才禍を継ぎし碧き瞳の灰兎   作:醜い蛭子

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プロローグ

 それはまさしく蹂躙そのものだった。

 フィン・ディムナ(勇者)リヴェリア・リヨス・アールヴ(九魔姫)ガレス・ランドロック(重傑)

 この戦争遊戯(ウォーゲーム)における切り札だったロキ・ファミリアの最高幹部である三巨頭は、生きているか死んでいるかも定かでない凄惨な状態のまま血の海に沈んで微動だにしない。

 ファミリアの次代を担うベート、ティオネ、ティオナもフィン達(先達)に庇われて辛うじて息はあるものの、その四肢はあらぬ方向へと捻じ曲がりとても戦闘が継続できる状態でないのは明らかだった。

 その中でただ一人アイズ・ヴァレンシュタイン(剣姫)のみがデスペレート()を杖代わりとしながらも地に足をついて立ち続けている。

 そしてロキ・ファミリアの幹部全員を相手にするのは、灰色の髪に碧眼を持つたった一人の冒険者だ。

 史上二人目の最高到達点(Lv.9)にして、『才禍』の再来と謳われし冒険者の名はノクス。

 しかし絶対的な英雄だった筈のノクスはあろうことか今やオラリオ中の敵となったフレイヤ・ファミリアへと改宗までして、その圧倒的な力をもって派閥連合を組んだ他ファミリアの眷属達を駆逐し続けていた。

 ノクスが纏うのは己を強化すると共に身動き一つで不可視の衝撃波(ソニックブーム)を周囲に撒き散らす、自らの性質を『音』そのものへと変貌させる付与魔法(エンチャント)【リソナーレ】。

 アイズが無事だったのはリヴェリアの防御魔法に加えて、自身も同質の付与魔法【エアリエル】を纏っていたからに他ならない。

 だがアイズが満身創痍である事に変わりはなく、しかもアイズの力は人間相手では本領を発揮しない。

 歴然たる力量差は少なくとも今のアイズ一人で覆せるものではなかった。

 

「どうして?ベルはアナタの……」

 

 思わずアイズの口から零れ出た言葉は純粋な疑念だ。

 今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)の発端とも言えるベル・クラネル。

 違うファミリアの眷属ながらも奇妙な縁からアイズはベルに戦闘訓練を付けており、そのベルが目標として度々口にするのがノクスの名だった。

 アイズにとってもノクスの純然たる強さは一種の憧れであり、アイズとベルは師弟であると同時に同じ高みを目指す同志でもある。

 それもあって単なる特訓相手という以上に二人は親しくなってゆき、ベルは周囲には隠していたノクスとの関係をアイズに漏らしていた。

 自身の父親の事もあってアイズはよりベルに対して親近感を抱くようになり、恐らく自分が思っているよりも遥かにアイズがベルに対して抱く思い入れは深い。

 だからベルの運命が捻じ曲げられようとしているこの戦いで敢えて敵対するような真似をするノクスの行動がアイズには全く理解出来なかった。

 しかし大切なファミリアの仲間(家族)が傷つけられた怒りよりも先に溢れ出たアイズの本音を耳にしても、ノクスの表情は何ら変わりはしない。

 完全にこの場を一掃すべくノクスは更なる詠唱を紡ごうとしたが、唐突にその口が噤まれる。

 代わりにノクスの口から出た言葉は……。

 

オッタル(猛者)アレン(戦車)を超えたか」

 

 ノクスが呟くと同時に戦場を一筋の雷光が駆け抜けた。

 フレイヤ・ファミリアにとっては裏切り者とも言えるヘディン・セルランド(白妖の魔杖)の置き土産【ラウルス・ヒルド】を身に纏い、雷鳴が如く突撃してきたのはこの戦争遊戯(ウォーゲーム)の渦中の人物であるベル・クラネル。

