カードゲーム世界にTS転生したら、初戦敗退したヴァンプデッキ使いでした 作:銀層
秋葉町バトルロワイアル編、開幕――。
原作で言えば、第5話あたりに相当する大イベントだ。
総合総社ビーズが開発したICチップ付きデュエル指輪、通称「デュエルリング」が導入され、日本の巨大企業――天上院グループの主導で開催される、前代未聞の町ごと貸し切りのカードバトル大会の予選が行われる。
秋葉町全体が舞台という時点で、現実離れしている。まさに“二次元”的な世界。
それでも、俺はその非現実の只中に、今、確かに立っている。
出場条件は、一定の実績を持つ者。町中のカードショップで開催された大会の優勝者、準優勝者を中心に、選ばれし精鋭が集まっていた。
会場に集った参加者はざっと200人近い。
熱気と緊張が入り混じるその中に、レイの姿もあった。
「……みんな、強そう……」
その声は小さく、震えているように聞こえるかもしれない。
だが、俺は知っている。この沈黙の奥に、確かな闘志が灯っていることを。
「がんばろうね! たぶん、みんなバディを持ってるし、強敵ばかりだよ」
「大会で良い成績を残してきた人もいるしね」
「……うん。お互い、ベストを尽くそう」
そして、開始を告げるアナウンスが響き渡る。
「ルールの説明をいたします。皆さまには“デュエルリング”を装着していただいています。そのICチップが、ポイントを記録いたします」
観客のざわめきが、少しだけ静まる。
「初期ポイントは500。対戦を通して、相手からポイントを奪い取り、1万ポイントを超えたら、この場所――センタースクエアまで戻ってきてください」
「今日の6時までに達成した人を予選突破となります。」
「バトルは秋葉町全域を舞台に行われます。刺客やランダムエンカウントのプレイヤーとの対戦によって、ポイントのやり取りが発生します」
バトルに敗北した者は、文字通り脱落。
勝利者だけが、生き残ってゆく。
ポイントを稼ぎ、頂点を目指すサバイバル。
いよいよ、バトルロワイアルの幕が上がった――。
~~
秋葉町を舞台にした壮大なカードバトル――その戦いの中で、俺は順調にポイントを重ねていた。
街を徘徊している黒服の男たち。
彼らは主催者側が用意した“刺客”と呼ばれる存在であり、公式の参加者とは別枠で配置された対戦相手だ。
戦ってみてわかったが、彼らの実力は中の上といったところ。
精霊を持たず、定石に則ったプレイングをするだけなので、対応も容易だった。
むしろ、精霊持ちの俺にとってはポイント回収要員と言っても過言ではない。
彼らを10人撃破したことで、得られたポイントは合計2000。
初期の500と合わせて、現在は2500ポイント。
順調な滑り出しだ。
――だが、俺にはアドバンテージがある。
前世でこの作品を知っていたという、唯一無二の“知識”という名のチートだ。
原作では語られなかった裏イベント、隠された刺客。
普通のプレイヤーがまず辿り着けない、マニアックな要素。
そして――今、俺はその場所の前に立っている。
町の外れにひっそりと佇む骨董品屋。
一見、ただの背景にしか見えないその店の、埃をかぶった壺の中に――
「……いたね。ツボおじ」
そう、知る人ぞ知る隠しキャラ。通称“ツボおじさん”。
見た目はどう見てもただの浮浪者だが、その実力は刺客の中でも異質。
隠しボス的なポジションに位置づけられていた。
俺が近づくと、壺の中からひょっこりと顔を出した。
「おやおや……私を見つけるなんて、君、なかなかやるじゃないか」
どこか飄々とした声色。
壺の中から這い出た彼は、布切れのようなローブをまとっていたが、瞳には油断のない光が宿っていた。
「では、勝負といこうじゃないか。ああ、そうそう……」
彼はにやりと笑って、指を一本立てた。
「私に勝てれば、3000ポイントをプレゼントしよう。負けても、ポイントは奪わないから安心していいよ」
「君が私を見つけたことは、ちゃんと評価してあげる。でも……勝たせてあげる気は、これっぽっちもないけどね」
その言葉に、俺は無言で頷く。
当然だ。この男の正体も、デッキの構成も、全て記憶している。
ただ、そこに“油断”はなかった。
前世と違い、今の俺はプレイヤーとして、その場に立っている。
~~
序盤の立ち上がりは、静かな立ち回り。
お互い、1ターン目まではコストチャージのみ――よくある立ち上がりだ。
だが、2ターン目。ツボおじの動きは一変する。
「俺のターン。コストは2、では――召喚!」
壺のような丸い甲羅に、のそりとした脚と顔がついた奇妙なモンスターが現れる。
「《壺亀》を召喚!」
《壺亀》2コスト 1/4
【召喚時】:相手は1枚ドローする。
本来ならドローさせるっていうことはありがたい。本当に初見だったらそう思ってしまう。
しかし、デッキアウトを狙ってくるタイプだ。
初見殺しのデッキアウトデッキだ
「そして――バディスキル、発動!」
ツボおじの背後に、金ピカの陶器のような存在が浮かび上がった。
バディ、《大壺精・トンツボン》。その力が、場の《壺亀》を強化する。
「壺系モンスターの体力+5。つまり――体力9だね」
「なっ……」
《壺亀》、体力9。
攻撃力1の壁モンスターとしては、常識外れの耐久力。
