知に飢えた悪魔   作:赤道さとり

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~前書き~

念のため先に触れておくと、ハンジがクロッツ村へやってきたときの年齢は7歳です。
※年齢がわかる会話のやり取りは、2話先の#04の本編中にあります。

↓それでは、本編へどうぞ↓




#02 変人の巣窟

 

 

ゾエ爺に『ハンジ』と名付けられた私は、晴れて【クロッツ村】に仲間入りした。

 

自分の両親はどこへ行った__だとか、

早くお家に帰りたい__だとか、

 

そんな疑問や不安は1ミリも抱かなかったのを覚えている。

 

ー“ この村は自分を受け入れてくれる ”ー

 

心からそう思ったんだ。

 

 

 

=====

 

 

 

 

 

 

___ゾエ爺の家へ向かう途中。

 

 

「今日はもう遅い……研究室は明日見せてやろう」

 

「わかったよ!……えっと、だけど…」

 

「わしの家には一つ空き部屋がある。今晩はそこに寝泊まりするといい」

 

「わぁ!いいの!?」

 

「…構わん」

 

「ぃやったぁーーー!!」

 

 

飛び跳ねるようにしてガッツポーズをするハンジ__それからすぐにまた不思議そうな表情に戻ると、首を傾げながら尋ねた。

 

 

「ねぇ、ゾエ爺? この村はどうして『変人の巣窟』って呼ばれてるの?」

 

「気になるか?」

 

「うん!すごく!」

 

「…そいつは()()()()()()

 

「…?」

 

 

曖昧な返事を聞いたハンジは、頭に疑問符を浮かべながら首を反対側に捻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___翌朝。

 

 

ザワザワ……ザワザワ……

 

 

ゾエ爺の家の前には、大勢の人だかりができていた。

 

 

「おい、こっちを見てるぞ…」

 

「この子が本当に……ゾエ爺の()()()なの!?」

 

「まさか!どうせまたオーウェンの戯言(ガセ)に決まってる。この子はまだ小さい」

 

「可愛らしい子やねぇ……ほんに、可愛らしい…」

 

「で、でででも、ここ…この村を……き、気に入って…くく、くれる…かな?」

 

「オーーイ、誰かこいつの吃音を翻訳してくれー」

 

「ちょっと、ドレイク!静かにしなさいよ。この子が怯えちゃうじゃない!」

 

「いや…お前の声も十分五月蝿(うるさ)いぞ、ゼルダ…」

 

 

人だかりの中心には、不思議そうに顔をキョロキョロと動かすハンジがいた。

その表情は少し困惑しているようにも見える。

 

と言うのも無理はない__自分を覗き込んでくる人間たちは皆、容姿が特徴的だったり、挙動や言動が“変”だったからだ。

 

 

「ねぇ、君!名前は何て言うの?」

 

 

そう問いかけたのは、屈託のない笑顔が張り付いたお下げの子どもだった。

一風変わった大人たちに紛れて見物にでも来たのだろう。

 

ハンジは嬉しそうに答える。

 

 

「私はハンジ!ゾエ爺がつけてくれた名前だよ」

 

「へぇ~、変な名前だね!」

 

「でしょ~? だけど、私にはお似合いなんだってさ」

 

「へぇ~、変な名前だね!」

 

「でも、『ハンジ』って発音の響きは結構気に入ってるんだ!」

 

「へぇ~、変な名前だね!」

 

 

会話が嚙み合っているのかはわからなかったが、それでもハンジはニコニコと嬉しそうにしていた。

 

 

「何の騒ぎじゃ?」

 

「あ、ゾエ爺!おはよう!今ね、村の人たちとご挨拶を…」

 

「主ら……さては()()()()()()()()じゃな?」

 

「ぞ…ゾエ爺が出てきたぞ!解散だ!!」

 

 

ゾエ爺が睨みを利かせたことで、村人たちはそそくさと自分らの家に戻っていく。

 

 

「…まったく、村へ新参者が来る度にこれじゃ。見世物じゃないと言うとろうに」

 

「ちょっぴり変だけど、面白い人たちだったよ」

 

「彼らの大半が何かしらの事情を抱えてここにおる。中には“変人”のレッテルを貼られ、生まれ育った故郷を追い出された者もおるのじゃよ」

 

