才禍を継ぎし碧き瞳の灰兎   作:醜い蛭子

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第02話 神様ーヘルメスー

「げっ!?」

 

 いきなり背後でそんな声を上げられて思わず振り返ると、改めて俺の主神となったヘルメスが何やら引き攣った笑みを浮かべている。

 オラリオに着いて早々にちょっとした騒動に首を突っ込んでしまったものの、夕暮れ前には無事に俺は目的地だったヘルメス・ファミリアの本拠地に辿り着いていた。

 ヘルメス・ファミリア──ダンジョンの探索以外にもそれに必要となる道具の販売なども行っている商業ファミリアも兼ねており、その規模はまさに中堅ファミリアといった感じだ。

 ただ俺が必要としている恩恵には特にファミリア自体の力が関係ある訳ではない。

 勿論ファミリアの規模が大きければダンジョンの探索も進めやすくなるので得られる経験値(エクステリア)も多くなるメリットもあるだろうが、それに関しては俺自身の頑張りで補えば良いと考えている。

 そして今いる場所はヘルメス・ファミリアの本拠地にあるヘルメスの私室。

 普段ヘルメスは本拠地を留守にしている所かオラリオに居ない事も多いらしいが、今日は上手い具合に鉢合わせる事が出来た。

 ジジイからの紹介状を見てヘルメスは何やら思う所がありそうな表情を浮かべていたものの、取り敢えずは眷属として受け入れて貰えて今に至る。

 

「さてノクス君、いや一応はこれで晴れて俺の眷属(子供)という事になったからノクスで良いかな?お待ちかね、神の血(イコル)による神の恩恵(フォルナ)の詳細だ」

 

 そして背中に刻まれた恩恵を写した紙をヘルメスから手渡され、俺はその中身に目を通す。

 

ノクス・ハッシュ

Lv.1

 力:I0

耐久:I0

器用:I0

俊敏:I0

魔力:I0

《魔法》

【リソナーレ】

・音付与魔法

・力と俊敏の基礎アビリティに高補正

・任意で動きに連動した衝撃波の発生

・詠唱式【響きて、威よ】

【ギフ・アドウェントゥス】

・才禍再臨

・全能力強化

・詠唱式【天命は果たされず、安寧の静寂は訪れぬ。然れど才禍は還ることなく、終焉の眼前にて再臨す。約束されし福音と魂の平静を告げよ、聖鐘楼。血を標に我が身へ依りて、汝が望みし世界の在り方を示さん】

【】

《スキル》

不朽才禍(ギフ・エタルヌス)

・早熟する

・能力の常時限界解除

・偉業達成の困難

才禍煥発(ギフ・カンテレ)

・任意発動

・全アビリティに超高補正

・発動中は精神力の常時減少

 

 ……駄目だ、さっぱり意味が分からない。

 力が0とか記されていると何だが地味に傷つくが、これはあくまで恩恵を授かった時点を基準としている事は事前におっさん(ザルド)から話を聞いていた。

 取り合えず今の時点では余り気にしても仕方ないだろう。

 そうなるとやっぱり気にすべきは魔法とスキルか。

 全然自覚はないものの、このステイタスに依れば既に俺は魔法を発現しているらしい。

 

「えっと、【響きて、たけ】「うおぉぉっい!?」

 

 しかし物は試しと折角なので詠唱してみようと思ったら、何故だかもの凄い勢いでヘルメスに阻止された。

 

「まさかここで魔法を使うつもりだったのか!?もしや天然なのかい、君は?」

 

 まるで人を考え無しみたいな、酷い言いようである。

 まぁこんなに早く魔法を習得できるとは思っていなかったので、少し舞い上がっていたのは否定できないが。

 

「ノクス。予め言っておくけど、恩恵を授かったばかりのステイタスとしてこれは異常だぜ。エルフでも無いのに最初から魔法が2つ、加えてスロットがまだ一つ余ってると来てる。それにスキルの方も気に掛かる点はあるが、いずれにせよ普通じゃないことは間違いない」

 

