魔法科高校の任侠妖怪   作:椿℃

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 文章を頑張れと言われました。
 私の文字数少なかったですね。
 今回は前回の約5倍です。


第弐話

 高校生になって二度目の朝を迎えた。 先日のように、親父に連れ出されるようなこともなく、充分な睡眠が確保できた。当然であろう。次の日に学校があるっていうのに、深夜に出掛けてみろ、眠くて授業に集中出来ないだろうし、最悪寝てしまうだろう。さすがに親父もそこまで馬鹿ではないらしい。

 身支度を整え終わり、部屋を出て仏壇のある部屋へと向かう。ひい祖母さん、2代目、ばあさんへ線香をあげてから居間へと向かう。

 廊下を歩いていると、庭では小鬼などの妖怪たちが朝っぱらから騒いでいる。彼らたちがこちらに気付く。

 

「「おはようございます、4代目!」」

「おう、朝から騒がしいなお前ら。あまりうるさくするなよ、近所迷惑だ」

「「分かりやした!」」

 

 

 そうこうしているうちに居間の前まで来た。障子を開けると、朝食の用意だできており、親父、姉貴、それに爺さんと奴良家全員集合である。母さんは台所にいるのだろう。俺は食事のときに自分が座っている場所に腰を下ろした。いつもは姉貴が学校の用事で早めに出てていないか、親父が寝ているかで、全員揃うなんて珍しい。何か良くないことが起きる気がしてならない。

 母さんが台所の方からやって来た。いつもと同じように白い着物を着ている。

 

「あら鯉斑、おはよう。今起こしに行こうと思っていたところだったの。丁度良かったわ」

「おはよう、母さん。姉貴は今日用事はないのか?」

「ええ。昨日のうちに”入学式”の後片付けが大方終わったから、後は先生方がやってくださるっておっしゃっていたわ」

 

 

 姉貴は俺と同じ第一高校に通っており、今年で3年目。また、生徒会長と仲が良く、たまに生徒会の手伝いをしているらしい。

 ん? それにしても今入学式のところを強く言わなかったか? 姉貴の方を見ると、何か企んいる顔をして馬鹿にするような笑みを浮かべてこちらを見ている。

 危険を察知した俺は、居間から立ち去ろうとした瞬間、

 

 

「鯉斑、どこへ行くんだい? 少し話しがあるからそこに座りなさい。まさか逃げようなんて思ってないよね?」

「!?」

 

 

 向かい側から淡々とした口調の声が聞こえた。

 しまった……

 先程まで無言で食事をしていた親父が、姉貴の話を聞いた途端、箸を置くのを見てからでは遅かったか。居間に親父がいるのを見た瞬間に退散すべきだった。

 

 

 

 それから、入学式に出なかったことについてぐちぐち言われた。

 くそ、親父め、逃げられないように「畏」を発動させやがって。しかも器用なことに俺だけに効くようにしていた。あれに逆らえるやつがいたらここに連れてこい。

 それに、俺だって好きでサボタージュした訳ではない。そもそもの原因は”夜”親父が深夜に無理やり連れ出したせいではないか。なんて理不尽な。

 そのことを言ったら

 

 

「それもそうか……じゃあ夜の方には僕から言っておく。鯉斑はもう学校へ行きなさい」

 

 やっと解放してくれたのはいいが、おかげで食欲がなくなってしまった。せっかく母さん達が作ってくれたというのに……

 誰だ親父に告げ口した奴は。麗羽か? いや、麗羽には昨日、そろそろ講堂に着くという場所で別れるときに、「親父に言ったら焼きカラスにするぞ」と口止めしといたはずだから違う。麗羽ではないとしたら誰だ? ……そうだ姉貴がいた。生徒会の手伝いで、入学式のときに講堂にいたのか。何故俺があのとき講堂にいないと分かったのかは知らないが、あの笑みからして姉貴に間違いない。

