カードゲーム世界にTS転生したら、初戦敗退したヴァンプデッキ使いでした 作:銀層
「……二人とも、強かったね」
レイは静かに、隣にいるバディ、《咆哮竜グランバーン》に語りかけた。
試合を観戦した直後とは思えないほど、淡々とした声。けれど、その奥にかすかな緊張が滲んでいた。
「ああ、強かったな。さすがは予選を勝ち抜いた実力者たちだ」
グランバーンが低く唸るように応える。その眼差しには、敬意すら宿っていた。
「……レイ。自信がないのか?」
レイは少し間を置いて、首を横に振る。
「そういうわけじゃないんだけど……」
「カードで負けること自体は、そんなに怖くないんだ。でも――」
言葉がふと、途切れた。
視線は下に落ち、指先がカードスリーブをなぞっている。
「全国の人に見られてるって思うと、怖くなるんだよ。……自分を、否定される気がして」
「……そうか」
グランバーンは、ただ一言だけ返した。その声には否定も慰めもなかった。
「リタイアしても、誰も責めたりしない。レイの気持ちが一番だ」
それでもレイは、ふっと笑うように息を漏らした。
「でもね、やっぱり――戦いたいんだ。みんなが集まる、あの“認められた場所”で」
「自分もそこに立ちたい。誰かと比べるとかじゃなくて、自分の力で、そこにいたいって……思えるようになったんだ」
「……そっか。成長したな、レイ」
グランバーンの声に、ほんの少しだけ誇らしさが混じる。
「昔のレイなら、きっと逃げ出してた。
でも今は違う。……それだけで、十分かっこいいよ」
「バーンがそう言ってくれるだけで、ちゃんと前に進めるよ」
レイの声は小さかったが、揺らがなかった。
「……行ってこい、レイ。
お前が楽しんでくれるのが、俺は一番嬉しい」
そう言ってグランバーンは、何も言わずにじっとレイを見つめていた。
その大きな眼に、どこか温かさが宿っていた。
自信を持ち、対戦会場へと向かった。
そして、カードバトルを開始する。
~~
試合は、開幕からすでに“静かなる戦い”の様相を呈していた。
相手のデッキは、岩石族。
単純な攻撃力ではなく、圧倒的な防御力と耐久性に特化した構築だ。
その守りはまるで、絶壁のごとし。
つぼおじ(10%)には及ばないまでも、並のプレイヤーでは到底貫けない堅牢さを誇る。
真正面からの突破は、意味を成さない。
レイも、それを理解していた。
だからこそ、彼女は“削る”ことを選ばなかった。
壁を砕くのではなく、崩れる瞬間を待つように──静かに、確実に盤面を整えていく。
場には、《ドラゴン》が次々と呼び出される。
そのたびに、バディスキル《竜気蓄積》が作動する。
──「呪文を5枚発動すれば、次の《ドラゴン》の召喚コストを5軽減」
レイはその効果を活かし、少しずつ、呪文を重ねていく。
見た目に派手さはない。
けれど、その一つひとつが確実に“準備”を進めるための布石だった。
だが、それは同時に、相手にとっても好都合だった。
硬直した盤面。
動きのない時間が続けば続くほど、岩石族の持ち味が際立つ。
レイのデッキは、ゆっくりと──それでも確実に、削られていた。
山札の残りが減っていく。リソースが薄れていく。
耐えるだけで勝てる相手にとって、この状況はむしろ“理想”だった。
重く、鈍く、沈んでいくような空気の中で、
試合は少しずつ、終盤の気配をまとい始めていた。
レイは焦らない。
だが、猶予は長くはない。
“仕掛けるなら、次だ”
そのタイミングが訪れた時、果たして彼女の準備は──間に合っているのか。
【レイ・7ターン目】
レイの場:5コスト 突撃竜スティングレイ 2/5
《試作品ゴーレム》×3体(コスト3/1/3)
《良質なゴーレム》(コスト5/4/5)
《ゴーレム研究員 ジョン》(コスト7/1/1)
いずれも低攻撃力ではあるが、防御性能に優れたモンスターで構成されており、正面突破は困難。
レイに残された山札は10枚。
「コストチャージ。……9コストか」
バディスキルの条件は、すでに整っていた。
場には《突撃竜スティングレイ》。
