知に飢えた悪魔   作:赤道さとり

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~前書き~

・調査兵団入団後2年間ほどの話
・エルヴィン初登場。原作のおまけキャラたちも登場

↓それでは、本編へどうぞ↓




#06 憎しみを頼りに

 

 

調査兵団は訓練兵団よりも居心地が良かった。

 

何故なら、大勢の“同士”に囲まれていたからだ。

 

_巨人の支配から脱却したい。

_人類の尊厳を取り戻したい。

 

それぞれの“希望”を胸に、兵士たちは壁を飛び出して行く。

 

その先に待ち受けているのが、“絶望”であるとも知らずに__

 

 

 

=====

 

 

 

 

 

 

___調査兵団入団から約半年。

 

ちょうどハンジが16歳を迎えた頃、90期生にとって“初陣”となる『壁外調査』が行われることとなった。

 

壁外調査実施日の前夜。

【調査兵団シガンシナ区支部】の宿舎にて、ハンジは同期たちと夕食を共にしていた。

 

 

「それにしても、この間本部で行われたキース団長の演説……凄まじい意気込みだったわよね」

 

 

そう話を切り出したのは、パンを一口大にちぎるようにして丁寧に口へ運ぶエリーゼだった。

エリーゼはハンジと同じく、ギルバートが分隊長を務める第3分隊のデリス班に配属された女性兵士だ。

 

その話に最初に反応したのは、エリーゼの目の前に座る2人の兵士。

 

 

「あぁ、いよいよって感じだ。だが、発破をかけるためとはいえ、少し大袈裟な物言いは気になったがな…」

 

「私はまぁ……頑張れ~って感じで傍観してたかな。だって、そんな肩に力入れたって仕方ないじゃない?」

 

 

すると、エリーゼの横に座っていたハンジが前のめりに反論する。

 

 

「何を言うんだ、クラース!マレーネ!団長の演説は目を見張ったよ……『我々は人類の矛である。脅威に盾突く一矢となるのだ』……これこそ、調査兵団の存在意義じゃないか!」

 

「確かにあんたの反応は傑作だったわよ、ハンジ!団長の圧にみんな引き気味だってのに、あんただけ目をキラキラさせてるんだもの」

 

「う、うるさいなぁ!士気を高めるための激励は、集団行動に置いて欠かせない儀式だ。マレーネ、君はもう少し肩に力を入れた方が身のためだぞ」

 

「はいはーい…」

 

「それからクラース。君は何て言うか、その……頭のてっぺんを盛り上げるこだわりはなんだ!? 何かすっごい気になってた!」

 

「なんだ、俺の髪型にイチャモンつける気か? これは、あれだよ………巨人を威嚇するための…ゴニョゴニョ…」

 

「はぁ!? ただの()()()()()だろ!!」

 

 

同期たちの弛んだ気を引き締めんと、ハンジは眉尻を吊り上げながらダメ出しを続ける。

 

すると、ふいにエリーゼが吹き出した。

 

 

「ふふっ…」

 

「ちょっ…エリーゼまで!? 明日は初陣なんだ、こうも気を抜いてちゃっ…」

 

「ごめんごめん。三者三様なのが面白くて、つい…」

 

「面白いものか!精神面でも足並みを揃えて一枚岩にしておかないと、いざって時に組織は崩壊してしまう…!」

 

「確かにそれは一理あるかも……でもね? そんな私たちだからこそ、他の人たちが諦めてしまうような偉大なことを成し遂げられる気もするの」

 

「!?……エリーゼ…」

 

「ハンジ、私たちならきっとできるよ……これまで人類が到達できなかった未踏の地まで、一緒に行こう!