 自分の部屋に戻り、先日家の蔵で見つけた本をこれまた蔵で見つけた学生鞄に入れる 。鞄は昔、ばあさんが学生の頃に使っていた革製のものだ。カビも生えておらず、あまりにも綺麗な状態でしまってあったので、使わせてもらうことにした。ばあさんは物を大切に扱う人だったみたいだ。というのも、俺がまだ母さんの腹の中にいるときに亡くなってしまったので、俺はばあさんを写真でしか見たことがない。

 後ろから襖が開く音が聞こえた。爺さんだった。

 

 

「おう、鯉斑。大丈夫だったかい」

「大丈夫じゃないよあれは……入学式一つで怒りすぎだろう」

「はっはっは。そうだなぁ儂もありぁ、ちとやりすぎだと思うておるわい 」

 

 

 爺さん(正確にはひい祖父さんだが)は、奴良組を結成させた張本人であり、皆から慕われている。つまり爺さんは大妖怪ぬらりひょんというわけだ。最近は力も大分衰えており、あまり体力をつかわないよう、家にいることがある。

 しかし、ぬらりひょんの本来の力は健在で、防犯設備が発達している今の時代でさえ、難なく家の中に上がり込んでは菓子などを頂戴しているようだ。

 このあいだ、年のせいなのか失敗して警報がなる回数が多くなってきたと愚痴を溢していた。ネットのニュース欄にある、「また泥棒が!? 」のような記事の7割は爺さんの仕業ではないかと思っている。

 

 

「そうだ鯉斑、お前結局朝はなにも食べておらんかったのぅ、氷麗が心配しておったぞ」

「親父の説教で食欲が無くなって……」

「そうか……だがのぅ、鯉斑よ。何も食べないのはいかん、いざという時に力が出せんかったら、元も子もないじゃろうに。せめて飴でも舐めなさい……ほれ」

 

 そういうと爺さんは袂から小さい入れ物を取り出し、蓋を開けて俺の方に差し出す。飴を1個とり、それを口に運ぶ。……爺さんには悪いが、この飴は美味しくない。はっきり言うと不味い。前にこの飴をあげて、誰かに不味いと言われたことはないのだろうか。俺は物を貰った相手に、貰った物を貶すというそんな失礼で、恩知らずな人間ではない。いや、それとも妖怪といった方が適切なのかだろうか。それは兎に角、俺は飴が不味いとは言えなかった。

 

 

「……ありがとう、行ってきます」

「おう、行ってらっしゃい。気を付けるんじゃぞ」

 

 

 部屋を出て、何か用事をしていた母さんに行ってきますを言い(親父は寝ていた)、玄関へ歩く。この家は無駄に広い。なので、自分の部屋から玄関までも少し時間がかかる。

 玄関には麗羽がカラスの姿で俺を待っていた。最近、天狗の姿で麗羽を見ていない。今度、お願いしてみるか……

 靴を履き、広い玄関を出てこれまた巨大な門をくぐる。少し歩いて通りに出て、駅へと歩く。麗羽は少し後ろで、俺についてきている。

 15分ほどで駅に着いた。プラットホームまで行くと丁度キャビネットが到着したところだった。前に誰も並んでいなかったので、すぐに今来たキャビネットに麗羽を他の客に気付かれないように注意しながら乗った。

 これが現代の電車だ。昔の電車のような一つの車両に大人数が乗れる脳内ものか二人乗りから四人乗りの小型リニア式車両へと形態が変わった。

 車両内部には監視カメラやマイクなどの類いは無く、カラスの姿をした麗羽が乗っていても、乗降するときにバレなければ問題ない。

 電車というよりも 、自家用車に乗っているような気分だった。

 学校に着くまで読書でもしようかと鞄のなから本を出す。そうしている間に、キャビネットは高速軌道へ移動して高校の最寄り駅まで進んでいく。

 

 

             ◇

 

 

