知に飢えた悪魔   作:赤道さとり

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#08 ゲイリー・ワルツ

 

___難民キャンプの一画にて。

 

 

小屋の中で睨み合う、数名の兵士たちと一人の老いぼれ。

 

『逮捕する』と告げてからの数秒間、兵士たちは息を殺し、銃の先端越しにゾエ爺を睨み続けた。

引き金にかけられた指の腹に嫌な汗が溜まる。

 

緊張感のある兵士たちとは裏腹に何故かケロッとしていたゾエ爺は、表情を一切動かすことなく、下顎だけを小さく動かした。

 

 

「…わしも、ここまでというわけか」

 

 

すると、唯一銃を持たず奥に潜んでいた瘦せ型で長身の兵士が、その黒髪を掻き揺らしながら嫌味を口にする。

 

 

「罪を自覚しているのなら、さっさと両手を挙げてもらえると手っ取り早いんだが…」

 

「手を挙げたところで結果は同じじゃ。どうせわしも()()()()()()()殺すのじゃろ?」

 

「兄さん?……何のことか知らんが、私たちは情報を吐いて欲しいだけだ。そうすれば死は免れる」

 

「戯言を……わしは何も吐かん。そして、()()()()()…」

 

 

そう言ってゾエ爺は両手を挙げる振りをして壁に掛けられていたランプを手に取ると、それを机の傍に置かれていた桶に近づけて見せた。

 

 

「き、貴様!一体、何をっ…」

 

「近寄らん方が身のためじゃ。もっとも……わしとの()()()()()()()()()()、また別じゃがな」

 

「!?」

 

 

黒髪の兵士は何かを察したのか、ゾエ爺がランプを持つ手をさらに下げると、切迫した表情で兵士たちに指示を出した。

 

 

「総員、一時退避!今すぐ小屋から出ろ!!あの老いぼれから距離を取れ!!」

 

 

我先にと小屋の出口に詰まる兵士たちの背中に呆れながら、ゾエ爺は窓の外を見つめる。

 

その瞳には、ほんのりと輝く満月が映っていた。

 

 

 

「ハンジ……また会おう」

 

 

ドガン!!!

 

 

………

 

 

 

 

ちょうどその頃。

難民キャンプから()()()()()()()馬を走らせる者がいた。

 

小屋の爆発音を背で聞き、涙を水平に流しながら、その男が向かった先は__

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___翌朝。

 

 

ドンドンドン!

 

 

ウォール・シーナにある調査兵団本部の門が騒々しく叩かれた。

 

騒ぎを聞きつけ、数人の兵士が門に集まってくる。

その中にはハンジの姿も__

 

 

「オーウェン!?」

 

「ハンジ!!」

 

 

見覚えのある変てこな頭巾は昔のまま__それを目にした瞬間、ハンジの足は反射的に動き出した。

 

 

「村のみんなは難民キャンプにいるはずだろ? どうしてこんなところに…」

 

 

ハンジが心配そうに駆け寄ると、オーウェンの表情が少し和らいだ。

そして、呼吸を落ち着かせながら、事の発端を話し始めたのだ。

 

 

「ハァ…ハァ……落ち着いて聞いてくれ。実はっ…~~~~」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数時間後。

 

ハンジはオーウェンと共に馬車に乗っていた。

向かう先は、ウォール・ローゼ南区に位置する難民キャンプ。

 

馬車が出発したきり、ハンジは俯いたまま一言も発しなかった。

その目元では2つのレンズがじんわりと曇りがかっている。

 

オーウェンはその姿に見かねたのか、言葉を選ぶように少し考え込んでから慎重に口を開いた。

 

 

「ハンジ……ゾエ爺のこと、守れなくてすまなかった」

 

「いいんだ。きっとゾエ爺も覚悟の上だったはず……わざわざ、伝えに来てくれてありがとう」

 

「あぁ。ゾエ爺に頼まれていたからな……何かあったら真っ先にハンジに伝えてくれ、と。()()()()…」

 

「うん、ちゃんと済ませたよ。ゾエ爺から送られてきた文献はすべて処分した」

 

「そ、そうか……良かった」

 

 

そう言って今度はオーウェンが俯くと、代わりにハンジが顔を上げる。

 

 

「その様子だと、情報屋の君でさえもゾエ爺がどうして憲兵に捕まったのか見当もつかないって感じだね」

 

「!?……ゾエ爺が法を犯すような人じゃないことは知ってる。でもまさか、研究内容が王政の逆鱗に触れるなんて…」

 