 そしてすぐに戻ってくると言って部屋を出て行ったヘルメスの背中を見送って、俺はその言葉を一人反芻していた。

 自分に才能があるかどうかを問われた場合、それを否定する事は却って傲慢になると思う程度には俺も自分の力に対して自覚はある。

 姉さんから課せられていた冗談みたいな耐久テストも何だかんだ常に乗り越えてきたし、おっさんに叩き込まれた剣技も型を倣うだけなら見ただけで簡単に習得する事が出来た。

 しかし結局重要なのは才能があるかどうかではなく、自分自身の力で何かを成せるかどうかだ。

 アルフィア姉さんは生まれた時から酷い病を患いながらも、リヴァイアサンを討伐するという偉業を成し遂げた。

 メーテリア姉さんだって普通の生活が送れないくらい身体が弱かったのに、命を次の世代へと繋いだのは本当に凄い事だと思う。

 そんな姉弟の中で唯一健康な身体を授かり人並み以上の才能を持つ俺が為すべき事。

 それはやはり生半可な事では許されないという思いが俺の中にあった。

 

「やぁ、待たせたねノクス。ファミリアの皆に君をお披露目する前に、まずはうちの中核を担う三人を紹介しておこうと思ってさ」

 

 漸く目的への第一歩を踏み出してらしくもなく感傷的になっていると、ヘルメスが部屋に戻ってくる。

 そしてその後ろに二人のヒューマンと今まで見たことがない種族の獣人が続いて部屋に入ってきた。

 

「さてまずは我がファミリアの頼れる団長にして、皆を明るく照らす太陽が如き美女リディス!」

 

「やっほー!リディス・カヴェルナだよ、よろしくね♪」

 

 オラリオに来てからずっと同じような感想ばっかり抱いているような気もするが、これまたビックリするような美女だった。

 襟付きの白いブラウスにネクタイを締めたパンツ姿のリディスはまさに麗人といった印象を与えるが、その容姿に反して言動の節々に何処か幼さを残しているように感じられる。

 しかし却ってそれがリディスの天真爛漫さを際立たせており、ヘルメスが太陽と比喩したのも頷けた。

 それに予め団長と紹介されたせいもあるかもしれないが、俺を見る目はただ無邪気というだけではなく何処か思慮深さも含まれている気がする。

 

「続いて今やファミリアに欠かせぬ存在となった可憐にして知的!うら若き副団長アスフィ!」

 

 そして何度目になるか分からない美女……いや随分と大人びて見えるが多分年齢は俺と同じくらいなので美少女と言うべきか?

 水色の髪をショートカットに切り揃えたアスフィは、鋭めの目付きに掛けている銀縁の眼鏡も相まって確かに理知的といった雰囲気を持つ風貌をしている。

 それに何と言うか佇まいに気品のようなものが感じられ、あくまで俺の想像上のイメージに過ぎないが貴族の息女が連想された。

 その一方で俺がアスフィの事を大人びていると感じた理由は、どうもその表情に気苦労が滲み出ているからのようだ。

 楽観的に見える団長のリディスと少し気難しそうな副団長のアスフィ。

 そういう関係を考えればアスフィが心労を負いやすい立場にあるのかもしれないと、俺なりにヘルメス・ファミリアを取り巻く環境を推測してみる。

 

「……ヘルメス様、その不快な紹介を止めて貰っていいですか?」

 

「何だアスフィ、照れてるのかい?」

 

「少なくとも初対面の相手に対してそんな紹介をされれば、羞恥心が湧くのは当然です!」

 

「でもノクスだってアスフィが綺麗だって思うだろ?」

 

「……そりゃこんな整った容姿の人を綺麗だって思わない人間はいないでしょ」

 

「なっ!?」

 

 ヘルメスに振られたので素直な感想を答えると、アスフィは顔を真っ赤にする。

 どうもヘルメスによって褒められ慣れてるのかと思ったが、意外とそうでもないらしい。

 

「えー?ノクス、私は?」

 

「リディス団長も凄くお綺麗ですよ。正直こうして近くにいるのも、気後れするくらいです」

 

「わー、嬉しい!でも全然遠慮とかしなくて良いからね」

 

「おや?意外と女性(レディ)の扱いに手慣れてるようだ」

 