 

「…あぁ!!」

 

 

ハンジは志を共にするエリーゼの鼓舞に強く頷き返すと、ぐっと固く握りしめた拳を2人の前に掲げて見せたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___壁外調査当日。

 

シガンシナ区から出発した調査兵団は、第1拠点に到達した。

 

そこで小休憩を取ったのち、第2拠点へ向けて駆け出したその時…

 

 

「巨人発見!!森から3体、こちらへ向かってきます!」

 

「振り切れる距離ではないな……応戦する!迎撃態勢に移れ!!」

 

「「 はっ! 」」

 

 

巨人の群れと遭遇する。

速度的に、巨人たちがぶつかるのは陣形の中腹辺り、ちょうどハンジたちのいる第3分隊だった。

 

あまり群れを成さないとされていた巨人が、同時に複数体での出現__これは、ハンジたちにとって()()()()()()()()にもなった。

班長のデリスも気を引き締めるように声を張り上げる。

 

 

「訓練通り、まずは巨人の注意を引け!新兵は補佐に徹し、他の者は狙える時にうなじを狙え!!」

 

「「 了解!! 」」

 

 

だが、そう思惑通りにはいかない。

特にデリス班が対峙したのは、不規則に動いたり想定外の行動に出るような、いわゆる『奇行種』と分類される巨人だったのだ。

 

 

「…なんてヤツだ!動きが読めない!」

 

「不用意に近づくな!一旦、様子を見ろ!」

 

 

次第に陣形は乱れ、連携も崩れ、巨人の手に堕ちる兵士が出始める__

 

 

「う…うわぁぁああぁあ!離せ!このっ…」

 

…ガジュリ!

 

 

上半身を食い千切られた兵士の血しぶきが、ハンジの視界を奪う。

 

 

(!?……クソッ、前が見えない…!)

 

 

ハンジは慌ててゴーグルのレンズについた血を右腕の袖で拭う。

 

だが、やっとのことで視界を取り戻した時には、すでに()()()()()()__

 

 

「なっ……エリーゼ!!」

 

 

そう叫ぶハンジの視線の先では、巨人の口からエリーゼの上半身がはみ出ていた。

 

すぐさま巨人の口元めがけてアンカーを射出し、グリップのレバーを思い切り引く。

物凄い勢いで噴出されるガスの蒸気音とギリギリと巻き取られるワイヤーの摩擦音で、周囲の音が聞こえなくなった。

 

巨人の口元では、こちらを見つめるエリーゼが何やら口を動かしている。

それを目にしたハンジの脳裏には、聞こえないはずのエリーゼの声が聞こえた気がした。

 

 

 ―“『未踏の地まで、一緒に行こう!』”―

 

 

「っらぁぁああぁぁああぁ!!」

 

ザシュッ!

 

 

削がれたうなじの肉片が視界の淵に消えて行く。

その軌道とは反対方向へ進路を切り替えたハンジは、すぐさま倒れ込む巨人の口元を確認した。

 

 

…ボトッ。

 

 

鈍い音と共に地面に叩きつけられたのは、エリーゼの()()()だった。

 

それを目にした瞬間、脳天を突き抜けるような“怒り”がハンジの身体を蝕んだ。

視界が歪み、手足が引きちぎれんばかりに痺れ上がっているのがわかった。

 

だが、ハンジは立ち止まらない__喪失感にも似た“憎悪”が、手を、足を、心までを突き動かす。

第3分隊を襲った巨人は兵士たちの捕食にあらかた満足したのか、その内1体だけ何故かその場から逃走し始めた。

 

気がつけばハンジは、その巨人の後を追っていたのだ。

 

 

「ハンジ、待て!!」

 

「何考えてるのよ!一人では何もできないわ!」

 

 

そこに、別の隊から応援に来ていたクラースとマレーネが姿を現すも、ハンジは聞き耳を持たず馬を走らせ続けた。

 

だが、その先で…

 

 

ヒヒ―――――ィィン!!

