっこしてた。
……その時だった。
不意に、視界が歪んだ。
耳元で、キキィ――とブレーキ音が響いた。
――次の瞬間、俺の視界は真っ白になった。
……気がつくと、俺は意識を取り戻していた。
妙にふわふわした感覚。視界は知らない天井。けれど、ただの“夢”じゃないと、すぐに理解できた。
「……ここ、どこだ?」
周囲を見渡しながら、ゆっくりと起き上がる。そして気づく。
――この部屋、見覚えある。
いや、厳密には“画面越し”に見たことがある。
カードゲームアニメ『バースト・モンスターズ』――その登場キャラ、黒羽ルナの部屋だ。
「……まじかよ。俺、転生したのか?」
どうやら俺は、あのアニメの世界に転生してしまったらしい。
しかも、推しキャラの黒羽ルナに――。
黒羽ルナ。ゴスロリ衣装に身を包んだロリ系キャラで、俺のドストライクだった。
キャラデザは最高だし、声も可愛い。SNSでも“見た目だけなら人気”ってよく言われてた。
でも、残念ながら……性能が終わってた。
使ってる種族“ヴァンプ”は不遇の極み。カードパワーが足りなさすぎて、作中でもさっさと退場するポジションだった。
それでも俺は、彼女が好きだった。弱くても、諦めずに戦う姿が、なぜか心に残っていた。
――そんな彼女に、今の俺はなっている。
「推しに転生って、マジでご褒美なんだけど……どうすんだこれ?」
小さくて華奢な手を見下ろす。胸元には黒いレースのリボン。
鏡を覗き込めば、そこにはアニメで何度も見た、あのルナの顔が映っていた。
まじで、俺……黒羽ルナになってる。
俺は、黒羽ルナの身体で目覚めた。
つまり、俺の中身は変わってないが、外見も声も完全にアニメに登場する少女、黒羽ルナそのものってわけだ。
そして、もうひとつ――いや、もう“一匹”忘れちゃいけない存在がいた。
「ルヴィー、今日もかわいいね」
自分の口から出たその台詞に、一瞬だけ背筋が凍った。
「きゅ~♪」
くるくると宙を舞いながら、蝙蝠のような小さな生き物が俺――いや、ルナの肩に飛び乗ってくる。
名前はルヴィー。額にルビーのような赤い宝石をつけているのが特徴だ。
アニメ本編じゃ、こんな個体は出てこなかった。でも俺は知っている。
マニアックなファンブックの片隅に載っていた、“没設定のバディモンスター”。
――それが、いま、俺の肩に乗ってる。
正直、テンションが上がらないわけがない。ファンなら誰だって興奮する。
「ふふっ、くすぐったいよぉ……」
そんなふうに焦りつつも、ルヴィーの可愛さに負けて頬がゆるんでしまう俺だった。
何気なく、部屋のカレンダーを眺めていた。
ふと目に留まった赤丸――それが、すべての始まりだった。
……秋葉町カード大会、来週の日曜?
まさか、とは思ったが背筋に冷たいものが走る。
この日付……間違いない。原作アニメの第1話、あの“クソ展開”が始まる、ちょうど1週間前だ。
……ってことは、今の俺って……まさに、噛ませ展開の一歩手前かよ……!
思わず頭を抱える。
黒羽ルナ。原作では、初登場の主人公・龍ヶ崎レイにとって、最初の“壁役”として描かれる存在だ。
可愛い見た目で強キャラ感を出しつつ、開始早々にレイとデュエル。序盤でガンガン攻めて優位に立つけど、最終的には逆転負け。
それで「あ、ルナってこういうポジションなんだ……」って視聴者に印象づけられる、悲しい役回り。
このルックス、この人気、このキャラデザ……その全部を持ちながら、公式はそれを噛ませに使い潰した。
ファンとして、俺は許せなかった。
いや、もう“許さない”じゃ済まない。
(俺がルナなら、運命ごとぶっ壊してやるよ……)
そうだ。これは、ただの転生じゃない。
俺はもう、弱くて退場するだけの黒羽ルナじゃない。
原作の“ルナ敗北ルート”なんて、ぜってぇ繰り返させねぇからな。
「あらあら、大会がこんなに近かったのね♪」
「龍ヶ崎レイに負けちゃいけないね♪」
俺は声を出して決意した。
龍ヶ崎レイに勝てない未来を変えたかった。
彼女は主人公。環境トップの“ドラゴン”使い。
呪文で華麗に盤面を制圧し、大型ドラゴンを召喚する。
どうあがいても、勝てるわけがない。
それでも、負けたくなかった。だから俺は、カードを整理し始めた。
現実は、残酷だった。
手持ちのカードは、やっぱりアグロ系ばかり。
軽量ユニットで序盤に畳みかける、“速攻”に特化した構築。
でも、それだけじゃ通じない。レイのような呪文メインのミッドレンジに対しては、むしろカモにされる。
実際、第1話のバトルもそうだった。
ルナは序盤こそ展開で押したものの、あっさりと範囲除去で返され、ジリ貧になっていった。
最後は、ドラゴンの一撃でゲームセット。
……何となく予想はしてたさ。
けど、アニメを改めて“ルナの視点”で見たとき――痛感した。
