カードゲーム世界にTS転生したら、初戦敗退したヴァンプデッキ使いでした   作:銀層

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天上院の力

「天上院さん、このトーナメントで本当に大丈夫なのかい?」

 

重く響いた壺の中からの声に、涼音は一瞬だけ目を細めた。

 

「……リスクは承知の上よ。私とあなた、どちらかで零崎レイを倒す。それだけ」

 

1回戦で涼音がぶつかり、2回戦で壺謀斎が当たるようにしている。

 

「ログは何度も確認した。相性としては、俺が有利だろうな。ただ――どんな手で来るかは分からない」

 

壺謀斎の声には、珍しく慎重な響きが混じっていた。

彼のような“怪物”が警戒する。それだけで、その相手がどれほどの脅威かが知れる。

 

「怪しい鼠は、早めに叩いておくに限るわ」

「……杞憂でしたら、零崎さんには申し訳ないけどね」

 

涼音は腕を組み、目線を遠くに投げる。

 

「素行調査でも黒い点は見当たらない。でも――綱は慎重に渡るのが私の流儀よ」

 

「ふん……らしいな。ならば、少しだけ“揺さぶって”みるとしようか」

 

「お願いするわ。……もし“クロ”なら、ここで炙り出す」

 

「私が負けたら、倒してね」

 

「わかったが、負けるつもりはないのだろう」

 

「当然」

天上院が去ったあと、壺謀斎は独り、そこに立ち尽くしていた。

 

彼の中に、戦略とは別の感情が、静かに波紋のように広がっていく。

 

(……どうして、俺は彼女に“仕事”の話しかしないんだろうな)

 

(あいつは――まだ若い。カードゲームを、純粋に楽しむ年頃だってのに)

 

大人たちの読みあい・カード資源の奪いあいなどカード事業を大きくするという野望

そうしたものの中心にいる彼女は、いつも完璧に仕事をこなす。

誰よりも冷静に、無駄なく、失敗なく。

それが彼女の「強さ」であり、「役割」だった。

 

(だが……心のどこかで、思ってるんだよ)

 

(トーナメントの空気にわくわくしたり、負けて泣いたり、勝って跳ねたり――そういうのも、今のうちに味わってほしいって)

 

(“天上院グループ”の代表とか、後継者とか、そんな看板は今は置いてさ……)

 

(ただ、子どもとして――カードを、遊びとして楽しんでほしいって)

 

壺の中に、乾いた息が漏れた。

 

(それを言葉にしてしまえば、天上院さんは俺にきっと“なめられた”って思うだろう)

 

(でもな……)

(少しは自分のために何かしてもいいんじゃないか)

