カードゲーム世界にTS転生したら、初戦敗退したヴァンプデッキ使いでした 作:銀層
「お前たちのおかげで、ダンジョンの落ちているものを拾えたよ」
「アイテムからダンジョンの魔力の流れが分かった。……私についてこい」
千歳はいつものようにぶっきらぼうに言い放ち、踵を返す。
その背中には、ほんの少しだけ――気の緩みのような柔らかさがあった。
「今は少し機嫌が良さそうね」
ひよりが、くすっと笑いながら呟く。
「よくわかるもんね?」
「ふふっ、慣れだよ。千歳の“嬉しい”はあのぐらいの温度なの」
「これでも昔よりはずっと分かりやすくなったんだから」
普通の人なら、そっけない言葉にしか聞こえないだろう。
でも、ここまでの関係になったからこそ、その奥にある“感謝”や“信頼”の温度が、ちゃんと伝わってくる。
無言で先を歩く千歳の背中は、どこか軽く、迷いがない。
彼女にとって、頼れる仲間がいるというのは、それだけで背中を預けられるほどの価値があるのだろう。
~~
俺は知っている。
この先に待ち受けるボス――原作では、攻略できなかった。
ただここのダンジョンのボスの相性的に攻略の可能性があるのは千歳のみ。
それはルナでも、ひよりでも不可能だった。
圧倒的な攻撃力を前に、繊細なギミックや緻密なコントロールは意味をなさない。
パワーでねじ伏せるしかない。
だから、今ここで、千歳に渡しておかなければならない。
「烏丸さん、相性のいいカードを持っているの」
そう言って、俺はポーチからカードを3枚取り出した。
「これはどうかしら」
《霊脈覚醒》/3コスト/呪文
【効果】:自分の手札にある呪術カウントを持つカードすべてに+1カウントする。
その後、カードを1枚引く。
このカードは発動後、コストゾーンに置かれる。
「呪術カウントは実質2も増えるし、1枚ドローがついててリソースも腐らないわ」
千歳がじっとカードを見つめた。
「たしかに……このリソース回復はありがたい」
「でも、もらっていいのか?」
「もちろんだよ。ダンジョンに連れて行ってくれたお礼だし」
ルナはふわりと笑いながら言った。
「いいじゃない。ヒツギノカガチ、うまくいけば7ターン着地も夢じゃないかも」
ひよりも、カードをのぞき込んで感心している。
千歳の瞳がわずかに揺れた。
だがその手は、確かにそのカードを受け取っていた。
《万象纏いし霊獣・ヒツギノカガチ》/13/13/コスト50
【召喚条件】:呪術カウント15以上で、8コストで召喚可能。
【召喚時効果】:墓地の式神と“合体”可能。
【合体】:墓地の式神の攻撃力と体力を合算し、その能力値を加える。
【合体効果】:墓地の式神の持っていた能力も継承する。
このカードは、自分でコストを0にすることはできない。
8コストという重さは、雑に出せるようなものではない。
だが《霊脈覚醒》の3枚と、千歳の手にある式神たちがあれば――
このカードは、間違いなく最強の切り札として蘇る。
先ほどの勝負で。
あと1ターン早く、ヒツギノカガチが出ていたら、状況は変わっていた。
今度こそ、攻略できる。
千歳なら――きっと。
~~
ここが――ダンジョンの最奥地。
森を切り裂くように開けた空間に、禍々しい気配が渦巻いている。
空間の中心に、黒い影。
巨大で、輪郭すら定かではない“何か”が、息を殺して待ち構えていた。
遠巻きに、3人はそれを見ていた。
千歳が懐から1枚の札を取り出し、淡く浮かび上がる魔力文字を読み取る。
「おいおい……今回の条件は、厳しくないか?」
浮かび上がるのは、二つの制限。
ダンジョンボス戦・バトル条件:
① 7ターン以内で勝利すること
② バトル処理中、全モンスターの攻撃力が-2される(処理後は元に戻る)
「てめぇのバッドだと、攻撃力0にされて終わりだし」
「ひよりの人形も元の攻撃力が低い。実質、無力化される」
札から流れ込んでくる魔力は、情報と同時に直感的な理解をもたらす。
どうやらこのボス――負けるたびに、次の挑戦者へと力を蓄積していくタイプらしい。
「つまり、最初に挑んだ奴が唯一のチャンスってわけか」
