「あのホーミング生肉め……」
俺はぶつぶつ文句を垂れながら、湿った地面をずりずり進んでいた。ヤドと甲殻の隙間には、今日採れたキノコがぎゅうぎゅうに詰まっている。重い。クソ重い。でも、不思議と気分はさっきよりずっとマシだった。
リオレウスに怯え、空を見上げてガタガタ震えてた俺が、ブルファンゴの突進を受け、反射で八つ当たりとはいえ撃退し……そして今、探索を続けてる。
うん、成長してる。たぶん。
「でもマジでさ……なんで突っ込んできやがったんだアイツ。俺、今完全にただの雑魚じゃねぇか。餌だと思ったか? いやいやいや、ちょっと硬いぞ、殻……」
ぶつくさ文句を言いながら、足元に目をやると、見慣れない鮮やかな青が目に飛び込んできた。
「おっ、これ……アオキノコってやつじゃね?」
ゲーム知識が脳内でぶわっと再生される。青い傘、ぷにっとした触感、そしてちょっと酸っぱい匂い。
「これが噂の“回復薬の相棒”……! 見つけたぞ……!」
テンションが上がる。と同時に、思考が暴走する。
「でもこれだけじゃ回復薬にはなんねぇな……薬草も必要だったっけか? いや、いっそ全部詰めとけばどれかは当たりでしょ?」
その場でしゃがみ込み、あたりの草むらをかき分ける。あった。薬草っぽい草が。青っぽくて、葉の形もそれっぽい。
「オーケーオーケー、調合素材ゲット。あとは……うわ、なんだこのキノコ。真っ赤……! 完全に毒キノコのビジュアルなんだけど。いや、赤=うまい説、ないか? ないな」
それでも俺はそれを引っこ抜いてヤドのすき間に差し込む。背中のキノコたちが色とりどりで、もうちょっとした花壇みたいになってる。
「……いや、悪の花壇だなこれ。うん、毒々しすぎる」
さらに斑模様の紫と黄色が混ざったキノコまで見つける。
「お前、悪役に出てくる毒使いが絶対愛用してるタイプのキノコじゃん。どんな人生歩んだらそんな色になるんだよ」
それでも採る。全部持ち帰る。これが異世界モンスターメンタル。使えるかどうかは、後で考えればいい。
気づけば、空は赤く染まり始めていた。あのレウスが飛んでいった方角に視線を向ける。
「あっちに行けば、もっと強いやつらがいるんだろうな……。でも、今はまだ無理だ。今の俺は……せいぜいホーミング生肉にブチギレる程度の存在だし」
だけど、少しずつでいい。成長して、強くなって、いつかきっと、堂々とあの空を見上げられるように。
「さーて……帰ってキノコ研究でもするか。もしかしたら、とんでもない回復薬とか作れたりしてな」
キノコまみれの背中で、とぼとぼと、俺は帰路についた。湿った地面に残る、自分だけの足跡をたどりながら。
「……でも次ブルファンゴ来たら、塩振って焼いて、食ってやる。まぁ、塩がないんだけど・・・」
そんな呟きが、湿地の夕暮れに溶けて消えた。