カードゲーム世界にTS転生したら、初戦敗退したヴァンプデッキ使いでした   作:銀層

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メカデッキのモブキャラ

レイからのメッセージで、状況は把握できた。

 

《明日、学園内でランク戦あるらしい!》

 

……ああ、来たな。原作第2話。

 

主人公・龍ヶ崎レイが学園ランキングバトルに参加して、一気に頭角を現すエピソードだ。

正確には、学園内での1位決定戦。

勝てば推薦枠で公式大会に出場できるという、いわゆる“お約束”な成り上がり展開。

 

原作では、このパートはあっという間に終わった。

生徒たちを次々と撃破して、レイが鮮やかに優勝する。

 

そして今――原作の頃よりはるかに強くなってる。

 

カード構築力、デッキ回し、モンスターの使いこなしている。

前世で原作を何度も観た俺から見ても、もはや“別人”レベルの強さだ。

 

(そりゃまあ、あのチートカード作ってる時点で当然か)

 

ただし、残念ながら……

 

「このルートには、私は関与できない」

 

ここは、俺の通う学園じゃない。

原作通り、ルナはこのイベントに一切絡まない。

 

だから、どうすることもできない。

 

正直、歯がゆい。

せっかく原作の流れを知っているのに、何もできずに見ているだけなんて。

しかも、勝つのが確定している試合なんて、もはや消化試合みたいなもんだ。

 

けれど――それでも、俺の胸はどこか高鳴っていた。

 

(それよりも……俺は別のキャラが気になる)

 

この世界には、まだ“動いていない”キャラクターたちがいる。

原作では掘り下げが少なかった脇役たち、カードの設定だけ存在していた未登場モンスターたち。

 

せっかくこの世界に来たんだ。味わい尽くさないと、もったいないじゃない

 

干渉できない展開はある。

でも、それは裏を返せば――今の俺には、“何でもできる自由”があるってことだ。

 

原作じゃ活躍できなかったキャラに、輝ける場所を与えられるかもしれない。

 

~~

 

とあるカードショップ。

 

原作では、ほんの一話しか登場しなかった場所だ。

店名すらまともに出なかった、いわば“モブ背景”に等しい舞台。

 

でも――俺は、あえて足を運んでみた。

 

「……いるかな」

 

内心、不安だった。

 

確か、1話しか出ていない。

それっきり、二度と出てこなかった。

原作を何度見返しても、それ以降の出番はない。

 

まさに、“ゲストキャラ”ってやつだ。

 

けど、この世界に転生してみて分かったことがある。

 

「ゲストキャラだからって、消えてるとは限らない」

 

むしろ、原作では描写されていない世界が、この世界では普通に続いている可能性がある。

 

だったら確かめに行くしかない。

 

原作の外側を、確かめに行くのは俺の特権だ。

 

カードショップの扉を、そっと押し開ける。

 

店内は、思っていたよりも静かで――でも、どこか懐かしい空気が流れていた。

 

目立たない一角に、見覚えのある姿があった。

 

白衣。大きすぎるゴーグル。

頭に無造作にかけられたそれがトレードマークだった。

 

(……いた)

 

一瞬、心臓が跳ねた。

まさか、本当に会えるとは思わなかった。

 

彼女は“機巧(メカ)使いの少女”。

 

原作では1話のみ登場して、そのままフェードアウトしてしまったキャラだ。

使用カードは、すべてが“ランダム生成”で展開される特殊なメカ族。

 

演出面ではめちゃくちゃ派手。

モンスターが戦闘中に変形したり、合体したり、まさにロマンの塊だった。

 

……でも、それだけだった。

 

アニメ演出としては最高だったが、実際のカードゲームとしては致命的だった。

彼女の使っていた“ランダム型サブユニット”は、デジタルなら実装可能でも、現実の紙カードでは無理があった。

 

紙の束からランダム展開なんて、どう頑張っても再現性が取れない。

 

その結果――彼女は、あっけなく“切られた”。

 

ファンの間では、「デジタルカード化されてたら絶対続投してた」と今でも語り草だ。

デザインも凝っていて、カードアートの人気投票では上位に食い込んでたし、フィギュアも企画されかけた。

 

でも、現実は非情だ。

 

この世界が“紙”である限り、彼女は“構築不可能なカード”を使う少女。

 

「……それでも、いたんだな」

 

原作では一話きりのキャラ。

だが、この世界ではちゃんと生きていて、店の奥でカードいじりを続けている。

 