 元来の特出した俊敏に雷の付与魔法の効果が上乗せされた今のベルのスピードはまさに稲妻と形容するに値するものだ。

 更には『英雄願望(アルゴノゥト)』によるチャージが最大まで達した事を告げる大鐘楼の音が響き渡った。

 

 ──ロキ・ファミリアの幹部が束になっても敵わなかった相手(Lv.9)自分(Lv.6)の力では技も駆け引きも通用しない。

 ──唯一突破する可能性があるとするならば、文字通り自分の全てを賭けた一撃のみ。

 

 そう判断したベルの考えは決して間違いではなかった。

 唯一誤算があったとすれば……。

 

「温いな」

 

 ヘスティア・ナイフを突き付けたベルの全身全霊の一撃をノクスは軽く身を捩って躱すと、その無防備となった腹を目掛けて容赦なく膝蹴りを叩き込んだ。

 骨から内臓に至るまでベルの全身はあってはならぬ軋みを上げ、まるで吐瀉物のように大量の血反吐を吐く。

 

「ベルっ!?」

 

 その衝撃のままアイズの横に転がったベルは薄れゆく意識の中、焦点も定まらぬ虚ろな瞳でノクスのことを見上げる。

 ベルが見誤っていたもの、それは自身がノクスに対して抱く英雄像と現実の乖離だ。

 冒険者としての駆け引きなんて関係なしにノクスなら自分の全力を正面から受け止めてくれると、ベルは心の何処かでそう信じていた。

 それは幼き頃から兄のように慕う年の近い叔父に対する甘えでもある。

 7つ年が離れたノクスはベルの実母であるメーテリアの弟であり、オラリオに来る以前の3年間ベルとノクスは共に子供時代を過ごした事もあった。

 そしてノクスの姉、ベルにとっては伯母であると共に義母でもあるアルフィアに二人は同じ夢を誓っている。

 ベルにとってノクスは夢を目指す上での道標であり、その後を追ってオラリオに来てからも陰ながらずっと支えて貰って来た。

 しかし今のノクスがベルを見下ろす目には身内に対する情など微塵も感じさせない。

 ただ冷徹に障害として自分が排除された事を悟ると同時に、それに対して何か感情が湧き起こる間もないままベルの意識は途絶えた。

 

「よくもベルをっ!!【テンペスト】!」

 

 かつて人形と揶揄されていた頃からは想像もつかない程の激情を露わにして、再び風を纏ったアイズはノクスに切り掛かる。

 更にベルから遅れて戦場に辿り着いた3つの人影がアイズに合わせるようにして、ノクスへ波状攻撃を仕掛けた。

 アリーゼ・ローヴェル(紅の星花)ゴジョウノ・輝夜(星下竜胆)、そしてリュー・リオン(星嵐)

 少数精鋭ながらもアストレア・ファミリアの等級をA級足らしめるLv.6(高み)へと至った可憐な乙女達。

 彼女達もまたノクスがオラリオに来てから7年にも及ぶ長い付き合いになる縁の深い人物達だった。

 しかしベルに手を掛けたのと同じくノクスは何処までも無慈悲であり、音の付与魔法を纏った手を振るう事によって生じた衝撃波がアイズも含めた四人のLv.6を地面に叩きつける。

 これで終わりだと言わんばかりにノクスが追撃の衝撃波を放とうとした手を翳した瞬間、その視界を煙幕を遮った。

 アストレア・ファミリアのライラ(狡鼠)お手製の煙幕玉、少しでも意識を削ごうという工夫によるものか丁寧に刺激臭まで込められている。

 尤もいくら工夫を凝らそうとLv.9という圧倒的な力の前では小細工など何の意味もなさない。

 敢えて魔法による衝撃波を用いずに手を払っただけの風圧で煙幕を吹き飛ばしたノクスだったが、その前に広がった光景にほんの僅かであるものの確かに虚を突かれた。

 