 駅に着いたようで、本を閉じてキャビネットから降り、学校までの道のりを歩く。学校に着くと麗羽はどこかに飛んでいった。1年A組の教室へと歩く。昨日のうちに教室の場所は確認済みなので、迷うことなく無事に教室へと着いた。

 ドアを開けて中に入り、自分の端末を探すため、机に刻まれている番号に目を配る。自分の番号を見つけ 、その席に座る。2人の女子が、すれ違い様に俺を見てヒソヒソと会話をしていた気がする。いや、気のせいだろう。ここにいる奴は全員初対面のはずだ。

 

 

 教室は騒がしかった。主に教室の中央付近の男女問わずにクラスの約半分の人数が群がっている連中が原因だ。よく見ると一人の女子を囲んでいる。あいつ、確か入学式の前に見たな。

 初め、いじめか何かと思ったが、どうやら違うようだ。周りの連中が代わる代わる話してかけているだけだった。

 何故あいつらはあんなどこにでもいるようなただの一生徒に熱心なのだろうか。いや、どこにでもいるは間違いだな。彼女は、そばを通れば多くの人間が見蕩れるほどの美人である。しかし、ただそれだけであろう。入学してまだ日も浅い、と言うか入学してまだ2日間だというのに、あいつに夢中なる意味が分からない。あいつから人を惹き付けるフェロモンでも出ているのか?

 

 

 特に誰かに話しかけようともせず、端末の電源を入れる。IDカードを端末にセットして、ウィンドウを開き、履修規則や風紀規則、施設の利用規則などを読みながら、予鈴が鳴るまで時間を潰す。

 

 

 予鈴が鳴り、各々が席に座る。すると、電源の入っていなかった端末は自動的に立ち上がり、既に起動していた端末のウィンドウは閉じられ、教室前面にメッセージが映し出された。

 俺が今見ていた風紀規則を表示していたウィンドウも閉じられた。まだ読み終わってなかったのだが……

 何でも、オリエンテーションがもうすぐ始まるからその準備をしろという内容だった。

 少し経って本鈴が鳴り、教室に誰かが入って来て自分の紹介をした。話を聞いたところ、1年A組担当のスクールカウンセラーだそうだ。もう一人はここには来ず、映像が前のスクリーンと机上のディスプレイに映し出され、映像ごしに挨拶をした。

 その後、カリキュラムと施設の利用についてのガイダンスの映像を見て、選択科目の履修登録を行う。

 

 

 俺は他のクラスメートよりも、早めに履修登録が完了した。そして、この後の予定を考える。

今日と明日の2日間は、実際に上級生が行っている授業を見学する時間として用意されている。

 中学校までは、課外活動の一環として教えている一部の私立学校を除いて、魔法を教わらない。それらの私立学校では魔法を成績に反映させていない。また、魔法の素質を持つ子供については 、放課後の時間に公立の塾で魔法の基礎を学ぶ。この段階では、魔法の技術的優劣は考慮せず、ただ純粋に才能や個性を伸ばし、魔法を生業とした職業などに就けるかどうか保護者と本人で見極める。

 本格的な魔法教育は高校課程からであり、第一高校は魔法科高校中、最難関に数えられているが、普通の中学校からの進学生も多い。

 俺の通っていた浮世絵中学も普通の公立中学校だった。当然、魔法の授業なんてものは存在しなかった。なので、魔法の授業というものはてんで分からない。

 この第一高校は、俺のような普通の中学校からの進学生も多いため、そのための2日間というわけだ。

 

 

 朝御飯を食べていないせいか、空腹感を感じるようになってきた。やはり飴一粒なんかでは全然足りないようだ。

 昼食をとるには、食堂で食べるか、弁当を持参し、中庭など適当な場所を見つけてそこで食べるしかない。教室には情報端末という精密機械があるので、ここでは食べられないからだ。

 生憎、俺は弁当を持参しないので、食堂が開くまであと約1時間、昼食はお預け状態であった。

 

