カードゲーム世界にTS転生したら、初戦敗退したヴァンプデッキ使いでした 作:銀層
パックを作るための“パワーストーン”は、すでにそれなりに貯まっていた。
この世界では、他のプレイヤーとバトルすればするほど、少しずつパワーストーンが手に入る仕組みになっている。つまり、勝っても負けても、誰かと戦えば戦うほど、ガチャを回すための資源が溜まっていくってわけだ。
とりあえず溜まったパワーストーンでパックを開けてみることにした。
「ルヴィーちゃん、パワーストーンありがとうね」
肩に乗ったルヴィーにそう声をかけると、「きゅふ~♪」と嬉しそうに鳴いて、くるんと跳ねた。
この世界に来てから、すでに何度かバトルをしていて、パワーストーンもそれなりに集まっていた。俺としては、この“現実になったバースト・モンスターズ”をフル活用しない手はない。
……というか、するしかない。
俺は、現実世界で使っていたカードをある程度、こっちでも再現している。けど、それだけじゃつまらない。
だから、オリジナルの《ヴァンプ》カードを作ることに決めた。
できれば――そう、でっかいやつがいい。ド派手な、大型のヴァンプ。
そ大型のフィニッシャーが欲しかった。現実でも、ずっと妄想してたやつだ。
「頼むぞ……俺の理想、引かせてくれ」
そう念じながら、俺は両手でパワーストーンに触れた。
願うのは――“自分の想いが届く”そんなパック。
現実では、いつもショップで買ってた。予約もして、発売日に朝から並んだこともある。
でも今は違う。
ここでは、願いが形になる。カードが“現実”になる。
何回かパックを生成してきたけど、やっぱりこの瞬間がたまらない。指先から魔力が伝わるような感覚。演出も重厚で、音も光も豪華すぎるくらいだ。
自分で作ったカードが、この世界で実体化していく。
それは、ただのプレイヤーだった俺にとって、夢みたいな展開だった。
カードゲーマーとして、これ以上に幸せなことなんて、そうそうない。
……やっぱり、うまくはいかないか。
パックを開いた瞬間、眩い光とともにカードが現れる。
どれも闇属性で大型のモンスター。でも、能力は何もない“バニラ”カードばかりだった。
「……まあ、そうなるよな」
現実世界で何度も妄想してきたカードたち。けど、人間のイメージってのは、思ってる以上にあやふやらしい。
名前はカッコよくても、効果までは明確にイメージしきれていなかったのかもしれない。
結果として出てくるのは、“闇属性のデカいだけのモンスター”。
ビジュアルは好みど真ん中。黒い鎧、血のようなマント、燃える眼光……。演出も最高だった。でも、テキスト欄は空白。何の効果もない。
……まあ、しょうがないか。
このカード生成、そもそも原作のキャラたちでさえ苦戦していたくらいなんだから。
カードの“イメージ具現化”は、ただの思いつきじゃ通用しない。構築の芯とか、プレイングとの噛み合いとか、ちゃんと詰めて考えてこそカタチになる。
俺がここまである程度うまくやってこれたのは、現実世界での知識――いわば“チート”があったからだ。
アニメで見たデッキリスト、コンボ、各種カードのシナジー。俺の頭にはそれが全部詰まってる。だから、再現だけなら難しくなかった。
でも、“創造”は別物だった。
頭の中でどんなにカッコいいイメージを抱いても、それを効果に落とし込めなければ、ただの“デカいだけの闇属性”で終わる。
パックを開ける前に、俺はカードのビジュアルを思い描いていた。
もちろん、狙うのは“ヴァンプ”だ。
できれば、中盤を支える理想の1枚。
4~5コストで場を握れるカードがいい。
ライフを削られても平気な構成で、削った分だけ“バッド”――コウモリの使い魔たちを大量展開できる。
召喚時効果で一気に盤面を作れるやつ。
できれば、突進までついててくれたら最高だ。
手札から出して即処理して、バッドで横展開。中盤の主導権を掴む……そんな完璧な理想像。
――さあ、来い。
イメージを膨らませ、願いを込めて、パックを開封する。
出てきたのは――
《鮮血の黙示録フォルス=ヴァイン》
……8コスト? え、重くない?
