カードゲーム世界にTS転生したら、初戦敗退したヴァンプデッキ使いでした 作:銀層
現在の所持ポイントは5500ポイント。
バトルロワイアルの参加者たちの中でも、すでに上位層に片足を突っ込んでいる位置だった。
そして、このあたりからゲームが大きく変わってくる。
5000ポイントを超えたあたりから、明確にポイント移動が加速し、プレイヤー間の実力差と戦績差が如実に浮かび上がるようになったのだ。
奪い奪われる、殺気立ったゲームの本質が表に出る時間帯が、今だった。
そんな中――現れたのが、疾風 迅(しっぷう・じん)。
ランニングフォームのまま全速力で駆け抜け、あちこちのプレイヤーを探し出しては即座にバトルを仕掛けている男。
「速攻!!速攻!!速攻!!速攻!!速攻!!速攻!!速攻!!速攻!!速攻!!速攻!!」
その姿はまるで、戦場を疾駆する弾丸のように走っている男。
遠くから聞こえる声が近づくにつれ、まるで台風のような気配が押し寄せてくる。
「上位プレイヤー発見!!」
目が合った瞬間にはもう、逃げ場はなかった。
疾風 迅――彼は、「最速で予選突破」という称号に並々ならぬ執着を見せる異質なプレイヤー。
「5000ポイントをかけた勝負」――その言葉が口から飛び出したときには、もう断る余地はなかった。
相手は、疾風 迅。
あまりの勢いと空気の支配力に、完全に押されてしまった。
まるで“戦場”に突然引きずり込まれたかのような感覚。
それでも反射的に頷いていた。いや、頷かされていたといっても過言ではない。
5000ポイント。負ければ、残るのはたった500ポイント。
ここまで積み上げたものが、一瞬で水の泡になる。
これはもう、カードバトルというより、ポイントを賭けた運命のルーレット。
わかってはいた――このゲームが、そういう世界だってことは。
でも実際に、こうやって自分の命運を大きく左右するバトルを前にすると、胃の奥から嫌な汗が滲み出てくる。
マジでヤバい。
目の前の疾風 迅は、そんなこちらの迷いや動揺など一切意に介していない様子だった。
ただ、「速く」「強く」「勝ちたい」――それだけが全身から滲み出ている。
ここまでの努力も、経験も、すべてこの一戦に賭けなければならない。
勝つか、沈むか。
このバトルは、まさにターニングポイントだ。
~~
疾風 迅のターンが始まった瞬間、空気が変わった。
まるで、静かな湖面に雷が落ちたような、そんな爆発的な気配。
彼の動きに一切の無駄はない。すべてが最短、最速を意識している。
「――コストチャージ完了。俺のターン、プロトソニックコマンドを召喚!」
疾風の手札から飛び出したカードは、鋭利なシルエットを持つ白銀のユニット。
その名も《プロトソニックコマンド》。
1コスト/1/1 速攻持ち。
普通なら、序盤の牽制に使う小型ユニットにすぎない。
だが――。
「バディースキル、発動! 速攻持ちは攻撃力+1!」
ルールを知る者なら、思わず息を呑んだだろう。
速攻によって即座に攻撃可能なユニットが、まさかの攻撃力2で襲いかかってきたのだ。
そして――それは躊躇なくこちらに飛びかかってくる。
1ターン目に、2点ダメージ。
たった1枚。されど、たった1ターンで体力を2も削られた。
ルナのターン。
慎重な思考の末、ルナは静かに1枚だけカードを裏向きに置いた。
「コストチャージ……ターンエンド」
彼女の判断は、下手な展開で相手のペースに乗るより、あえて流れを見極めるためのものだった。
だが――その選択を待っていたかのように、再びあの“疾風”が駆け抜ける。
疾風 迅のターン、2ターン目。
