「……俺はグラビモスじゃねぇぞ、何やってんだ……」
ぶんぶんと頭を振り、思考を切り替える。
「やめだやめだ、鉱石なんて非常食だ。まともな飯探しに行こう」
そうと決まれば行動は早い。だが、ついでに手頃な鉱石――食べ歩き用の“キャンディー”として、マカライト鉱石を一つヤドに仕舞った。誰がなんと言おうと、これは飴だ。スナック。たぶん。
湿気に満ちた洞窟を出て、目指すは食料、できれば肉。いやキノコでもいい。調合素材も拾えたら尚よし。
そんな思考を巡らせていた時だった。
「……フゴフゴ?」
不意に聞こえた鼻息。そっと草陰から覗き見ると、そこには苔むした背中に皿のような角質をのせた、あのまぬけ面――モスだ。しかも数頭。
「おお……運がいいな。確かこいつら、キノコが大好物だったよな」
鼻を地面に近づけ、ふがふがと執拗に嗅ぎ回っている様子は、まさに“嗅覚の化け物”。いや、化け豚。しかも群れずにゆったり歩く姿が、いかにも“そこに何かある”と教えてくれている。
「……こいつについて行けば、キノコの群生地に辿り着けるんじゃね?」
考えるより早く、そろりそろりとモスを尾行開始。岩陰から、草の中から、しっかり距離を取りつつ、音も立てず。いや、実際のところ少々ガサゴソしてるけど、あいつら視力も聴力も大してないし、気づかれることはなかった。
やがて、モスたちは湿気たっぷりの谷間に入っていく。陽も届かぬじめっとしたそこは、見渡す限りのキノコキノコキノコ!
「これは……大当たり、か……?」
目の前に広がるのは、アオキノコにドキドキノコ、ニトロダケにマヒダケ、マンドラゴラまで咲き誇る、まさにキノコの楽園。土も濃密で、湿度も申し分ない。なるほど、モスがしょっちゅう鼻を鳴らしていた理由もわかる。
「モスだけが知ってる秘境ってとこか……」
興奮とともに、思わずその場でガッツポーズしかけた。あ、でもモスに気づかれるとまずいな。慎重に、慎重に。
だが、その思考の片隅に、どうしても湧き上がってしまう、黒い感情。
「……案内してくれたついでに、夕飯になってもらうか」
最低だ。でももう止まらなかった。
まずはキノコを収穫する。全部は取れない、ヤドに入りきらない。それに、下手に取りすぎると生態系が狂う。食い扶持が減ったら、モスだってここに戻ってこなくなるだろう。
「ほどほどにな……」
つぶやきながら、マヒダケとドキドキノコを数本ずつ、アオキノコを重点的に確保。マンドラゴラは根が深く、少し手間取ったが、それでもそこそこの収穫量になった。
「さて、荷を整えて……」
ちらりと視線をやる。案内役のモスが、背を向けてキノコを食っている。
「ご苦労さん」
その一言のあとには、何もなかった。
数分後。岩陰でちゃっかり解体されたモスの肉と、キノコ類。濡れた泥の匂いとともに、今夜の夕飯がヤドに詰め込まれていく。
帰路についた俺は、洞穴に戻ってすぐ、キノコを岩陰で乾かす準備をしながら、集めた素材を並べていた。
「ニトロダケ……火薬草……うん、これでまた爆薬が作れるな。マンドラゴラも調合すれば秘薬に……いやでも俺にはまだ早いか?」
思わず鼻歌まじりになる。爆発、鉱石、食事に素材。生きることに、ちょっとだけ慣れてきたのかもしれない。
そうしてふと、まだかすかに甘みの残るマカライト鉱石をひと舐め。硬いけど、ガリッと砕ける歯応えが妙にクセになる。
「……やっぱ、飴代わりに一本くらい持っとくか」
ヤドの奥に、大事にその一粒を仕舞い込んだ。いざという時のスナックとして。
……ほんと、俺は何を目指してるんだか。