千歳は静かに頭を抱えた。
「……いつものことだ。私一人で攻略してきたのは……」
そう、これまでもそうだった。
誰もが頼れない状況でも、自分が前に立ち、道を切り開いてきた。
それが烏丸家としての、宿命でもあった。
しかし――
「それは、ちがうでしょう」
横から、やわらかい声が重なる。
ひよりだった。
いつものように、ゆるりとした口調で、だがはっきりとした意志を持っていた。
「ダンジョンの素材を集めやすくしたのも、カードをくれて強化してくれたのもルナちゃんでしょ」
ひよりが、やわらかく微笑みながら言った。
口調は軽くても、その言葉にはちゃんと意味が込められている。
あれだけ一人で抱え込んでいた千歳に、少しでも背中を預けてもらえたことが、きっと嬉しかったのだ。
「ふふふ、それはそうだな」
千歳が、わずかに肩をすくめた。
「私としたことが……忘れてしまっていたな。すまねぇ~な、黒羽」
ルナが照れくさそうに笑うと、千歳は続ける。
「それとな。ひより」
千歳は、少しだけ目を細めて、真っすぐひよりを見る。
「お前も、デコイとしてちゃんと働いただろう。自分のことも忘れるな」
そんな千歳の言葉に、ひよりは目を丸くして――そして、にっこりと笑った。
まるで春の陽射しのように、やさしく。
その瞬間、千歳の口元も、ほんのすこし緩んでいた。
かすかに、でも確かに。
――ああ、これが「頼る」ってことか。
いつの間にか、千歳は気づいていた。
背中を預けても、立ち止まっても、誰かが支えてくれるという事実に。
それは弱さではなくて、ただの――安心だった。
そしてそれは、かつての千歳が一番知らなかった感情でもあった。
~~
千歳は、ダンジョンの主との一騎打ちに臨んでいた。
このダンジョンの最奥。陰に染まった魔力が渦巻き、敵はただのモンスターではない。
それでも、彼女の眼には一切の迷いがなかった。
【1ターン目】
両者ともにコストチャージのみ。睨み合いの静かな開幕。
【ダンジョンの主・2ターン目】
「コストチャージ。召喚、《漆黒の影》」
1/5の硬い守り。
しかも、現在の特殊ルールで攻撃力は-2補正。
実質、7点以上の火力がなければこの壁は崩せない。
「ここで守りを固めてくるって……いやらしいな」
千歳は鼻で笑った。
「だが、意味はない。私の式神の攻撃はブロックされねぇんだからな」
バディースキル。──【式神の攻撃はブロックされない】。
この一文が、千歳のデッキを唯一無二の戦闘型にしている。
【千歳・2ターン目】
「コストチャージ」
「……そして、2コスト呪文《式神との交信》」
《式神との交信》
効果:呪術カウントを持つカードをランダムにデッキから1枚手札に加え、呪術カウント+1。
「ヒツギノカガチに向けて、準備は順調ってところね」
ルナが小声でつぶやく。
フィールドの硬直した空気の中、千歳の動きは明らかに“何か”を狙っていた。
【ダンジョンの主・3ターン目】
「コストチャージ」
「フィールド魔法《卑屈な影の集落》を発動」
《卑屈な影の集落》
効果:自分が攻撃を行わなかった場合、ターン終了時に《漆黒の影》(1/5)を1体召喚する。
「うわ、壁を増やしてきた……」
ひよりが思わず呟いた。
「でも、千歳には無意味だよ」
ルナははっきりと言い切る。
「バディスキルで式神の攻撃はブロックされない。今は慎重に呪術カウントを稼いで、ヒツギノカガチで一気に押し切るプランだよ」
「デッキもそれ用に改造していたし、多分大丈夫だよ」
【千歳・3ターン目】
「コストチャージ……そして、3コスト呪文《霊脈覚醒》を発動!」
《霊脈覚醒》
コスト:3/タイプ:呪文
【効果】:
自分の手札にある呪術カウントを持つカードすべてに+1カウントする。
その後、カードを1枚引く。
このカードは発動後、コストゾーンに置かれる。
手札の式神たちが微かに輝き、体の内側から力を満たされるような感覚が千歳に伝わってくる。
「……よし、呪術カウントも稼げているし。流れは悪くねぇ~。実質2コスト進めるのは強いな」