「ゾエ爺が壁を研究していることは知ってたの?」

 

「あぁ、俺にだけは話してくれたんだ。誰にも言わないでくれと…」

 

「そうだったのか…」

 

「し、信じてくれ!俺は決して、憲兵に告げ口なんかしていない!ゾエ爺は俺たちクロッツ村の住民にとって、親父のような存在なんだ!」

 

「もちろん、そんなこと疑ってないよ。ゾエ爺はオーウェンだからこそ重要な秘密を託したんだろう。()()()()()()()君を信じて…」

 

「は、ハンジ…」

 

 

オーウェンが安心したように胸を撫で下ろしていると、その目の前でハンジはさらに顔を険しくさせた。

 

 

「だけど、ゾエ爺がヘマをしたとも思えない。これまで5年以上も研究を続けてきたんだ。いつも慎重の上に慎重を期して行動している。足跡一つ残さずね…」

 

「それに関しては同感だ。ゾエ爺はかなり巧妙に研究を隠していた。俺でさえ本人から聞くまでは、何の情報も得ていなかったくらいだからな。壁を研究していると聞いたときは、そりゃ驚いたもんさ…」

 

「とにかく現場に行ってみよう。そこで何かわかるはずだ。ゾエ爺が()()()()()この世を去るなんて思えない……きっと、何か残しているはずだ」

 

「あぁ、そうだな…!」

 

 

ハンジは威勢よく返事をしたオーウェンの目を真っ直ぐ見つめながら大きく頷くと、意を決したようにゴーグルをぐいっと額に上げた。

 

露わになったその目元は、少し赤く腫れあがっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___1時間後。

 

難民キャンプに到着した2人は、まずゾエ爺が寝泊まりしていたテントへ向かった。

 

そこはすでに憲兵に物色された後なのか、鞄にしまわれていた衣類や端に積まれていた本が床にごちゃっと散らばっている。

手分けしてテント内を探ってみたが、何かの手掛かりとなるようなものは見つからなかった。

 

 

「うーん……さすがに、テントには研究とつながるようなものは残していないらしいな」

 

「あぁ、俺も何度かこのテントでゾエ爺と酒を交わしたことがあるが、その時も特に怪しい点はなかった」

 

「そっか。じゃあ次は…」

 

 

そうして、2人が次に向かったのは事故現場の小屋だった。

 

 

 

**

 

 

 

ゾエ爺の自爆は薬品の実験による()()()()()として処理されていた。

そのため、小屋の周辺には立ち入りを禁ずるように憲兵が数人、見張りのように立っていたのだ。

 

そこへ、オーウェンが勢いよく駆け込む。

 

 

「ゾエ爺!どうしてっ……ゾエ爺―――ッ!!」

 

「おい、貴様!何をしてる!ここは危険だ、下がれ!!」

 

 

数名の兵士に取り押さえられ揉みくちゃになりながらも、オーウェンは必死に訴えかける。

 

 

「俺はゾエ爺と同じ村の者です!小屋が爆発したって……一体、何があったんですか!?」

 

「彼は危険な薬品の実験をここで秘密裏に行っていたのだよ。その薬品の主成分は人体に有害の可能性が高い。そのため、現場への立ち入りは固く禁じられてるんだ!」

 

「そんなっ……嘘だ!ゾエ爺がそんな危険な実験をするはずがない!何かの間違いだ!!」

 

「じゃあ、この爆発は何だと言うんだ!? 小屋が一つ、吹き飛んでしまっているんだぞ!」

 

「でもっ……でもっ…!」

 

 

全く持って聞き耳を持たないオーウェンに手を焼く憲兵たち__オーウェンは兵士たちの視線が自分に向き続けるよう、とにかく暴れ回った。

 

 

(ありがとう、オーウェン……もう少し、そのままで頼むよ!)

 

 

これはハンジの策略だった。

オーウェンが憲兵たちを引き付けている間に、反対側から現れたハンジがひっそりと事故現場に侵入するという段取りだ。

 

小屋は爆破の衝撃で壁や屋根のほとんどが原型を保たずに崩壊している。

ゾエ爺の遺体はすでに運び出されているようで、床があった場所には人型の焦げ跡だけが残されていた。

 

その光景に胸を痛めながらも、ハンジは必死に手掛かりを探す。

 

 

(きっと、何か残されているはず……何かっ…!)