 何やらしたり顔でヘルメスはそんな事を言ってくるが、完全に誤解である。

 事実さっきは美人に囲まれたのが気まずくて、その場から逃げ出したくらいだ。

 だが自分から積極的に相手を褒めるような真似をするなら兎も角、今はあくまで質問に答えているだけに過ぎない。

 しかも本当に気を遣って言葉を選ばなければならないような相手という訳でもなく、リディスとアスフィに向けた言葉も何の偽りもない本音を口にしただけだった。

 尤も美人を相手にすると緊張する事に変わりなく、それはヘルメス・ファミリアでも逃れられないようである。

 そうなるとファミリアで頼りにすべきは中核を担うという残る一人である獣人の男だろう。

 この茶番を前にしても眉一つ動かさない姿は、何処か武人めいているようにも感じられた。

 こういう雰囲気の男はおっさんで慣れているので、寧ろ俺にとっては頼もしく思える。

 

「そして最後はムッツリスケベな虎人(ワータイガー)、ファルガー」

 

 しかしそう思ったのも束の間、ヘルメスからの思いがけない言葉に俺は思わず聞き間違えを疑う。

 

「ヘルメス様!何で俺の時だけそんな紹介なんですか!?」

 

「だってアスフィから止めて欲しいって言われたから」

 

「だからって俺の時だけ貶めるような事を言わなくたって良いでしょ!」

 

「おいおい、ファルガー。男にとってスケベっていうのは別に悪いことでも何でもないぜ。それに俺達は一緒に覗きをする仲じゃないか?」

 

 ……ドン引きである。

 俺の精神的なフィルターもあるかもしれないが、今のファルガーからは先程までの風格が完全に消え去っていた。

 今度おっさんに会ったら少しでもこんな輩と似ていると思った事を謝らなければなるまい。

 しかもヘルメスはヘルメスで自分の罪までちゃっかり告白している。

 ヘルメスに対する第一印象は何処か胡散臭いといった感じであったが、よく考えるまでもなくあのジジイの神友なのだ。

 ヘルメスがこういう側面を持っていても何らおかしくはなかった。

 この状況を前に絶句していると、俺の肩を手に置いたアスフィが諦めを促すように目を伏せながら頭を振る。

 

「……入るファミリアを間違えたかな?」

 

「残念!一年は改宗出来ないって決まりがあるんだ。だから最低でも一年は仲良くやろうぜ、ノクス!」

 

 こうなっては本当にもう諦める他ないだろう。

 ただ別に無理して良いところを探そうという訳でもなく、少なくともこの場は温かな雰囲気に満たされている。

 ヘルメス・ファミリアの本拠地に来るまでの道中もオラリオを流れる空気はやはり重く沈んだものであり、姉さんが語っていた以上に街が深刻な状況である事を肌で感じさせられた。

 そんな中で新人に対する空元気だけなのかもしれないが、それでも努めて明るく振舞おうとすること自体に今の時代では価値があると俺は思う。

 そう考えるとこのヘルメス・ファミリアの眷属になった事も決して最悪の選択ではない筈だ。

 ……変に染まりたくはないものだが。

 

「さてではそろそろ本題に入るとしようか。わざわざ先に三人に集まって貰ったのは他でもないノクスの今後について話し合う為だ。まずはその前にノクス、君の冒険者としての最終的な目的を話して貰えるかな?」

 

「黒竜の討伐」

 

 ヘルメスの問いに対する俺の即答を聞いて、他の三人が浮かべた表情は一様に驚いた表情だ。

 俺も自分が口にした言葉がこの世界で何を意味するかは十分に理解しているので、それを駆け出しの冒険者が宣言したとなれば嘲笑されても致し方ない。

 しかし誰も俺の言葉に口を挟んだり、否定するような真似もしなかった。

 それは単に俺に対する配慮というよりも、ヘルメスの次の言葉を待つ為の信頼関係によるものだと感じられた。

 

「俺は割と本気でノクスの事を応援したいと思ってる。けど言うまでもなく正直うちのファミリアの毛色とノクスのやろうとしてる事が合ってるとは言い難い。そうなるとリディス、俺達はどうすべきだと思う?」

 

「うーん、黒竜を倒す為にはやっぱりダンジョンに潜って強くならないといけないよね?だったらノクスにはファミリアの仕事をあまり任せないでダンジョン探索に専念して貰って、私達はそのサポートをするとか?」

