知に飢えた悪魔   作:赤道さとり

4 / 11
#04 人は空を飛べるのか

 

 

___1年後。

 

 

「ねぇ、ドレイク!また肩の筋肉が大きくなってない!?」

 

「おっ、気づいちまったか? ハンジ。お前は目の付け所がいい!」

 

「ドレイクの体つきはひっじょ~~に興味があるよ!また、あのポーズを見せてくれ!」

 

「いいともよっ!…フンッ!」

 

「っかぁ~~!凄い!痺れ上がるよ!!」

 

「だろぉ? 俺の筋肉は村一番だ!」

 

「くぅ~~!!」

 

 

村の中心にある広場では、ハンジに(おだ)てられ得意げになったドレイクが、これ見よがしにポーズを取って見せていた。

 

お遣いついでに村人たちとの交流を一通り済ませたハンジは、足を弾ませながらゾエ爺の家へと向かう。

その途中、変てこな頭巾を深く被った男とすれ違った。

 

 

「あ、オーウェン!」

 

「やぁ、ハンジ。今日もお遣いかい?」

 

「そうだよ!だけど最近、隣の村の芋が高くて…」

 

「それなら、マイルズのところに行くといいさ!昨日、余るほど収穫できたと言っていたよ」

 

「いやぁ、助かるな~…さっすが、村の情報屋!」

 

「はっはっはっ!またいつでも頼ってくれよ~」

 

 

オーウェンと別れ、ゾエ爺の家に着いたハンジは、鼻唄を歌いながら買ってきた食材を納屋にしまう。

きっと、お得な情報を手に入れたことでご機嫌だったのだろう。

 

それから書庫に駆け込んで一冊の本を手に取ると、再び家を飛び出して行ったのだった。

 

 

 

**

 

 

 

村の近くには少し小高い丘がある。

ハンジは昼過ぎになると、そこで本を読み(ふけ)るのが日課なのだ。

 

だが、この日は他にもその丘を訪れる者が__

 

 

「お、いたいた。ハンジはこの時間になると、決まってここで本を読むんだな」

 

「アレク!」

 

「…隣、いいかい?」

 

「もちろん!」

 

 

ハンジの隣に腰掛けたのは、少し背の高い爽やかな少年だった。

 

 

「君がこの村にやって来てから1年、か……ハンジはいくつになるんだい?」

 

「えっと……確か、今年で8つだ!」

 

「そうか、なら僕がこの村にやってきたのと同じくらいだな」

 

「!?…アレクもゾエ爺に拾われたの?」

 

「まぁ、そんなところ」

 

「じゃあ、名前もゾエ爺が? えっと、確か…ア…アレクサン…なんとか…」

 

「アレクサンダー・マクラーレン。長くて誰にも覚えてもらえてないけど、これは僕の本名なんだ」

 

「そうなんだ!アレクはどうしてこの村に来たの?」

 

「僕は数年前、火事で両親を亡くしたんだ。それから親戚の家を転々としたけど、僕の家系はどこも貧しくてね……厄介払いみたいなもんさ」

 

「そ、そっか…」

 

「でも、この村に来てよかったと心から思ってる。……だぶん、君も同じだろ?」

 

「それはもう!最ッ高~の村だよ、ここは!みんな面白いし、ゾエ爺はたくさん本を読ませてくれる!」

 

 

ハンジは無邪気な笑顔をこぼしながら、太陽に向かって本を両手で持ち上げて見せた。

まるで、本を崇め奉るように__

 

 

「ははは、本当に好きなんだな」

 

「うん!」

 

「それにしても、どうして外で読んでいるんだい?」

 

「そ…それが……最近、文字が()()()()()んだ。部屋のランプの明かりではどうしてもぼやけて見えて…」

 

「ハンジ……もしかして、目が悪いんじゃないか?」

 

「え…どういうこと?」

 

「ほら、これかけてみて」

 

 

そう言ってアレクがかけていた眼鏡を差し出すと、ハンジはそれを不思議そうに受け取った。

疑るように目を細めながらも、見よう見まねでかけてみると__

 

 

「わぁ!」

 

 

急に霧が晴れたように開けた視界に驚いたのか、ハンジは少しだけ後ろに退け反る。

 

 

「なっ、何だ!? 急に視界がっ…」

 

「これは『眼鏡』っていうんだ。僕も目が悪いんだけど、そういう人の視界を助ける“器具”だよ」

 