「【我が目に映りしは混迷。数多の死の上に積み上げられし仮初。ならば汝の眼に映りし真実は何処たるや】」

 

 瞬間ノクスの視界がぐるりと回った。

 視線を合わせる事を発動条件とした混乱の効果を齎す弱体化魔法を放ったのは、まだ十の半ばにも満たない少女だ。

 少女の名はリア。

 かつてリアはアストレア・ファミリア(正義)に救われ、その正義が巡って今度は自分が誰かを守れるようにとリアはアストレア・ファミリアの新たな眷属となった。

 そして同時期に冒険者になったベルのあまりに規格外な飛躍の影に隠れがちだが、リアも一年も満たない間に第二級冒険者(Lv.3)へとランクアップを果たした過去に類を見ない紛れもない逸材である。

 それは圧倒的なステイタス差があるノクスに魔法が通じた事からも明らかだ。

 しかしそれも一瞬。

 耐異常の発展アビリティによってノクスの意識はすぐさま正常な状態へと戻り、世界が正しく認識される。

 だがまたしても意図せぬ展開が待ち受けていた事に、ノクスはこの戦争遊戯が始まって初めて苛立ちの感情を浮かべた。

 

「リアだけに飽き足らず、セレネお前まで来たのか?」

 

 元の世界を取り戻したノクスの眼に映ったのは、地に伏した冒険者達を包み込む暖かな癒しの光だ。

 しかし周囲に魔法を行使する術者の姿は見当たらない。

 それに姿や気配を隠す魔道具には心当たりがあれど、例え戦闘中であっても詠唱まで行っていればLv.9であるノクスの超常的な感覚でその存在が捉えられない筈がなかった。

 だとすればノクスに思い当たる節は一つだけ。

 そんなノクスに対して答え合わせをするように、ノクスが思い描いていた通りの人物が「リバース・ヴェール」を脱いで姿を現した。

 セレネ・シルフィード、彼女もまたアストレア・ファミリアに所属する治療師でありLvは5。

 純粋な治癒力という点ではフレイヤ・ファミリアのヘイズ・ベルベット(女神の黄金)やディアンケヒト・ファミリアのアミッド・テアサナーレ(戦場の聖女)には劣るものの、セレネは魔法の詠唱を必要としない希少なスキルを有している。

 その力は時に予測が不可能な程に目まぐるしく状況が変化するダンジョンでは特に有益なものであり、数多の冒険を経てセレネは治療師を専任とする冒険者としてはオラリオで唯一無二のLv.5へと至った。

 そしてノクスはその旅路の始まりと今日に至るまでセレネが抱えていた苦悩を知っている。

 しかしノクスが僅かに浮かべた感傷は瞬く間に消え去り、すぐさま感情をまるで覗かせない冷徹な表情を取り戻した。

 

「あら、リアとセレネだけ特別扱い?妬けるわね」

 

「そこで無様に這い蹲ってるエルフ以外、ファミリア全員を手籠めにしておいていけずな人ですこと」

 

「か、輝夜、誰が無様に這い蹲っているだって?それと無闇に盟友を貶めるような嘘を言うべきではない」

 

 セレネの回復魔法を受けて比較的傷が浅かったアストレア・ファミリアの三人がまず最初に立ち上がった。

 しかしこれだけ傷付けられても軽口が叩けるのは、リューが言う通り共に暗黒期を戦い抜いた戦友に対する信頼によるものか。

 それを受けてノクスは思わず嘆息する。

 

「……別に二人を特別扱いしようって訳じゃない。リアは単純にまだ力不足で、セレネは生粋の治療師だ。俺が「喰らう」価値もない」

 

「随分と不穏な言い回しだけど、一応は私達のことをLv.9のアナタが今でも評価してくれてるって認識で良いのかしら?」

 

「そうだな、だがそれと同時にお前達にはどうしようもないくらい失望してる」

 

「え?」

 

