カードゲーム世界にTS転生したら、初戦敗退したヴァンプデッキ使いでした   作:銀層

3 / 19
主人公とのバトル

とうとう、決勝戦まで来た。

対戦相手は――レイ。

 

原作とは違う、この世界だけのルート。

あの時、初めてカードショップで出会ったあの子と、こうして決勝の舞台で向かい合うなんて。

 

「まさか、自分が決勝まで来れるなんて……びっくりだよ」

レイが、少し照れたように笑う。

 

「初心者なのに、こんなにうまくいっていいのかなって、ちょっと思ってる」

「でも――ルナには負けない」

 

その瞳は、もうあの頃みたいに怯えてなんかいない。

真っ直ぐで、揺るがない意志が宿っている。

 

「もちろん。私だって、負けるつもりはないよ」

 

自然と笑みがこぼれた。

これが“主人公”と“もうひとりの主人公”の戦いなんだって、胸が高鳴っていた。

 

そして――運命の一戦が始まる。

 

~~

 

1ターン目は、お互いにコストチャージだけで終了。

静かな立ち上がりの中、先に動いたのはレイだった。

 

「2コスト、呪文《ドラゴンエッグ》を発動!」

 

彼女が差し出したカードに、場の空気が少しだけ揺れる。

山札の一番上のカードを、そっとめくる。

 

「……よし。『雄たけびドラゴン』。手札に加えるね」

 

的確な引き。しかも、手札アドバンテージを即座に回収。

──流れるような動きに、思わず感心する。

 

「それから、《ドラゴンエッグ》は発動後、コストゾーンへ送るよ」

 

加速だけじゃ終わらない。

すかさず、彼女の口からスキルの名が飛び出す。

 

「バディスキル《竜気蓄積》、発動!」

 

──この効果は、呪文を5回発動することで、次の《ドラゴン》の召喚コストを5も軽減できる強力なスキル。

 

《ドラゴンエッグ》の1発動で、その条件に1回分、近づいたことになる。

 

原作のレイは、序盤に火属性の小型呪文で盤面を掃除し、

最終的に大型ドラゴンでフィニッシュする構築だった。

 

その要となるのが、今レイが使ったこのカード――《ドラゴンエッグ》。

 

たった1枚で、コスト加速・手札補充・バディスキルの条件稼ぎという“3つの役割”を同時に果たす。それはまさに、ドラゴンデッキを支える屋台骨だった。

 

ただ、俺も――ノーガードで迎え撃つつもりはない。

 

この決勝戦を見据えて、デッキはコントロール寄りに調整していた。

レイが得意とする“軽量除去連打”の動きに、あえて乗らない構築にしてある。

 

つまり、バッド系の小型モンスターは極力減らしている。

下手に展開して焼かれるくらいなら、最初から場を空にしておいた方がいい。

 

その代わりに採用しているのは、

対・大型モンスター用の中~大型ヴァンプたち。

 

カウントを稼がれて、大型ドラゴンを出されるのは織り込み済み。

それに対して、こちらは重量級のヴァンプで正面から殴り返す。

それが今回のプランだ。

 

火力除去に寄せているレイの構築では、

こっちの大型モンスターを即処理するのはそう簡単じゃない。

 

ルナのターンが回ってきた。

 

「まずは、フィールド魔法《夜の狩場》を発動!」

 

闇の霧が広がり、フィールドが一変する。

月明かりの下、低くうごめく気配。バッドたちの狩猟場が、そこに現れた。

 

《夜の狩場》――

このフィールドがある限り、バッド系モンスターは“突進”を得る。

つまり、召喚されたターンでも相手モンスターへの攻撃が可能になるのだ。

 

俺の目的は、ライフを削ることじゃない。今は、盤面を整える。それが最優先だ。

 

レイの3ターン目。

レイのフィールドに、再び静かに火が灯る。

 

「2コスト、《ドラゴンエッグ》を発動」

 

再びあのカード。やはり彼女のデッキの軸だ。

山札をめくると、またもドラゴンカードを加えることに成功。

 

「ふぅん……また引くんだ。さすが主人公だね」

 