 

「流石リディス、俺が言いたい事をしっかり言い当ててくれたぜ!要は同じファミリアではあるけど俺達は支援者(スポンサー)のような形でノクスの事を支えていこうって寸法さ」

 

「ヘルメス様の方針は概ね理解できました。しかし本当にそれだけの逸材なら、今のオラリオの状況でダンジョン探索だけに専念させるというのは……」

 

「勿論アスフィの言いたいことも分かるさ。なぁノクス、今のオラリオの状況について何処まで把握してる?」

 

闇派閥(イヴィルス)って悪党達が好き勝手やってるって事くらいは。あとそれに関係あるか分からないけど、今日はオラリオに着いて早々に人攫いの連中と鉢合わせしたばっかりだ」

 

 すると俺の言葉を聞いて、アスフィがまた驚きの表情を浮かべた。

 

「まさかシャクティやアリーゼが言っていた少年とはアナタのことですか!?」

 

「シャクティとアリーゼ?あぁ、日中その人攫いの現場に駆けつけてくれた内の二人がそう名乗ってたな」

 

 ガネーシャ・ファミリアとアストレア・ファミリア。

 少なくとも七年前の時点でアストレアという神の名に聞き覚えはなかったが、そのファミリアの一員であるアリーゼが正義の眷属と名乗っていた辺り恐らくガネーシャ・ファミリアと似たような活動をしているのだろう。

 

「それでシャクティちゃんとアリーゼちゃんは何と言ってたんだい?」

 

「最近『奴隷猫』の目撃情報が多く寄せられていた地域を巡回していた所、ジュラを発見した時は既にオラリオに来たばかりの少年によって人攫いの仲間諸共打ちのめされた後だったと」

 

「ノクス、それがつまり君って事か?」

 

「一応」

 

「凄いな、オラリオに来て早々かのアストレア・ファミリアとお近づきになるなんて!」

 

「驚くところはそこじゃないでしょ!!ジュラは二つ名持ち、つまりはランクアップを果たしているという事です!シャクティはオラリオの外で恩恵を受けていたのではないかと推測していましたが……」

 

「いやいや、ノクスの初めてを奪ったのは間違いなく俺だぜ!!」

 

「アハハー。ヘルメス様、言い方~」

 

「しかしこれでヘルメス様が本気で期待を寄せるだけの資質がノクスにある事は証明された訳だ」

 

 もしかして軌道修正しようとでもしているのか、いつの間にか元の表情に戻っていたファルガーがそう締めくくる。

 しかし色々と評価されているのは間違いないようだが、今の話でそう結論付くのはいまいち腑に落ちない。

 

「確かにジュラって賞金首を倒したのは俺だけど、不意を突いた事を抜きにしても本当に大した腕じゃなかったぞ。あんな奴を倒した程度で、そんなに騒ぎ立てるような事じゃないだろ?」

 

 すると今度は驚かれるというよりも、何故だか全員から信じられないものを見るような視線を向けられた。

 そしてアスフィが何やらヘルメスと目配せすると小さく溜息を吐き、如何にもやれやれといった様子で説明を始める。

 

「……これは少しアナタの認識を正しておく必要がありそうですね。まず前提として神の恩恵(フォルナ)の中でもランクアップを果たすという事は恐らくアナタが想像している以上にずっと大きい意味を持つ」

 

「普通のアビリティが経験によって伸びるのと違って、Lvがランクアップするにはちゃんと神様から認められなくちゃならないからね」

 

「この神から認められるというのも例えばヘルメス様のような一柱の神による裁定ではなく、詳しい条件が判明している訳ではありませんが言うなればどの神の目から見ても公正な偉業を成し遂げることだと言われています」

 

「偉業か」

 

 アスフィの言葉に俺は手に持ったままのステイタスが記された紙に視線を落とす。

 結局まだその内容の殆どが理解出来ていないままだが、そこに書き連ねられていた一文。

 これは俺の行き先が前途多難である事の前触れかもしれない。

 

「そしてランクアップするという事は神に近付くという事と同義であり、器の進化が促され心身が大きく成長を遂げることになる」

 

「けどそのランクアップするのに善悪の区別はない。だから闇派閥の中にもランクアップしてる奴は普通にいるし、そのせいで俺達も苦労してる訳だ」

 

