知に飢えた悪魔   作:赤道さとり

9 / 11

~前書き~

ハンジのスピンオフは今回含め、残り3話!
※最終話は『#11』となります。

↓それでは、本編へどうぞ↓



#09 けじめをつける時

 

___翌日。

 

 

「ま…待てよ、ハンジ!」

 

 

難民キャンプの一画に、必死な表情でハンジを呼び止めるオーウェンの姿があった。

 

 

「この先は一人で調査するって、本気か!? 俺だってまだ役に立てる!」

 

 

オーウェンの声量が次第に大きくなり、仕方なく足を止めたハンジは、背を向けたまま静かに答える。

 

 

「…いいんだ。これ以上、君や村のみんなを巻き込みたくない。それに……これは、私の“因縁”だ」

 

「ならせめて、その因縁ってやつを聞かせてくれよ!」

 

 

勢いよく放たれたオーウェンの声が難民キャンプにこだまする。

数々のテントを跳ね返ってきたその言葉が四方八方からハンジの体に突き刺さった。

 

すでにオーウェン(自分)を巻き込んだ責任を取ってくれと、そう言われている気がした。

それ故の『()()()』__その一言がハンジの罪悪感をつつく。

 

 

(わかったよ、君にだけは話そう。()()()()()()()君を信じて…)

 

 

そう心で願いながら、ハンジは真剣な顔つきで振り返る。

 

 

「…ゲイリー・ワルツは、私の兄だ」

 

「は……え?」

 

「本名はゲリセン・ウォルシュ。家はウォール・シーナにあった……()()()

 

「…『思う』って、覚えてないのか?」

 

「うん。はっきりとは……たぶん無意識の内に忘れようとしてたんだ。けど、昨日顔を見て思い出した。苦い、過去を…」

 

「……」

 

 

オーウェンはようやく話が飲み込めたのか少しの間黙り込んだかと思うと、まるで顎に手を添えるように右の耳たぶをつまみ始めた。

これは、オーウェンが過去に聞いた情報を思い出すときによくやる癖だ。

 

 

「姓と出身からして、あの『ウォルシュ家』か……噂だけは耳にしたことがある。地下都市や王都の建設に携わった栄誉を称えられ、貴族の中でもトップクラスの階級だと聞いた。まさか、ハンジがそこの子女だったとは…」

 

「はは、とてもそうは見えないって顔だね」

 

「イヤ、そういうわけでは…」

 

 

そう言いながら今度は左の耳たぶをポリポリと掻くオーウェン__それが嘘をつくときによくやる癖だと知りながらも、ハンジはそれを(なじ)ることなく、兄について語り始めた。

 

 

「幼少期からゲリセンはあくどい性格で、平気で人を貶めるような悪魔の子だった。それでも私は罪を咎めようとしなかった。兄の心の闇を知るのが怖かったんだ……だから、奴を野放しにした私に責任がある」

 

「責任って……子どもの時の話だろ? お前には何の罪もない。それに、何か()()()な感じだ。貴族として王都にいるはずの奴がどうしてこんな先端の街に…」

 

「どうしてゲリセンがこの街にいるのかはわからない。けどそれも、逮捕すれば何か聞き出せるかもしれない。ゾエ爺のことだって…」

 

「でも、もし向こうがお前のことを覚えていたら? 逆恨みされて何か危険なことにっ…」

 

「わかってくれ、オーウェン……これは私の“けじめ”なんだ

 

「けどっ…」

 

ダッ!

 

 

オーウェンの言葉を最後まで聞き終えぬまま、ハンジは駆け出した。

 

一度も振り返ることなく難民キャンプを去り行くハンジの背中を、オーウェンはただ哀し気な瞳で眺めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___2日後。

 

 

コンコンココン…

 

 

ゲイリーの潜伏するアジトの扉が小刻みにノックされた。

 

 

「あ? こんな時間に客か…?」

 

 

気だるく一言吐き捨ててからゲイリーが玄関の扉を開けると、そこには()()()()()()()()変な女が突っ立っていた。

 

その女は体型より大振りなマントを羽織っている。

どうやら外は小雨が降っているらしい。

 

 

「あんた、誰…」

 

 

錆びた金具を擦ったようにしゃがれた声でゲイリーが問うと、その女は陽気に笑い飛ばす。

 