 (さて、食堂が開くまでをどうやって過ごそうか……)

 

 施設を巡るか? いや、それは入学式の前に見終わってしまった。鍵の掛かったところもあった。だが、これでも一応ぬらりひょんの血が流れている身だ、試しにやってみたら意外とどうにかなった。

 では授業を見学するか? と言われても、正直少し面倒くさい。魔法の授業が未体験であるからといって、別に見学するまでもないだろう。しかし一方で、魔法の授業がどのようなものなのかを知りたい自分もいる。

 好奇心を満たすか、ここに留まって本でも読んで過ごすか。

 どちらか決められずに迷っていたら、クラス全員履修登録が終わったようで、自由時間となった。他の連中も「どこ見に行くー?」などと言いながらぞろぞろと教室から出ている。

 今朝の連中も、あの女子が動くと金魚のふんのようについていった。

 

 

 俺は授業を見学することにした。本はいつでも読める。今しか出来ないことをした方が得であろうという結論に至った。

 とりあえず、何を見るかは教室を出てから決めようと、立ち上がり扉へ向かう。 

 

 

「あの、」

 

 

 後から声が聞こえた。声からして女子だろう。一瞬自分に掛けられたのかと思い足を止める。しかし、呼ばれたのは俺ではないだろうと思い直し、また歩みを再開する。

 すると、ブレザーを掴まれた。歩みを止めて後を振り返る。

 

 

「無視しないで」

「あぁ、悪い。俺に話しかけられたとは思わなかったんでな」

 

 

 そこには、前髪の両端をのばしたショートカットの女子が立っていた。

顔形は悪くはなく、美少女といっても過言ではないだろう。

 朝、俺がそばを通り過ぎたときにコソコソしていた片われだった。

 

 

「それで、俺に何か用かい?」

 

 妖怪だけに。

 ……今のなし。忘れてくれ。

 

 

「昨日のことで改めてお礼を言いたくて……」

 

 昨日? ……あぁ、茶髪ツインテとはぐれたって言っていた小さいのか。昨日のことだが忘れていたようだ。言われてみればと今思い出した。

 昨日は小さいと思ったが、よく見ると身長は女子の割に高く、俺の肩ぐらいまである。

 

「それなら、もう済んだ事だ。今さら蒸し返しても仕方がないだろ」

「でも、私の気がおさまらない」

 

 律儀な奴だな。それにあまり表情に変化が見られない。無愛想、というよりもクール系とでも言うべきか。クール系美少女……何かのキャラクターでありそうなジャンルだな。 

 

 

「わかったわかった。じゃあどうしたらお前の気はおさまってくれるんだ? もうお前の好きなようにしてくれ」

 

 

 面倒なことはさっさと終わらせることに限る。俺は相手に任せることにした。

 

 

「じゃあ、そうさせて貰う。

 昨日は助けてくれてありがとう、貴方のおかげでほのかに無事会えた」

 

 

 何だ、ちゃんと笑えるではないか。

 今のは少し微笑む程度のものだったが、どうやら笑うときには笑うらしい。笑っている方が良いと思ったが、別に言うほどのことでもない。

 

 

「どういたしまして。

 それで、お前の用はもう済んだか?」

 

 

 そう言うと、彼女は少しムスッとした。表情の変化が全く分からないというわけでもなく、注意深く見ていると何となく分かる。良く言えばクール系、悪く言えば表情の変化が乏しい。

 

 

「お前、じゃない、私の名前は”北山雫”。私のことは雫って呼んで」

「悪い、言い直そう。それで北山、用はもう済んだのか?」

「私は『雫って呼んで』って言った」

「でも北山、いきなり名前で呼ぶっていうのも……」

「”雫”。

 苗字で呼ばれるのは慣れてない」

 

 

 強情な奴だな……

 俺は諦めて雫と呼ぶことにした。

 

 

「では改めて聞こう。雫、もう用は済んだのか? 済んだのなら俺はもう行から手を離してくれ」

 

 

 雫はずっと俺のブレザーを掴んだままだ。先ほどから何度もこの手を離そうとしているが、雫は一向に離してはくれなかったのだ。本気で振り払おうとすれば、振り払うことは造作もないのだが、相手が女子であるが故にそれが出来ないでいた。

 

 

「まだある」

 

(何? 礼を言ったらはい終了ではないのか?) 