【効果】
自分のライフを8点失う。
その後、2/2の“バッド”を10体召喚する。
「……いや、思ってたのとちょっと違うけど!?」
正直、4~5コスト帯の中盤カードを想定してたから、これには肩透かしを食らった。
けど――
「……まぁ、これはこれで“アリ”か」
中盤とは言えないが、安定した展開力は魅力だ。
8コストという重さに見合った爆発力。ライフを犠牲にして、大量のバッドを呼び出すあたり、いかにも“ヴァンプ”らしいカードデザイン。
何より――
「うん、名前が中二で最高。あと、背景イラストがめちゃくちゃ好みだわ」
多少の誤差はあったけど、俺の“理想”にかなり近いカードには違いない。
ヴァンプは、こういう尖った性能がクセになるんだよな。
「……よし、もう一枚、イメージしてみるか」
さっきの《フォルス=ヴァイン》みたいに、完全な理想じゃなくても、形にするだけで見えてくるものがある。
カードの効果を考えて、それがどう動くのかを妄想する――
それだけで、まるで自分が開発者になった気分だ。
「血蝕の従魔師ディアラン……」
コスト7でステータスは2/2。
召喚時、自分のライフを5払うことで、フィールド上の闇属性モンスター全体に攻撃力+2のバフ。バッドであればさらに1点アップ
「うーん……これは、さっきの《フォルス=ヴァイン》と組み合わせたら、ちょっと面白いかもな」
バッドを一気に並べて、その後にディアランでバフをかけて殴る――。
確かにロマンはある。
ただし、だ。
そのプランを成立させるには、かなり慎重なテンポ管理が必要になる。ライフをゴリゴリ削る構築になるし、相手に除去札が多いとあっという間に崩れる。
「やっぱり中盤、4~5コスト帯の安定札がもうちょっと欲しいな……」
そう考えつつも、手元のパワーストーンは残りわずか。
「今日はここまでか……」
名残惜しくも、ガチャ画面を閉じる。
結局、カードってのは、ただ引くだけじゃ強くなれない。
カードショップでどんなカードがあるかを調べたり、バトル中に必要になる札を想像したり……そういう地道な準備が、強さに繋がっていくんだ。
「カードを“創る”ってのは、思ったよりずっと奥が深いな」
でも――だからこそ、面白い。
思い描いたカードを、いつか自分の手で現実にできるかもしれないっていう妄想。
それこそが、カードゲーム最大の魅力だと、俺は思ってる。
生成したカードとデッキを眺めながら、思わず口元が緩む。
転生してから、自分で新しく考案したカードが何枚か入っている。
どれも、前世では存在しなかった完全オリジナル。尖った性能、独自のコンボ――“俺だけのヴァンプデッキ”が、ここにある。
しかもこの世界には、バディスキルっていう要素まである。
バディであるルヴィーが、デッキと噛み合う形でサポートしてくれるおかげで、動きが圧倒的に安定する。
前世じゃ、ただのファンデッキだった。
勝てることよりも“回せるかどうか”を楽しむだけの趣味枠。
でも――今は違う。
「これ、本当に……戦えるな」
確信に近い手応えが、胸の奥から湧き上がってくる。
ただの自己満足じゃない。
ヴァンプが、勝ち筋を持てる。環境に食らいつける。
誰からも“マイナー乙”なんて笑われない、本物の戦いができるって思える。
あの頃は、好きなデッキを握ることが“縛りプレイ”みたいなもんだった。
笑われても、それでも使い続けた。
けど今は違う。
「……くっそ楽しいな、これ」
誰に遠慮することもなく、俺の“好き”を貫ける。
ヴァンプって種族が、バカにされるだけの存在じゃないことを、ここから証明できるかもしれない。
そう思えただけで、胸が高鳴った。
本気で戦える“推しデッキ”――
これ以上に熱くなれる舞台なんて、他にあるか?
~~
スマホをなんとなく開くと、レイからメッセージが届いていた。
《カードを作ってみたけど……かなり良いのができたよ……》
添付されていた画像を開いた瞬間、俺は固まった。
《五爪の召龍・ガイレン》
コスト8、ステータス3/3。
召喚時に山札を5枚めくり、その中にドラゴンがあればノーコストで即召喚。
「……おいおい、マジかよ」
いや、強すぎだろこれ。
こんなカード、公式どころかファン創作でも見たことない。
“連ドラ”を絵に描いたような性能。下手すりゃ、一気に2体も3体も場に並ぶ可能性がある。
これはもう、ガチで主人公補正ってやつだ。
「どんだけチートカード作るんだよ……」
思わず呆れ混じりに呟く。
しかも、ただの“妄想”じゃない。ここは現実に近い“バースト・モンスターズ”の世界。
あいつの作ったカードは、実際にリリースされて、使われる。
俺も「すご~い!」なんて軽いノリで返信はしたけど、内心は穏やかじゃなかった。
……勝てるのか? ヴァンプで、こんなドラゴン連打に。
こっちはライフ削って、ちまちま展開して、盤面握ったと思ったら全体除去一発で吹っ飛ぶのがオチ。
努力じゃ超えられない壁が、こうしてポンと目の前に出てくると、さすがに心が折れそうになる。
「……やっぱ、ドラゴンって強ぇよな」
レイの才能、カード運、主人公補正。
全部が、ヴァンプ使いの俺にとって高すぎる壁に見えた。
でも――
(それでも、勝ちたいんだよ)
諦める理由はいくらでもある。でも、好きって気持ちに理由なんていらない。
俺はヴァンプが好きだ。
だから、どんなに理不尽でも、食らいついてやる。