 

「やだなぁ~、ゲイリーさんったらとぼけちゃって……手紙、出しましたよね!明日、お伺いすると!」

 

「手紙?……あぁ、俺に情報を売りたいとかなんとか。そんなの断ったに決まってんだろ」

 

「あれ!そうなんですか!? しかし、行き違いですかね……まぁでも、こうして来てしまったもんですから話くらいは聞いてくださいよぉ~」

 

「断る。帰れ」

 

 

そう言ってゲイリーが閉めようとする扉を、女は必死になって抑える。

 

 

「そんなご無体な!雨も降ってきてしまったことですし、そこを何とかっ…」

 

「俺は今忙しいんだ!最近ここらで俺のことを嗅ぎまわってる連中がいるって聞いたんでな。明日にはこのアジトを出る。だからお前なんかの話を聞いている暇はない!」

 

「えぇ!街を出られるんですか!? どちらへ…」

 

「お前にそれを言う道理がどこにある!?」

 

「いえ、向かわれる場所によっては耳寄りな情報をお渡しできるかと思いまして。何を隠そう、今日はあなたにその“情報”を売りに来たんですから!……損はさせません。()()()()ですよぉ?」

 

ピクッ…

 

 

ゲイリーは『金』という単語に敏感なのだろう__扉の引き合いはそこで打ち止めとなった。

 

 

「フン……いいだろう。5分で話せ」

 

 

そう言ってゲイリーは女を家の中へ招き入れたのだった。

 

 

 

**

 

 

 

ゲイリーと尋ね者の女は玄関先のリビングで向かい合った。

女は室内に入ったというのにマントを脱がず、フードも被ったままだ。

 

その様子に少し違和感を覚えながらも、ゲイリーは商談を急かす。

 

 

「…それで、早いところその“儲け話”ってのを聞かせろ」

 

「えぇ、もちろんそのつもりですが……いけない!その前に()()()()()を伝えそびれていました!」

 

「あ? なんだそりゃ…」

 

「先ほどあなたの周りを嗅ぎまわっている輩がいるとおっしゃっていましたね?」

 

「…それがどうした」

 

 

眉を顰めるゲイリー__すると、その女は(おもむろ)にフードを下ろした。

 

 

「それ……()()()

 

「なっ…!?」

 

 

そう。

マントの女はハンジだったのだ。

 

 

ガタガタッ…

 

 

ゲイリーは慌てて壁に掛けてあった猟銃を手に取り、ハンジへ銃口を向ける。

 

 

「お前はどこの回し者だ!この間、憲兵には()()()()()はず…!」

 

「私は調査兵です。ほら、この通り…」

 

 

そう言ってハンジはマントを脱ぐと、ゲイリーに兵服を見せつけた。

 

 

「は? 調査兵団が俺に何の用だよ……お前らに俺を逮捕する権限なんてあんのか!?」

 

「…いえ、私共にはありません」

 

「ハッ、だろうな!!……わかったら大人しく両手を挙げて跪け!お前は地下の娼館にでも売り飛ばしてやるよ!!」

 

 

ゲイリーが凄みを利かせると、ハンジはゆっくりと両手を挙げ始めた。

そして、頭の後ろに手を重ねたところで、何かを思い出したように小さく口を開く。

 

 

「あ、ちなみに。あなたを逮捕する権限ですが……()()()()()あります

 

「彼…ら…?」

 

バーン!……ドタドタドタ!

 

 

その時、玄関の扉が勢いよく開かれ、武装した兵士たちが続々となだれ込んできた。

兵士たちは出口付近を取り囲むと、息を合わせたようにゲイリーへ銃を構える。

 

 

「ゲイリー・ワルツ!あなたを『恐喝罪』、並びに、『銃刀法違反』で現行犯逮捕します!武器を下ろし、大人しく投降しなさい!!」

 

 

第一声を挙げたのは、端正な顔立ちの女性兵士。

その声が部屋に響き渡ったのち、玄関の扉が再び開かれ、重々しい空気を纏った人影が姿を現した。

 

その人物は、トロスト区を含めた南側領土全域を束ねる最高司令官、ドット・ピクシスだった。

ピクシスはハンジを見つけると、鋭い眼光を少し弱めて問い正す。

 

 

「垂れ込みの主は其方じゃな? 調査兵の者よ…」

 

