その日も、僕と松田さん、剣崎さん、藤堂さん、高橋の五人でキャンパスのカフェテラスに集まっていた。
話題は昨夜の深夜ボクシング動画の復習──という名目だったけれど、実際はみんなダラけていた。特に高橋、椅子の背にもたれて虚空を見つめている。
「なあ、あれ以来さ……ちょっと人生変わった気がするんだよな……」
「……どの“あれ”だよ」
僕が突っ込むと、高橋は遠い目でつぶやく。
「……母さんの水着」
松田がコーヒーを噴き出し、剣崎さんはなぜかうなずいた。
「肩のラインが……すごかった」
「真顔で言うなよ剣崎さん……」
「ちょっと待て、俺は見てない」
「藤堂さんはその頃いなかったじゃないですか」
「見せろ。さもないとこのエクスカリバーが」
そんな平和(?)なひとときに──それは来た。
スマホが震える。
LINEの通知。
──“母さん”
なんとなく、嫌な予感。
ふと見ると、松田さんと高橋の動きがピタッと止まっている。
「おい、まさか……」
「今度は何!? 体育着!? 私服!? 着物!?」
「落ち着け!!」
僕は慌ててスマホを伏せた……が、追い打ちの通知。
──「今日は暑かったから、ちょっと早めにお風呂入っちゃった〜 」
──「あ、これ送るつもりなかったんだけど、間違えちゃったかも〜 」
──画像添付(1)
……。
……。
「これは……開けたら、負けだよな……?」
「でも、開けないと、もっと負ける気がする……」と松田さん。
「俺なら大丈夫だ。神技的ディフェンスがあるからな」と藤堂さん。
高橋はすでに祈りのポーズを取っている。
「行け」
剣崎さんの一言で、僕は観念した。
ピッ。
そこには、一枚のバスタオルを身体に巻いただけの母さんが──脱衣所で──無防備に笑っていた。
「えっ……待って……」
高橋がよろめき、椅子からずるっと落ちる。
「腰が抜けた」
「これは……国宝」
松田さんは小声でそうつぶやき、鼻血を押さえる。
「うーん……タオルの巻き方が完璧」
どこを見てるんだ剣崎さん!
微動だにしない藤堂さん。
「お前たちは今までこういうものを…許せん」
慌ててスマホを伏せる僕。
──そして、再び母からのLINE。
「ごめんね〜、なんか間違えて送っちゃった でも、せっかくだから保存してもいいわよ〜笑」
「どんなせっかくだよおおおお!!」
カフェの空気が凍りついたのは言うまでもない。
母の天然爆弾は、いつだって想像の斜め上をいく。
──今日もまた、僕らは少し強くなった(気がする)。
しかし、こんな平和な日々がいつまでも続くとは限らないことを僕たちは知らなかった。