「これで、総コストは4。ヒツギノカガチの8コストに少しずつ近づいてるね」
「ただ、千歳の速攻式神はどれも重たい。あと1ターン、準備期間って感じだね」
「残りターン」
ルナが呟くように言う。
「呪術カウントも稼がなきゃだし、墓地も合体用の式神も育てていきたいとね」
「残りターンは4ターンだけど、千歳ならなんとかできるよ」
ひよりは確実に
残りのターンの少なさに胸が思わず、ドキドキさせてしまう。
普通のプレイヤーなら焦ってしまう。しかし、千歳は冷静だ。
それほど、修羅場をくぐってきたのだろう。
【ダンジョンの主・4ターン目】
コストチャージ行った後。
主は黙々と体力の高い《漆黒の影》をもう1体召喚。
相変わらず攻撃力はないが、防御性能だけは厄介だ。
「また壁だらけにしてきたね」
ルナが眉をひそめる。
「でも千歳なら、押し切れるはず」
【千歳・4ターン目】
「……コストチャージ。これで総コストは5」
手札から、ふたたび呪文を選ぶ。
「《霊脈覚醒》──発動!」
「呪術カウント5回かつ、コストゾーンは6コスト」
「そして、残っているコストは3コストか」
「なら、出せるな……!」
《式神 アラガミ》
コスト:8/3/1/速攻
【召喚条件】:呪術カウント1につき、召喚コストを1軽減。
【破壊時】:このカードが破壊されたとき、手札にある呪術カウント対応カード1枚に、現在のカウント数をすべて移す。
「5カウント分で、コスト8→3に軽減。残り3コストで出せる」
千歳は迷いなくカードを場に叩きつける。
「《式神 アラガミ》──召喚ッ!」
その身に禍々しい霊気を纏い、疾風のごとく地を走る式神が現れる。
そのまま刃のように、ダンジョン主に突き立つ――
「プレイヤーに攻撃。バディースキルの効果でブロック不可だ」
「さすが、突き崩しに特化したカードだね」
だが――
「……っ!?」
特殊ルールが千歳の前に立ちはだかる。
■特殊ルール効果:
【バトル処理中、攻撃力-2】
バトル処理後、攻撃力は元に戻る。
「3から2引いて……1点ね」
「でも確実にダメージは通った。これは大きいわ!」
ダンジョン主のライフ:20 → 19
【ダンジョンの主・5ターン目】
相手は呪文を発動。
影の闇討ち:自分のモンスターを破壊し、相手モンスターを破壊。
これで、《式神 アラガミ》 を破壊。
《影の闇討ち》コスト:2/呪文
【効果】:自分フィールドのモンスター1体を破壊し、相手モンスター1体を破壊する。
「《漆黒の影》を生贄に……《式神 アラガミ》を破壊」
静かな宣言。次の瞬間、アラガミの身体が黒い闇の爪に貫かれて消える。
わずかに残る霊気が、千歳の手札に漂うカードへと流れていく。
「……アラガミの【破壊時効果】、発動」
千歳の手札を覆う青紫の呪術光が激しく脈打つ。
《式神 アラガミ》破壊時効果
→手札の「呪術カウント」対応カード1枚に、現在のカウント数(5)をすべて移す。
アラガミでブーストされた分(5)+もともとブーストされていた分(5)=10
「手札のヒツギノカガチのカウントは10に到達しているね」
ひよりがぽつりと呟く。
確証はない。だが、その声には揺るぎのない信頼が滲んでいた。
「うん、見てたらわかるよ。あれは完全に“仕込み”だもん」
彼女たちは知っている。
千歳という人間は、油断もしないし妥協もしない。
あの“ヒツギノカガチ”の一撃に、すべてをかけているのだと。
あとは――コストとターンを整えるだけ。
勝利への道は、確実に千歳の手札の中で形になりつつあった。
【千歳・5ターン目】
千歳は無言でカードをめくる。
コストチャージ――7コストに達した。
そして、手札からすっと呪文カードを差し出す。
《四式解放》
コスト:4/呪文
【効果】:手札の式神カードを4枚捨てる。その後、呪術カウントを4ブースト。さらにカードを4枚ドローする。
「四式解放」
呟くように言いながら、式神4枚を一気に捨てる。
墓地に落ちた札から立ち上る気配が、場にどこか不気味な緊張をもたらす。
紫の霊脈が一気に燃え上がるように脈動し、千歳の手札に浮かぶ呪術カード全体を包み込む。
