・インタビュー記録
故生徒によるインタビュー記録が発見されました。
なお、真紅の貴婦人と思われる声は、直接録音を聞いた人間に一定の魅了効果のようなものを与えました。聞いた人間は無性に薔薇園に赴きたくなり、その声を自分自身に賜りたいと願うようになります。
いずれも苦い思い出、叶えたい負の願いがある者であったため、たとえ声だけだとしても真紅の貴婦人の求める『過激な吐露』を行える人間に対する誘引効果が存在することが明らかになりました。
声に乗せた魔力の波導を浴びることで精神汚染が発生していると考えられます。
以下はインタビューの録音内容の書き起こしです。
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〈ノイズ音〉
「準備ができました。ミセス・ローズ」
「そう、本当にインタビューなんてものをはじめるだなんて、おもしろい子供ね。お土産のタルトまで用意してくるんだもの。今はとても機嫌がいいから、答えてさしあげますわ。けれど、質問は二つまでよ。あたし、あまり気が長いほうではないの」
「分かりました。寛大なお心に感謝を」
〈紙の擦れる音〉
「と言っても、僕が聞きたいのはほとんど一つと言ってもいいでしょう。けれど、二つまでいいなら、これも聞いておきましょうか。後輩たちのために必要だ。ミセス。貴女は負の吐露を求めていますね。それはなぜですか? 人の愚痴や恨み言を一方的に聞かされるというのは、あまり気分の良いものとは言えないと思うのですが」
「あら、そんなことはありません。あたしは人間の人間たる所以を、剥き出しの感情を愛おしく思っているだけですのよ。特にあたしが好きなのは復讐心。暗い死の足音が忍び寄る中、それでも牙を突き立てようとする可愛らしい足掻きは見ていて飽きませんもの。
永遠の平穏なんて、起伏のない物語を見てもなにもおもしろくはないでしょう? あたしは激しい怒りに震えて、懸命に刃を握り、震えながら振り下ろす復讐譚の主人公のような子が好きなのよ。
誰だって過激なのがいいに決まっているもの。報いは派手に。華麗に。血に塗れた醜いものであるべきなの」
「……なるほど。だから対価も派手なんですね」
「それは質問かしら」
「いいえ、ただの感想です。物語には山や谷があってこそ、というのなら確かにそういうものですね……とは思います」
「あら、なにか言いたげなお顔ね。構いませんわよ、今のあたしはとても機嫌がいいの」
「創作の中の物語でなら過激なものが求められるのも分かるのですが、その……人の人生は平坦なほうがいいのではないかと」
「あなたたちにとってはそうでしょう。けれどあたしにとっては、あなたたちの人生はあなたたちが娯楽として物語を消費するのと同じように、一時的な楽しみとして消費するものでしかないわ。同じ価値観でものを語れるとは思わないことね」
「これは失礼しました。二つ目の質問です」
「そうね、そしてあなたの命をどうするかを決める大事な質問でもあるわ。どうか慎重になさって」
「……この学院では理不尽に生徒が徒花と称される現象に殺されていきます。先日、僕の婚約者が死んだことはご存知ではないでしょう。ミセスにとっては些事でしょうから」
「ええ、それで?」
「僕はあなたに弓を引く。あなたに対する報復を願いたい場合、徒花事案に対する復讐を願う場合、あなたは叶えてくれますか」
「うふふ、本当に可愛い子。まだ言いたいことがありますわね。続きをどうぞ」
「この僕、ロイド・【検閲済み】【検閲済み】はミセス・ローズ。あなたの退散を願います。学院が、世界の平和のために、皺寄せの残り滓を引き受けていることは理解しています。けれど、負担が大きすぎる。
僕自身が結実しない花となってもいい。どれほど長い苦痛を受けてもいい。その代わり、この学院で、恐らく徒花を全て管轄しているあなたにお願いしたい。いくらかの徒花を始末していただけませんか。どうか【検閲済み】様」
「あらあら、このあたしにそんなお願いをするだなんて、なんて蛮勇なのでしょう。思い上がって英雄にでもなれると思っているのかしら。
けれど、おもしろいから、そうね。
取引と勝負をしましょう。
あなたを中心に五十の徒花を編み込んで花束を作ってさしあげますわ。
姿はあたしの好きな麗しい真紅の薔薇。
その姿で飢える苦痛と無数の徒花による精神の汚濁に苛まれ続けてもなお、あたしに噛みつかずに従順なペットであれたなら、生徒を少し助ける程度の加護は与えてあげましょう。そして、その状態で百年間を耐えることができたのなら、あたしはもう少しだけ手を出すのを控えることにするわ。そうね、あなたたちが決めているランクがBくらいになるように大人しくしてさしあげます。
安心してちょうだい、あたし、約束は守る女なの。
どうかしら?」
〈短い沈黙〉
「………………【検閲済み】、ごめん。君の元にはいけそうにない」
〈ぼそぼそとした呟き。恐らく亡くなった婚約者への懺悔〉
「その提案、お受けいたしましょう」
「あたし、あなたみたいな子って大好きなの。泥臭い沼で咲く花もとっても素敵ですわ。誇りなさい。いらっしゃい、あたしの可愛い主人公くん、長く楽しませてちょうだいね」
〈カシャン、と軽い音がして薔薇園の静寂だけが以後記録され続けている〉
以上の記録から「噛みつき薔薇」は創立十年度の生徒ロイド・フォン・アルディエートの変質した姿だと推測されています。
今も彼は永遠の飢えに苦しみながら真紅の貴婦人との勝負の途中です。
彼を思うのであれば、彼に肉食をさせてはいけません。菓子は必ず持ち歩くようにしてください。