「コストチャージ……そして、俺の加速は止まらないッ!」
場に飛び出したのは――《速攻の配達員 ジョー》。
2コスト/1・1/速攻。しかも、召喚時に1枚ドローの効果持ち。
ただ速いだけでは終わらない。
アグロ最大の弱点――リソース切れを、自前でカバーしてくる構築だ。
「バディースキル発動――速攻持ちは攻撃力+1!」
ジョーの攻撃力は、即座に2へと強化される。
1ターン目のプロトソニックコマンドに続き、再びライフを直接切り裂くような猛攻が突き刺さった。
このターン、合計4点のライフが削られた。
あまりにも早い。
ラッシュのような攻撃に、ただ対処を迫られるだけの状況。
ルナのライフ:14
ルナのターン、2ターン目。
静かにカードを手に取り、コストチャージを済ませる。だが、その指先には確かな決意が宿っていた。
「2コスト、《特攻突撃するバッド》を召喚」
場に現れたのは、薄闇の中を疾走する小さな影――
3/1、突進持ち。召喚されたターンの終了時に自壊する“使い捨ての一撃”。
その鋭く尖った爪が、先ほどの猛攻の先陣――《プロトソニックコマンド》を正面から斬り裂いた。
鮮やかに、戦場から消える疾風の先兵。
しかし、ルナの手は止まらない。
「バディースキル発動――」
“バッド系モンスターが攻撃した時、その攻撃力分ライフを回復”
バッドの攻撃力3、そのまま回復量に変換される。
ルナのライフ:14→17
攻めながら癒す、一瞬の刹那に賭けた反撃。
だが、状況はまだ芳しくない。
《速攻の配達員 ジョー》は健在。
突進と回復で一手を凌いだものの、
すでにライフは初動から3点を削られたあと。まだ2ターン目だという。
疾風 迅、3ターン目。
その動きに、一切の迷いはない。
まるで風そのものが意志を持ったかのように、次の手が放たれる。
「コストチャージ。そして――再び《速攻の配達員 ジョー》!」
「さらに――《プロトソニックコマンド》をもう1体!」
再び、速攻持ちのモンスターたちがフィールドに並ぶ。
疾風 迅のバディースキル――速攻持ちのモンスターの攻撃力+1。
すべてのモンスターの攻撃力は2へと強化される。
3体の速攻ユニットが、容赦なくルナのライフを突き崩していく。
ルナのライフ:17→ 11点
まさに嵐のような攻撃。
このスピード、この猛攻――まさに「疾風」の名を冠するにふさわしい。
ルナ、3ターン目。
呼吸を整えながら、静かにカードを手札から選び取る。
「コストチャージ……そして、召喚」
彼女が場に出したのは――再び、《特攻突撃するバッド》。
戦場に降り立つと、躊躇なく駆け出す。
その爪は、速攻モンスター《プロトソニックコマンド》を捕らえた。
攻撃力3の突進、即座に1体を撃破。
そしてその瞬間、ルナのライフもまた、回復していく。
11 → 14点
《速攻の配達員 ジョー》が2体残っており、危機的な状況だ。
しかもライフは14点だとかなりぎりぎりの状況。
疾風 迅、4ターン目。
彼は、すでに勝負の形を決めていた。
迷いはない。コストチャージすら行わない――そのデッキ構築に理由があるからだ。
「特攻隊長 ショー、召喚!」
3コスト、3/1、速攻持ち。
そして、速攻を強化するバディースキルにより――
攻撃力は+1、最終的に4へと到達する。
さらに、すでにフィールドに控えていた《速攻の配達員 ジョー》たちも加わり、
疾風のごとき猛攻がルナを襲う。
攻撃力2 × 2、攻撃力4 × 1=合計8点のダメージ。
ルナのライフ:11 → 3点。
あと1撃――まさに背水の陣。
ルナ、4ターン目。
静かに、しかし確かに、手札を握る手に力がこもる。
