カードゲーム世界にTS転生したら、初戦敗退したヴァンプデッキ使いでした 作:銀層
とうとう、決勝戦まで来た。
対戦相手は――レイ。
原作とは違う、この世界だけのルート。
あの時、初めてカードショップで出会ったあの子と、こうして決勝の舞台で向かい合うなんて。
「まさか、自分が決勝まで来れるなんて……びっくりだよ」
レイが、少し照れたように笑う。
「初心者なのに、こんなにうまくいっていいのかなって、ちょっと思ってる」
「でも――ルナには負けない」
その瞳は、もうあの頃みたいに怯えてなんかいない。
真っ直ぐで、揺るがない意志が宿っている。
「もちろん。私だって、負けるつもりはないよ」
自然と笑みがこぼれた。
これが“主人公”と“もうひとりの主人公”の戦いなんだって、胸が高鳴っていた。
そして――運命の一戦が始まる。
~~
1ターン目は、お互いにコストチャージだけで終了。
静かな立ち上がりの中、先に動いたのはレイだった。
「2コスト、呪文《ドラゴンエッグ》を発動!」
彼女が差し出したカードに、場の空気が少しだけ揺れる。
山札の一番上のカードを、そっとめくる。
「……よし。『雄たけびドラゴン』。手札に加えるね」
的確な引き。しかも、手札アドバンテージを即座に回収。
──流れるような動きに、思わず感心する。
「それから、《ドラゴンエッグ》は発動後、コストゾーンへ送るよ」
加速だけじゃ終わらない。
すかさず、彼女の口からスキルの名が飛び出す。
「バディスキル《竜気蓄積》、発動!」
──この効果は、呪文を5回発動することで、次の《ドラゴン》の召喚コストを5も軽減できる強力なスキル。
《ドラゴンエッグ》の1発動で、その条件に1回分、近づいたことになる。
原作のレイは、序盤に火属性の小型呪文で盤面を掃除し、
最終的に大型ドラゴンでフィニッシュする構築だった。
その要となるのが、今レイが使ったこのカード――《ドラゴンエッグ》。
たった1枚で、コスト加速・手札補充・バディスキルの条件稼ぎという“3つの役割”を同時に果たす。それはまさに、ドラゴンデッキを支える屋台骨だった。
ただ、俺も――ノーガードで迎え撃つつもりはない。
この決勝戦を見据えて、デッキはコントロール寄りに調整していた。
レイが得意とする“軽量除去連打”の動きに、あえて乗らない構築にしてある。
つまり、バッド系の小型モンスターは極力減らしている。
下手に展開して焼かれるくらいなら、最初から場を空にしておいた方がいい。
その代わりに採用しているのは、
対・大型モンスター用の中~大型ヴァンプたち。
カウントを稼がれて、大型ドラゴンを出されるのは織り込み済み。
それに対して、こちらは重量級のヴァンプで正面から殴り返す。
それが今回のプランだ。
火力除去に寄せているレイの構築では、
こっちの大型モンスターを即処理するのはそう簡単じゃない。
ルナのターンが回ってきた。
「まずは、フィールド魔法《夜の狩場》を発動!」
闇の霧が広がり、フィールドが一変する。
月明かりの下、低くうごめく気配。バッドたちの狩猟場が、そこに現れた。
《夜の狩場》――
このフィールドがある限り、バッド系モンスターは“突進”を得る。
つまり、召喚されたターンでも相手モンスターへの攻撃が可能になるのだ。
俺の目的は、ライフを削ることじゃない。今は、盤面を整える。それが最優先だ。
レイの3ターン目。
レイのフィールドに、再び静かに火が灯る。
「2コスト、《ドラゴンエッグ》を発動」
再びあのカード。やはり彼女のデッキの軸だ。
山札をめくると、またもドラゴンカードを加えることに成功。
「ふぅん……また引くんだ。さすが主人公だね」
これで、
・手札+1
・バディスキルのカウント+1
・発動後はコストゾーンへ
《ドラゴンエッグ》一枚で、三役をこなす万能ぶり。
もはや1ターンに最低1回は使ってくる前提で考えなければならない。
残り3コスト――
レイは迷いなくカードを置いた。
