「お母さん、無自覚美人です 大学生編」   作:松田義和

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第十章 聖戦

夏の陽射しがまぶしい朝、僕は東京駅のホームに立っていた。

手には帰省の荷物。久々の実家。胸の内に広がるのは、懐かしさと、ちょっとした緊張。

──というのも、今回は一人じゃなかった。

 

「なぁ、本当に大丈夫か? いきなり家族のとこ行くなんて…」

高橋が荷物を持ちながら、おずおずと尋ねる。

 

「呼ばれてもいないのに行くのって、ちょっと失礼じゃない?」

冷静に言いながらも、サングラスを外そうとしない剣崎さん。

 

「問題ない。“守る者”は場所を選ばない。それが聖闘士だ」

と真顔で言う松田さん。今日も全身黒尽くめ。荷物は異様に重そう。

 

きっかけは、僕がぽろっと「今年の夏休みは実家に帰る」と言ったことだった。

それを聞いた三人が何を思ったのか、「お母様にご挨拶を」と言い出し、いつの間にか同行することに。

 

──何なんだ、この“護衛団”みたいな空気。

 

新幹線の中でも、みんな妙に静かだった。

松田さんは窓の外に向かって「この地に再び女神が現れるのか…」とか言ってるし、

剣崎さんは黙々とプロテインバーを噛んでるし、

高橋に至っては、ずっと僕のスマホの通知音に反応してビクッとしている。

 

やがて到着した僕の実家。玄関を開けると、懐かしい匂いがした。

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい、あら…まあ!」

 

エプロン姿の母さんがリビングから顔を出した。

 

──ここで、全員が静止する。

 

母さんの登場と同時に、空気が一瞬ピタリと止まったのだ。

 

「まぁ、まあまあまあ……! 本当に来たのね……」

 

高橋はほぼ失神状態。

松田さんは「女神……」と呟き、深く頭を下げている。

剣崎さんだけが、あいかわらずクールに「想定の範囲内」とかつぶやいてた。

 

母さんは、というと、にこにこと皆に麦茶を出しながら

 

「息子の大切なお友達、ね。ようこそ、こんな田舎へ」

 

この一言で、三人は完全にノックアウトされてしまった。

 

 

滞在初日の夜。

夕食は、母さん特製の手料理がズラリと並んだ。

 

「すごい……これ全部……」

 

「ええ、みなさん育ち盛りでしょう? お肉もたくさんあるわよ」

 

「女神は、我らを飢えさせぬ……」と松田さん。

高橋はまた泣いていた。

剣崎さんは「あの煮物、レシピを知りたい」と真剣な顔で言っていた。

 

──そして翌日。

 

町内をみんなで散歩していたところ、何気なく母さんが「八百屋さんに寄っていこうかしら」と言いだした。

 

そこからが早かった。

 

町の人々が次々と現れる。

「おや、○○さんじゃないか」「久しぶりね〜」「お帰りなさい!」

──まるで英雄の帰還。

 

そして、その流れでなぜか“ファンクラブ”が町内で発足されることになる。

名付けて、「女神親衛隊・地方支部」。

 

支部長は魚屋の兄貴。副支部長は町内会長。

他にも「応援団」「観察班」「記録係」など、役職がどんどん決まっていった。

 

当然、三人の“大学本部”メンバーたちはこの動きに黙っていない。

 

「……本部と支部の合同会議、必要ですね」と剣崎さん。

 

「町の安全は俺が守る」と松田さん。

 

「僕は……女神の写真だけでいい……」と涙目の高橋。

 

……誰か止めてくれ。

 

 

帰省の最終日。

 

僕が荷物をまとめて玄関に立つと、母さんが優しく手を振った。

 

「気をつけてね。またみんなでいらっしゃい」

 

──なんだかんだで、僕の実家は、夏の間ずっとにぎやかだった。

 

でも、あの人の笑顔の中心に、今も“母さん”がいてくれたことが、何より嬉しかった。

 

 

新幹線のホームで、僕はふと思った。

 

これって──もしかして、聖戦だったのかもしれない。

 

──女神を守る、町と青年たちの夏の戦い。

 

それが、僕の、ひと夏の物語だった。

 

 

 

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