「コストチャージ……発動、《突進バッド召喚術》!」
フィールドを舞う闇のエネルギー。
そこから現れたのは――突進を持ったバッド系モンスターたち、3体(2/1)。
迷いなく動いた。バッドたちはそれぞれ敵のモンスターへ突進。
疾風迅のフィールドを守っていた全ユニットを、鮮やかに“全滅”させた。
さらに、バッドたちの攻撃によって、ルナのバディースキルが発動。
2×3=6点の回復効果が発生。
ルナのライフ:3 → 9点。
ギリギリの攻防。
まさに紙一重の攻撃と防御。
疾風 迅の速度に、ルナは喰らいつき始めた。
疾風 迅、5ターン目。
ライフが9点まで回復されてしまっている。しかも手札は少し重く3コストのカードしかない。
1コストのカードがあれば、コストチャージをするのだが。
1+3のくっつきはみえない。
「俺の速攻にここまでついてこれるってどんだけだよ」
「ただ、諦めねぇ~特攻隊長 ショー、召喚!」
3コスト、3/1、速攻持ち。
4点のダメージが入ってしまう。
ルナのライフ:9→5
ルナのターン 5ターン目
コストチャージをして5コスト
2コストで《夜の狩場》を発動する。バッドに召喚ターンから突撃を得る。
2コストで蝙蝠2重召喚術を発動している。バッド1/1 2体召喚
1体はモンスターを破壊し、もう一体はブロッカーとして立っている。
ルナのライフも5→6になった。
疾風 迅、6ターン目。
ついに彼の猛攻も、限界が近づいていた。
1コストの速攻ユニットを引けず、唯一場に出せたのは《突撃破壊兵》。
モンスターへの1点ダメージでバッド1体を処理し、残された力でライフを1点削る。
ルナのライフ:6 → 4。
だが、もはや彼の表情にあった余裕は消えていた。
アグロで押し切るべき中盤、
その勢いを正確に見抜き、制圧した“闇の布陣”がそこにあった。
ルナ、6ターン目。
《蝙蝠の貴婦人 ジェンティルアンナ》。
5コスト、3/3。登場時に1/1バッドを2体呼び出す。
その瞬間、フィールドは一変する。
1体のバッドは、疾風 迅の最後のモンスターを突進で粉砕。
そして、バッドによる攻撃がバディースキルを誘発。ライフを回復させる。
ルナのライフ:4 → 5。
その場には、突進を得たバッドと、堅実なブロッカー ジェンティルアンナが並ぶ。
疾風 迅の次のターン――
攻撃がすべてブロックされ、リソースは尽き、打つ手がなくなる。
その後の展開は、まるで時が止まったようだった。
ルナの場に毎ターン増えるバッドたち。
その小さな牙が、徐々に、確実に、疾風 迅のライフを削り取っていく。
その攻撃は決して派手ではない。
けれど、まるで闇に沈むような確実さで、ジリジリと勝利を引き寄せた。
~~
「ふぅ~……勝った~」
試合が終わるやいなや、ルナは椅子にもたれかかり、ぐったりとため息をついた。
直前に戦ったのは、デッキを削ってくるツボおじの超絶コントロール型――粘りに粘られた泥沼の試合展開。
そして次は、息をする間もなく押し寄せる圧倒的な速攻型アグロ――疾風 迅。
この極端すぎるデッキタイプの連戦に、ルナの脳は完全にオーバーヒート寸前だった。
「まじで、脳が……この早さについてこれたわ……」
思わず口に出してしまう。もはや自分の思考がちゃんと回っていたのかも怪しい。
でも、それでも――勝った。
それだけで、自分を褒めたっていい。
「ほんと、それだけで偉いわ。うん……」
こうして、ルナは――秋葉町バトルロワイアルの予選を突破した。
次に待つのは、激戦区の本戦トーナメント。
だがそのときの彼女はまだ知らない。
この先、自分が“ただの参加者”から“注目の存在”へと変わっていくことを。