 

 

なるべく音を立てないよう焼けた小屋の残骸を慎重に漁っていると、黒ずんだ焼けクズの中に白い破片を見つけた。

 

 

(!?…この破片だけ焼けてない……それに、さっきからこの()()はっ…)

 

 

ハンジは何かに気づいたのか、拾った破片をポケットに忍ばせると、オーウェンに向かって両手を大きく振ってみせたのだった。

 

 

………

 

 

 

その後、近くの墓地でゾエ爺の葬儀が行われた。

遺体は薬品の有害物質を含む可能性があるとされ、棺は一度も開けられることなく土へ埋められてしまった。

 

だが、ハンジの瞳にははっきりと映っていた。

 

_ゾエ爺の焼け焦げた黒い体が。

 

_棺から漂う、行き場のない“無念”が。

 

埋め直された柔らかい土にそっと花を手向けながら、ハンジは誓う。

 

 

(ゾエ爺を陥れた人物がいる。私が必ず、そいつを見つけ出してみせる…!)

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___2日後。

 

難民キャンプにあるオーウェンのテントの中で、ハンジは白い破片をぼんやりと眺めていた。

 

そこへ、息を切らしたオーウェンが興奮気味に戻ってくる。

 

 

「ビンゴだ、ハンジ!お前の推理はどうやら当たっていたらしい!」

 

「見つけたのか!? ()()()っ…」

 

「あぁ、『バッカス酒場』ってところだ。数か月前から白髪の老人がよく通っていたらしいが、ここ数日パタリと姿を現さなくなったって……ゾエ爺に違いない!」

 

「さすが村一番の情報屋!聞き込みで君の右に出る者はいないよ」

 

「いや、ハンジの推理あってこそだ。だけど力になれてよかった…!」

 

「恩に着るよ……よし、今晩はバッカス酒場で晩酌といこうか。ゾエ爺の()()()を交わしに…!」

 

 

ハンジの推理はこうだ。

 

まず、難民キャンプ暮らしとなってからは自由に走らせる馬を持てていないため、ゾエ爺が壁の研究を続けるとしても人のいない遠くの地まで通うことは不可能と仮定する。

となれば、ゾエ爺は人に見られるリスクを犯してでも、近場の壁を調べていた可能性が高い。

 

また、ハンジが事故現場で拾った壁の破片と思われる石のような欠片は、色がかなり白かった。

街から外れた場所の壁は日に焼けて少し黄味がかっているものだが、白いままということは建物などで日が遮られていた証拠だ。

つまり、その破片は壁のすぐ傍に街のあるトロスト区内門付近で採取されたものと断定できるのだ。

 

では、どのように壁に近づいていたのか__そのヒントも、()()()()に隠されていた。

 

焼け跡から微かに香っていたのは、アルコール臭。

当初は兵団の倉庫から火薬でも盗んだのかと想像していたが、どうやら爆薬はアルコールを主原料に使ったらしい。

 

以上のことから、ゾエ爺は街の酒場に通っていたと推察した。

爆薬は酒場でくすめた酒から生成し、酒場で泥酔したフリをして深夜に壁に近づいていたのだろう。

酒場通いを定着させていれば、もし壁を調べているところを人に見られても、酒に酔って道に迷ったなどと誤魔化すことが可能だ。

 

そこで、オーウェンには街に数カ所ある酒場の聞き込みをしてもらっていたというわけだ。

 

 

「それにしても、ハンジ……兵団の仕事の方は大丈夫なのか?」

 

「とりあえず1週間の休みをもらってきた。それに、ウォール・マリア陥落以降は壁外調査を行えていないんだ。避難民の対応や今後の対策に追われていてね…」

 

「そうだったのか…」

 

「とは言え、あまり時間はない。その人物が痕跡を消す前に尻尾を掴まないと…!」

 

「あぁ、そうだな」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___その晩。

 

バッカス酒場を訪れたハンジとオーウェンは、そこで思いも寄らない光景を目にする。

 

_ハットを深く被り、目元を仮面で隠しながら密談する怪しい男たち。

 

_煙に塗れ、薬漬けになってうなだれている娼婦。

 

_ジョッキを打ち鳴らし、巨人様万歳と騒ぎ立てる若者たち。

 

その酒場はまさしく、何かしらの犯罪に手を染めた者たちの巣窟となっていたのだ。

客層が著しく低下しているのにも関わらず、酒場の店主は得意げにグラスを拭き上げている。

 

異様な空気に息を詰まらせながらも、2人はカウンターに腰掛けた。

そして、一杯ずつ酒を注文したのち、周囲に聞こえない声量で言葉を交わす。

 

 

「なるほど。ゾエ爺がここを選んだのは、犯罪者たちの中に紛れることで自分の身を守っていたのか」

 