これで、

・手札+1

・バディスキルのカウント+1

・発動後はコストゾーンへ

 

《ドラゴンエッグ》一枚で、三役をこなす万能ぶり。

もはや1ターンに最低1回は使ってくる前提で考えなければならない。

 

残り3コスト――

レイは迷いなくカードを置いた。

 

「3コスト、《チャイルドドラゴン・アン》を召喚」

「効果発動。デッキから“ドラゴン関連の呪文”を1枚、手札に加える」

 

……なるほど。次のターンの展開を見越した布石か。

 

今回は――原作とは、明らかに違う動きだ。

 

レイは“除去”じゃなく、“リソース回復”に呪文を使っている。

本来なら、火属性の軽量全体除去で数を刈り取り、テンポを奪うのが序盤の常套手段のはず。

でも今は――あの《ドラゴンエッグ》を使い、手札を整え、未来を見据えている。

 

……当然か。

《ドラゴンエッグ》は、俺が渡したカード。

原作じゃ10話くらいでようやく登場する切り札を、1話で手にしている。

動きが強くなるのは、当たり前だ。

 

俺の介入が、確かに“物語”を変えた。

それが今、レイのプレイングとして現れている。

 

原作の1話なんて比じゃない。

戦術の完成度、手札の潤沢さ、盤面の構築。

どれを取っても、圧倒的に“今のほうが強い”。

 

そして、その“強さ”が、

俺の胸に少しだけ、誇らしさを灯した。

 

ルナの3ターン目。

 

こちらも、黙って殴られるつもりはない。

 

「3コスト、《堕翼の夜宴》を発動!」

 

《堕翼の夜宴》

コスト:3 種別:呪文

効果:フィールド上のコスト5以下のモンスター1体を選び、それを疲労状態にする。

その後、バッド(1/1)を2体まで召喚する。

 

 

「そして、バッドを2体召喚。突進付きよ」

 

《夜の狩場》が輝き、バッドたちの眼が赤く染まる。

召喚直後の突撃――それが“突進”の力。

 

「いきなさい、バッドたち。標的は……アンよ」

 

1体目が突撃。2体目が追撃。

疲労状態のアンは、成す術なくその場に倒れ伏した。

 

「さすがだね、ルナ。盤面、しっかり取ってくるなんて」

 

カードを持つ手は真剣そのものなのに、口元はわずかにゆるんでいた。

 

「でも、私は……負けないよ」

 

そう言って、不器用に笑う。

 

普段なら、レイがこんなふうに表情を見せることなんて、まずない。

けれど――今の彼女は、確かに少しだけ楽しそうだった。

 

緊張の中に、確かな喜び。

“誰かと真剣にぶつかること”の嬉しさが、レイという少女の心を少しずつ溶かしていく。

 

このような心地の良い試合展開は以下のように進んでいる。

 

戦況は完全に五分。

どちらかが押しているとは言えない。

いや、どちらも一歩も引かないと言ったほうが正しいだろう。

 

レイは、次々と呪文を刻み、ドラゴンたちを呼び出していく。

その手つきはぎこちないながらも、確実にテンポを掴んでいた。

カウントは進み、バディスキルの発動条件が、じわじわと整っていく。

 

対するルナ――つまり、俺は、

バッドたちを駆使してその盤面を潰し、

地道な“削り”と“妨害”で相手の呼吸を乱す構築だ。

 

突進。除去。小型の群れ。

一枚一枚の動きは軽いが、重なれば巨大な圧となる。

 

そのぶつかり合いが、今、盤面の上で繰り返されている。

 

誰が勝つかは、まだ分からない。

だが、はっきりしていることがひとつある。

 

これは、間違いなく“理想の勝負”だ。

原作では描かれなかった、もうひとつのルート。

ルナとレイが、真正面からぶつかり合う、たった一度きりの物語。

 

6ターン目。

レイのコストは8、呪文カウントは4。

 

「《クロック・ドラグーン》発動。3コスト!」

 

次に出すドラゴンはコスト+3になるが、“速攻”を得る呪文だ。

一時的な負荷をかけてでも、即座に攻めに転じる選択。

 

「バディスキル発動! 召喚コスト−5!」

 

ついに条件達成。グランバーンの効果が発動する。

そしてレイは、手札を叩きつけた。

 

「来いっ、《召竜王グリヴァルド》!!」

 

通常7コスト、ステータスは《5/5》。

攻撃時、山札の一番上をめくり、それが“ドラゴン”なら即座に場に出すことができる。

 

クロック・ドラグーンにより速攻を得たため、即座に効果が発動できる。

 

「デッキトップをめくる!……《突撃竜スティングレイ》! ドラゴンだ!」

 

5コスト、2/5、速攻持ち。

そのまま即座に盤面へ──!