「はい。よくぞおいでくださいました、ピクシス司令。彼がゲイリー・ワルツ……この街で悪事を働く犯罪者です」

 

「承知した。詳しくは署で聞くとしようかの……ここでは美味い酒も不味くなろう」

 

「彼の “余罪”はたんまりあるかと。酒の肴になると良いのですが…」

 

「ふむ……酒で流し込める事柄であることを祈ろうぞ」

 

 

導入会話(アイスブレイク)も程々に、ハンジは再びゲイリーへ視線を戻す。

 

すると、ゲイリーは銃を構えたままジリジリと後退り、ソファを盾にするように回り込んだ。

そして、悪足掻きをする小者のように喚き散らす。

 

 

「オイ、貴様!どこの誰だか知らないが、よくも俺を嵌めやがったな!!」

 

「よく言うよ……あんたが今まで陥れてきた人たちに同じことを言えるか?」

 

「知るかよ。人に遣われるしか能がない人間がその後どうなろうなんて、俺には関係ない。むしろ、遣ってもらえただけ感謝してほしいくらいだ!」

 

「言い訳は情状酌量の余地にならない。あんたはもっと賢いはずだ……イヤ、()()()()という表現が正しいか?」

 

「うるさい!見ず知らずの貴様が、俺の何を知ってる!?」

 

「知らない……正確には、()()あんたを知らない」

 

「は? 気が触れてんのか?……話にならんな!!」

 

「だから今は大人しく捕まってくれよ、話はそれからだ。もっとも……()()()()()()()()()、だけどね」

 

 

そう言ってハンジが横にいた兵士に目配せすると、その兵士は胸元から手錠をじゃらっと取り出してゲイリーに見せつける。

 

すると、ゲイリーはやけに聞き分けよく、構えていた銃を降ろした。

 

 

「…はぁ、わかったよ。捨てればばいいんだろ」

 

ガシャン!

 

 

しおらしく言葉を放つと同時に銃を投げ捨てたゲイリーは、両手を挙げる素振りを見せる。

 

しかし、次の瞬間…

 

 

「だがな? 牢屋で大人しく死を待つ余生なんて、俺は到底受け入れない!!」

 

チャカ…

 

 

ゲイリーは胸元から小さな拳銃のようなものを取り出すと、自分のこめかみに当てつけて見せた。

その武器は違法改造したものなのか、調査兵団が使用する信煙弾のような形をしている。

 

ハンジは焦りを顔に浮かべながらそれを引き留めんと叫ぶ。

 

 

「早まるな、ゲイリー!!あんたにはまだ、聞かなきゃならないことがっ…」

 

「あばよ…」

 

ッパーーン!

 

 

弾かれるように傾く頭部。

飛び散る血飛沫。

 

ゲイリーの体は勢いよく、ソファの後ろに倒れ込んだ。

 

その場の誰もが犯人は自害したと、そう思ったことだろう。

ゲイリーの体が()()()()()()までは__

 

 

「くっ…」

 

「!?」

 

 

なんと、ゲイリーは死んだフリをして隙を作り、壁際に倒れることで隠し扉から外へ逃げ出したのだ。

兵士たちがすぐに銃弾を放つも、ソファと隠し扉が遮蔽物となり、ゲイリーに届くことはなかった。

 

息つく間もなく、ピクシスが次の指示を出す。

 

 

「玄関から回れ!彼奴(きゃつ)は武器を所持しておる、断じて逃してはならんぞ!!」

 

「「 はっ! 」」

 

 

兵士たちがバラけた足音を打ち鳴らす中、ハンジはソファの後ろへ駆け寄った。

 

 

(頭を撃って即死しないはずがない……どういうわけだ!?)