「アリーゼ、それに他の皆にも最期になる前に言っておく」

 

 そしてノクスは一拍置くと、何処までも冷たい声で言い放った。

 

「力なき正義は悪と同じだ」

 

 それを聞いた正義を司る女神の眷属達の目の色が変わる。

 否定したくとも事実たった一人の人間を前に、アリーゼ達は無様に地に伏す事になった。

 そしてそれは恐らくファミリアの眷属達が全員この場に居合わせたとしても結果は変わらない。

 否応にもその現実にリアを除いた四人には五年前に起こった惨劇が思い起こされる。

 それと同時に無意識の内にその視線がノクスの左腕に集まり、普段ならすぐさま反論するであろうアリーゼすらも口を噤まざるを得なかった。

 

「さて意味のない問答もここまでだ。他の連中も良く聞け!このまま素直に引き下がり自分達の神を差し出すなら、これ以上手出しをする事はしない。例えお前達がこの戦争遊戯で負けようと、そこで無様に転がってるガキの所有者()が変わるだけだ。別にお前達が失うものは何もないだろ?」

 

 アストレア・ファミリアに続いてロキ・ファミリアの眷属達も何とか身体を起き上がらせるのを見て、ノクスは最後通告を伝える。

 アリーゼがノクスの先程の言葉を受けて未だ押し黙っている中、代わりに吼えたのはロキ・ファミリアの団長であるフィンだ。

 

「そうはいかない!僕達はこの戦争遊戯に僕達自身と女神フレイヤによって歪められたオラリオに暮らす人々全員のプライドを賭けて臨んでいる。道理を考えるなら、ノクス君の方こそ手を引くべきだ」

 

 フィンの言葉に同調するようにガレスとリヴェリアは力強く頷き、ベートとティオネとティオナはここぞとばかりに口汚くノクスの事を罵る。

 その中でアイズはより激しさを増した怒りを携えた瞳でノクスの事を睨みつけていた。

 

「それは蛮勇だぞ、フィン(勇者)。そのせいでお前はファミリアの仲間を失う事になる。アリーゼ、お前はどうする?」

 

「……リア、アナタは引きなさい」

 

「団長!私だって!」

 

「多分ノクスは本気よ。この戦いでアナタを庇いながら戦える者はいない。悪いけど今のアナタは足手纏いにしかならない」

 

「っ!お願いします、あの人の目を覚まさせてやってください」

 

 アリーゼが力強く頷いたのを確認して、リアはその場を離脱する。

 それを見届けてアリーゼは残るファミリアの仲間に語り掛けた。

 

「セレネ、悪いけどリオンとリヴェリアだけじゃ治療師が足りない。アナタにとっては辛い戦いになるかもしれないけど」

 

「大丈夫よ、アリーゼ。私は最初からあの馬鹿を殴ってやるつもりでいたんだから」

 

「おー、怖い。団長もセレネも愛と憎しみは何とやらかしら?」

 

「輝夜、この期に及んで茶化すのはやめなさい。それに愛と言うならアナタも人の事をとやかく言う資格はない筈だ」

 

「なっ!?」

 

「はいはい、そこまで!」

 

 アリーゼは大きく手拍子を一回打つと、改めてノクスに向き直る。

 

「という訳で、ノクス。確かにさっきのアナタの言葉に反論する力は今の私達にはないかもしれない。それでも私達の英雄であるアナタに、私達の正義を証明する為に戦うわ!」

 

「……本当に愚かだな」

 

 そしてノクスと対峙する者達が各々に武器を構えて立ち上がる中、最後に漸く意識を取り戻したベルが立ち上がる。

 だがノクスは敢えてベルにだけは何かを語り掛ける事はなかった。

 その赤き瞳が如くベルが内に宿す炎はまだ燃え続けており、ノクスが与えた洗礼にも心が折れる事はなかったらしい。

 それは恐らく仲間と協力しながらもオッタルとアレンを超えた事による成長だろうとノクスは推測する。

 この分なら先程の二の轍を踏む事はないと、ノクスは改めて標的と定めたベルに敵意を含んだ視線を送った。

 