たった一話の登場でも、心に残ったあのキャラが、今もここにいる。

原作じゃ語られなかった“彼女の姿”が、あるのかもしれない。

 

あの特徴的すぎるゴーグルの機巧デッキ使いと目が合った。

榊原 機子が、俺のことを認識した

 

原作じゃ、1話しか出番がなかった女の子。

 

だけど、今こうして目の前にいる。

 

「……!」

 

俺が言葉を探していると、向こうからすたすたと歩いてきた。

 

手には、謎の装置。見たこともない金属パーツがついた、レーダーのような何かを持っている。

 

「もしかして、精霊もち?」

彼女は、目を輝かせながら問いかけてきた。

 

まさかの先制攻撃。

 

「……そうだけど?」

 

とりあえず、うなずいて返す。

 

「やっぱり~! 私の発明って完璧だね!」

レーダーを掲げて、どや顔。

 

ああ、そうだ。思い出した。

 

原作で彼女が使ってた“メカサーチャー”。

レアカードを探知するためのアイテムとして、ほんのワンカットだけ登場したっけ。

 

当時はただのギャグ設定かと思ってたけど――ちゃんと、活かされてるんだな。

 

「君からは……未知の干渉波が出てるよ!」

「いや、それって大丈夫なの?」

 

「うん、ちょっとした時空歪曲反応! 精霊もちに特有のノイズだね!」

 

説明のクセがすごい……

 

近くで見ると、彼女は思っていたより小柄だった。

白衣が少しブカブカで、袖からチラ見えする指先が器用そうに動いている。

 

見た目は完全に発明オタクだが――それでも、なんだか憎めない。

 

「君の精霊……ちょっとだけ、見せてくれない?」

 

そう言って、彼女はレーダーを掲げながら一歩前に出てきた。

 

どうやら、俺のことが気になって仕方ないらしい。

 

「私のバディー見せてあげる!!」

内心、ニヤけそうなのを必死に堪えながら、俺はルヴィーを呼び出した。

 

「もともと、こんな姿なの? かわいいね」

「ルヴィーちゃんのデザインって、ずっとこの感じ?」

 

機子がレーダー片手に、ルヴィーをじーっと見つめる。

 

俺の肩にちょこんと乗った小さなバディ。

ルヴィーは「きゅ~」と鳴いて、気持ちよさそうに目を細めている。

 

「うん。最初からこの姿だよ」

 

ルヴィーちゃんのカードデザインは現実の姿とほぼ同じであり、姿の変化はしない。

 

もっとも、レイのバディである《咆哮竜グランバーン》は本来、ビルを超えるサイズの超大型ドラゴンだ。

けれどアニメでは、視覚的な都合もあって手乗りサイズに縮小されていた。

精霊バディは他人には見えないし、物理的な干渉も起きないため、そうした“演出上の圧縮”も特に問題にはならない。

視界の邪魔にならない分、むしろ助かる仕様だ。

 

「ふふん、じゃあ次は私の番だね!」

 

機子が胸を張って指を鳴らすと、手のひらにふわりと現れたのは――

 

「――ゼファリオン、起動」

 

白銀の光をまとう、小型メカのバディだった。

 

全身が鋭角な装甲に覆われ、背中には可変式のウイングパーツ。

見た目こそ戦闘用の兵器だが、サイズは手のひらにちょこんと乗る程度で、どこか“プラモデル”的な雰囲気がある。

 

「私のバディ――かっこいいでしょ」

 

機子は、胸を張ってゼファリオンを持ち上げた。

白銀の外装が、照明を反射して美しく輝く。

 

「この白銀のボディ、鋭角のフォルム、そしてこの翼のバランス! 完璧でしょ?」

「……うん、たしかに。なんか、すげー“造形美”って感じ」

 

「でしょでしょ! しかもこれは“最小形態”。まだ小さいけど……」

 

彼女はゼファリオンをそっと自分の胸元に抱きかかえるように持ち直しながら、ちょっと照れたように微笑んだ。

 

「巨大化したら、もっとカッコいいんだよ。ウイングスプレッドして、全長十数メートル! たぶん、乗れるくらいにはなるはず!」

 

「乗る前提!?」

 

「うんっ、乗ってみたいもん! ゼファリオンの背中に乗って、空を飛ぶ……うーん、それ最高!」

 

ふわふわとした妄想に入りながら、彼女はゼファリオンを両手で包み込む。

その仕草は、まるで完成したガンプラを愛でているようで――心底楽しそうだった。

 