 

「グリヴァルド、攻撃!」

「スティングレイも、続け!」

 

2体のドラゴンが吠え、突き進む。

 

ゴリッ、ドンッ! 2連続のダイレクトアタック。

 

《5点》+《2点》。

俺のライフが、一気に7点も削られた。

 

「っ……!」

 

たった1ターンで、盤面とライフがごっそり持っていかれた。

これが“連ドラ”。

さすが原作主人公──やっぱ、やばいわレイ。

 

ルナの6ターン目。

溜まったコストは6。

 

「《双翼招きしミルドレッド》──召喚!

 

6コスト、ステータスは2/2。

場に出た瞬間、左右から闇の翼が生まれ──

 

「即死持ちバッドを、2体召喚!」

 

さらに《夜の狩場》が発動中。

召喚されたバッドはそのまま、突進可能。

 

「バディースキル発動!」

 

◆バディースキル:《渇血の契約(ブラッドリンク)》

 

効果:自分の《バッド》が攻撃するたび、

その攻撃力と同じ数値分、自分のライフを回復する。

 

「まずは、1体目のバッドで──《突撃竜スティングレイ》に攻撃!」

 

黒き牙がドラゴンに食らいつく。即死効果が発動し、スティングレイは一撃で崩れ落ちる。

 

「攻撃力は2。ライフ、2回復!」

 

「次! 2体目で、《召竜王グリヴァルド》に攻撃!」

 

巨竜が咆哮するも、バッドの即死を防げるはずもない。

グリヴァルド、撃破。

 

「さらに2回復! 合計4ライフ回復!」

 

削られていたライフがぐっと戻る。

盤面はクリア、ライフ差も詰め直した。

 

「……これが、ヴァンプ……?」

レイが目を見開く。

 

「ふふっ、血を吸って、回復するの。これが私の戦い方よ」

 

 

こうして、ルナのコントロールが完璧に刺さった。

除去と回復を繰り返し、盤面は常にルナの支配下にあった。

 

レイはドラゴンを呼び出し続けたが、そのたびに即死のバッドたちが喰らい尽くす。

盤面を返され、リソースを奪われ、じわじわとライフを削られていく。

 

――そして。

 

最後の一撃が通り、レイのライフはゼロに。

勝者、黒羽ルナ。

 

「……やった……!」

 

静かに、しかし確かに。

推しが、勝った。いや、俺が推しとして、勝ち取った。

 

原作とは違う結末。

ここに、新たなルートが生まれた。

 

~~

 

試合が終わり、少し息を整えていたルナのもとに、レイが歩み寄ってきた。

 

「……バディースキルで7点削ったときは、正直いけると思ったんだけど」

 

ぽつりと、悔しさを隠すように口を開く。

 

「でも……そんなに甘くないね」

 

一拍置いて、レイはふっと笑った。

 

「さすが、ルナだよ」

 

その顔には、敗北の悔しさではなく、認めるような、まっすぐな光が宿っていた。

 

そして、ふいに――

 

「よ、よかったら……スマホの、LINEのIDとか……教えてくれないかな……?」

 

頬を赤く染めて、目をそらしながら言った。

 

その様子は、明らかに勇気を振りしぼっているものだった。

中学生の少女らしい、初々しい“友達になりたい”という感情。

原作では、この一話限りの関わりだったはずなのに――

今のレイは、確かに“つながろう”としていた。

 

ルナの胸に、少しだけあたたかいものが灯る。

 

こんなにも、微笑ましい瞬間が訪れるなんて。

――この世界に来て、よかった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。