朝。いや、正確には洞窟の奥に差し込む陽の光がヤドの隙間から照りつけて、俺の甲殻がじりじり焼けるようになった頃。
「さてと……そろそろ昨日の戦利品、使ってやるか」
山積みの戦利品──ニトロダケを引きずり出し、二つ、三つと並べて鼻先で転がす。斑点に毒々しい赤色、乾燥するとやたら火気に敏感なあのキノコだ。モスからありがたく頂戴したもの。
「これと火薬草を混ぜりゃ……爆骨瓶、もどきの完成、ってわけだが……」
がさごそと山積みの戦利品を漁る。漁る。……ない。
「火薬草どこいった!?」
詰めたはずだ。いや、詰めてない。昨日、キノコを前にテンションが上がりすぎて完全に忘れていた。あほか。
「ったく、せっかく爆発日和だったってのに……ま、しゃーねぇ。行くか」
やれやれとヤドを背負い直す。洞窟の外に這い出せば、湿った朝靄が沼地を覆い、ヒンヤリとした風が甲殻を撫でていく。
「火薬草、薬草、ネンチャク草……あればツタの葉と解毒草も。よし、ついでに腹も満たすぞ」
ゆるく腹が鳴る。というか、最近ちょっと食い意地が張ってる気がする。気のせいか?
いや、気のせいじゃないな。昨日のモスは脂も肉厚も最高だったが、今朝にはもう腹が減ってる。早すぎる。
腹の空きっぷりに疑問を抱えつつも、俺は地を這いながら探索ルートへと進んだ。
***
火薬草の生える南端の丘へと向かっていた俺は、その途中、見覚えのある"突進する肉塊"に出くわした。
角を低く構え、地面を掘りながら走る四足の獣。
「ロケット生肉、きたか……!」
ブルファンゴ。見つけたときにはもう突っ込んできていた。どういう神経してんだ。毎度毎度、目が合った瞬間にフルスロットル。理性ゼロの狂犬かよ。
ガン!と頭突きを地面に喰らわせてきたブルファンゴに、俺は体を捻って回避、そのまま背中へと回り込み、ハサミをカチリと鳴らした。
「はい残念ッ!」
バチィッ!
一撃。ズバリと振るったハサミが背骨に食い込む。勢い余って転がったブルファンゴは地面でごろごろともがいたあと、ひくついて動かなくなった。
「……あれ、なんか前よりラクじゃね?」
心なしか、動きがよく読めた。攻撃にキレがあった。体が軽い。いや──違う、火力も高くなってる?
「気のせいか? いや、でも……」
思考の隅に、白く光るお守り──護石の映像が浮かぶ。あのときの鉱石採取で見つけた、ヤドの奥に仕舞ったアレだ。
(あれのせい? いや、でも俺、装備とかしてないし……)
でも、確かに"持ってるだけ"で効果があるって聞いたことある。ってことは……攻撃力アップ[小]の恩恵か。けど、そのせいで腹が減るの早くなってんじゃないか? 腹減り倍加、みたいなスキル。
「……マジかよ、いいのか悪いのかわからんな……」
とりあえず、ローストブルファンゴでも食っとこう。
腹が減っては戦ができぬ。獲れたてのロケット肉は、今日も香ばしくてジューシーだった。
***
食後、少しだけ惰眠を貪りかけたが、強引に自分を叩き起こして採取に戻る。
「火薬草、火薬草……」
陽光の差し込む開けた丘にたどり着くと、火薬草の赤い蕾がぽつぽつと揺れていた。やれやれ、やっと見つけた。
根元から丁寧に引っこ抜いてヤドに詰める。湿気を嫌うから保存に気を使うが、まぁ爆発させるだけの使い道なら雑に扱っても問題なかろう。
ついでに周辺をぐるりと回って、薬草も摘む。鮮やかな緑にふわりと広がる葉は、どんな薬の元にもなる万能選手。
「ん、これは……ネンチャク草、か。粘り気、良し」
矢尻の固定や、罠の材料にもなる。今の俺には即座に用途はないが、とりあえず確保。
そして、その少し先には紫の斑点──解毒草。ついでに取っておこう。何に使えるかは後で考える。
「……おっ、あったあった。ツタの葉。これは……使い道あるか?」
見つけたときは即座に取らねばならん。次はいつ出会えるか分からん。とりあえずヤドに押し込む。もう詰め込み方がテトリスだ。
そんなこんなで、ある程度採取して気づいた。
「……おい、俺、ちょっと便利屋になってねぇか?」
食って、採って、たまに爆破して。いや、それでいいんだけども。目指すのは鎧裂。いや、より強い"個体"だ。
そのためには、今のこのひとつひとつの努力も無駄にはならない。
「……ま、爆破の準備は整ったし。帰って調合、調合っと」
俺はブルファンゴの脂の残る口をぬぐいながら、甲殻を鳴らし、沼の奥へと帰っていった。