「あぁ、犯罪者同士は深く関わり合わない。互いの足を引っ張るような詮索はしないだろうからな…」

 

 

2人がヒソヒソと会話していると、そこへ店主が割入ってきた。

 

 

「お二人。ここらじゃ見ない顔だね……新入りかい?」

 

 

突然のことにハンジは少し驚きつつも、緊張が伝わらないよう眼鏡をくいっと押し上げながら答える。

 

 

「えぇ、まぁ……我々は地方を練り歩いている組織でね、この街では()()()()()土地を売買してる。ウォール・マリアが陥落して以降、土地の需要ってのは入れ食い状態さ」

 

「お、人を遣うとは怪しい商売だねぇ。土地ってことはもしかして……ゲイリーさんとこの下っ端かい?

 

「!?」

 

 

咄嗟に思いついた犯罪者を装った切り返しだったが、怪しい魚が釣れたことにハンジは胸を騒がせる。

 

 

店主(マスター)が「さん」と敬称をつけて呼ぶ相手ということは、この店の重要人物なのだろう……そいつから今回の事件に何か繋がるかもしれない!)

 

 

そう考えたハンジは、かまをかけるように聞き返す。

 

 

「おっと、この街にも同業者がいたとはね……しかし、店主(マスター)。下っ端と決めつけるのは如何なものかな?」

 

「ははは、いやね? ゲイリーさんってのは嫌にずる賢いお人で、()()()()()パッと現れたと思ったら突然この街の裏社会を牛耳るもんだから……うちの店も彼の言いなりさ。てっきり、あんたらも彼の手駒かと思ってね」

 

「ずる賢い……そのゲイリーって人は、一体何者?」

 

「さぁな。彼を多く知る者はいないよ。それに()()()店にもとんと姿を見せやしない……秘密主義なんだよ、きっと」

 

「ふぅん、なるほど…」

 

 

ハンジは適当に相槌を打って受け流すと、オーウェンと目を合わせ小さく頷いた。

それからもう一度店主に目を向け直し、質問を投げかける。

 

 

「それより店主(マスター)。この店の営業は何時までかな?」

 

「深夜の1時までだ」

 

「じゃあ、それまで付き合ってくれよ。下っ端呼ばわりされたヤケ酒に…」

 

「ははは、こりゃ一杯食わされた!」

 

 

 

**

 

 

 

酒場の閉店時刻。

店主はうなだれた客を店の外に追い出すと、手をパンパンと払いながら店内に戻ってきた。

 

その時、目に入った光景が店主の足を止めさせる。

 

なんと、少し前に店を出たはずのハンジがカウンターの上にドカッと座っていたのだ。

 

 

「な、何をしてる!あんたらはさっき店を出たはずじゃ…」

 

「裏の勝手口が開いていましたよ、店主(マスター)。ご安心を……2,3質問に答えていただければ出て行きますから」

 

「は…はは、まだヤケ酒に付き合えとでも言うのか?」

 

「いえ、そんな……()()()()()()で酔えるほど、人間落ちぶれちゃいませんよ」

 

「な、なんだと!!貴様、この店を舐めてもらっちゃ…」

 

ピラッ…

 

 

ハンジは店主の話を遮るように、手に持っていた紙を顔の横に掲げ上げた。

 

 

「…これ。この店の権利書です。おっかしいなぁ~…兵団の認印はこんな型崩れしたガサツなものでしたかねぇ~?」

 

「それは!……いいや、犯罪者如きにそんなことがわかるはずっ…」

 

「はぁ…まだ気づいてないんですか? 私服だからって油断されちゃ、手応えがないなぁ…」

 

「ど、どういう意味だ!?」

 

「私は兵団の者だ。証拠もある」

 

 

そう言って今度は左手で胸ポケットから兵員帳を取り出すと、表紙のエンブレムを店主に向かって見せつけた。

 

 

「なっ……調査兵団…だと!?」

 

「わかったか? 私はあんたにお願いしてるわけじゃない。()()()()……質問に答えろと

 

「くっ…」

 

 

鋭い眼光を放つハンジと、一歩後退る店主__そこへ、止めを刺すようにハンジが声を強める。

 

 

店主(マスター)…いや、ゴードン・バッカス。『ゲイリー』という男について、知っていることを全部吐いてもらうぞ…!」

 

「…わ、わかったよ」

 

 

………

 

 

 

ゴードンの話によれば、その男は『ゲイリー・ワルツ』と名乗っているらしい。

 