 

 俺は雫の話を聞くことにした。

 

 

「まだあるのか? じゃあ話を聞くから、とりあえず手を離そうか」

「逃げない?」

 

 

 は? こいつは馬鹿なのか? 

 

 

「俺に用があるんだろう? 俺は自分に用がある奴が目の前にいるというのに無視をして逃亡する程非常識ではないぞ」

「……でも、昨日はいつの間にかいなくなっていた」

 

 

 なるほど。雫のなかでは、昨日俺が雫の友人を見つけてお役御免というわけではなく、その後も何かあったのか……だとしたら、すぐに帰ったのは早計だったか。

 

 

「あれはもう俺は用済みだと思ったからさっさと退散しただけだ。他意はない。現にこうして雫の前にいる。改めて言うが、雫が俺にここにいてほしいと言うのなら、雫の気が済むまでここにいる」

「……そう」

 

 

 雫は黙ってしまった。心なしか少し嬉しそうに見える。

 しかし、先ほどから全く話が進んでいない。結局雫の用とは何なのだ。時計を見ると、かれこれ15分くらいこうしている。昼食前に1つでも見学しに行こうかと思っていたのだが、そろそろ行かないと間に合わなくなる。それに、食堂も混むだろうから見学を早めに切り上げて混まない内に食堂へ行こうかと思っていたが、予定を検討し直さなければならない。

 俺は優柔不断だが、決まったことはさっさと実行に移す男だ。

 だんだん苛々してきた。

 

 

「ほら、さっさと話せ」

 

 

 苛々しているせいか口調も強くなってしまった。

 

 

「一緒に授業を見学しよう?」

 

 

 さんざん待った挙げ句、雫が言ったのはほんの十数文字の言葉だった。何だ、こんな事か。もっと深刻なものかと思っていたが、蓋を開けてみれば何ともないものであった。何故か少しがっかりした。

 

 

「何だ、そんなことか。しかし、あの茶髪ツインテはどうした?」

「茶髪ツインテってほのかのこと? ほのかなら司波さんの追っかけをしているから別行動。私もついていっても良かったけれど、朝教室であなたを見かけたから私はあなたを優先したの。

 そう言えばまだあなたの名前を聞いていない。何て言うの?」

 

 

 あ、まだ名乗っていなかったな。あの茶髪はほのかという名前なのか。どうでも良いが。

 俺は今さらだが自己紹介をした。

 

 

「”奴良鯉斑”だ。好きなように呼んでくれて構わない」

「奴良も鯉斑も珍しい、初めて聞いた……」

 

 まぁそうだろう。『奴良』なんてものはじいさんがぬらりひょんに準えて作り出しものだしな。

 

「それじゃあ、鯉斑って呼ぶけどいい? 奴良も鯉斑も言いにくいけど、まだ鯉斑のほうが言いやすい」

「あぁそれでいい」

 

 

 というか先ほど雫の口から聞き慣れない名前が出てきたな。司波とは誰だ? 

