徒花事案報告ファイル   作:時雨オオカミ

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F-10-58 悪さをするオオカミ

 ◯F-10-58 悪さをするオオカミ

 

 ・分類①御伽話

 ・分類②侵食

 

 ・発生場所◇位置不特定

 ・危険度 ◇S

 

 ・詳細

 襟足までの黒髪に赤い瞳の青年。頭にはオオカミと思われる耳、臀部には毛並みの悪い尻尾が生えており、伝承における獣人を想起する姿である。

 

 (注釈1 獣人は存在しません。御伽話でしかありません。彼は獣人ではありません)

 

 位置不特定であり、学院内であれば神聖魔法学科以外でもランダム出現するため注意が必要。

 

 (注釈2 神聖魔法学科の生徒以外の者には幻覚で悪戯をする妖精が存在すると伝えられているため、口裏は合わせるようにしてください)

 

 オオカミの出現は雨の日や夜間が最も多いが、場合によっては昼間にも出現することがある。

 

 出現して人を見つけた多くの場合、オオカミはいくつかの質問をしたり、食べ物をねだったり、道を尋ねて案内をさせようとしたり、人を目的地から逸らせて迂回させようとする。

 どのような基準でそれを行なっているかどうかは現状不明である。

 オオカミを避けようと魔法防御壁を張るなどすると、それほど強くない風の魔法で崩されてしまうので話さずに逃げることはほとんど不可能である。

 

 また、徒花事案に出会ってしまった人間の元に現れて、煽ったり、ひとしきり笑ったりなどの行動をして、大きな風の魔法を用いてその場から吹き飛ばし、忽然と消えるという謎の行動を取ることもある。

 

 この行動の結果、徒花事案から逃れることのできる場合があるが、偶然であることに留意が必要だ。

 

 (注釈3 彼に人を助けているという意思はあり得ません。彼をヒーローなどと讃えるのは間違いです)

 

 オオカミは悪さを働く害獣である。

 今は悪さをしていなくとも、必ず悪さをするのだから気を許してはならない。

 いくら人好きのする青年の姿であろうと、呪われた獣を信用してはならない。

 

 ・補遺

 彼が食べ物をねだった際には常備している甘いものを渡してください。

 この徒花事案と噛みつき薔薇が存在するため、常備する菓子は多くなければなりません。

 

 ときおり、青年がなんでも切れる剪定鋏らしきものを所持していることがあります。

 危害を加えられたという例は存在しませんが、適切な距離をとることを推奨します。

 悪さをするオオカミを信用してはいけません。

 

 ・事案1

 真紅の貴婦人のお茶会に誘引された生徒が、三十分以上の滞在で逃れられずにいる際、現れた悪さをするオオカミに食べ物をねだられ、パニックになっていた生徒は彼の言葉に応えることができず、五分後に気分を損ねたオオカミによって魔法で吹き飛ばされました。

 吹き飛ばされたことによる落下の怪我はありましたが、結果的に悪意の吐露をせずに真紅の貴婦人のお茶会から離脱しています。

 真紅の貴婦人のお茶会から軽度の怪我のみ(悪意を吐露した場合の報いは軽度の怪我に収まりません)で脱出することのできた事例は、このように悪さをするオオカミが関与した場合に限ります。

 また、オオカミはこの際真紅の貴婦人の怒りを買っているはずですが、その後も問題なく出現しているためランクはBからSへと上方修正されています。

 

 ・事案2

 幻惑売りの女からマッチを買い取った生徒が、マッチを擦って炎を見つめていると、突然現れた悪さをするオオカミの吐息によって吹き飛ばされ、火傷をする怪我をしました。

 

 幻惑作用のあるマッチの箱の中には、数十ものマッチが残っていましたが、吹き飛ばされた際に紛失されています。

 

 ・事案3

 青薔薇棟の生徒が急ぎの用事で道中のショートカットをするため森の中を通ろうとする際、悪さをするオオカミに呼び止められて迂回を余儀なくされました。

 のちに教員の見回りによって、迂回前の道中に君だけのハッピーエンドが発生していたことが判明しています。

 当該生徒は前日に死に顔カメラにて特定不可能の死者の写真を確認しており、迂回後の実験により死に顔カメラを使用した際は写真に変化が起こり墓石が映っていました。

 このことからオオカミの迂回に関する事象は、話をきちんと聞くことが推奨されています。

 

・インタビュー記録

 

中略

 

「僕は第二十代勇者と聖女の両親の元に生まれた可愛らしい子供だったのさ。え? 二人が死んだ理由? ここだけの話だよ? 父がね、魔物に傷つけられたときに呪いを受けていて、負の感情が栄養になってだんだんオオカミになっていってしまったんだ。母はそんな父を止めるために相打ちになった。

 

一人残された僕は父の呪いを受け継いで、市井に放り出されてしまったんだよね。

 

毎日惨めな生活だったよ。一人きりになったらお金もない。毎日路地裏から人々を眺めて、財布を太らせてそうな人に目をつけてかわいそうな子供のふりをしてご飯をもらったりしてたかな。

 

もちろん、貧しい子供だから気まぐれに助けてくれる人もいたけど、それ以上に悪さをするんだろうってよく決めつけられて苦しかったよ。

パンをもらっても、きっと泥棒したんだろう! って言われて取り上げられたりもした。知ってる? 貴族が持ってるやたらと豪華そうな杖って、案外ぶたれると痛いんだ。脆そうなのにね。

 

僕がこの学院にいるのはね、そんなときに庭師として雇われたからなんだ。

 

分かってるよ。多分最初から閉じ込めるためにこの学院に連れてこられたんだろうね。

でも、それでもいいんだ。薔薇の世話は楽しいし、前より食べ物には困らない。徒花事案に定義されたからか、僕は怖い存在が相手でも死んだりしないし、傷つきにくくなった。

だから、多少は役に立とうと思って、お貴族様たちの命の危機を救って回ってるってわけ。

感謝なんていらないよ。僕に食べ物を分けてくれたらそれでいい。

 

きっと悪いことをするんだって決めつけられるのには、慣れっこだからさ」

 

(録画を止める音)

 

 ・注意事項

 オオカミはいつか悪さをします。

 オオカミを信用してはなりません。

 助けられたからといってオオカミをヒーローのように考えてはなりません。

 オオカミに感謝してはいけません。

 オオカミは絶対に悪さをするものなので油断してはいけません。

 どれだけ可哀想な生い立ちを聞かされてもオオカミは徒花事案です。突如発生したものに人間のような生い立ちなどは存在しません。インタビュー記録は嘘を話しているだけの記録だと推測されています。

 

 殺された第二十代勇者と聖女の夫妻に子供は存在しません。彼の話は全て嘘だと思ってください。

 

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