学園祭が終わり、静寂が戻ったキャンパス。
だが、ボクシング部には静寂など訪れていなかった。
「はぁ……」
「……尊い……」
「うーん……あの構え……もう一度見たい……」
松田、剣崎、高橋。三人三様に“抜け殻”モード。
母さんの学園祭来訪のインパクトが強すぎて、完全に魂を持っていかれていた。
僕も、あの日のことを思い出しては、胸がなんかこう、もわっとする。
──そのとき。
「ここにいたか……貴様ら」
部室の引き戸が「ガララッ」と音を立てて開いた。
その場にいた全員が、ゆっくりとそちらを向く。
「お、お前は……!」
「藤堂……!」
学園祭で剣を抜きかけた、剣道部の猛将・藤堂さんが立っていた。
いつもの黒い剣道着。額には鉢巻き。妙に気合いが入っている。
「俺もだ」
「えっ?」
「俺も……あの時からずっと、抜けていた。魂が……」
突然、藤堂さんが壁に手をついて俯いた。
「……最初はただの“強者の香り”だと思った。だが違った。あれは“慈愛”……いや、“聖域”……?」
みんなが黙って頷いた。
「……俺は、決めた。今日からこの部に“転属”する」
「“転属”?!」
「心を鍛えるには、剣より拳だ。道場から部室へ、剣道からボクシングへ。魂の再構築を誓う……!」
松田「……つまり、入部?」
剣崎「……入るの?」
高橋「えっ、なんで剣道部やめてまで来んの?」
僕「ええと、じゃあ、ようこそ……ボクシング部へ?」
「うむ。よろしく頼む。“女神”の拳を再現する日まで、我が拳は折れぬ」
なんかまた一人、変な方向に覚醒してしまった。
こうして、ボクシング部に“修羅”藤堂が加わり、
母さんの余韻に浸る“女神ラバーズ”が一人増えたのであった。
──と、その時。
僕のスマホがブルッと震えた。
「……っ!」
その瞬間、部室の空気が一変する。
高橋がぴくりと反応し、松田さんが身を乗り出し、剣崎さんが「これは……」と呟く。
藤堂さんだけが「ん?」と首を傾げている。
僕のLINEに画像が一枚、送られてきた。
──「今日の夕飯、肉じゃがにしました 」
自宅の台所、自撮りの母さん、エプロン姿。
高橋「……うわ、だめだこれ、だめなやつ」
松田「……保存。永久保存」
剣崎「画面の解像度が足りない。もっと鮮明なバージョンは?」
藤堂さん、硬直。無言で目を見開いている。
「お前たち、今までこんなものを、いや、こんな尊いものを・・・」
母さん。
学園祭は終わったのに、
あなたのせいで、僕らはまだ“日常”に戻れません──。