 

 

「見学の件だが了解した。おそらく食堂が混むだろうから、早めに切り上げた方が良いと思っているのだが、そうなると今からだと少ししか見学出来ない。午前は諦めて午後からにしよう。ところで雫、少し聞きたいことがあるから座って話さないか?」

 「分かった。それじゃあ、外のベンチで話そう」

 

 

 言われてみればそうだった 、ずっと教室で話をしていたのか……教室には俺たちしか残っていなかった。

 

 

「了解」

 

 

 俺と雫は教室を出て外のベンチへと移動を開始する。

 

 

「あ、それと後で鯉斑をほのかに紹介したいんだけど、会ってくれる?」

 

 

 人一人に会うくらい別にどうってことない。

 俺は承知の旨を伝えるため、頷いた。

 

 

 

             ◇

 

 

 ベンチに座ると雫が聞いてきた。

 

 

「で、聞きたいことって?」

「あぁ、さっき雫が言っていた司波って誰だ? ほら、茶髪ツインテ、いやそのほのかという奴が追っかけしているっていう……」

「え? 鯉斑、司波さん知らないの?」

 

 

 雫はあり得ないものを見たような顔をした。

 なんでそんな驚いた顔をするんだ。知らないものは知らない。仕方がないではないか。だから俺はこう答えた。

 

 

「知らん」

「私達と同じクラスだよ? それに知らないのは鯉斑だけだと思う。新入生なら全員知っているはず……」

「何? その司波さんとやらはそんなに有名なのか」

「新入生総代で昨日壇上で話していたの忘れた?」

 

 

 ……合点がいった。だから俺は知らなかったのか。

 雫を見る。おい、何だそのあきれた目は。

 

 

「いや、俺は入学式に出てないから」

「え? 休んだ……ってわけないか。昨日いたし」

 

 

 嘘を言っても仕方がない。正直に話すか。

 

 

「ベンチで寝ていたら出れなかった」

「もしかして鯉斑って不良?」

「不良ではない。俺は真面目な男だ。それにあれは故意ではなくて、事故だった」

 

 

 それに俺は不良ではなくて、正確にはやくざだな。因みに妖怪でもある。

 

 

「そうか、つまり新入生総代ってことはその司波が学年首席で入学したってことか。もしかして、朝教室で他の連中に囲まれていた黒髪ロングか?」

「そうだよ。多分、鯉斑が言っているその黒髪ロングさんが司波さん。皆、司波さんと友達までいかないにしても、知り合いになりたいみたい。

 

 

 なるほど、だからあいつらはあんなに群がっていたのか……

 美人で成績優秀ときたか、要するに完璧というわけだ。そういうことなら、あんなに群がるのあの中に純粋に友達になりたいと思っている奴は何人いる? 

 実にくだらない。

 

 

「……ねぇ、さっきからほのかのことを茶髪ツインテって言ったり、司波さんのことを黒髪ロングって言ったり……鯉斑って女の子を髪型で判別しているの?」

「いや、名前を知らないから分かりやすい特徴を言っただけだ」

「ふーん」

 

 

 ただ単に疑問に思っただけのようで、雫はこれ以上追究しなかった。

 

 

「さて、俺が聞きたかったことは以上だ。答えてくれてありがとう」

「どういたしまして」

 

 

 ここで時刻を確認する。食堂が開くまでまだ少しある。俺から誘ったのだがもう聞きたいことは聞いた。つまり俺の用は済んだ。雫の誘いも承諾した。つまり雫の用も済んだ。特に話したいこともない。本でも持ってくれば良かったな。

 ……よし、寝るか。俺は寝ようと思えば寝れる男だからな。それにここには雫がいるから、寝過ごして昼食を食べ損ねるなどということはないだろう。

 

 

「雫、」

「何?」

「俺は今から寝る。食堂が開く時間になったら起こしてくれ」

「えっ? ちょっと寝るって」

「何だ? もう聞きたかったことは聞いたからな。それにもう話すようなないは?」

「……ある」

 

 

 何だ、あるのか。仕方がないつきあってやるか。

 

 

             ◇ ◇ ◇

 

 

 この後、食堂が開くまでの間、雫が話題をふって俺が答えるという繰り返しが続いた。何故女子というのはあんなにおしゃべりが好きなのか。

 雫もやはり女子か、と思ったが、雫の場合はそういう印象は受けなかった。おしゃべりが好きだというよりも、無理して話そうとしているように感じた。

 まさか、俺が寝ないようにするためか? ……考えすぎか。

 