 

 

ゲイリーが倒れていた床を見ると、そこには羊の腸のような袋が落ちていた。

その袋には大きな穴が開いており、そこからドロっとした赤い液体が漏れ出ている。

 

 

(これは……血じゃない!? あれは、見せかけのカラクリ銃だったのか!まずいぞ、早く追わないとっ…)

 

 

巧妙な仕掛けに気づいたハンジはすぐさま体を屈め、ゲイリーと同じように小さな隠し扉から外へ飛び出した。

 

雨で視界が悪い。

ゴーグルに張り付く雨粒を腕で拭き取ると、道の少し先に全力で走り去るゲイリーの姿を見つけた。

 

このままでは逃げられる__窮地に立たされたハンジは咄嗟に叫ぶ。

 

 

「待つんだ、()()()()!!」

 

「!?……何故、俺の名をっ…」

 

 

気を取られたゲイリーが後ろを振り返った瞬間…

 

 

バッ…

 

 

その行く手を阻むように、()()()()()がゲイリーの前に立ちはだかった。

 

そして、人影の中で一番体格の良い人物がゲイリーを投げ飛ばす。

 

 

ッドサァァーーッ…

 

 

_泥に塗れて地面に伏せるゲイリー。

 

_その光景を唖然と眺めるハンジ。

 

_追いついてきた武装兵たち。

 

_逃げ道を塞ぐ数名の人影。

 

こうして、ゲイリーはいよいよ逃げ場を失った。

 

しかし、当の本人はまだ諦め切れていないのか、必死に地べたを這いずっている。

すると、先ほど華麗な投げ技を披露した人影がゲイリーの背にドカっと座り込んだ。

 

 

「オイオイ!懲りねぇ奴だな、アンタ!」

 

 

聞き覚えのある口調に、ハンジは思わず声を弾ませる。

 

 

「その声は、ドレイク!?」

 

「私もいるわよ、ハンジ」

 

「ゼルダまで!ってことは…」

 

 

すると、人影の中から一人の男がスッと前に出た。

 

 

「…ハンジ、俺だ」

 

「オーウェン!やっぱり君だったのか…」

 

「あぁ。お前はアレクの時もそうやって一人で抱え込もうとしたよな……けど、お前は一人じゃない。俺たち村のみんながついてる。そうだろ?」

 

「っ……」

 

 

ハンジは言葉を詰まらせた。

その様子をオーウェン含む数名の村人たちが温かく見守っている。

 

向けられた視線一つ一つを順に眺めながら、ハンジはなんとか声を絞り出す。

 

 

「ありがとう、みんな…!」

 

 

震える唇から零れた感謝の気持ちが、雨水と共に村人たちの胸へ染み込む。

 

ハンジは熱くなった目頭を冷ますように、ゴーグルを上げて曇天を仰いだ。

その時、ドレイクの下敷きになっていたゲイリーが最後の力を振り絞ってハンジに訴えかける。

 

 

「なぁ、そこのあんた……俺と取引しないか!()()()()()()()()。ここから逃がしてくれたら報酬はあんたが7割……イヤ、8割だ!!頼む、見逃してくれよ…!」

 

 

何とも卑劣で身の程知らずな提案だろうか__ハンジは呆れた顔でゲイリーを見下す。

 

 

「そうやってゾエ爺のことも売ったのか? 酒場で仲良くしてたっていう…」

 

「ゾエ爺?……あぁ、白髪のじじいか!そうだ、俺に逆らうとあいつのような目に遭うぞ!!あんたは見たところ賢そうだ。あのじじいのようになるな!」

 

「お前はもう、黙れ…」

 

「え…?」

 

 

顔を引きつらせたゲイリーの元へ、ハンジがジリジリと歩み寄る。

その精悍なオーラに当てられたゲイリーの体は、まるで蛇に睨まれた蛙のように硬直した。

 

ハンジは一歩一歩踏みしめながら、堪えきれない憤りを言葉に乗せる。

 

 

「さっきから『アンタ』『アンタ』って五月蝿(うるさ)いんだよ。私には大切な人からもらった大事な名前がある…」

 

「!?……その、顔はっ…」

 

 

ゲイリーは()()()()()()()に動揺を隠せない。

だが、ハンジは構うことなく、強引にもゲイリーの腕を引き上げた。

 

そして…

 

 

「私は、ゾエ爺の娘……『ハンジ・ゾエ』だ!!」

 

 

ガシャン!