「す、すごい!中にある透明なのは?」

 

「それはレンズ。そいつの厚みや湾曲の度合で、視力に合わせた調整が可能なんだ」

 

「へぇ~…詳しいんだね!」

 

「僕の親は町で金物(かなもの)を扱う技師だったんだ。小さい頃から叩き込まれて……だから、細かい工作が僕の十八番(おはこ)さ」

 

「えっ、これアレクが作ったの!?」

 

「そうだよ。良ければハンジの分も作ろうか?」

 

「うん、欲しい!眼鏡、欲しい!」

 

「ははは、わかったよ」

 

「ぃよっしゃ~!これでもっとたくさん本が読めるぞ~!」

 

 

ハンジは万歳をするように飛び上がると、本を大事そうにぎゅうっと抱きしめてみせた。

その様子をアレクはカラカラと笑いながら眺めている。

 

 

「…それで、今は何の本を読んでるんだ?」

 

「あ、これは…『壁と人類の歴史』ってやつ!ゾエ爺の書庫にあったんだ」

 

「それなら僕も昔読んだよ。アインズさんの本はどれも興味深くてね」

 

「アインズ…さん…?」

 

「その本の著者だよ。ほら、ここに名前が……アインズさんは、ゾエ爺の双子の兄なんだ」

 

「え、ゾエ爺って双子だったの!?」

 

「そうだよ。……でもそうか、ゾエ爺はやっぱり君にもアインズさんのことを話していないんだな…」

 

「…やっぱり?」

 

「あぁ、僕も詳しく知らないんだけど……ゾエ爺はアインズさんの“死”に責任を感じているらしいんだ」

 

「!?」

 

 

突然の暗い話に、動揺するハンジ。

 

 

「アインズさんは、その……どうして亡くなったの?」

 

「村の人からは不慮の事故だったと聞いてるよ。ほら、この先にウォール・ローゼの壁があるだろ? アインズさんはその壁の上から転落したんだ」

 

「転…落…!?」

 

 

惨い死因を聞いたハンジは、口元を押さえながら俯いた。

その様子に気づいたアレクは、申し訳なさそうにハンジの顔を覗き込む。

 

 

「ハンジ、大丈夫か!? すまない、配慮が足りなかった…」

 

「いや、むしろ聞かせて欲しい!ゾエ爺のこと、もっと知りたいんだ…!」

 

「…わかった。それなら……ゾエ爺が唯一、研究対象から外しているものを知っているかい?」

 

「…ううん」

 

「それは、“壁”だ。ゾエ爺は断固として、壁の研究には首を縦に振らない」

 

「それって、もしかして…」

 

「あぁ、アインズさんの主な研究対象が“壁”だったからだ。ゾエ爺はきっと、その事件に関連する“何か”をトラウマとして抱えているんだろう…」

 

()()()()、か…」

 

 

そうつぶやきながらハンジが目線を逸らした時…

 

 

「ピィーー!ピィーー!」

 

 

森の方から飛んできた小鳥がハンジの頭の上に降り立った。

 

 

「ピッピ!い、今はちょっと…」

 

「!?…『ピッピ』? ハンジ、君……鳥が苦手じゃなかったのか!?」

 

「えっと、あの、その……ぞ、ゾエ爺には言わないで!!」

 

「…ど、どいういことだ? ゾエ爺に鳥の研究だけは手伝わせていないって聞いてるから、てっきり…」

 

「違うんだ!その…鳥自体が嫌いになった訳じゃなくて……むしろ、好きだ!だって、空を自由に飛べる動物は鳥しかいないんだから!!それってすごいことじゃないか!?

 

「…あ、あぁ。僕もそう思うけど…」

 

 

急にずいっと詰め寄ってくるハンジにたじろいだアレクは、少し頬を赤らめた。

その反応で我に返ったのか、ハンジは『ピッピ』と名付けた鳥を森へ帰すと、膝を抱えるように丸まりながら話を続ける。

 

 

「鳥は今でも好きで、興味は尽きない。でも……でも研究だけは、ダメなんだ!私に…()()()()()()()…」

 

「そっか……君もある種の“トラウマ”を抱えているんだね」

 

「……うん」

 

「じゃあ、ハンジが鳥と向き合えるようになることを願って……もう一つだけ、ある話をしよう」

 

「な、何…?」

 