「私はね、ただ戦うためにバディを作ったんじゃないの。ゼファリオンは……私が“ずっと欲しかったヒーロー”なんだ」

 

その言葉には、演技でも冗談でもない、“本物の好き”がこもっていた。

 

「せっかくだし、広い場所に行こう!!」

「ゼファリオンの全身、ちゃんと見てみたい!!」

 

気がつけば、前のめりになって声を上げていた。

小さい状態でもこれだけカッコいいんだ。

完全展開した姿なんて見せられたら――それ、ファンなら黙っていられるわけがない。

 

すると、機子はちょっと驚いたように目を丸くしてから、ふふっと笑った。

 

「女の子なのに珍しいね、そういうの興味あるんだ?」

 

しまった、ついオタク魂が出てしまったか……と思ったが、彼女はからかうわけでもなく、むしろ好意的な笑みを浮かべていた。

 

「いいよ。駅からすぐのところに、大きな空き地があるから。そこで見せてあげる」

 

「マジで? 行こう行こう!」

 

まるで遠足前の子どものように、俺のテンションは上がりっぱなしだった。

 

好きなキャラと、好きなカードについて語り合って、これからそのバディの真の姿が見られる。

 

空き地の中心で、機子がそっと手をかざした。

 

「――《蒼穹覇装・ゼファリオン》、展開召喚」

 

その声と同時に、周囲の空気がピリリと震えた。

空間が波打ち、光の粒が集まり、空に縦長の光のラインが走る。

 

俺は思わず息をのむ。

 

次の瞬間――

まるで、空から機体が“降りてきた”かのように、それは出現した。

 

白銀の装甲。鋭角的なフォルム。翼を左右に大きく広げた、圧倒的な存在感。

頭部のバイザーには淡く蒼い光。コア部分には脈動するエネルギーの輝き。

 

でけぇ……!

 

言葉にならなかった。

見上げなければ全体像が収まらない。

あれはもう“メカ”というより、“神話の兵装”って感じだ。

 

地面がほんのわずかに震える。

だがゼファリオンは一歩も動かず、ただそこに在るだけで支配感があった。

 

「どう? これが私のバディ――完全召喚モードの《ゼファリオン》!」

 

機子が胸を張ってそう言う。

けど、正直、こっちは返事する余裕すらない。

 

すげぇ……

 

そう呟くのが精一杯だった。

それほどに、“本物のカードの世界”ってやつを、見せつけられた気がした。

 

「……何度見てもカッコいいなぁ、ほんと」

 

機子はゼファリオンを見上げながら、ぽつりと呟いた。

 

「飽きるってことがないんだよね。毎回、見惚れちゃう」

「でもさ、それだけじゃなくて……“乗ってみたい”って気持ちが、どうしても湧いてきちゃうんだ」

 

そこまで言って、彼女は少し照れたように笑った。

確かに精霊は実態がないため、乗ることはできない。

そして、触ることすらもできていない。

 

「だから、私、カードを強くしたいの」

「創れって言われることもあるけど――正直、個人でやるには資産も技術も足りないしね」

 

カードを強くなることで、精霊の実体化できるというネットのうわさがある。

その噂を彼女は信じているのだろう。

できるのだろうが、相当の努力が必要だと思われる。

 

「いじるのは好きだけど……私にとっては“創る”ことより、“乗る”ことが夢なんだ」

 

ゼファリオンを見つめる瞳は真剣そのものだった。

 

「たぶん、そこが他のカードゲーマーとちょっと違うところ、かな」

「カードの性能とか勝率とか、もちろん大事だけど……私にとっては“あの背中”に乗れることが、一番の目標なんだよね」

 

最後に、彼女はほんの少し声のトーンを和らげて、笑みを浮かべる。

「……ま、カードゲームそのものも、すっごく面白いんだけどね」

 

原作では描かれなかった、彼女の仕草。

語られなかった夢、見せなかった笑顔。

 

今、俺の目の前で、榊原機子は確かに“生きて”いた。

 

アニメの一話で退場しただけのゲストキャラ。

本来ならそれっきり、設定資料の片隅に埋もれていくはずの存在。

 

でも違う。

彼女はここにいる。声があって、想いがあって、そして――夢を語る熱がある。

 

ただの二次元なんかじゃない。

彼女は、俺の知ってる“カードの世界”の中で、確かに“生きている”。

 

……その事実が、たまらなく面白かった。

嬉しかった。

そして、少しだけ――誇らしかった。

 

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