「3コスト、《チャイルドドラゴン・アン》を召喚」
「効果発動。デッキから“ドラゴン関連の呪文”を1枚、手札に加える」
……なるほど。次のターンの展開を見越した布石か。
今回は――原作とは、明らかに違う動きだ。
レイは“除去”じゃなく、“リソース回復”に呪文を使っている。
本来なら、火属性の軽量全体除去で数を刈り取り、テンポを奪うのが序盤の常套手段のはず。
でも今は――あの《ドラゴンエッグ》を使い、手札を整え、未来を見据えている。
……当然か。
《ドラゴンエッグ》は、俺が渡したカード。
原作じゃ10話くらいでようやく登場する切り札を、1話で手にしている。
動きが強くなるのは、当たり前だ。
俺の介入が、確かに“物語”を変えた。
それが今、レイのプレイングとして現れている。
原作の1話なんて比じゃない。
戦術の完成度、手札の潤沢さ、盤面の構築。
どれを取っても、圧倒的に“今のほうが強い”。
そして、その“強さ”が、
俺の胸に少しだけ、誇らしさを灯した。
ルナの3ターン目。
こちらも、黙って殴られるつもりはない。
「3コスト、《堕翼の夜宴》を発動!」
《堕翼の夜宴》
コスト:3 種別:呪文
効果:フィールド上のコスト5以下のモンスター1体を選び、それを疲労状態にする。
その後、バッド(1/1)を2体まで召喚する。
「そして、バッドを2体召喚。突進付きよ」
《夜の狩場》が輝き、バッドたちの眼が赤く染まる。
召喚直後の突撃――それが“突進”の力。
「いきなさい、バッドたち。標的は……アンよ」
1体目が突撃。2体目が追撃。
疲労状態のアンは、成す術なくその場に倒れ伏した。
「さすがだね、ルナ。盤面、しっかり取ってくるなんて」
カードを持つ手は真剣そのものなのに、口元はわずかにゆるんでいた。
「でも、私は……負けないよ」
そう言って、不器用に笑う。
普段なら、レイがこんなふうに表情を見せることなんて、まずない。
けれど――今の彼女は、確かに少しだけ楽しそうだった。
緊張の中に、確かな喜び。
“誰かと真剣にぶつかること”の嬉しさが、レイという少女の心を少しずつ溶かしていく。
このような心地の良い試合展開は以下のように進んでいる。
戦況は完全に五分。
どちらかが押しているとは言えない。
いや、どちらも一歩も引かないと言ったほうが正しいだろう。
レイは、次々と呪文を刻み、ドラゴンたちを呼び出していく。
その手つきはぎこちないながらも、確実にテンポを掴んでいた。
カウントは進み、バディスキルの発動条件が、じわじわと整っていく。
対するルナ――つまり、俺は、
バッドたちを駆使してその盤面を潰し、
地道な“削り”と“妨害”で相手の呼吸を乱す構築だ。
突進。除去。小型の群れ。
一枚一枚の動きは軽いが、重なれば巨大な圧となる。
そのぶつかり合いが、今、盤面の上で繰り返されている。
誰が勝つかは、まだ分からない。
だが、はっきりしていることがひとつある。
これは、間違いなく“理想の勝負”だ。
原作では描かれなかった、もうひとつのルート。
ルナとレイが、真正面からぶつかり合う、たった一度きりの物語。
6ターン目。
レイのコストは8、呪文カウントは4。
「《クロック・ドラグーン》発動。3コスト!」
次に出すドラゴンはコスト+3になるが、“速攻”を得る呪文だ。
一時的な負荷をかけてでも、即座に攻めに転じる選択。
「バディスキル発動! 召喚コスト−5!」
ついに条件達成。グランバーンの効果が発動する。
そしてレイは、手札を叩きつけた。
「来いっ、《召竜王グリヴァルド》!!」
通常7コスト、ステータスは《5/5》。
攻撃時、山札の一番上をめくり、それが“ドラゴン”なら即座に場に出すことができる。
クロック・ドラグーンにより速攻を得たため、即座に効果が発動できる。
「デッキトップをめくる!……《突撃竜スティングレイ》! ドラゴンだ!」
5コスト、2/5、速攻持ち。
そのまま即座に盤面へ──!
