立派なショウグンギザミ目指します!   作:ルミナリー

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ガミザミ、ヤドを探す

 

 朝の冷たい湿気が洞穴の奥まで染み込んでいた。

 ガミザミ──いや、元人間の俺は目を覚ますと、まず背中に違和感を覚えた。

 

「……あれ? 重くない?」

 

 昨日の夜、初めての脱皮を終え、ふにゃふにゃの身体のまま、満足気に毛皮の上で寝た。だが今朝は、その毛皮から転がり落ち、岩肌に背中をベッタリと押し付けた姿勢で目覚めたのだ。

 

 そのせいだろう。

 脱皮したてで柔らかかった甲殻は、岩の硬さと寝相の悪さの影響で――

 

「へ、へっこんでる!? 背中……凹んでるじゃん!!」

 

 鏡があるわけでもない。でも、動きにくさと違和感でわかる。

 体をひねり、ハサミの先で背中を触ると、見事に歪んだ平面になっていた。

 

「うわあ……俺、変な形してる……」

 

 落ち込んでる場合じゃない。

 変形したせいで今まで背負っていた頭骨が、微妙に合わない。試しに装着しようとしたが、左右の爪の間にスカスカと隙間が空く。ガッチリハマらない。ズレて落ちる。

 

「これ……背負えないのか?」

 

 頭を抱える。だが殻は、防御の要だ。背中を剥き出しにしたまま歩き回るなんて、ただの自殺行為。生きるためには、何かしら新しい“ヤド”が必要だ。

 

「くそ……仕方ない。骨塚に行くか」

 

 覚悟を決め、俺は洞穴を出た。

 

 歩き慣れた足場、這い慣れた地面。

 岩陰を滑り、蔦を避け、かつて諦めた魚影のある小さな水場を通り過ぎ、俺は骨塚のあるエリアまで這ってきた。

 

「さて……この中から、俺に合う“ヤド”を探すんだな……」

 

 骨塚は、死したモンスターたちの集まる墓場。

 大小様々な骨が折り重なり、白と灰のグラデーションが、まるで荒れた波のようにうねっている。

 

「これは……アプトノスか? いやデカすぎ。あっちはケストドンか? うーん……丸みが足りない」

 

 俺は慎重に物色していく。

 ハサミで持ち上げ、角度を見て、裏返し、厚みを測り、背中に合わせてみる。

 

 3つほど、「いけそうかも」と思える骨を見つけた。

 それぞれ、形も用途も違うが、どれもそれなりのフィット感がある。

 

「全部持ち帰って調整するか」

 

 何度か往復して、小洞穴に3つの骨を運び入れる。

 その姿はまるで家具を吟味する主婦のようで、俺自身なんとも言えない気分だった。

 

「……んじゃ、まずこいつからだな」

 

 最初に目をつけたのは、やや丸みのある頭骨。獣の骨らしく、軽くて強度もありそうだ。

 だがそのままでは形が合わない。ここからは、“俺の体に合わせる”調整作業が始まる。

 

「……こんなとき、ハサミが便利なんだよな」

 

 今や俺の相棒となったこの大きな鋏。

 器用に先端を動かし、骨の縁を少しずつ削る。トゲは落とし、窪みは削り出す。

 

「おし……なんとなく、背中の凹みに合わせて整えて……で、接続部だよな」

 

 俺の背中には、昨夜の脱皮で“へこみ”ができた。

 それは偶然だったが、今となっては――

 

「ここ、アタッチメントみたいに使えるかも……!」

 

 そう思い、骨側も削り、噛み合わせる形に整形していく。

 何度も背負っては落ち、削っては付け直し、を繰り返す。

 

「よし、よし……っしゃあ! ついに! 固定できた!」

 

 ガチャリ、と音がした気がした。

 背中に新しい骨の感触。それが俺の身体と“合体”したのだ。

 

 心の奥に、なにか言いようのない達成感が広がった。

 

「これが……俺の、ヤド……!」

 

 世界でひとつしかない、俺専用の“背負い骨”。

 見た目はやや不格好だが、妙に俺の体に馴染んでいる。

 

「ふはっ……ふはははっ!」

 

 俺は甲羅の奥で笑った。

 ずっと逃げてばかりいた。小さくて、弱くて、何もできなかった。

 

 だが今は――俺の意思で、俺のために、俺の殻を作った。

 

 ヤドを得たガミザミは、もうただの“弱者”ではない。

 

「ふぅ……今日はここまでだな。疲れたし、もう寝る……」

 

 小洞穴の奥、ケルビの毛皮の上に再び体を沈める。

 背中には、新しい俺の証があった。

 

 ──ようやく“俺に似合う殻”を作れた。

 

 

 

 

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