壺謀斎は、空を見上げた。

 

~~~

 

【零崎・1ターン目】

 

「コストチャージ――終焉解放を発動」

 

その瞬間、彼の手札は一気に霧散した。すべてを捨て、場に1体のモンスターが出現する。

 

ゼロノイド・零識機甲《レイシキアーマー》――

5コスト/2/7。手札が0枚なら、疲労状態でもブロック可能になる。

 

(……やっぱりこの人、狂ってる)

 

ルナは息をのんだ。手札をすべて捨てるというリスクを、当然のように1ターン目から踏み切ってくる。

“守り”を選んだのではない。“制圧”の第一歩として、だ。

 

(1ターン目からこんな壁を置いてくるなんて……)

 

零崎は静かに手を下ろし、ターンを終えた。

 

【天上院・1ターン目】

 

「コストチャージして、ターン終了」

 

涼音はそのまま何も出さずにターンを返した。

しかし、その目に揺らぎはなかった。見切っている、そういう目だ。

 

(……さすがだわ。下手に動けば飲まれる。それでも、彼女は冷静に構えてる)

 

【零崎・2ターン目】

 

「ターン開始時、手札0。バディースキルを発動」

 

彼の声が再び場を支配する。

 

ゼロノイド・偽想律神《ファルス・ノミオン》――

ドローフェイズ時、手札が0なら、山札の一番上をめくりゼロノイドなら即召喚。外れたら破壊される。この効果を使ったらドローはできない。

 

運と構築力を試されるスキル。

だが――めくられたのは《ゼロノイド・ナレッジ》。

 

「小型か。……まあ、しょうがない。ゼロノイドは、どうしても集まりにくいからね」

 

ゼロノイド・ナレッジ:2コスト/1/1。

召喚時、手札が0枚なら呪文カードをランダムに1枚捨て、その後1点のバーンダメージを与える。

 

デッキ圧縮とバーン、微量ながらも確かな痛手。

 

天上院のライフ:20 → 19

 

そして、すかさず《レイシキアーマー》が動く。

守りのカード……ではない。今は、**攻撃する“鉄壁”**だ。

 

2点のダメージが涼音を襲う。

 

天上院のライフ:19 → 17

 

【天上院・2ターン目】

 

「コストチャージ」

 

静かにカードを置く仕草は、まるで計算され尽くした一手のようだった。

 

「光封龍フィスカ、召喚」

 

召喚されたのは、清廉なる白翼の龍。

光封龍フィスカ。2コスト/1/1 召喚時:聖鎖1

 

「聖鎖(セイサ)――1」

 

聖なる封鎖。その力は、敵モンスターの攻撃力を静かに、確実に削ぎ落とす。

ナレッジの攻撃力:1 → 0

 

「これでターンエンド」

 

 

【零崎・3ターン目】

 

「なるほどね。僕のターン」

 

零崎レイの声は、あくまで静かだった。

その手は迷いなくデッキの上に伸びる――そう、“ドロー”ではなく、“めくる”という行為。

 

「バディースキル、発動」

 

ゼロノイド・偽想律神《ファルス・ノミオン》。

ドローフェイズ時、手札が0枚のときだけ発動する狂気のスキル。

デッキのトップをめくり、ゼロノイドであれば召喚できる。さもなければ、虚無に還る。

 

その命を賭けるような運命の一枚――。

 

「ゼロノイド・赫動母核《レッドムーブ・コア》」

 

次の瞬間、フィールドが赤く染まる。

赫き熱が爆ぜ、核のような不穏な光を放つ機構体が静かに降臨する。

 

《レッドムーブ・コア》

3コスト 3/3

召喚時効果:手札が0枚のとき、相手に5ダメージ

 

「これで、5点もらうよ」

 

その言葉とともに、天上院のライフが激しく削られる。

 

天上院ライフ:17 → 12

 

零崎は止まらない。続けて、盤面にいるゼロノイド・零識機甲《レイシキアーマー》を指で弾く。

 

「アタック、いこうか」

 

重厚な機甲が静かに動き出す。

2点のダメージを、そのままプレイヤーへ――そう思われたその瞬間。

 

「光封龍フィスカでブロック」

 

フィールドの白翼が滑るように飛び出す。

聖なる鎖がレイシキアーマーを巻き取り、攻撃を止めた。

 

(……当然ね。この盤面でライフを削られるわけにはいかない)

 

天上院の表情は冷静を保ったままだが、その眉間にはわずかな皺が寄っていた。

5点のバーンダメージとフィールドの圧により、戦況は大きく傾きかけている。

 

しかし――彼女はまだ崩れてはいない。

 

 

【天上院・3ターン目】

 

「コストチャージ」

 

静かに手札からカードが差し出された。

その動作には、彼女らしい一分の無駄もない正確さがあった。

 

「光封龍エルラミナ、召喚」

 

フィールドに現れたのは、薄衣をまとった白き龍。

その翼は静かに輝き、まるで戦場に降り立つ聖霊のような荘厳さを帯びている。

 

《光封龍エルラミナ》

3コスト 2/2

【召喚時】:手札の光封龍1枚を公開することで、その聖鎖効果を発動可能。

 

「公開するわ。光封龍ミスティカエル」

 

その名を告げると同時に、手札から煌々たる一枚が現れる。

 

10コスト 8/8――その巨体が一瞬、幻のように戦場に顕現した。

 

「……聖鎖、10……!?」

 

10もの攻撃力を下げる聖なる鎖――だが、目の前の敵は最大で攻撃力3

「攻撃力を下げても意味ないよね……?」

 

思わず口に出す零崎に、天上院は静かに首を振った。

 

「そうだけど――そこが目的じゃないわ」

 

その瞬間、戦況の空気が変わった。

 

「バディースキル、発動」

 

――光封龍セラフディアスのスキル。

発動した聖鎖カウントの累積によって、多彩な効果を引き出すバディースキル

 

「先のターンの《フィスカ》で1、今回の《ミスティカエル》で10。合計11」

 

淡々とした口調で告げながら、天上院は聖鎖ポイントを指先で示すように掲げた。

 

「そのうち、5ポイントを2回――“コストブースト”に使わせてもらうわ」

 

神聖な鎖が空中で輝きながら収束していく。

それはただの攻撃力低下ではない。フィールドに“未来”を築くための礎だ。

 

「これで、追加で2コストチャージ。現在、5コスト」

 

零崎は、淡々とモンスターを展開していく。

ゼロノイド――その名を冠する異形の兵たちが、次々と戦場に現れては無感情に配置されていく。

その手つきに迷いはない。だが、それでも、勝利の輪郭は遠のいていくばかりだった。

 

対する天上院は、変わらず手札の一枚――《光封龍ミスティカエル》を公開し続ける。

それはまるで、ゼロノイドの野心を嘲笑うように。

10という“聖鎖”の重さが、毎ターンごとに零崎の攻撃力を削り取り、盤面の勢いを止めていく。

 

だが、それだけでは終わらない。

聖鎖カウントを利用したバディースキルは、ただ攻撃を封じるだけではなく、リソースすら与えてくれない。

コストチャージ、ライフ回復、手札補充――

まるで天上から注がれる神の恩寵のように、天上院の支配領域は広がっていく。

 

打っても、削れない。

仕掛けても、届かない。

盤面の差は、埋まるどころか加速度的に広がっていく。

ゼロノイドたちの無機質な足音が、静かに後退を始めていた。

 

支配は、静かに、確実に、降りてくる。

それは破壊ではない。

封印――天上から降り注ぐ鎖の雨が、すべてを無に帰そうとしていた。

 

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