「ファルガー、そう恨めしそうな顔をしないでくれよ。俺だって一応はその事に心を痛めてるんだぜ」

 

「えっとそれでつまりは、Lv.2でもランクアップしてる眷属は普通の人間と比べて滅茶苦茶強くなってるって事だよ」

 

「ざ、ざっくりし過ぎですが、リディスの言っている事に間違いはありません。一応はランクアップした時点でのアビリティによって同じLvでも強さには大きく変化が生じますし、稀ではあるものの時に冒険者同士の戦いではLv差を覆すジャイアントキリングも起こり得る。それでも恩恵を持たない者がランクアップを果たしている眷属に勝つなんて事は普通じゃ絶対にあり得ない。ジュラがLv.2でも最底辺の力しか持っていなかったと仮定したとしても、それを何もさせないまま圧勝したと言うならアナタはヘルメス様から恩恵を授かる前からLv.3以上の力を有していたことになります。それではまるで神々が地上に降りてくる以前に活躍したと言われる古の英雄のようじゃないですか!!」

 

 最後は何故か興奮するように少し語気が強くなっていたアスフィの言い分に俺は多少なりと心当たりがある。

 最高峰の力を持っていた筈のゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアに足りなかったもの。

 その答えとして姉さんは今まさにアスフィが口にした古の英雄の力と捉えている節があった。

 もし俺が課せられていた数々の厳しい修行が神の恩恵なしに何処まで高みに至れるか試す為のものだったとしたら?

 とにかくアスフィの説明のお陰で、俺も周りとの認識のズレが少しは解消できたようだ。

 

「さて取り敢えずノクスの無自覚無双系なボケも解消できた所で本題に戻るとしようか?俺はさっきノクスが目的を達成する為に全力で応援すると言ったが、実を言えばアスフィと同じように闇派閥からオラリオを守る為に力を貸して欲しいと思ってる。どうかな?」

 

「どうって聞かれても、最初からそのつもりだったし」

 

「え?」

 

「いやだってさっきは最終的な目的を答えただけで、そもそも闇派閥を一掃する事がオラリオに来た第一目標だからな」

 

「……もしかしてヘルメス様、最初から知ってました?」

 

「そんな目で見ないでくれよ、アスフィ。ただもう皆が察しているように、ノクスは俺達の未来を左右するであろうエースの器に留まらないジョーカーだ。だから一番最初に根っこのスタンスを確認しておこうと思っただけさ」

 

 別に一連の流れの中でヘルメスが何か悪さをした訳でもないのだが、アスフィが色々と振り回される役回りという事は理解出来た。

 本人がどう思ってるかは分からないが既に俺は同情心を抱いてしまったので、同じファミリアになったからには多少なりとも支えてあげたいと思う。

 しかしそうなるとファルガーは弄られ役といった所で、リディスは団長なだけあって何と言うかよりヘルメスに近い立ち位置であるように感じられた。

 そしてそれを裏付けるように、リディスは今後の俺の扱いについて話を付け加える。

 

「でもアスフィ。いくらノクスが出鱈目に強いと言っても、恩恵の力に慣れる為の時間も必要だと思うな。だから私からの提案だけど、やっぱりノクスには少しの間ダンジョンに潜って経験を積んで貰わない?」

 

「そうですね。オラリオに来て早々に命懸けの対人戦に駆り出すと言うのも少し忍びないですし」

 

「ノクスもそれで良いかな?」

 

 別に俺としてはその提案を断る理由はない。

 さっきは途中で止めてしまった魔法も試してみたいし、何より前はオラリオに住んでいても一回も入って事がなかったダンジョンそのものに対する興味もある。

 ここは素直にリディスとアスフィの厚意を受け取って置くことにしよう。

 こうしてヘルメス・ファミリアの幹部である三人との顔合わせが済んだ後、俺の歓迎会が開かれた。

 よくよく考えれば今まで家族以外と深い人間関係を築いた事がなかった俺にとって何だがこそばゆい時間であったが、意外と俺は人と接するのを苦に感じるタイプではないらしい。

 そしてその翌日、いよいよ冒険者として俺の新たな日々が始まるのだった。

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