「…そっか。みんな()()なんだね」

 

「そうじゃ。皆、この村に“誇り”を持っとることも同じくな」

 

「誇り、か……私、この村気に入った!」

 

 

そう言ってハンジが無邪気な笑顔を見せると、ゾエ爺は一瞬だけその細い目を見開き、また細める。

 

 

「ふっ、気が早いの……ついて来なさい。わしの研究を見せてやろう」

 

 

 

**

 

 

 

ゾエ爺の研究室は家屋のすぐ裏にあった。

机や棚には様々な“実験器具”がずらりと並べられ、壁のコルク板には何やら『図面』や『計算式』のような“紙切れ”が所狭しと張り付けられている。

 

飲みかけのグラスがそのまま置かれていたり、部屋中が少し埃っぽかったりと大雑把な面はありつつも、ハンジの“好奇心”を掻き立てるには十分な空間であった。

 

 

わぁぁぁ…!すごいや……これ、全部ゾエ爺が揃えたの!?」

 

「うむ。ここにあるのは、()()()()()()()()()()がの」

 

「ねね、これは何!?」

 

「それは『顕微鏡』という器具じゃ。物の材質などを調べるのに使っておる」

 

「じゃあ、ここに並んでる細長いのは!?」

 

「それは『試験管』じゃ。今は薬の調合を検証しておる」

 

「薬!? ゾエ爺は、お医者さんなの?」

 

「わしはあくまで“研究者”じゃ……が、この村では医者のような役割を兼ねておるのも確かじゃな」

 

「へぇ…」

 

 

するとその時、研究室の扉が勢いよく開けられた。

 

 

バーーーン!

 

「ゾエ爺!いる!?」

 

「なんじゃ、ゼルダ。扉は静かに開けよとあれほど…」

 

「そんなことより、聞いてちょうだい!うちのワンダが変な咳をし出したの!」

 

「…して、容体は?」

 

「喉も痒そうにしてるし、首のあたりに蕁麻疹のようなブツブツも出てるわ!息も苦しいとかって言い始めて……私、もうどうしたらいいかっ…」

 

「…ふむ。その症状から察するに、例の『流行り病』じゃの」

 

「そうそれよ!そうじゃないかと思って!ゾエ爺、何とかなるかしら…!?」

 

「ちょうど、特効薬の改良を進めておった所じゃわい。しばし、待て…」

 

「た…助かるわ!」

 

 

慣れた手つきで特効薬の飲み薬を用意していくゾエ爺__少し説明を添えながら薬を手渡すと、ゼルダは大きく手を振りながらその場を去って行く。

 

 

「いつもありがとう、ゾエ爺!」

 

 

ハンジはその後ろ姿を横目に眺めながら、小声で尋ねる。

 

 

「ねぇ、ゾエ爺? 今の人って()()()()()…」

 

「ほぉ、“観察眼”は合格じゃな。ゼルダはあんなナリをしておるが……男じゃ」

 

「やっぱり!面白いなぁ~、この村には本当に色んな人がいるんだね!」

 

「そうじゃな、おかげで毎日飽きんわい」

 

「まさしく『変人の巣窟』だね!色んな才能を秘めた人たちがたくさんいるし、ゾエ爺は何でも発明しちゃう“天才”だ!」

 

「天才、か……それは違うぞ、ハンジ。わしは生まれてこの方、“凡才”でしかない」

 

「…どうして? これほど研究に没頭して、村人たちをその技術で助けているのに…」

 

「わしはな、()()()()()()()()()じゃ。“あの人”に追いつけるようにと……その結果得た知識を皆に分け与えておる。ただ、それだけのことじゃ…」

 

「あの…人…?」

 

「その目で見て確かめるとよい。わしが如何に、()()()()()()を…」

 

 

そう話しながら、ゾエ爺は研究室の奥にある小さな扉を開いてみせた。

 

その先の光景に、ハンジは息を呑む__

 

 

「っ…す、すごい!凄すぎる!!なんって数の“本”なんだ!?」

 

 

そう、その部屋には山ほどの本が壁や棚にぎっしりと並べられていたのだ。

ぱぁぁっと顔を明るくさせたハンジは、興奮気味に走り回る。

 

 