「グリヴァルド、攻撃!」
「スティングレイも、続け!」
2体のドラゴンが吠え、突き進む。
ゴリッ、ドンッ! 2連続のダイレクトアタック。
《5点》+《2点》。
俺のライフが、一気に7点も削られた。
「っ……!」
たった1ターンで、盤面とライフがごっそり持っていかれた。
これが“連ドラ”。
さすが原作主人公──やっぱ、やばいわレイ。
ルナの6ターン目。
溜まったコストは6。
「《双翼招きしミルドレッド》──召喚!
6コスト、ステータスは2/2。
場に出た瞬間、左右から闇の翼が生まれ──
「即死持ちバッドを、2体召喚!」
さらに《夜の狩場》が発動中。
召喚されたバッドはそのまま、突進可能。
「バディースキル発動!」
◆バディースキル:《渇血の契約(ブラッドリンク)》
効果:自分の《バッド》が攻撃するたび、
その攻撃力と同じ数値分、自分のライフを回復する。
「まずは、1体目のバッドで──《突撃竜スティングレイ》に攻撃!」
黒き牙がドラゴンに食らいつく。即死効果が発動し、スティングレイは一撃で崩れ落ちる。
「攻撃力は2。ライフ、2回復!」
「次! 2体目で、《召竜王グリヴァルド》に攻撃!」
巨竜が咆哮するも、バッドの即死を防げるはずもない。
グリヴァルド、撃破。
「さらに2回復! 合計4ライフ回復!」
削られていたライフがぐっと戻る。
盤面はクリア、ライフ差も詰め直した。
「……これが、ヴァンプ……?」
レイが目を見開く。
「ふふっ、血を吸って、回復するの。これが私の戦い方よ」
こうして、ルナのコントロールが完璧に刺さった。
除去と回復を繰り返し、盤面は常にルナの支配下にあった。
レイはドラゴンを呼び出し続けたが、そのたびに即死のバッドたちが喰らい尽くす。
盤面を返され、リソースを奪われ、じわじわとライフを削られていく。
――そして。
最後の一撃が通り、レイのライフはゼロに。
勝者、黒羽ルナ。
「……やった……!」
静かに、しかし確かに。
推しが、勝った。いや、俺が推しとして、勝ち取った。
原作とは違う結末。
ここに、新たなルートが生まれた。
~~
試合が終わり、少し息を整えていたルナのもとに、レイが歩み寄ってきた。
「……バディースキルで7点削ったときは、正直いけると思ったんだけど」
ぽつりと、悔しさを隠すように口を開く。
「でも……そんなに甘くないね」
一拍置いて、レイはふっと笑った。
「さすが、ルナだよ」
その顔には、敗北の悔しさではなく、認めるような、まっすぐな光が宿っていた。
そして、ふいに――
「よ、よかったら……スマホの、LINEのIDとか……教えてくれないかな……?」
頬を赤く染めて、目をそらしながら言った。
その様子は、明らかに勇気を振りしぼっているものだった。
中学生の少女らしい、初々しい“友達になりたい”という感情。
原作では、この一話限りの関わりだったはずなのに――
今のレイは、確かに“つながろう”としていた。
ルナの胸に、少しだけあたたかいものが灯る。
こんなにも、微笑ましい瞬間が訪れるなんて。
――この世界に来て、よかった。