 

 

ハンジの馬は(いなな)きながら前足で地面を突き上げるようにして急停止してしまう。

その目の前には、第2分隊の班が立ち塞がっていたのだ。

 

 

「深追いはするな。これ以上被害を出すわけにはいかない」

 

 

低く重みのある声でハンジを諭すのは、第2分隊長のエルヴィン・スミスだ。

ハンジは眼を血走らせながら訴えかける。

 

 

「行かせてください!!奴は、私の班をっ…」

 

「周りをよく見ろ。そして状況を読め。そうすれば、君のその行為はただの無駄死にだとわかるだろう……第3分隊は壊滅的。これ以上、悲惨な戦果を上乗せするな」

 

「っ…」

 

「言い分は、この遠征が終わってから聞いてやる。今は班の元へ戻れ」

 

「……わかり…ました」

 

 

納得のいかない様子だったが、ハンジは行き場のない怒りを握りしめたまま来た道を戻る。

そして、生き残った数名の班員と共に、遠征を続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___壁外調査を終えて、数日後。

 

 

「それで……話ってなんですか」

 

 

不機嫌そうにそう問うのは、エルヴィンの部屋を訪れたハンジだ。

 

 

「今日君を呼び出したのは、先の遠征で目立った身勝手な行動を指導するためだ」

 

「その件に関して指導を受けるのはごもっともですが・・・・・・何故、あなたが? その役目はギルバート分隊長のはず。私は所属する隊が違うはずですが…」

 

「君が卒業している訓練所のサトリッジ教官とは、訳あって顔見知りなのだ。君のことを気にかけるよう頼まれている」

 

「えっ、教官が…!?」

 

 

エルヴィンは一度だけ頷くと、また静かに話を続ける。

 

 

「サトリッジ教官からの君の評価は高い。立体機動が平均以上に扱えることのみならず、作戦立案や実戦での状況判断において非凡な才を発揮すると聞いている。そんな君が、何故下級兵士のような愚行に出たのか……あの時の君には、()()()()()()()ようにも見えた」

 

「そ、それは…」

 

「君にとって、調査兵団の存在意義とは何だ? 何を目的に、君はここにいる?」

 

「……」

 

 

畳みかけるように質問を被せられたことで一度は言葉を飲み込んだハンジだったが、一呼吸おいて肩の力を抜くと、両手を体の前に浮かせながら語りかけるように話し始めた。

 

 

「私は……私は、巨人が憎い!人類の尊厳を取り戻すためにも、巨人は排除すべき“敵”だと認識しています。そして、私が調査兵団(ここ)にいるのは、人類の敵である巨人を一掃するため……死んでいった仲間たちに()()()()()です!」

 

「…そうか」

 

 

ハンジの熱弁に対し、あっさりとした相槌を返すエルヴィン__これには、ハンジも素っ頓狂な反応を見せる。

 

 

「え……『そうか』って、それだけですか!? もっとこう、なんかっ…」

 

「こちらから聞くことはもう何もない。最後に、一つだけ言えることがあるとすれば…」

 

 

エルヴィンはそこまで話すと、目つきを鋭く尖らせ、少し声を低める。

 

 

「君は何も()()()()()()()。理解することを恐れているただの“凡人”にすぎない」

 

「!?」

 

「今(凡人)のままでいるか、自由(理想)を求めて空へ飛び立つか……君の“本心”に聞いてみてくれ」

 

「……」

 

 

この日、ハンジはそれ以降、何も答えることができなかった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___837年、夏の終わり。

 

前回の壁外調査でかなりの痛手を負った調査兵団は、資材の調達や人員の補填に時間を要し、次の壁外調査を行えずにいた。

そのため、日々のほとんどを訓練に費やしていたのだ。

 

そして、この一年、ハンジの心には()()()エルヴィンに言われた“言葉”がずっと引っかかっていた。

 

 

 ―“『君は何もわかっていない』”―

 

 

(そんなはずはない……私は十分理解している。巨人がどれだけ恐ろしい存在か、そして、人類がどれほど惨めな思いをしてきたか…)

 

 

―“『君の“本心”に聞いてみてくれ』”―

 

 

(私の本心? はは……エルヴィンさん、あんたにそれが見えているとでも…?)

