マカライト鉱石とドラグライト鉱石、それから正体不明の護石をヤドにしまい込んでから、俺はしばらく呆けたように座り込んでいた。爆発の余韻と火薬臭さがまだ鼻孔に残っている。けれども心のどこかは妙に晴れやかで、普段よりも深く、深く、思考が沈んでいく。
「……現状使い道、ないよな。これ」
マカライトもドラグライトも、知っている。加工すれば立派な防具や武器になるってことも。けど、俺は鍛冶屋じゃない。ここに炉もない。槌もない。そんなものが必要なことすら、今では笑ってしまう。――俺、ガミザミなんだよな。
「きれい、だな……」
ぽつりと漏らした言葉は、少しだけ自分で怖かった。マカライト鉱石の青、ドラグライト鉱石の緑。それはかつての人間の目線でも「綺麗」だと思える輝きだった。だが今、その色合いに対してなぜか――“美味しそう”という、異様な発想が浮かんだ。
「……いや、何言ってんだ俺……食いもんじゃないだろ鉱石って」
自分にツッコミを入れつつも、甲殻の指先で手頃なサイズのマカライトを拾い上げる。甲高い音を立てて牙で砕こうとした――その瞬間、思っていたよりもすんなりと亀裂が走った。
「え?」
がり……がり……ぼきっ。
「……噛める?」
当然だ。俺の顎はガミザミ。鋏の力と顎力が合わさって、無理なはずのものすら粉砕してしまえるのかもしれない。
……そして、噛み砕いた破片を舌に載せてみると――
「……あま……?」
砂糖じゃない。蜜でもない。だが、確かに、ほんのりとした甘みが舌に残った。信じがたいが、甘い。鉱石が。甘い?
「……マカライトって、こんな味……?」
混乱のまま、今度はドラグライトを口にしてみる。がり、ばきり。硬さはこちらの方が上だが、ガミザミの顎なら砕ける。そしてその味は――
「すっっっぺぇ……!」
ツンと刺すような、柑橘に似た酸味。酸っぱい。緑の鉱石が、酸っぱい。完全に意味不明。
「……いや、ちょっと待て、俺……今ガミザミ……だから……?」
だが、そんな馬鹿な。咀嚼して呑み込んだ腹の内で、じわじわと温かいものが広がっていく感じがした。まさかとは思うが、満腹感すらわずかにある。
「いやいや、俺はグラビモスじゃねぇぞ……鉱石喰って進化するタイプじゃねぇよな……?」
けれど、確かに満たされていた。腹も、歯ごたえ欲も、妙な食欲さえも。カリカリ、ガリガリ。岩を削るようなその咀嚼音が、やけに心地よかった。
「……まぁ……ご飯取れなかったら、これでも……いっか?」
自分でも正気を疑う。けど、どうしようもないほど自然に、そう思っていた。目の前に、たくさんの鉱石。どれもこれも、焼けばもっと美味くなるんじゃないかとか、どういう味があるんだろうとか、考え始めてしまう。
「……ああ、俺、もうダメかもしれん……」
けれど、後に甲殻の内側のどこかが、確かに満ちていく感覚を抱えていた。それは栄養じゃない。経験でもない。けれど――何かが、芯から変わっていくような。ほんの少しだけ、甲殻が硬くなった気すら、した。