立派なショウグンギザミ目指します!   作:ルミナリー

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毒に染まりし刃

 

 

 洞窟の中、暗がりを照らす小さなアオキノコの微光。その足元に転がるのは、かじられた解毒草の茎。無骨なガミザミの爪がそれを器用にすり潰し、苔に包まれた岩の上に押し付けた。

 

「――これで、毒は……抜けた、か」

 

 全身を駆けていた倦怠感が、どろりと抜けていくのを感じる。解毒薬――あの昔、ハンター時代に何度も調合した、もっとも基本的で、もっとも心強い薬草。毒状態になって、身体が覚えていた。解毒草とアオキノコがあれば、解毒薬が作れる。咄嗟に思い出した組み合わせを信じて調合したものを口にしたのだ。最初の一滴は苦味でしかなかった。だが、喉を焼くような痛みのあとに、奇妙な安堵が身体を包んだ。

 

 ……それと同時に、胸の奥から何か、黒くてぬるいものがこみ上げてきた。

 

「毒、か……そういえば」

 

 思い出す。ガミザミが持っていた毒腺の話だ。確か、ショウグンギザミになるとその器官は退化して使えなくなるはず。けれど、フロンティア――もう名前すらあやふやな遠い記憶の中のその地には、毒を撒くショウグンがいたと、そんな噂を聞いたことがある。

 

 ならば、俺にも……毒を使う手が、残されているんじゃないか?

 

「螯だ……俺の、刃に……毒を……」

 

 片方のハサミにそっと毒を吐きかける。感覚的には“出る”とわかっていた。毒腺はまだ生きている。使える。全身を巡るどす黒い液が、ハサミの先にぬらりとまとわりつく。その切っ先は、まるで刃に魂が宿ったかのように光を鈍く染めていた。

 

 毒鎌。毒螯。名はまだ無いが、力の方向性は見えた。

 

 ならば次にすべきは――

 

「強くする……この毒を、もっと、強く……!」

 

 そうだ。今のままでは、ただの薄い毒にすぎない。時間をかければ回復されてしまうような、微々たる毒性。やるなら、もっと強く、もっと深く、敵の神経に刺さるような猛毒を作らねばならない。

 

「毒を強化する方法……そうだな……」

 

 洞窟の奥でガミザミの躯体がうずくまる。脳内に渦巻くのは、毒の強化手段。

 

 まず、毒テングダケ。ハンター時代には劇物として取り扱われた毒キノコだ。食えば、当然自分も苦しむだろう。内臓が焼け、視界が霞み、最悪死ぬ。だが、毒を“蓄える”ことができるならば、話は別だ。自分の毒腺にこの猛毒の成分を蓄積し、変質させる。喰らえば喰らうほど、毒腺はその毒性を学習するかのように濃く、鋭くなっていくかもしれない。

 

 第二案。ゲリョスの毒液だ。あれを喰らえば……確かに強い毒を取り込めるだろう。が――

 

「いや、現実的じゃない。あいつを狩るには、まだまだ無理がある……」

 

 いまだにブルファンゴぐらいしか狩れない俺だ。ゲリョスに手を出すなど、滑稽にも程がある。ならば、まずは地道に、確実な道を選ぶしかない。

 

 毒テングダケを喰う。

 

 まずはそこからだ。

 

 ガミザミは体を引きずるようにして、毒キノコの群生地へと向かう。腹は減っていない。食欲も無い。だが、強くなるためには喰わねばならない。これは“食事”ではない、“鍛錬”だ。

 

 ひと噛み。

 

 喉の奥に、鉄のような苦味と焦げた樹脂の香りが染み込む。吐き出したくなる。胃が逆流する。目がチカチカと明滅する。

 

 二口目。

 

 足が痺れた。視界が傾く。けれど――耐えられる。痛い、でも生きてる。

 

 三口目。

 

 ああ、もう意識が遠い。世界がくぐもる。毒が、体を流れている。だが、そこに――快楽とは違う、戦慄の実感があった。

 

「強くなれる……これが、力だ……!」

 

 目を見開く。薄暗い洞窟の中で、ガミザミの一対のハサミが、静かに毒光を帯びていた。

 

 

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