 

 

この日は、物凄く日差しが強い一日だった。

訓練後、装備点検の担当が回ってきたハンジは、額に汗を浮かべながら黙々と作業を続けていた。

 

蒸し暑さとの武器庫の薄暗さで、思考がぼやけていく。

 

 

―“『主は何のために兵士になろうとしておる?』”―

 

 

ふいにゾエ爺の声が聞こえた気がして、バッと後ろを振り向く__しかし、そこにいたのは少し驚いた表情をしたデリスだった。

 

 

「どうした、ハンジ……俺の顔、何かついてるか?」

 

「…いえ、何も…」

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___837年、秋初頭。

 

前回の壁外調査から約1年後、ようやくハンジにとって2回目となる壁外調査が行われることとなった。

心機一転、第3分隊の8割ほどが新編成となったが、ハンジは相変わらずデリスの班だった。

 

いよいよ、出発の時。

シガンシナ区から出発した調査兵団は途中巨人の襲撃に遭いながらも、第1拠点、第2拠点へと歩を進めていた。

 

そして、第2拠点より先の平地に差し掛かった時、再び複数体の巨人に遭遇してしまう。

 

 

(またか!!こうも拠点の付近を狙われるとは……しかし、巨人には知性がないはず……だが、これくらいはある種ただの“習性”とも取れる…)

 

 

ハンジがそんなことを考えていると、デリス班の元へも巨人がやってきた。

生憎、周辺はほとんど木や建物のない平地__苦戦を強いられつつも、何とか互いを補佐し合い、連携を取りながら死闘を繰り広げる。

 

だが、今回真っ先に捕食されてしまったは班長のデリスだった。

 

 

「デリス班長!!そんなっ…!」

 

 

司令塔を失った兵士たちはそこかしこで連携を崩し始める。

知性など持ち合わせていないはずの巨人は、本能で“隙”というものを理解しているのか__ここぞとばかりに暴れ出した。

 

 

バクン!!……ボキッ!……ガジュリッ!!

 

 

兵士たちが食われていく音を何度聞いたことだろう。

その度に、ハンジの心に“憎しみ”と“怒り”が充満していく。

 

腹の底から湧き上がった感情が咆哮として発せられ、体はハヤブサのように宙を舞った。

 

 

「はぁぁああぁあぁっ!!」

 

ジャキン!

 

 

何とかうなじを削ぎ落すことはできた__だが、ハンジの復讐は終わらない。

 

 

ザシュッ!…ザシュッ!………ザクッ!!

 

 

なんと、倒れ込んだ3m級の()()()()()を、一人で切り落としてしまったのだ。

 

 

「どーだ!人間様に討伐される気分は!? ははっ、本ッ…当に惨めだよ!死を悲しむことさえできないなんて……ざまぁ見ろ、ばーーーーかっ!!地獄でクソもできないその体を一生嘆いてろ!!

 

 

ハンジは巨人に向かってそう吐き散らすと、狂気じみたように不気味な笑みを浮かべながら切断した生首を蹴り上げる。

 

すると__

 

 

ドガッ!………コロンコロン…

 

「!?」

 

 

その生首は、蹴りの威力の想定よりもはるかに大きく動いたのだ。

ハンジはその光景に釘付けになる__さらには心の奥底で絡まっていたわだかまりが解けていくような感覚さえ覚えていた。

 

 

 ―“『挫折を愛せ。疑問を抱き続けよ……“チャンス”は、苦境の最中(さなか)にある』“―

 

 

ガッ!………コロロン…

 

 

気づくと、ハンジは再び巨人の生首を蹴っていた。

さっきよりも威力は劣るが、その“違和感(ギモン)”を掴み取るには十分であった。

 

 

「あ………()()()()…」

 

 

高揚感に頬を染めながらつぶやかれた言葉は、ハンジの思考に“閃き(アカリ)”を灯した。

 

 

「イヤ、違う……()()()()()()!!むしろ、わからないことだらけだ!」

 

 

ハンジはそう言うと、巨人の胴体に近づいて行き、蒸気を上げる腕を持ち上げてみる。

 

 

(!?…なんだこれ、()()……それも、異常な軽さだ!!この質量にあるべき重量には到底達していない……何故!?)