 

 食堂に着いたときにはまだそれほど混んでいなかった。

 雫はというと、ほのかと一緒に食べる約束をしていたのを思い出したらしく、まだ来ていないほのかを食堂の入り口待っている。

 もう面倒だからほのかと呼ぶことにした。まだ会ってもいないというのに呼び捨てにしてすまないな、茶髪ツインテール。

 俺も一緒にどうかと誘われたのだが断った。朝食を食べていない俺には、目の前に食べ物があるという事実と、漂ってくる美味しそうな匂いに耐えることはできなかった。

 結局俺は一人で食べることとなった。

 友人との約束を忘れるなよ、俺が誘って振られたみたいではないか。まぁ、忘れることは仕方がない。俺も昨日のことを忘れていたのだから、これでおあいこだ。

 

 

 おかず等を取り、空いている席に座る。俺が選んだメニューは日替わり定食。今日のメニューはチキン南蛮。それとご飯と味噌汁。チキン南蛮は日本発祥の料理だ。何でも今から100年も前に九州の洋食屋で考案されたらしい。

 

 

「いただきます」

 

 

 早速メインのチキン南蛮から口に運ぶ。

 ……この南蛮酢とタルタルソースの混ざった絶妙な味。それに少し柔らかくなった鶏肉の衣。何ともいえない美味しさである。

 次に、ご飯と味噌汁。ご飯は白米だけでなく、麦飯というのが良い。それに米は柔らかくなく少しかたいが俺好みのかたさだ。

 味噌汁の具は定番のワカメ、豆腐、、油揚げ。やはり日本人は味噌汁であろう。

 

 

 昼食をゆっくり味わっていると、何やら向こうの方が騒がしい。誰だ、俺のランチタイムを邪魔する奴は。

 箸を置き、声の方を向くと一科生と二科生が争っている。といっても一科生が一方的に言っているだけだが。

 一科生の方は司波とその取り巻き連中。その中には雫やほのかがいた。一方の二科生は見たことのある眼鏡ボブとショートの女子二人、司波(女)に似ている男、おそらくあいつの名前も司波。あといかにも体育会系な初見の男。

 状況から判断すると、司波(女)は司波(男)と食事をしたい(なんだこれ紛らわしい)。だが、司波(女)と相席したい連中がそれを許さないってか。

 何だあれ。おいおい、司波(女)に媚を売りたいのならそいつの好きにさせてやれよ。

 

 

 雫を誘っておいてなんだが、俺は食事を静かにとる派だ。何故食事中に会話せねばならない。”食”べる”事”と書いて食事ではないか。話すときは友達から話しかけられたときだけである。

 他人の咀嚼音も好きではない。あれを聞くと食欲がなくなる。

 ましてや、比較的大きい声の言い争いはなどは我慢ならない。それに、その内容も内容だ。

 「二科生と相席するのはふさわしくない」だの「一科と二科のけじめだ」だの、聞いていて苛々する。実に不愉快だ。

 

 (せっかくの食事が不味くなった。食べ物の恨みの恐ろしさをあいつらに教えてやらねば)

 

 そう思い、あちらに行こうと立ち上がろうとしたら、急いで食べ終えた司波(男)と既に食べ終わっていた体育会系が、まだ食べている女子二人を残して席を立った。

 すると、司波(女)は申し訳なさそうな顔をして、違う方へ歩いていった。取り巻き連中もそれに続く。いや、続いてはだめだろ。怒られても知らんぞ。

 

 

 静かになった。命拾いしたな。あのまま騒いでいたら、俺の怒りが爆発していたところだ。俺は残りを食べ、食器を返しに行き、食堂の方々に「ごちそうさま、おいしかったです」と言う。

 学んだこと、《自分勝手な奴は誰も幸せにできない》……何だあいつら、反面教師としては役に立つではないか。

 俺は食堂を後にした。

 