──呪術カウント、+4。実質、すべての手札が+5された状態になる。
千歳の手札が一気に入れ替わる。
ドローした4枚を視線で確認し、さらに静かにカードを場に伏せた。
《結界符「手印守護」》
コスト:3/呪文
【効果】:次の相手ターン、相手は自分の手札を破壊できない。
「残り3コストで……《結界符・手印守護》を発動」
淡々としたプレイング。無駄のない構築、冷静な判断力。
次のターンで、すべてを終わらせるための布石は整っていた。
「これで……相手の手札破壊は封じたね」
ひよりが小さく呟く。
「確実にヒツギノカガチは引いてる。そして、呪術カウントも15に届いてる」
ルナも頷く。
「それに、四式解放で墓地も潤ってる……合体素材もばっちり」
「冷静にターンを使ってる。あの千歳が焦ってないんだもの、間違いないわ」
次のターン、ヒツギノカガチ。
それがすべてを貫く――はずだった。
【ダンジョンの主・6ターン目】
淡々と札を動かす。
コストチャージ。
そして、《漆黒の影》を2体破壊。
効果など語らない。
ただ手を動かし、静かにカードを引き寄せた。
《霊封の紋章》
6コスト/呪文
【発動条件】:フィールドに「影」と名のつくモンスターが存在する場合、コスト0で発動可能。
【効果】:次の相手ターン、1度だけ、相手の攻撃を完全に無効化する。
「……!」
ひよりが息をのむ。
「やばい……次のターンのヒツギノカガチが……ゼロにされる」
「しかも、影モンスターもいるしによって発動条件も完璧……」
「完全に読まれてた? それとも、単なる守備のつもりだったのか……でも、どっちにしてもヤバい……」
静かな盤面の中、淡々と罠を張り巡らせるダンジョンの主。
守備一辺倒に見えて、その実、すでに一撃を受けきる覚悟と準備は済んでいた。
『私の《防御ストライク:バッド》と同じ手だ。先ほどの試合では防ぎ切った』
『しかし、先ほどの千歳じゃないよね。だって、誰かを頼ることを知ったから前に進めるよね』
ルナは少し祈っており、彼女の成長を見守っていた。
【千歳・6ターン目】
静寂が場を包む中、千歳は低く息を吐いた。
「ファイナルターンか……」
目の前に立ちはだかるのは、霊封の紋章。
一度きり、攻撃をゼロに変える切り札。
だが、千歳の指は迷いなく動く。
「コストチャージ――8コスト」
手札から、巨大な式神のカードがゆっくりと差し出される。
《万象纏いし霊獣・ヒツギノカガチ》
攻撃力:13/体力:13/コスト:50
【召喚条件】:呪術カウント15以上で8コストで召喚可能
【召喚時効果】:墓地の式神と“合体”可能
【合体】:墓地の式神の攻撃力と体力を合算し、その能力値を加える
【合体効果】:墓地の式神の持っていた能力も継承する
「ヒツギノカガチ、召喚」
札が舞い、無数の霊獣たちが絡み合い、巨大な獣神へと変貌する。
「墓地には五体いる」
《式神 アラガミ》:3/1 速攻
《式神 雷迅ノ猛虎・ライカ》×2:5/2 速攻
《鳴天ノ鴉・クロウドウ》:4/1 速攻
《霊獄大王・イザナミオウ》:10/10
合体完了。
攻撃力合計:13(本体)+3+5+5+4+10=40
体力合計も同様だが、今は重要ではない。
ルナが思わず声を漏らす。
「6ターンで40点って……すごいわね……!」
「でも……」
ひよりの表情が翳る。
「《霊封の紋章》で、攻撃は無効化されちゃう」
けれど――
「大丈夫。千歳ならどうにかできる」
ルナの目は、信じる者の強さに満ちていた。
「だって、千歳だから」
千歳はふっと笑った。
「てめぇ~のそのカードは……対策済みだ」
《霊獄大王・イザナミオウ》の札を指でなぞる。
《霊獄大王・イザナミオウ》
攻撃力:10/体力:10/コスト:15(呪術カウント軽減あり)
【能力】:このモンスターの攻撃処理中、相手のカード効果を受けない。
「イザナミオウの効果も、ヒツギノカガチに継承されている」
「つまり……」
「霊封の紋章の“攻撃をゼロにする効果”が、効かない!」
ズオオォォッ……!