このままじゃ、絶対に勝てない。
“見た目だけ”じゃない、戦えるルナになりたい。
そう思ったからこそ、俺は動き出した。
まず、俺はカードショップへ向かった。
目当ては――コントロール系のカード。
今の“アグロ一辺倒”じゃ、龍ヶ崎レイに勝てる未来が見えない。
ならば、時間をかけて戦局を支配する方向に舵を切るしかない。
闇属性の重めのカードを中心に、じっくりと店内を物色していく。
汎用の妨害札、除去系の魔法、手札破壊……意外と揃う。
ただし――
「……ヴァンプ、やっぱ無いよな」
どれだけ探しても、“ヴァンプ”のパーツは見つからなかった。
それほど、この種族は不遇なのだ。
でも――ここは、アニメの世界だ。
俺が今いるのは、あの『バースト・モンスターズ』の世界。
現実の“刷られたカード”ではなく、“生まれるカード”の世界だ。
この世界のカードパックは、企業の製品なんかじゃない。
それは精霊たちの力が結晶化した、いわば“贈りもの”。
そして――
「ルヴィー、いつものようにお願いね」
「きゅ~♪」
俺の肩に乗った小さなバディモンスターが、くるくると宙を舞う。
赤い宝石を額に宿した、俺の精霊――ルヴィー。
この子がいれば、カードパックは“自分で”作れる。
プレイヤーは、小さな“パワーストーン”を精霊に差し出し、
心の中で、求める属性を強く念じる。
――光、闇、火、水、風、地。ときには、混合。
その願いに応じて、石がふわりと宙に浮かび、淡く光り出す。
そして――ぽん、と、手元にカードパックが現れる。
内容は完全ランダム。けど、不思議と“願った属性”に近いカードが多く出る。
そのカードたちは、精霊が紡いだ本物の力。
後に流通を通して、全国のカードショップへも出回っていく。
そう――この世界では、カードは“作る”ものなのだ。
「闇の……ヴァンプに、力を……!」
俺は、パワーストーンを握りしめ、心の底から願う。
俺は、現実世界で使っていた“ヴァンプ”のカードたちを思い浮かべていた。
あのとき、どれだけ回して、どれだけ愛着を持ったか――身体が覚えてる。
そして、ふと思ったんだ。
この世界で“パック”を引くとき、現実で既に存在しているカードほど、出やすいんじゃないかって。
だって、カードという存在が“精霊の力”で生まれるなら、既に多くの人の記憶や想いに触れてるカードのほうが、具現化しやすいはずだ。
そう思って、試してみた結果――
「やった~~!」
思わず、少女らしい声が出てしまった。
でも、そんなこと気にしてる余裕なんてない。
手に入れたのは――《蝙蝠の貴婦人 ジェンティルアンナ》。
5コストで3/3。登場時、バッドを2体召喚できる、貴重な展開札だ。
しかも、パックからは3枚、しっかりと同時に出てきた。
これは構築済みレベルの神引きだ。
……マジで、出るんだ
アニメじゃ、ルナたちはカードを揃えるのにも苦労してた。
でも俺は、望んだカードをすんなり手に入れられた。
やっぱり、俺の仮説は正しかった。
この世界で生成されるカードには、“記憶”や“想い”が反映される。
だから、俺がいた現実世界で刷られていたカードなら、こっちでも出現しやすい。
そして――もうひとつ。
現実では既に放送が30話ほど進んでいて、俺はその未来を知っている。
この世界では、まだそこまで物語が進んでいない。
つまり、俺は“未来のカード情報”を持っているわけだ。
今はまだ誰も知らないカード。
使いこなせば、相手には絶対に読めない動きができる。
「面白くなってきたね。ルヴィー」
俺は手にした《ジェンティルアンナ》をそっと撫でながら、口元を緩めた。
この世界――ワンチャン、本当に“無双”できるかもしれない。
現実じゃ、ヴァンプを使ってるってだけで鼻で笑われてた。
「またマイナー厨かよ」
「環境に逆らってるだけのやつ」
……何度言われたことか。
だけど今は違う。
この世界の“内側”に入りつつも、俺には“外側”から見ていた知識がある。
未来のカード情報も、物語の展開も、メタゲームの流れも全部、俺の頭の中にある。
神視点ってのは、こういうことを言うんだろうな。
不遇だったヴァンプを使って、環境に殴り込みをかける。
“弱い”とされていた推しキャラで、格上をひっくり返す。
それが今の俺には、できる。
気づけば、自然と笑みがこぼれていた。
ワクワクが止まらない。
パックを作れる。未来のカードを使える。
カードを“創る”という体験そのものが、もう楽しすぎて仕方ない。
こんなにも自由で、熱くて、心が跳ねる世界――
むしろ、ようやく“俺のターン”が来たんだって、そう思えた。
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