 

 

窓ガラスを叩く雨音の中に、手錠がかけられる音が混ざる。

そこに映るは、敬遠の末に虚しい再会を果たした__哀しき“兄妹”の姿だった。

 

 

 

**

 

 

 

その後、ハンジたちは捕らえたゲイリーをピクシス司令に引き渡した。

すると、村人たちの顔を一望したピクシスが目尻を緩ませる。

 

 

「随分と勇敢な助っ人を持っておるな」

 

「えぇ、とても頼りがいのある……私の家族たちです」

 

「ふむ……身柄は確かに受け取った。後はわしらに任せい」

 

「はい。よろしくお願いします…!」

 

 

去り際、ゲイリーは駐屯兵に連れられながらも、ハンジをキッと睨みつける。

 

 

「……覚えとけよ」

 

「あぁ、忘れることはないだろう。()()()…」

 

 

皮肉の効いた言葉を返すハンジの瞳には、忘れ難い過去の幻影が映っていた。

 

こうして、ゲイリー・ワルツの“逮捕劇”は幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数週間後。

 

トロスト区駐屯兵団より、ハンジの元へ電報が届いた。

逮捕したゲイリー・ワルツに関して過去の犯罪歴などを調査したところ、捌き切れないほどの“余罪”が見つかったそうだ。

 

しかし、当の本人は収監日以来、黙秘を続けている。

そのため犯罪の手口__主に、どのように人を遣っていたかなどの詳細は、聞き出すことが叶わないそうだ。

 

さらには、突然癇癪を起したり夜中に唸り声を上げたりと、精神疾患のような症状が診られるらしい。

これには流石のハンジも思うところがあってか、『面会』を取り付けたのだった。

 

 

 

**

 

 

 

トロスト区の収監所に到着し受付で名乗り出ると、牢屋の前まで通された。

そこでハンジは看守から注意を受ける。

 

 

「気を付けてください。この囚人は精神を患っているため、時折檻の隙間から手を伸ばしてくることがあります。十分距離を取って話すように…」

 

「わかりました」

 

「我々もすぐそこで見張っております」

 

「はい…」

 

 

ハンジは檻の前に用意された椅子に座り込むと、中にいるゲイリーをまっすぐ見つめた。

それから目が合うようにと、手をヒラヒラさせながら挨拶を交わす。

 

 

「やぁ、久しぶりだね。覚えてるかい?」

 

「うぅーー…」

 

 

ゲイリーは言葉の代わりにうめき声を返した。

ハンジは淡々と続ける。

 

 

「精神を患ったなんてまた手の込んだ言い逃れを考えているんだね。そこまでして釈放されたい理由はなんだ? 富、名声、欲に溺れた結果がこれだ。それなのに、あんたはまた同じ過ちを繰り返そうとしている。私にはわかるよ……あんたはどこまでいっても、()()()()なんだって…

 

ピクッ…

 

 

一瞬、ゲイリーの表情が動いた気がしたが、すぐにまたうめき声が牢屋に響く。

 

 

「うぅーー……うぁーー…」

 

 

ハンジはそれを手を叩きながら鼻で笑い飛ばす。

 

 

「あはは、上手い上手い!そうやって自分の罪を受け入れず、イカれた振りでやり過ごすのはさぞかし気が楽だろぉ? いつまでもそこでそうしてればいいさ!……脳ミソが()()()()()()、ね」

 

ガシャーン!!

 

 

突然、ゲイリーが檻に飛びついてきた。

だが、ハンジは怯まない__立ち上がって檻に近寄ると、下からなぶるようにゲイリーを睨み上げた。

 

 

「あんたが話す気がなくたって私は構わない……でも、本当は()()()()()()んだろ? 本当は物凄ぉ~く話したいはずだ」

 

「うぅ…がぁーー!!」

 

()()()私はあんたに構わない。ここへ来るのも今日限りだ」

 

 

ハンジはそこまで言い切ると、看守に向かって終了の合図を送る。

そして、立ち去り際に一言だけ言い残したのだった。

 

 

「さようなら。()()()()…」

 

 

 

 

 

 

***

 

___846年。

 

あれから数か月が経過したが、未だゲイリーは口を開くこともなければ、オーウェンたち避難民の暮らしも改善されていない。

 

そんな中、調査兵団本部の団長室では、ハンジの怒号が響いていた。

 

 

「ダメだ!!こんなのは、間違っている!これは紛れもない『虐殺』だ!これを肯定する理由があってたまるか!」

 

 

その言葉は、845年初頭に団長となったエルヴィンへ向かって放たれたものだった。

この頃には、エルヴィンに対して気軽に口を利けるほどの間柄になっていたのだ。

 

