「お母さん、無自覚美人です 大学生編」   作:松田義和

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第十二章 《母さんのほほん日記》

「ねぇ、ブログってどうやって始めるの?」

 

……ある日のLINEにそう書かれていたとき、僕は正直、冗談かと思った。

 

「母さんが? ブログ?」

 

けれど、翌週には本当に始まっていた。

タイトルは──

 

《母さんのほほん日記》

 

「日々の小さな喜びや、季節の移ろいを綴るの。写真も添えてね」

と母さんは言った。

 

ふんわりしたタイトルに、手作りの庭や季節の花、家庭料理の写真。

たしかに“母さんらしい”ブログだった。

──最初のうちは。

 

 

事件が起きたのは、三つ目の記事。

 

タイトルは「久しぶりに着てみたワンピース」。

母さんは白いレースのワンピースを着て、自宅の縁側で笑顔を浮かべていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

写真は逆光で、ふんわりと輝いていて──確かに綺麗だった。

それはもう、想像以上に。

 

「え、これ……誰が撮ったの?」

 

「スマホでタイマーセットして自分で撮ったのよ〜」

 

自撮りだった。

そしてこの“奇跡の一枚”が、SNSで拡散された。

 

《まるで昭和の名女優》《この人、誰?》《奇跡の主婦現る》

──コメント欄は一気に騒がしくなり、ブログの閲覧数は急上昇。

気づけば、“美人すぎる主婦ブロガー”として、プチ炎上気味になっていた。

 

 

僕の元には、剣崎さんから冷静なLINEが届いた。

「……これは思ったよりまずい」

 

続いて高橋からは、「お前の母ちゃん……すごくない……?」

語彙を失っていた。

 

そして松田さんからは、謎のショートメッセージ。

 

《“女神の記録”、我々で守護すべし》

 

──ちょっと待て、なんだこの展開。

 

 

母さんはというと、コメント欄のざわつきをどこ吹く風。

 

「なんかね〜、最近“PR案件”とかってメールが届くのよ? なにかしらこれ〜」

「あと、写真の撮り方教えてくださいって、同年代の方からも」

 

──すごい。母さん、開花してる。

 

でも僕は焦っていた。

大学の誰かにバレたら……また“芸能人の息子”疑惑が再燃する。

 

僕「母さん、あの……少しだけ、投稿の内容とか、落ち着かせた方がいいかも」

 

母「え? なんで? ほら、これ見て。お花もきれいに撮れたでしょ?」

 

いや、それ、背景の窓に母さんの姿写ってるから!!

しかも、ちょっと着崩れた部屋着とか……!

 

 

結局、“美しすぎる主婦ブロガー”の話題は一部ローカルメディアにも拾われたが、

本人が「なんか面倒ね〜」とあっさり記事を削除してくれたことで、騒ぎは収束した。

 

それでもブログは続いていて、

いまでは本当に“季節の花と家庭の味”を地で行く、ほのぼのブログに戻っている。

 

「最近、コメントも穏やかでいい人ばかりなのよ〜。

ほら、“優しさに癒やされました”って書いてあるの」

 

──そういうときの母さんの笑顔は、なんというか、

写真よりもずっとまぶしくて、僕は何も言えなくなってしまう。

 

そして今朝。

新しい記事のタイトルが通知で表示された。

 

『久しぶりの水撒きと、涼風の午後』

 

どうか──今度こそ、写真の背景に“何も映っていませんように”。

僕は祈るようにスマホを開いた。

 

 

 

 

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