ゲイリーはよく口が回る男で、その巧みな話術で相手の懐に入り込み、財産や金品を騙し取っているのだとか。

そうして得た資金で土地を買収し、商会との闇取引に持ち出したり、先の襲撃事件で家を失った貴族へ高く売りつけたりしてさらに利益をかさ増ししているのだ。

 

しかし、それはどれも“違法取引”に当たる。

領土は憲兵団が管理しているため、正式な申請手続きを踏む必要があるのだ。

 

だが、それよりも気になったのは、ゲイリーが()()()()()と仲良く話している姿をよく見かけたという情報だった。

 

白髪の老人とはおそらく、ゾエ爺のことだろう__わかりきっていたが、ハンジは念のため確認する。

 

 

「その白髪の老人とやら、名前はわかるか?」

 

「し、知らねぇよ…」

 

「…本当に?」

 

「本当だ!そのじいさんはゲイリーにこそ話しかけはするが、普段は一人で寡黙に酒を飲んでいたよ。そんで、いっつも()()()()帰っていくんだ…」

 

「泥酔……そうか、わかった。我々の質問は以上だ」

 

 

ハンジは淡々と言葉を吐き出すと、オーウェンを引き連れ、店の出口に向かってカツカツと歩き出した。

すると、店主がその背中に縋りついてくる。

 

 

「おい、待ってくれ!俺は嘘偽りなく答えたぞ!本当に見逃してくれるんだろうな…!?」

 

「あぁ、()()()……だけどね。まぁ、安心したまえ。こう見えて口は堅い方だ」

 

「それ、全然安心できねぇよ…」

 

「なら私ではなく、運命の女神様にでも縋るんだな」

 

 

そう言ってハンジは店主の腕を払い退け、その額に店の権利書を貼り付けるように押し当てた。

 

情けなく崩れ落ちる店主を一人残し、ハンジたちは店を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___2日後。

 

日没直前、ハンジとオーウェンは難民キャンプから街へ向かって歩いていた。

 

 

「ハンジ。本当に行くのか?」

 

「あぁ。ゴードンの情報や君の聞き込みを照らし合わせて、ゲイリーのアジトは掴めたからな」

 

「でも、街の裏社会を牛耳ってるような奴だろ? 危険なんじゃ…」

 

最初(ハナ)から危険は承知だ。それに、ゾエ爺がそいつと()()()()()()()というのも気になる。その理由も、何かわかるかもしれない…」

 

「だと、いいな…」

 

 

 

**

 

 

 

2人は街角にある古い一軒家の前で足を止めた。

その建物は所々錆びれており、壁の縁には苔も生えている。

 

 

「なるほど、身を隠すには打ってつけかも…?」

 

「ハンジ、横に窓があるぞ」

 

「よし、今日は偵察目的だ。そこから中を覗いて、ゲイリーとやらの顔だけ拝んで帰ろう」

 

「わかった!」

 

 

足音を立てぬよう窓へ近づき、中を覗き見る。

するとそこには、ソファの上で足を組み優雅にワインを嗜む一人の男がいた。

 

 

「!?」

 

 

その顔を見た瞬間、ハンジは後ろに飛び上がり、地面に尻もちをついた。

それに驚いたオーウェンが小声でハンジの元へ駆け寄る。

 

 

「どーした、ハンジ!?」

 

「あ……あいつは…」

 

 

言葉が出てこないのか、ハンジは目を見開いたまま口をパクパクさせている。

 

 

(他人の空似か!?……いや、違う。あの特徴的な()()()()()……間違いない!)

 

 

そう。

部屋の中にいた男は、かつての双子の兄__

 

 

ゲリセン・ウォルシュだったのだ。

 

 

 






〜後書き〜

ゾエ爺の自爆シーンを書く時、かなり胸が苦しかった・・・(´;ω;`)

本作品を構想した当初は、ゾエ爺を陥れた犯人の捜索方法について白紙でしたが、情報屋オーウェンがいい仕事をしてくれました。

次回、ハンジがゲイリー(ゲリセン)を追い詰めます。
※ゲリセンが何故ここにいるのかについては、一つ先の#10で明らかになる予定です。


■次回予告:『#09 けじめをつける時』

■おまけ
◎本日9/5はハンジの誕生日!
本作品は土曜日に更新することが多いですが、今週はハンジの誕生日に合わせて金曜日更新としました。

◎ゾエ爺を追い詰めた中央憲兵
瘦せ型で長身で黒髪の兵士は、原作でお馴染みの『ジェル・サネス』です。
流れ的に本編中で名前を出すのは不自然だったので、ここで紹介しておきます。
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