「ゾエ爺の主たる研究対象は“鳥”だ。何故だかわかるか?」

 

「…鳥が好きだから?」

 

「まぁ、それもあるかもだけど……僕はこう考える。ゾエ爺は、アインズさんが叶えられなかった夢の()()()を見ようとしているんじゃないかって!」

 

「その先…?」

 

「アインズさんは“壁”を研究していた。そして、その壁の向こう側へ唯一飛び出せるのは“鳥”だ。ゾエ爺はずっとアインズさんの背中を追いかけていたと聞く……つまり、鳥を研究することで壁の向こう側へ踏み出そうとしているんだ!アインズさんを()()()ために…」

 

 

そう熱く語るアレクは、いつのまにか拳を握りしめながら立ち上がっていた。

 

 

「ゾエ爺には恩がある。だから、決めたんだ……僕は調()()()()に入る!

 

 

思ってもみなかった話の展開に、ハンジは目を丸くする。

 

 

「え…? うぇえっ!?…は、話が飛躍してないか!?」

 

「ははは、笑ってくれて構わないよ」

 

「いや、そういう話じゃなくて…」

 

「さっき壁の向こう側に飛び出せるのは鳥だけだと言ったけど、人類の中でその()()()()()()()()集団がある……それが『調査兵団』なんだ!」

 

「いや、言ってる意味はわかるけど!……どうして、アレクは調査兵団になりたいの?」

 

「それは(ひとえ)に、ゾエ爺に少しでも恩を返したいからだ。ゾエ爺がこの村に引き入れてくれなければ、僕はその辺で野垂れ死んでたからね……壁の向こうに広がる世界を知ることができれば、研究の幅がもっと広がるだろ? さらに巨人の謎まで解明できたら、それこそ人類は大きく飛躍する!」

 

「す、すごいや……アレクは勇者だよ!」

 

「へへ、勇者とは大袈裟だなぁ……だけど、“勇気”が必要なのはその通りだ。巨人の領域に挑むわけだからね、()()()だ…」

 

「…ゴクッ…」

 

 

―“ 命がけ ”―

 

言葉の重みに、ハンジは大きく唾を飲み込む。

 

その一方でアレクは、恐れるどころか、強い意志を示すように拳を突き出して見せたのだ。

 

 

「でも、命をかける“価値”(情報)がそこにはある!僕はそう信じて突き進むよ!!」

 

 

すると、ハンジも釣られるように拳を突き出していた。

 

 

「アレクならできるよ!全力で応援する!」

 

「ありがとう……だから、ハンジ。僕がその目標を実現した時、君も()()()()()()自分の“本心”と向き合ってくれないか?」

 

「!?……うん、約束する…!」

 

 

2人の少年少女は、満面の笑みで子指を結び合う。

その小さな“結び目”には、確かな『決意』と『覚悟』が宿ったことだろう__

 

 

 

 

 

 

***

 

 

__翌年。

 

アレクは訓練兵団へ入団した。

 

それからさらに、3年後__クロッツ村に一通の“電報”が届く。

 

 

 

―【電報】―

 

調査兵団所属:アレクサンダー・マクラーレン

 

第〇回壁外調査にて、荷馬車護衛班最後尾を担当。

 

シガンシナ区より出発し第2拠点へ到達後、巨人の急襲に遭う。

 

懸命な死闘の末、兵士としての使命を全うし、

 

 

 

 

 

__殉職。

 

 






〜後書き〜

さて、ゾエ爺のモデルとしている“偉人”の答え合わせですが…

かの有名な理論物理学者、

『アルベルト・アインシュタイン』です!

…さすがにヒント多すぎましたかね(笑)

正確に言えば、双子の兄“アインズ”とゾエ爺“シュタインズ”の2人合わせて「アインシュタイン」をモデルにしております。

次回、ハンジ訓練兵団へ入団!


■次回予告:『#05 レンズを通した世界』

■おまけ
◎アインズ・ゾエ
 ・ゾエ爺の双子の兄
 ・主に『壁』を研究していた
 ⇒【壁と人類の歴史】など数多くの文献を残すも、不慮の“事故”で死亡。

◎アレクサンダー・マクラーレン
 ・ハンジの兄貴分的な存在
 ・細かい工作を得意とする
 ⇒ゾエ爺に恩があり、研究の糧になればと調査兵団を志すも、初陣で殉職。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。