夏の終わり、東京の空は曇っていた。
だが、俺の胸は、妙に晴れやかだった。
「……行くか。白き地へ」
俺は一度水着写真で死んだ身。
しかし鳳凰は何度でも甦る。
新幹線のホームに集ったのは、俺を含めて4人。
主人公、つまり“息子くん”と、その仲間たち──高橋と剣崎。
俺はこの旅を“護衛任務”と位置づけていた。
そう、護るべきは一人の女性。
かつて俺の拳を沈黙させた、圧倒的な存在感──彼の母。
我々の間で密かに「女神」と称されるその人。
*
実家の玄関。扉が開いた瞬間、空気が変わった。
そこに現れたのは、白のエプロンに麦わら帽子、自然体の微笑み。
「ようこそ、こんな田舎へ」
……やはり女神だった。
それ以外の表現が見つからない。俺は反射的に頭を垂れた。
高橋は固まり、剣崎はフリーズ、主人公に至っては「何やってんだよ……」と小声で漏らしていた。
だが、これが礼儀というものだ。
*
夕食。戦だった。
手羽先、唐揚げ、夏野菜の煮物、出汁巻き卵に冷やし鉢。
そのどれもが完璧。まるで、肉体の奥底にまで沁み渡るような滋養。
「これは……栄養ではない。これは祝福だ……」
知らぬ間に呟いていた。
剣崎も珍しく無言で食べ続け、高橋は三杯目の白飯をよそっていた。
女神の慈悲、恐るべし。
*
翌日、散歩中の出来事がすごかった。
町人が、女神に群がる。
「おかえりなさい、○○くん!」
「今度また、ラジオ体操来てくださいよ〜!」
いや、あれはもう帰還した姫君の行列だった。
魚屋の兄貴なんて「お土産にして」と真鯛を手渡していた。
会話も記念写真も求められ、その場は一時騒然。
結果、支部が発足した。
「女神親衛隊・地方支部」。
俺は本部長として、責任感を新たにした。
剣崎「本部と支部の合同会議、必要ですね」
高橋「写真は、支部で共有……?」
──油断ならない。
女神の影響は、地元ですら想定を超える。
これが自然発生的カリスマというものか。
だが、俺の使命は変わらない。
守る。尊ぶ。遠巻きに支える。
*
最終日、女神が駅まで見送りに来た。
「また、いつでも来てくださいね。夏野菜、送りますから」
……ありがとう。俺は、また鍛え直すよ。
次に会うときは、もう少し胸を張って話せるように。
帰りの新幹線の中、車窓に映った自分を見ながら思った。
──俺は今、初めて“本気で誰かを守りたい”と思ってるのかもしれない。
この拳は壊すためじゃない。
あの人が、安心して笑っていられるために。
それが俺、松田一輝の新たな戦いだ。
鳳凰は炎の中から何度でも甦るのだ。
(了)