「ならば、お前達には絶望を与えよう」

 

 その言葉を最後にノクスの口が紡ぐは魔法の詠唱。

 

【天命は果たされず、安寧の静寂は訪れぬ】

 

 それと同時に周囲に聖鐘楼の音が響き渡る。

 ベルの『英雄願望(アルゴノゥト)』の大鐘楼と非常に良く似た音色を奏でながらもその効果は真逆。

 

「何としても詠唱を止めろ!」

 

 例え恩恵を持たぬ者でも明確に感じ取れる程の悪寒が辺り一帯を包み込む。

 フィンの号令でリヴェリアを除いたロキ・ファミリアが一斉にノクスに襲い掛かるが、怪我が完治していない事を差し引いても明らかに動きが鈍い。

 魂まで凍てつかせる聖鐘楼が奏でる音色は敵対する者に対して大幅なステイタスダウンと戦意喪失の効果を齎す。

 

【然れど才禍は還ることなく、終焉の眼前にて再臨す】

 

 それに対して敵意ではなくあくまでノクスに対して義を通す為に剣を取ったアストレア・ファミリアだったが結果は変わらない。

 未だノクスの付与魔法【リソナーレ】の効果は切れておらず、その矛先が届く前に衝撃波によって弾き返されてしまう。

 

【約束されし福音と魂の平静を告げよ、聖鐘楼】

 

 そして自分の為に戦いへ身を投じてくれた仲間が次々と倒れていくのを堪えながら、ベルは例え僅かな間でもノクスの動きを観察することに徹した。

 ノクスの動きに連動して発生する衝撃波が及ぶ範囲、その隙間を縫ってノクスに接近する事が出来るかどうか。

 ヘディンが託してくれた【ラウルス・ヒルド】の効果は既に切れており、成功する確率は絶望的。

 

【血を標に我が身へ依りて、汝が望みし世界の在り方を示さん】

 

 それでも一縷の望みに賭けて今度は間違えることなく冒険者としてベルは勝負に出た。

 今までの経験とLv.6までランクアップを果たした冒険者の勘、そこに希少な発展アビリティである幸運の効果も相まってヘスティア・ナイフは確実にノクスの胸元を捉える。

 

【『ギフ・アドウェントゥス(才禍再臨)』】

 

 しかし現実は何処までも無情だ。

 ノクスが突き付けられたヘスティア・ナイフを鷲掴みにすると同時に、詠唱が完了する。

 甲高い音と共にヘスティア・ナイフは圧倒的な握力によって力任せに砕かれた。

 今までずっと共に戦い自分を守ってくれてきた武器(相棒)の最期に感情が追いつかぬ程の衝撃がベルを襲う。

 そして砕け散ったヘスティア・ナイフの破片を挟んでノクスと目が合ったベルはその変化に気付かされた。

 

「その眼、義母さんと同じ?」

 

 碧眼だったノクスの双眸は詠唱を終えて、翠と灰のオッドアイへと変化している。

 その意味を理解する間もなく、ベルの全身を砕く衝撃が襲った。

 

福音(ゴスペル)

 

 ノクスが新たに発動した魔法【サタナス・ヴェーリオン】。

 超短文詠唱でありながら目の前にいたベルのみならず、その場にいた全員を圧倒的な破壊力と射程を誇る音の塊が襲った。

 あくまで副次的な効果であった【リソナーレ】の衝撃波と違って、明確な意思を持って放った攻撃魔法はノクスが宣言した通り絶望を齎す。

 後に残されたのは静寂だけ。

 その静寂の中一人佇むノクスの意識は、およそ八年前の久方ぶりにオラリオを訪れた始まりの日に遡っていた。

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