光を纏い、黒雷を引き裂きながらヒツギノカガチが咆哮する。
「これで、40点……いや、《バトル処理中攻撃力-2》で38点か」
「どっちでも、てめぇの負けだ」
声とともに、場に叩きつけられる一撃。
ダンジョンの主のライフは……20。
効果無効。ブロック不能。無防備な本体に突き刺さる。
「やった……やった!千歳、倒したんだ!」
ルナとひよりが歓声を上げる。
千歳は無言のまま札を片付ける。
ただ、手のひらはわずかに震えていた。
それが限界まで集中していた証。
その勝利の重さを、彼女自身が一番理解していた。
「……ありがとな、黒羽、ひより」
千歳の声は小さいが、しっかりと届いた。
~~
ダンジョンの最奥、倒れ伏した主の亡骸が煙のように消えていくと、静けさの中にキラリと光が差した。
ぽっかりと空いた空間に、宝石が浮かぶように現れる。まるでこの空間そのものがそれを生み出したようだった。
「……これだ、ダンジョンの報酬だ」
千歳が一歩踏み出し、宝石を手に取る。
淡い光を放つその石は、ただの装飾品ではない。重みと、内から脈打つような力を感じさせた。
「遠慮なく受け取れ。お前らのおかげで、ダンジョンの素材が集まったんだからな」
見れば、パワーストーンのような色とりどりの宝石が三つ、ゆっくりと宙に漂っていた。
それぞれの色は、バディーの気配に共鳴しているかのように波打っている。
「これは……めずらしいな」
千歳の表情に驚きの色が浮かぶ。
「自分のバディーを強化するアイテムだ。私も初めて見る」
ルナが思わず声を上げる。
「バディーが強化されるって……それ、むちゃくちゃいいじゃない!」
カードゲームにおいて、デッキ構築は取捨選択の連続だ。
時には、大切にしていたカードを泣く泣く外すこともある。だが――
バディー強化は違う。
削るのではなく、ただ積み上げていく。
「ほんとうに、強くなれるんだ……」
ルナのバディー、ルヴィーがピョコンと飛び出し、頭の上に小さな宝石をちょこんと乗せる。
「きゅ~」と満足そうに鳴いた。
その瞬間、微かな光がルヴィーを包み、ルヴィーに変化が起きた。
【新スキル】《蝙蝠の報復》
条件:自分の墓地にバッドが10体以上いる場合
効果:バッド系モンスターが攻撃するたび、1ダメージを与える。
「いいじゃない。墓地10体以上はつらいけど、ないよりましね」
ルナが微笑む。
「持久戦になったら、私が有利ね」
「……おめぇ~に合ってる陰湿な効果じゃねぇ~か」
千歳が小さく笑った。
どうやら褒めているつもりらしい。
ひよりも宝石をそっとバディーに捧げると、ふわりと風のような気配が舞った。
【新スキル】《式神連携・五行転写》
条件:式神が攻撃を5回行うたび
効果:手札にあるすべての呪術カウントを+1する。
【新スキル】《断罪の舞姫》
条件:終命精が10体を破壊されるたび
効果:相手のモンスターを破壊する。
「……本当に、いい感じのものをもらってるね」
そう呟いたひよりの笑顔は、どこか誇らしげだった。
――次の瞬間、視界がまばゆく光った。
眩しさに一瞬目を閉じ、再び開いたとき、三人はすでに元の世界に立っていた。
見覚えのある境内。風に揺れる木々の音。
「……烏丸神社、か」
静かに、現実に戻ってきたことを知る。
けれど、その手には確かにあの宝石の温もりが残っていた。
ダンジョンの旅は終わり、現実世界に戻った。
「……おい、今回は……助かった」
千歳は、少しだけ視線を外したまま口を開く。
声はわずかに震えていた。
けれど、それを誤魔化すように、すぐに口調を整える。
「……次も、助けが必要な時は……頼っても、いいか?」
その言葉は、彼女にとってきっと簡単なものじゃなかった。
一人で戦い続けてきたからこそ、人に甘えることに慣れていない。
それでも、今この瞬間、自分から差し出した手だった。
ルナは、少し驚いたように千歳を見た後、柔らかく笑った。
「もちろん」
その一言に、千歳は目を見開いた。
信じられないような顔をしていたが、すぐに少しだけ、ほんの少しだけ表情が緩んだ。
その笑みは、誰よりも不器用で――
けれど、確かに温かかった。
この一歩は、千歳にとって大きな一歩だった。