本来なら「相手にドローを許すデメリット効果」の代わりに、体力を多めにしたバランスカードのはず。
だが、このデッキにおいてはデメリットなど存在しない。
むしろ、“相手の山札を削る”という目的においては、完全な利点。
しかも、たった2コスト。序盤からこのブロッカーは洒落にならない。
これが……“壺籠り”。
手札を引かせ、体力で押し切る。
シンプルながら、見た目以上に厄介な戦法。
そして何より――初見殺しだ。
普通なら、壺亀を突破できないまま、山札を削られ続けて負ける。
だが、対策はしてある。
「――私のターン!」
ルナの指が、場に一枚のフィールド魔法を叩きつけた。
「《絶命の翼》、発動!」
絶命の翼:フィールド魔法(2コスト)
【維持コスト】:毎ターン、ライフを1支払う。支払わない場合、このカードは破壊される。
【常時効果】:バッド系モンスターに“即死”を付与する。
空に、不穏な翼が広がった。黒く染まった羽根が、フィールド全体に鋭い風を起こす。
「“即死”……だと!?」
ツボおじの目が、一瞬だけ細くなった。
「まさかこのカードを……仕込んでいたとはね」
バッド系のモンスター。
攻撃力こそ低いが、数と異常状態で翻弄するルナの主力だ。
そこに、“即死”のスキルが加われば――体力9だろうと関係ない。
「《壺籠り》の戦法は、硬い壁で削り切ることが前提……」
「でも、“即死”はその壁ごと貫通するわ」
「でも即死があっても、バッドの攻撃力じゃ20点は届かないよ?」
ツボおじの指摘は正しい。だが、それは単体で殴るならばの話だ。
「たくさんのバッドモンスターを叩きつけてあげるわ」
「ヴァンプのお得意の、バッドの大量展開――見せてあげる」
ルナは静かに笑う。
「ほんとうにやるね……君、面白いよ」
「君が負けても、1000ポイントは上げるよ。見せてくれた礼としてね」
ツボおじの口調は、どこか満足げだった。
バッドの群れが、闇夜の帳を引き裂くようにフィールドを駆け抜ける、
突進を得たその牙は、小さくも確かな一撃。
だが、それが十、二十と重なれば、鋼鉄の壁さえ崩れ落ちる。
即死効果を帯びた《絶命の翼》の下では、体力に優れた壺モンスターも意味を成さない。いかなる守りも、一度の接触で墓地へと沈む。
それでもなお、壺使いはしぶとく抗った。次々と防御カードを展開し、耐え続ける。
攻防が何度も繰り返される中、バッドの攻撃がじわじわとツボおじのライフを削っていく。ツボおじのライフは9。
ひとつ、またひとつと受け流されていた牙が、ようやく届きはじめた。それは、ボディーブローのように効いていた。
そして、試合は静かに終盤へと傾いていた。
山札の残りは5枚。
ツボおじのターン。
長き攻防の末に、ようやくその男は静かに微笑んだ。
「君の山札も、残り5枚。そろそろ、勝ちが近づいたみたいだね」
言葉とともに差し出されたカードは、圧倒的な存在感を放つ。
そのフォルムはまさしく、要塞のような巨体。
《巨大壺亀》8コスト/1/33
相手に1枚ドローさせる。
疲労状態でもブロック可能。
破壊耐性および即死耐性あり。
ルナの手札が1枚補充される。だが、それは恩恵ではない。
デッキ残り4枚。命のカウントダウンがまた一つ進む。
即死効果を無効にされ、バッドの牙は通らない。
小さな攻撃は、大盾にすべてを弾かれる。
たった1体の存在が、盤面の空気を一変させた。
そして、バディースキルで体力は38の化け物になっている。
ルナのターン。
残された山札はわずか3枚。
ドローした瞬間、デッキアウトまでのリミットがあと2ターンに迫った。しかしながら、ツボおじは余裕の表情を浮かべているため、このターンがラストターンだろう。
〇自分の状況
バッド:1/1 10体。
フィールド魔法
《夜の狩場》:バッドに召喚ターンから即攻撃可能。
《絶命の翼》:バッドに「即死」効果が付与。
〇相手の状況
ライフ:9
《巨大壺亀》 1/38 「即死無効」「疲労状態でもブロック可能」「破壊耐性」
この状況を何度も整理して、どれだけ計算しても勝利の道は見えなかった。
手札の全てを使っても、打点は33点──だが、それは巨大壺亀の体力すら届かない。そして、相手のライフ9点には届かない。
ブロックされる限り、どこまでいっても“届かない”。
例えるなら、鉄壁の要塞に向かって豆鉄砲を撃っているようなものだった。
俺は、そこで一度諦めた。
次のターン、何かあるかもしれないと一瞬でも思ってしまった。
でも――その“無謀な逃げ道”を思い浮かべた瞬間、発想が跳ねた。
「壊せないなら、飛び越えればいい」
そう思ったとき、手札の一枚が光を放った。
《影翼の襲来》。4コスト
このターン、すべてのバッド系モンスターの攻撃はブロックされない
「これだ……!」
フィールドに並ぶ、10体の小さなバッドたち。
たった1ずつの攻撃力が、今だけはすべて“確実に通る刃”に変わった。
ツボおじのフィールドに構える《巨大壺亀》――その巨躯を、バッドたちはすり抜けていく。
「今まで破壊して突破してきたのに……ここに来て、壁をすり抜けるのか」
ツボおじの声には、悔しさと称賛が混ざっていた。
ダイレクトアタック――10点分。
彼のライフは9。すべてが通った瞬間、勝負は決した。