土煙と爆風に甲殻を撫でられた数秒後、ようやく頭をもたげた俺は、ぐらつく脚でそろりと立ち上がった。視界の隅で、赤黒い煙がもやもやと揺れている。強引な爆破は――いちおう成功。狙った場所はえぐれて、瓶も爆ぜた。だが。
「いや、でもちょっと問題多すぎるだろ……!」
思わず叫んだ。
俺のヤドが……ヤドが、半分焦げてる。まだ微かに焦げ臭い煙が立ち上っていて、こすれば灰がぽろぽろと落ちる。しかも岩壁には鉄鉱石の破片があちこちに刺さり、足元には爆裂した骨瓶の破片が散乱していた。そもそも、火花が出なかった理由が不明のままだ。
結果として、地面に叩きつけたことで起爆した。それは偶然に過ぎない。衝撃頼りじゃ、地形も敵も選ぶことになる。実戦で使える代物じゃねえ。
「うーん……瓶の中で爆薬と鉄がうまく擦れなかったか……あるいは瓶が頑丈すぎて圧力が逃げなかった? いや、気圧とか内圧とか……そういう理屈を考えられる脳みそ、もう残ってねえよ……」
疲労と焦げ臭さとが脳の芯を鈍く殴る。ぶつぶつと呟きながら、爆破地点にゆっくりと近づいた。まだ地面がぬくもりを残していて、焦げた岩肌の裂け目――そこに、光。
鈍く、深く、青く。明らかに他とは違う色。
「……ん?」
覗き込めば、それは青がかった光沢を持つ鉱石だった。滑らかな結晶構造、地層から染み出すように露出している表層。
マカライト鉱石。
さらにもう少し奥、焼け崩れた岩盤の隙間から、くすんだ緑色の光。あれは……ドラグライトか?
「マジかよ……鉱脈あったのか、こんなところに」
爆破がもたらしたのは破壊だけじゃなかった。
地中に埋もれていた資源――この世界で武器を作るための、血肉と等しい素材。それが今、目の前に露出している。
けれど。今の俺には、それを活かす手段もない。ツルハシもなければ工房もない。加工の知識すら、正確にはない。ただ、かつての記憶が残っているだけ。
いや、“かつて”なんて大げさなもんでもない。ただのゲームプレイだ。あの世界では、俺は「ハンターを操作していた」だけだった。採掘ポイントに近づいてボタンを連打し、カンカンと音が鳴るたびに画面の端に鉱石のアイコンが増えていく。
だが、触れたことはない。重さも、硬さも、音も、匂いも。全部、画面越しに眺めていただけ。
本当の“現実”の鉱石は、思ったよりずっと鈍く冷たく、そして……重い。
「……まぁ、今は採掘も鍛冶も無理だよな。とりあえず、隅に積んどくか。使う日が来るかは、知らんけど」
ひとつひとつ、重みを感じながら住処の隅によせていく。割れた岩の縁に指をかけ、ふと、もう一度覗き込むと――そこにあった。
「……なんだ、あれ?」
白い。ややくすんだ乳白色。楕円の小石のような形。岩の割れ目にちょこんと収まるその物体は、自然の造形とは少し違って見えた。
俺はそっと手を伸ばし、それに触れた。つるりとした表面。かすかに……温もりがあった。
「護石……か?」
脳裏に、ゲームのUIが蘇る。装備画面に並んだ謎めいた小石。名前も効果もランダムで、クエストの後に“鑑定”されて初めて中身がわかる。
もちろん俺は、ゲームのプレイヤーでしかなかった。拠点も、工房も、鑑定じいさんも、現実には会ったことがない。ただ、画面の中のNPCだった。
「持ってるだけでスキルが発動する……たしか、そういうモンだったよな。鑑定できねぇけど……今はそれでいいや」
俺はそれを背中のヤドの内側、骨と甲殻が入り組んだ自然のポケットにそっと滑り込ませた。妙にぴったりと収まり、しっかりと固定された。
音もなければ、光もなかった。ただ、じんわりと、何かが俺の殻の奥に染み込んでいくような錯覚だけが、そこにあった。
「……よし。これで、なんか……ちょっと強くなった気がする。気がするだけだけどな」
頼りない。だが、何もないよりはマシだ。
爆発で荒れた洞穴。その隅に、砕けた岩、溶けかけた骨瓶、そして、採掘された鉱石と一つの護石。それらは、いつか俺の生存と成長を支える資源になるかもしれない――いや、なるといいなと、そう思いたかっただけかもしれない。
兵士の護石 ー 攻撃力Lv1、腹減り倍加