「ねえ、学校内案内してよ」
そう言って、母さんが僕の腕にふわっと手を添えてきた瞬間。
──世界が静止した。
僕の周囲、半径2メートル内の空気が、ピキンと音を立てて凍りついたのがはっきり分かった。
松田さんの目がカッと見開かれ、拳をゆっくりと握る。
剣崎さんはピクリとも動かず、でも明らかに呼吸のリズムが変わった。
高橋は目をそらしながらも、耳が真っ赤になってる。
「みなさんも、ご一緒に?」
母さんが、あの無垢で罪な微笑みを浮かべながら言うと──
「「「「はーい!!!」」」」
いや、全員元気よすぎ。
一糸乱れぬ即答。完全に訓練されたリアクション部隊か何か?
こうして、“僕とその母さん”を中心に、なぜか妙に屈強な男たち四人が連なって、学内を歩く謎の一団が誕生した。
……ん? 四人?
いや、違う。
五人いる。
母さん、僕、松田さん、剣崎さん、高橋……と、
「あれ? なんでここに藤堂さんが?」
「……ふっ。聖剣の使い手として、見届ける義務があると思ってな」
お前、いつからいた。
しかもさらっと「聖剣の使い手」とか言ってるけど、ここ案内ツアーだよ?
そして母さんはというと、そんなこと一切気づかず、
「この建物、素敵ね〜。あら、桜の木があるのね。春も綺麗なんでしょ?」
と、軽やかなステップで学内を散策モード。
すると剣崎さんが、なぜかスッと一歩前へ出て、
「ここの桜は南向きなので、日照時間が長く開花が早い傾向です」
「まぁ、詳しいのね〜!」
「……いえ。一般知識です」
ドヤ顔するな。
「お次は、購買部などいかがでしょうか」と高橋が言うと、
「購買? あ、あなた達お菓子とか買ってるの?」
「週3でチョコ食べてます」
「可愛いこと言うわね〜」
高橋、即死。膝から崩れ落ちかけた。
「そしてここが……」と、僕が指をさしたその瞬間。
「待って、そこはワタシが説明したい!」
松田さん、謎の割り込み。
「こ、これはですね、あの、はい、ボクシング部の部室でして!」
「あら、例のサンドバッグのある場所ね?」
「そうです! そこが我が魂の揺籃……いえ、日々の修行の場です!」
松田さん、汗だくだけど、頬はほんのり赤い。
でもあなたは空手部だから。
その後も、学内ツアーは続き──
途中、写真部が母さんにモデルを頼もうとした瞬間に剣崎さんが静かに前に立ち塞がり、
購買前でヤンキー風の学生が話しかけようとした瞬間に藤堂先輩が「……通るな、ここは結界だ」と意味不明なことを呟きながら制止し、
まるで母さんを護るための“護衛騎士団”が即席で結成されていた。
「ねぇ、あなたたち……いつの間にそんな仲良くなったの?」
母さんのその問いに、誰一人として正面から答えられる者はいなかった。
──こうして、母さんを囲む謎の五人組は、学園祭二日目の最大の話題となり、
のちに「白の女神と聖闘士たち」と、写真付きで学内掲示板に掲載されることになるのだった。
(僕の写真だけ、妙にぼかされてたけど)