 

 

―“ 知りたい ”―

 

 

ドクン…

 

 

胸の辺りが大きく脈打ち、鼓動が早まる__四肢の先端に至るまで体中の細胞が活性化していくのを感じた。

 

 

「あぁ、()()()()()()…か……ははっ、やっとわかった気がするよ。ゾエ爺…」

 

 

一瞬、ハンジは悲しそうにも嬉しそうにも見える笑みを浮かべた。

 

そして、また顔を引き締め直すと、そそくさと馬に跨ってその場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___2度目の壁外調査を終えてから、1か月後。

 

調査兵団本部の団長室にて。

 

 

「それで……()()()()()()()()()()()()()というのは、どういう了見だ?」

 

 

そう問いかけるのは団長のキース__そして、その目の前にいるのがハンジだ。

 

 

「はい。言葉ではうまく説明できないのですが……どうやら私は、エルヴィン分隊長の下でないと本領を発揮できないようです。先の遠征時、そのことに気がつきました」

 

「…理解し難いな。まだ彼の下についたこともないのに、何故そうと言い切れる?」

 

「調査兵団へ入団してしてから1年半余り、いや……もっとずっと前から、私は()()()()()()()んです。我々は何故、巨人と闘うのか……その答えに導いてくれたのがエルヴィン分隊長でした。私は彼の下で巨人の謎に辿り着いてみせます!」

 

「そうか。……まぁ、よい。ちょうど次の編成を考えていたところだ。また第3分隊は大幅に変更になるからな……ギルバートには私から話しておいてやろう」

 

「…あ、ありがとうございます!」

 

「その代わり一つ条件がある。まず、シェイキッド……いや、サトリッジ教官から言伝(ことづて)だ」

 

「えっ、()()教官!?」

 

 

咄嗟に出たうわずった声に自分でも驚いてしまったハンジは、「しまった」と言わんばかりにバッと口元を押さえる。

 

すると、キースはコホンと小さく咳ばらいをしてからハンジの額辺りに目を向けた。

 

 

「お前が開発したその『ゴーグル』だが、今や全区域の訓練所でも実用に向けて動いているそうだ。視力の低い者の成績は羽振りが悪い傾向にあったが、それが劇的に覆された。これはお前の“功績”だ」

 

「!?…そ、そんな……私がっ…?」

 

「調査兵団も日々進化していく必要がある。ここ数年の壁外調査では、第2拠点より先へ進めていないからな。異動を認める代わりに、お前は『技巧班が行う装備などの開発・改良』に力を貸すこと……よいな?」

 

 

思ってもみなかった好条件に、ハンジは鼻息を荒くしながら答えてみせたのだった。

 

 

「はい!もちろんです!!」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___年が明け、838年。

 

 

「本日から第2分隊に配属となりました。ハンジ・ゾエです。よろしくお願いします!」

 

 

元気よく挨拶をするハンジをエルヴィン班のモサド*1が快く出迎える。

 

 

「あぁ、よろしくな。とりあえずはミケの班に配属しておいた。後ろにいる大男が班長のミケだ」

 

 

モサドに促され、振り向きざまに挨拶をすると__

 

 

「ハンジです!よろしくおねがっ…」

 

「スンスン…」

 

「うわぁ!な、なんだ!?」

 

 

ミケが急に顔を近づけてきたため、ハンジは飛び跳ねるように後退した。

それを見ていたモサドが補足するように説明を加える。

 

 

「あぁ、すまない。言いそびれてたが、人の匂いを嗅ぐのがそいつの“癖”だ。悪く思わないでやってくれ」

 

「は、はぁ………ところで、エルヴィンさんはどちらへ?」

 

「分隊長は今、馬の調達でウォール・シーナの西()()へ出張中だ。しばらくは我々だけで訓練を行うことになるな」

 

「へぇ…」

 

(馬の調達なんて新兵にやらせればいいのに……挨拶できなかったな。とりあえず、戻るのを待つか…)

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数日後。

 

出張から戻ったエルヴィンの部屋へ、早速ハンジが訪れる。

 

 

バーーン!

