「お母さん、無自覚美人です 大学生編」   作:松田義和

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番外編 集う戦士達。

「……やばい、忘れてた……!」

 

学食の隅。僕は弁当のフタを開けかけたまま、カレンダーの画面を凝視していた。

 

「なんだよ急に。期限切れのヨーグルトでも入ってたか?」

隣でラーメンをすすっていた高橋が眉をひそめる。

 

「いや、違う。母さんの誕生日……今週末……」

 

「なにィ!?」

ラーメン吹いたのは高橋。

そして斜め向かいからスプーンを取り落とした松田さん。

剣崎さんは珍しく目を見開いた。

さらに、少し離れたテーブルからこちらを見ていた藤堂さんまで、スッと立ち上がる。

 

「今、誰が“母の誕生日”と言った……?」

 

やめてくれ。なぜ全員がそこまで反応する。

 

「どうする……」と松田さん。

「去年は支部のブログが炎上しかけたじゃないか」

「確か『誕生日なのに誰も祝ってない』って書かれてな……」と剣崎さんが頷く。

 

「え、ちょ、誰のせい……?」

「お前のせいだよ!」

四方からツッコミが飛ぶ。

 

「これはもう、行くしかないだろ。本人に直接祝いを伝えに」

松田さんが断言する。

その横で剣崎さんは「ケーキ買っていこう」と真面目な顔でメモを始めた。

 

すると、スマホの通知が一つ鳴る。

 

──『おい、俺も行く。地図送れ』

 

送り主:シン

 

まさかの他大学ボクシング部エースからの参戦表明である。

 

「なんで知ってるんだよ!?」

「そりゃ、去年のあの写真は業界で話題になってたしな……」

 

 

週末、最寄り駅前に集結したのは総勢6人。

僕、松田さん、剣崎さん、高橋、藤堂さん、そして遠征してきた男・シン。

黒のライダースジャケットを翻し、鼻筋の通った端正な顔にサングラス。どう見てもただの強キャラ。

 

「ほぉ……ここが、女神の神殿か……」

「いや実家です。僕の。」

 

誰もが手に何かしらの贈り物を抱えていた。花束、お菓子、紅茶セット、どこで買ったんだその巨大なぬいぐるみ。

 

玄関チャイムを鳴らす。

 

「あら……まあ、みなさん……? どうしてこんなに……?」

エプロン姿で現れた母さんは目を丸くしていた。

 

「お誕生日、おめでとうございます!!」

六人が一斉に頭を下げる。

 

「ふふ……ありがとう。まあ、ちょっと待っててね、お茶でも入れるわ」

 

その一瞬で、玄関先に立つ男たちはほぼ同時に後ろに倒れかけていた。

 

「……これが、“神気”……」

「エプロンで倒れるって何……」

 

 

夕食は当然のようにご一緒する流れとなり、ダイニングには妙な緊張感が張り詰めていた。

 

「この煮物、僕が……いや、オレが、いや、ワタクシが……!」

言葉を噛みまくる藤堂さん。

「うまい……けど……視界に入ってくるだけで食事どころじゃ……」と高橋。

「…………(無言でおかわり)」とシン。

 

一方、母さんは至って自然体で

「うふふ、そんなに喜んでくれるなら、もっとたくさん作っておけばよかったわ〜」

なんて言いながら炊飯器のふたを開けるたびに、爆発的な感嘆が起きる。

 

「くっ……なんという破壊力……」と松田さん。

「エプロン姿でお玉を振るう女神……」と剣崎さん。

 

もう、なんなのこの宴。

 

 

食後のコーヒーを終え、別れの挨拶も済んだ頃。

 

「今日は本当にありがとうね。嬉しかったわ」

と、母さんがみんなに微笑んで手を振る。

 

全員が少し俯いて、

「いやこちらこそ……」

「……神々しい一日でした……」

「尊かった……」

などと意味不明なセリフを残しながらぞろぞろと駅へ向かう。

 

僕のスマホが震えた。

 

【ありがとう  すっごく嬉しかったわ 】

【記念にさっき撮ったケーキの写真、送っとくね 】

 

──ピロン。

 

添付された写真には、ケーキを前にピースサインをする母さんの笑顔。

バックにはちゃっかり僕の誕生日プレゼントと称して贈ったリネンのワンピース。

(これがまた似合ってしまうんだ……)

 

思わず、その場でため息をついた。

 

すると横からシンが覗き込んで一言。

 

「この国に、勝てる気がしない──」

 

 

こうして、母さんの誕生日は毎年何かしらの“伝説”を残していくのだった。

 

 

 

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