徒花事案報告ファイル   作:時雨オオカミ

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F-08-62 その声に聞き覚えはありません

 ◯F-08-62 その声に聞き覚えはありません

 

 ・分類①御伽話

 ・分類②不定形

 

 ・発生場所◇青薔薇棟 廊下

 ・危険度 ◇B

 

 ・詳細

 青薔薇棟のほとんどの廊下に出没する徒花事案である。

 奥行7m,間口9m,面積63㎡,そして天井高が4m程度の規定以内の教室に生徒が七名以上集まることによって発生する。

 平均的な教室の大きさよりも広い談話室やレクリエーションルーム、寮食堂などの集合では発生しない。

 生徒同士に面識があるかどうかは関係なく、教室内に七名が集合した時点で教室に面した廊下に出現兆候となる大きな影が発生し、廊下内に微細な霧が漂い始める。

 この時点では危険度は低く、出現兆候が出た場合生徒は速やかに鍵のかかる他の部屋へと避難しなければならない。

 出現兆候が現れてから五分後、『あなたはその声に聞き覚えがありません』が出現する。

 出現兆候が現れている時間に、七名に達していた部屋から退出者が出ると上を見上げて即座に消失する。

(音声記録により不可視の狼に捕食されたとみられるが、魔導監視カメラの映像では現場の魔力の揺らぎなども何一つ観測されていない)

 

 そのため、出現兆候が発生している際は退出者がいてはならない。また、『あなたはその声に聞き覚えがありません』の本体発生時に廊下へ存在するあらゆる人間は捕食されるとみられるため、廊下に存在する人間は発生までにどこかの部屋へと入室し、鍵をかけなければならない。

 

 出現兆候が出てから五分後に霧が一箇所に集まり、本体らしき瘴気の塊が発生する。

 姿は流動体かスライムのように瘴気が渦巻いており、ときおり脈をうつように肥大と縮小を繰り返している。瘴気の塊となっている中心に物体が存在するかどうかは不明。

 

 『あなたはその声に聞き覚えがありません』の本体が発生すると、はじめに七名が集まった部屋の扉に対して瘴気で構成された触手を伸ばし、ノックを行う。また、魔道監視カメラによる観測では「もういいかい」、または「ただいま」などの言葉を老若男女、あらゆる声が重なり合ったような音で繰り返すのが確認されている。(解析魔法による音声の分解、元となった声の人物の特定が行われたことがあるが、いずれも不明の結果となっている)

 

 部屋の中にいた者へのインタビューによると、『あなたはその声に聞き覚えがありません』による呼びかけは大切な存在。特に母親の声や父親の声によって行われているように感じた場合が最も多かった。

 

 この現象は扉越しの呼びかけ発生から十分後程度に終了する。廊下から瘴気の塊が消失するのが確認されてからさらに十分後までに七名以上存在する部屋の人数を調整しなかった場合、再びこの徒花事案が発生する。

 

 ・補遺

 出現兆候があった場合、青薔薇棟内に自動アナウンスが流されます。特殊な魔道具によるアナウンスであるため、ほとんど棟内の瘴気汚染には影響されません。ただし、持続的な清掃魔法を週に一度メンテナンスとして教員がかけ直してください。

 

 アナウンスの文言は以下です。

 

「『あなたはその声に聞き覚えがありません』の出現兆候が確認されました。個室に七人以上で集まっている生徒の皆様は、今すぐに部屋へ鍵をかけ、どのような声掛けが行われても部屋の扉を開けないでください。

 

 青薔薇棟廊下◯(出現地域)に現在いる生徒は自習室◯(七名以上の教室)以外のお近くの部屋に速やかに入室し、廊下に滞在しないようにしてください。徒花事案の出現解消の放送が入るまで、決して部屋から出ないようにしてください。知り合いの声で部屋への入室を希望されても入れてはいけません。

 

『あなたはその声に聞き覚えがありません』の出現まで残り三分……放送を繰り返します……」

 

 また、アナウンスの終了報告は以下のものとします。

 

「『あなたはその声に聞き覚えがありません』の出現解消の確認がとれました。七人以上の部屋は速やかに退出を行い、人数の調整を行なってください」

 

 ・事案1

 出現兆候が現れている状態で七名以上の部屋の前に立った生徒が硬直し、虚空を見つめて数拍後に上半身が消失。バタバタともがく足はゆっくりと不可視の空中へと消えていきました。

 

 同時に生徒と視覚共有をしていた使い魔が発狂。暴走を起こし、廊下に面した他の部屋の一部の壁が破損。パニックに陥った部屋の生徒が我先にと逃げ出しました。

 更に別の部屋へ避難した生徒は無事でしたが、部屋の中に残っていた数名が逃げ遅れて次々と空中に消失する現象が起こり、自身の命が助からないことを悟った生徒の一人が魔導監視カメラに向けていくつかの言葉を発して消失。

 

 言葉の内容はこの徒花事案の不可視の姿に関するものです。内容は以下。

 

(ノイズ音)

 

 デカい狼だ。天井より低いから多分2メートルちょっとくらい。

 よだれがすごいからぜってー腹空かせてる。さっき一人食ってるのにな。

 

(恐怖による荒い息遣い)

 

 腹はあんまり膨れてない。御伽話みたいに腹掻っ捌いて人を助け出すのは多分無理。つかそもそも見えないから掻っ捌けないか。

 

(微かな笑い声)

 

 お袋の声でただいまって言ってる。最悪。

 多分こいつ、『君だけのハッピーエンド』と似たような存在だと思う。魔法は効かないっぽい。

 あいつを飲み込んだらこっちに来るな。クソがよ。

 

 多分、こいつにターゲットされてる人間だけが姿が見えるし接触できるんだと思う。こいつが教室に入ってきた時点で俺は見えるようになったし。

 

 俺で何人目だ?

 ロッカーに隠れてるやつは見つからないかも。

 

 カーテンにくるまってたやつは普通に見つかってた。

 物理的に見えるか見えないかが問題か? 分からない。

 

 少なくとも隠れるために自分に隔離魔法使ったやつは速攻で食われたから、魔力に反応してる可能性もある。喋ってる俺が後回しにされてるから、多分そう。

 

 きた。

 

 やっぱ怖ぇや。

 あぁ……お前なんかの声で聞きたくなかった。

 

 ごめん母さん、俺、立派な聖騎士になって帰るって約束したのに。ごめん。

 

(話していた生徒の上半身が消失。

 

以前までとは比べ物にならないほどの情報をもたらしたため、該当生徒には勲章が与えられ、学院に成績が保管されることとなりました)

 

 ・事案2

 

 部屋の中の生徒が本体を招き入れてしまう事案が発生。六人が捕食され、七人目のロッカーに隠れていたものの命は助かったものの、発狂。二ヶ月間保健室暮らしを余儀なくされました、

 

・過去の記録と現在との相違

 

 初回の出現時の記録を閲覧すると、扉の向こうの化け物がひどいしゃがれ声で母親、または姉を名乗るなどしていたという記述が存在しています。

 また、扉についている小窓に真っ黒な獣の腕が見えたという証言も存在しています。

 しかし、現在のこの徒花事案にはそのような記述は見当たらないため、過去二回に渡って変質を起こし、ターゲットにしている人間の大切な人の真似に関するアップデートが行われている可能性が示唆されています。

 今後、更なる変質を起こさないためにも現在の対策方法を徹底して行なってください。

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