 

「エルヴィン分隊長、お待ちしておりましたよ!」

 

「…あぁ、ハンジか。ここへ戻った折、キース団長から話は聞いてる。それと……頼むから扉は静かに開けてくれ」

 

「あ……す、すみません」

 

 

ハンジは苦笑いしながら人差し指で頬をぽりっと掻く。

だが、叱られたことよりも、エルヴィンが()()()()()()()に見えたのが気になった。

 

 

「分隊長、なんだかご機嫌ですね……そんなに状態の良い馬が買えたのですか?」

 

「いや……()()()()、馬はまた別の牧場を探すことになった。しかし、その当てが見つかり次第、再び壁外調査を行うとのことだ」

 

「!?…今回はかなり準備が早いですね…」

 

「兵団上層部の機嫌次第だからな……それより、どういう風の吹き回しだ? 君から私の隊を志願するとは…」

 

「あ、その件ですが……()()()()()()()()んです!いえ…正確に言えば、何もわかってないことに気づいたというか……とにかく!一つ、指標ができました!」

 

「指標?」

 

「はい、自分の中での“理念”のようなものです。初めは巨人の謎を解明したいという『好奇心(本心)』を認めたくなかった。自分は友に報いるため調査兵団(ここ)へ来たんだと、そう思いたかったのでしょう……でも、認めてしまった。認めざるを得なかった!そして、自分が『知の奴隷』であることに気づいた時、わからないことがあれば、わればいい!……そう、思えたんです

 

「『知の奴隷』か……やはり君の発想は面白い」

 

「いえ、ただの請け売りですが……これまで私は、()()()()()()()巨人と闘ってきました。でもそれは、もう何十年も試されてきたこと。だったら私は!『既存の見方』と違う視点から巨人を見てみたい!純粋な“好奇心”を頼りに…!

 

 

ぐっと掲げられた拳越しに向けられたハンジの真剣な眼差しに、エルヴィンも深く頷いて見せる。

 

 

「どうやらただの“凡人”からは抜け出せたようだな……歓迎する」

 

「はい!精進します!!」

 

 

ハンジは嬉しそうにそう答えると、掲げていた拳をそのまま左胸にドンっと当てて見せた。

 

こうして、ハンジは晴れてエルヴィン分隊の一員となったのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___それから約2か月後。

 

この2か月間、エルヴィンはしょっちゅうどこかへ出かけていたが、何とか馬の手配先は見つかったようだ。

1週間前にはハンジが第2分隊に配属されてから初の『壁外調査』も実施され、調査兵団ではまた次の壁外調査に向けた総会などが行われていた。

 

そんなある日のこと。

調査兵団本部に、エルヴィンの部屋の扉をそっとノックするハンジの姿が__

 

 

「お呼びでしょうか?」

 

「あぁ、君に一つ頼みたいことがあってな」

 

「はぁ…何でしょう?」

 

「君には来月から、()()()()()の…」

 

 

…『世話役』を頼みたい。

 

 

*1
別作品【進撃の巨人~もう一人の選択~】で登場するエルヴィン班の一人






〜後書き〜

『わからないことがあれば、わかればいい』

ハンジの理念となるこの言葉。

そのきっかけとなる出来事を原作の一片から広げてみました。

巨人の生首を罵倒するときの台詞は、原作で『拷問後のサネスをハンジが罵倒するシーン』を参考にしています。


次回、関連作品のオリ主“カイル”がちょっぴり登場!


■次回予告:『#07 落とし穴』

■おまけ
◎クラースとマレーネ
原作の(第2回)ウォール・マリア奪還作戦にて登場した、班長格のキャラたち。エルヴィンの部屋で行われた会議後にハンジと親しそうに話していたため、同期として登場させました。
※ちなみに、ディルクはミケと同期という設定(著者の中での勝手な妄想)

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