「わぁ…この辺は馬や羊の生態について!…と、思ったら。こっちは地学だ!…これは【壁と人類の歴史】*1?…歴史書もあるぞ!?」

 

「これ、そんなに走るでない。ホコリが舞うじゃろうが」

 

「だって、だって!こんなにも本がたくさん……どうやって手に入れたの!?」

 

「ここにあるのは、ほとんどがわしの兄が書いたものじゃ」

 

「へぇ~!ゾエ爺のお兄さんってすごい人だったんだね!?」

 

「兄は優れた学者じゃった。わしもその背中を負い、研究者となったが……わしと兄の間には決定的な違いがあった」

 

「違い…?」

 

 

ハンジはすぐに聞き返してみたが、返事はない。

振り返ると、重々しい表情で壁を見つめるゾエ爺の姿が__

 

その視線の先に目を向けると、壁には一枚の肖像画が飾られていた。

よく見ると、その肖像画の人物はゾエ爺に()()()()人相をしていて、何故か舌を出している。

 

それを切なそうに眺めるゾエ爺は、目を細めながらまた話を続ける。

 

 

「わしは“未来”にばかり目を向けておった。どうすれば文明がさらに発達するかと、発明や開発ばかり……じゃがその間、兄は“過去”に目を向けておった。これが『天才』と『凡才』の違いじゃ……未来とは、歴史の積み重ねの先にある。つまりは、過去(歴史)を紐解くことが未来を切り開くことにも繋がるのじゃ

 

「過去から、未来を…」

 

「そうじゃ、わしはそれに気づくのが遅すぎた……兄こそ、紛れもない『天才』じゃ」

 

「なるほど。だけど……遅いことなんて一つもないよ!

 

「!?」

 

「今、その歴史が“ここ”にある!ゾエ爺もお兄さんに追いつこうと努力し続けてるんでしょ? それだって一つの“才能”じゃないか!」

 

「……」

 

「っくぅ~~!それにしても、会ってみたいなぁ~…ゾエ爺のお兄さん!」

 

 

ハンジはそう言うと、手に取った本をパラパラとめくりながら独り言をつぶやき始めた。

その背中をぼうっと眺めるゾエ爺の瞳には、かつての兄の背中が映っている。

 

 

「…ハンジよ。本を読むのは好きか?」

 

「うん!」

 

「そうか。ならこの部屋の本を好きに読むといい。この書斎の本はすべて、お前にくれてやろう…」

 

「本当!? ぃよっしゃーーーー!!」

 

「その代わり、わしの研究を手伝え」

 

「もちろんだよ!それで、ゾエ爺が最近研究しているものって何なの?」

 

「そうじゃな……ここのところは、『鳥』を研究しておる」

 

「!?」

 

 

突然、ハンジのページをめくる手が止まった__見ると、何故か顔が青ざめている。

 

 

「どうかしたのか…?」

 

「ごめん、ゾエ爺……()()()()()()

 

「…何故じゃ?」

 

「どうしても、できないんだ……そ、それ以外の研究なら手伝うからっ…!」

 

「ならん。理由を聞くまではな」

 

「っ…」

 

「話してみよ。主の“過去”を…」

 

 

ゾエ爺の柔らかい声色に、ハンジは顔をくしゃっとさせる。

 

それから本を閉じると、窓の外を眺めながらゆっくりと口を開いたのだった__

 

 

 

*1
著者の別作品【進撃の巨人~Another Choice~】の『#05 理解者』にて登場した歴史書






〜後書き〜

『天才とは、努力する“凡才”のことである』

これは歴史的偉人が残した名言です。

ゾエ爺はその偉人をモデルにしています。
※偉人の正体の答え合わせは、#04(4話目)にて!


また、今回のタイトルでもある『変人の巣窟』というワードは、原作第5巻にてハンジがエレンに巨人の実験について語るシーンで出てきます。
ハンジの話を聞いたエレンが脳裏でその感想を述べるところですね。

それを「そのままハンジの故郷にしてまえ!」というノリです(´-ω-`)


■次回予告:『#03 籠の中の空』
⇒投稿予定日:7/26(土) ※次回からは週一投稿になります(たぶん)

■おまけ
◎ゼルダの子どもワンダについて
ワンダは、本作【進撃の巨人~もう一人の選択~】にて登場する主人公カイルの同期です。

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