そして、すでに5枚分の呪文は発動済み──蓄えられた竜気が、ついに臨界点に達する。
「《クロック・ドラグーン》発動。3コスト!」
次に出すドラゴンのコストを一時的に+3する代わりに、“速攻”を得る――攻撃できる力を即座に与える、逆転の一手。
リスクは承知のうえ。その負荷すら、勝機に変える覚悟だった。
「バディスキル、《竜気蓄積》発動! 召喚コスト−5!」
その瞬間、炎の紋章がカードに宿り、バディ《咆哮竜グランバーン》の力が呼び起こされる。
「来い──《召竜王グリヴァルド》!!」
カードが場に叩きつけられた瞬間、世界が揺れた。
その竜は、まさに王の風格を持つ存在。5/5の重厚なステータスに加え、攻撃時、山札の頂から新たな竜を呼び出す召喚能力を持つ。
まずは一撃。
だが、ブロックに入った《試作品ゴーレム》により攻撃は止められる。
しかし、真の脅威はここからだった。
グリヴァルドの効果が発動。
めくられたのは──《五爪の召龍・ガイレン》。
「ガイレンの効果発動!」
《五爪の召龍・ガイレン》
コスト8、ステータス3/3。
召喚時に山札を5枚めくり、その中にドラゴンがあればノーコストで即召喚。
再び、召喚する。
5枚めくり、4体がドラゴン
コスト6 暴吼竜 ヴァルスヴァイン 5/5 フィールドにいる限り自分のドラゴンは速攻を得る。
コスト10 崩天竜 グランデリクス 10/10 攻撃時:自分のフィールド上のドラゴンのコスト合計分。相手のモンスターのコストの合計したモンスターを破壊することができる。
コスト6 轟連王ガルヴァロス 4/4 召喚時:ドラゴンの+2/+2
コスト3 チャイルドドラゴン・アン 1/1 召喚時:“ドラゴン関連の呪文”を1枚、手札に加える。
圧巻の布陣になって、今までの盤面をしっかりと返す。
そのすべてが“速攻”を得て、牙を剥いた。
「暴吼竜 ヴァルスヴァインにより、私のドラゴンはすべて速攻を得る」
「崩天竜 グランデリクスで攻撃――相手モンスター、全破壊!」
重くそびえ立っていたゴーレムたちが、一瞬にして瓦礫と化す。
まさに“崩天”の名にふさわしい大破壊。
そのまま続くは、怒涛の連撃。
速攻を得た竜たちが、次々に敵の本陣を貫いていく。
──残っていたライフ20点。
そのすべてが、一瞬で焼き尽くされた。
フィールドに立つのは、ただ竜たちの咆哮だけ。
レイの逆転勝利は、会場を揺らすような衝撃として刻まれた。
~~
「やはり、ドラゴンの連打が凄すぎますね」
霞が思わず呟いた。対策する間もなく、一瞬で盤面をひっくり返す火力。その威圧感は、予選のそれとはまったく別物だった。
「予選よりも……圧倒的な火力でしたね」
「ほんっとうに、それだよ」
機子が大きく頷いて声を弾ませた。
「あの場面から一気に返すなんて……やばすぎだって!」
「本当にすごいねぇ~」
ルナも感心したように肩をすくめる。
「一週間で、ここまで変わるもんなんだね」
「たまたまだよ」
レイは照れたように苦笑しながら、カードケースを握り直す。
「でも……何度も回した結果が、ちゃんと出た。それは、やっぱり嬉しいかな」
そのやりとりを、少し離れた場所から見守る者がいた。
咆哮竜・グランバーン。
『……本当に、友達ができてよかったな』
炎のように燃える瞳を細めながら、彼は静かに頷く。
『誰かと笑いあいながら、純粋に勝利を喜び合える。それだけで、こんなにも……嬉しいんだな』
こうして、一歩ずつ、着実に前へ進んでいくレイの姿。
それは、グランバーンにとって何よりもうれしいことだった。
無理に背中を押さずとも、レイは自分の意思で、舞台に立ち、勝ちに向かって歩いている。
その中で、自分から言葉を発し、仲間と笑い合うようになってきた。
──それが、たまらなく誇らしい。
『……強くなったな、レイ』
胸の奥に、熱いものが静かに灯る。
正直、それだけでたくましく感じている。
もう、自分が守るだけの存在じゃない。
共に戦う、誇り高きパートナー──
それが、今のレイだった。