ハンジが声を荒げているのは、『第一回ウォール・マリア奪還作戦』について。

この作戦では一般兵と称して、()()()()()()()()()()というのだ。

 

その徴兵数は全人口の2割ほど__言い換えれば、これは食い扶持を浮かせるための“口減らし”でしかない。

 

ウォール・マリア陥落以降、溢れ返った失業者たちの居住問題や農耕地減少による食糧問題が騒がれていた。

これまで兵団人員総出で対処してきたが、王政はいよいよ見限ったのだ。

 

作戦は王政府の管理下に置かれ、すでに閣議決定されたもの。

そこでエルヴィンはせめてもの“救済措置”*1として、徴兵者のうち元兵団関係者の者を調査兵団へ受け入れる手筈を整えたのだ。

 

 

 

**

 

 

 

救済措置実行のため、ウォール・ローゼ南区の難民キャンプを訪れた調査兵団。

勧誘式を終えたハンジは、街にある兵団施設の一室で徴兵者リストを睨んでいた。

 

公平を期すため、徴兵は避難民以外からも選定されているらしいが、どう考えても最悪な可能性が脳裏にチラつく。

 

心のモヤを晴らすため、ハンジはリストに手を伸ばした。

 

 

パラパラッ…

 

「!?……クソッ!こんなことがあっていいはずがない!……こんな…ことがっ…」

 

 

ハンジが力強く壁に拳を叩きつけると、机の上に置かれたリストにもその振動が伝わった。

 

開かれたページには、こう書かれていた__

 

 

=・=・=・=

【クロッツ村出身】

~~~~

~~~~

・オーウェン・ウィザード

・ドレイク・ゼルスキー

・ゼルダ・テイラー

~~~~

~~~~

=・=・=・=

 

 

悔しさに打ちひしがれていると、さらなる凶報がハンジを襲う。

 

 

ドンドンドン!

 

 

慌てて部屋に入ってきたのは、ハンジの部下モブリットだった。

 

 

「ハンジさん、大変です!実はっ……~~~~」

 

 

………

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数十分後。

 

ハンジはモブリットと共に、山奥にある古城を訪れていた。

今回の徴兵者は犯罪者として獄中にいた者も含まれており、その者たちを一カ所に留めておくため古城の広い地下牢を利用していたのだ。

 

そして先刻、そこの収監者から一人、脱走者が現れた。

その脱走者は人質を取って張り出した崖の先に鎮座し、たった一つの要求を訴え続けているらしい。

 

 

『ハンジ・ゾエをここへ連れてこい』__と。

 

 

憲兵たちが取り囲む崖先に到着すると、ハンジは一人でゆっくりと前に進み出た。

その目先では、人質の首元に鋭く尖った石を突き立てた男が佇んでいる。

 

そして、男はハンジの顔を見ると、ニヤっと不敵な笑みを浮かべたのだ。

 

 

「よぉ、久しぶりだな。()()()()()?」

 

「…忘れるはずないだろ」

 

「だよな? さぁ話をしようじゃないか、ハンジ・ゾエ!()()…」

 

 

…ソフィアン・ウォルシュ!

 

 

 

*1
詳細が気になる方は、関連作品【進撃の巨人~もう一人の選択~】『#17 口減らし』をご一読ください。






〜後書き〜

846年の口減らしにゲイリー(ゲリセン)も徴兵されそこで決着をつけるという流れに持っていきたかったので、ゾエ爺の死亡は845年より後となりました。

ハンジとの仲直りから謎に年数が経過したのはそのためです。

徴兵者リストにクロッツ村のみんなの名前を見つけた時は、本当に辛かったことでしょう・・・本当に辛いです。(著者が)

次回、双子の兄ゲリセンと因縁の対決!

■次回予告:『#10 価値のある人間』

■おまけ
◎なだれ込んだ兵士たち
ゲイリーの部屋になだれ込んできたのはピクシス司令率いる駐屯兵ですが、突撃隊の隊長を務めていたのはアンカです。
この頃はまだピクシスの付き人ではない設定となります。(独自解釈)
※追記:本日、ピクシス司令の誕生日らしいですね!(偶然でびっくり)

◎ドレイクの体格
ドレイクが体格良いのは村で大工をしていたからです。
ゲイリーを投げた時は、丸太を担いで運ぶ時の要領で持ち上げたらなんか上手くいったとか。
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