 

             ◇ ◇ ◇

 

 

 待ち合わせをしたベンチに座っていると、食堂の方から雫が来た。どうやらほのかを連れてきたようだ。

 ほのかが挨拶してきた。

 

 

「初めてまして、光井ほのかです。奴良鯉斑さんですね? 雫から聞きました。昨日はありがとうございました」 

「初めてまして。昨日ことはもういい。礼は雫にさんざん言われた。

 それと、俺のことは好きに呼んでくれて構わない」

「分かりました。では鯉斑さんと呼びますね? 私のことはほのかで良いですよ」

 

 

 名字は光井か。ほのかは敬語キャラ(男限定で)か。可愛いらしい顔をしている。背はこれまた低くなく、雫より少し高い。雫とは小学校からの幼馴染みで家族ぐるみの付き合いもある、とのことである。

 

 

「で、この後はどうするんだ?」

「私とほのかと見学する予定」

「ん? 雫から聞いたが、ほのかは司波の追っかけをしているそうではないか。そちらは良いのか?」

 するとほのかは先ほどのことを思い出したのか、少し表情が暗くなった。

 

 

「えっと、お昼に色々ありまして……今は……」

  

 

 俺はその”色々”を知っている。確かにほのかは何も言っていなかったが、その場にいたのですぐには話しかけづらいだろうな。

 

 

「そうか、それなら仕方がない。では、見学に行くとするか。何を見るかはお前たちに任せる」

「では射撃場に行きましょう。会長の実技が行われますから」

 

 

 

 

 俺たちは遠隔魔法用実習室、通称「射撃場」に向かった。そこでは、会長が所属している3年A組の実技が行われていた。

 

 

「あー、やっぱり人がたくさんいますね」

「これじゃ見えない」

 

 

 何でも今期の生徒会長は、遠隔精密魔法の分野で10年に一人の英才とよばれ、数多くのトロフィーを獲得しているらしい。

 となれば当然、誰もが見学しようとする。ところが、見学の出来る人数は限られている。

 案の定、見学には多くの一年生が何とか会長の実技を見ようとひしめき合っている。

 そのため、一科生に遠慮をしてしまう二科生が多いようで、見学の場に二科生の姿は少なく、いても後ろの方で見えにくそうにしているのが数人程度。

 見たいのなら前に行けば良いものを……

 見学の機会は一科生、二科生関係なく平等に与えられている。ゆえに二科生が遠慮する必要なんてどこにもない。もっと堂々としていれば良い。

 少し遅れてきた俺たちには生徒の頭で前が見えず、俺がたまに隙間から少し見えるくらいだ。だが、会長らしき人物は見えない。

 

 

「もう少し早く来れば良かったな。見学は諦めるか」

「「えー」」

 

 

 諦めは肝心である。時と場合にもよるが。蔵にあった古いラノベの主人公は「押して駄目なら諦めろ」と言っていた。あれは長い題名の割りに面白かった。

 残念そうな顔をしているほのかと雫を説得し、他の場所へ行くことにした。

 移動するときに最前列にいる二科生が見えた。なんと司波(男)たちだった。

 

(ほう、あいつら)

 

 近くにいる一科生らは「何だこいつら」とでも思っているかもしれない。だが、俺は彼らを「よくやった」と褒め称えようと思う。

 『見たいから見る、一科生など関係ない』

 そういう二科生が増えてほしいものだ。

 

 

 俺たちは別の授業を見学しにいった。

 




ふぅ。疲れました。
もう少しこうした方が読みやすい等の希望がありましたら、気軽に。

達也と深雪を司波(男)と司波(女)といっていおりますが、主人公はまだ司波兄妹の関係も下の名前も知りませんので。まどろっこしいですがご了承ください。

かっ勘違いしないでよねっ、別に文字数をかせぐためにやったんじゃないんだから!

……ごめんなさい
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