あとがき
私がこの本を執筆するに至ったのは、なんともファンタジーな出会いがあったからとしか言いようがないだろう。
よって、あとがきでは筆者の奇妙な体験からお話ししなければならない。
ある日、私は分厚い本を道端で拾うこととなった。
道端に落ちているのは違和感が強い新品同然で、六法全書並に分厚い本である。
中心に
どうにも怪しいそれをなぜ手に取ってしまったのかは、なんとなくとしか言いようがない。
手に取り、ページを開いて私はとても驚いた。
本は全く読めない文字で全てが綴られていたからである。
見たこともない文字だった。そのため私は興味が湧いて持ち帰ることにしたのだ。
どの国の文字とも言えないそれに悩んでいるときである、ものすごい不審者に出会ったのは。
そう、その不審者こそがアリスとチェシアである。
紆余曲折あり、彼らの言葉をようやく信じた私は、チェシアの翻訳を聞きながらこの本の執筆にとりかかったわけだ。
話を聞くに、彼女の言う水晶でできたドクロ型ランプとはあの有名なオーパーツであるし、彼女の捨てた植物学のノートというのは、どうやらヴォイニッチ手稿なのではないかと推測できるが、それについてはあえて触れない。
さて、そんな経緯により本作は制作され、まずはWebサイトで公開することにした。そのほうが広く認知されるだろうと思っての判断であった。
本作が今後どのように広がっていくのかどうかは、ネットの海に放たれた今不明だ。しかし、これがなるべく広く認知されることを願いたい。
それこそ、アリスの望み通りに本の形になるかどうかは未確定だが、Web上での広がりに期待したいところである。
徒花事案報告ファイルに新たに噂分類で彼女たちのページが追加された以上、アリスとチェシアの行為が実を結ばない徒花として散るか、それともこの試みが成功するのか、それは「噂」を構成する読者の手に委ねられたに等しい。
広く認知されると徒花事案たちの存在強度も同時に上がり、彼女たちが完全に徒花事案へ変異してしまう可能性すらある、そんな賭けのような勝負に出た結果がどう転がっていくのか。
私はそれを最後まで見届けるつもりだ。
さて、そういうわけで協力は惜しまないが、ほんの少しだけ疑問も生じている。
アリスは、アリスの世界が虚構だと定義され、物語が閉じられることでそれ以上の悲劇が続かないよう、ページが追加されていかないように封じようとしているのだが……未来永劫続きが訪れない、進まない世界にすることは、その世界の住民にとって果たして本当に幸せなのか? という疑問だ。
これはそれぞれの考えかたによって変わる、答えのない問いだ。故に、私はこれを世に送り出すことを決定した。
認知されなければ選択肢がそもそも増えないからである。人の数だけ答えがあるだろう。
どんな影響を与え、どんな結末になるかどうかは読者次第である。
あなたはこの問いにどう答える?
閑話休題。
ところで、本作には主人公らしき主人公が存在しないように見えるのではないか? と私は思う。
本作は、この世界に漂着した徒花事案報告ファイルの中から、アリスの世界で起こった出来事に沿うように編集・厳選してファイルの内容や、破られて挟み込まれた日記の一部を記載しているのみだからである。
大きく分けて三つの出来事の流れに対し、記者、よくある悪役タイプの異世界人、アリス、そして全体を俯瞰していた貴族の少女と視点はいくつか存在したが、確実に主人公と言える存在はこう、とは言えない。
私の中でたった一人の主人公は決まっているが、それが読者の総意とも言えない。
さて、ここでひとつだけ読者の皆様に聞いてみたいと思う。
あなたたちにとって、誰がこの本の主人公であっただろうか?
誰が主人公たりえたと思うだろう?
多くの人はアリスと答えるかもしれないが、残念ながら私の中では違う。
執筆した私の中で決まっている主人公のヒントは、ただひとつだけだ。
この本を執筆するにあたって、最初から最後までこの本の出来事を全て眺めていることができたのは、果たして誰であったのか? ということだ。
答えはあえて明記せずに、このあとがきを終えようと思う。
白い兎の名前を持つ記者が導入に導き、アリスが真紅の女王と対峙し、そして夢から醒めるようにこの世界へやってきた。一連の物語はここで終えられる。
読者の諸君、この物語を知ってくれたことを感謝する。
オオカミの名前を持つよしみだ。
著者は彼と彼女の願いが広く伝播し、なにかが起きることをこの七夕の日に願う。
だからこそ、彼女にならって魔法の呪文を唱えて終わろう。
めでたし、めでたし。
著: 時雨オオカミ
なろう、カクヨムでは7月7日の完結だったため、文章そのままにしております。
これにて本編は完結です。
閲覧ありがとうございました!
おまけ話をあと二話ほど用意してあるので、そちらも合わせてお楽しみいただければ幸いです。