――今日も俺の住処は食料で山を作っている。
洞窟の奥の石棚には、ブルファンゴの肉に鉱石、蟲、それからどっさりキノコ。山盛り。これが俺の宝だ。いや――腹に入れるための燃料タンクだ。
「さて……まずはこいつからだな」
肉をハサミで掴み、ガリリと噛み千切る。脂の抜けた繊維が歯に絡みつき、野獣の匂いが鼻を抜ける。噛むたびに、あの突進野郎を仕留めた瞬間が蘇る。うん、悪くない。いや、悪くないどころか最高だ。
「んじゃ次は……お前らか」
キノコをぱくり。普通のやつ。歯応えが良く、腹も膨れる。石皿に並べたそれを、一つ、二つと口へ運ぶ。
……だが、本命は違う。
山の片隅で、紫の傘を広げている山。毒テングダケ。俺に毒刃を授けた、紫の悪魔。
「はは……待ってたぜ。今日も頼むぞ」
ハサミの先でひとつ摘まみ、ぱくり。舌がピリリと焼ける。喉を通るとき、金属を噛んだような刺激が広がる。背筋がぞわりと痺れる。
「……くぅ~~……! これだよ、これ! たまんねぇ!」
前は一つ食っただけで死にかけた。胃が燃えて、視界が滲んで、吐くか死ぬかって苦しんだ。けど今は――違う。
「前は苦行だったのになぁ……今じゃ旨味に変わっちまった」
二つ目をかじる。
三つ目を丸ごと齧る。
ピリピリ痺れるたびに、逆に血が沸き立つ。
「ふははっ、もっとだ、もっと食わせろ!」
もしゃもしゃ、むしゃむしゃ。山盛りの毒テングがあっという間に減っていく。気づけば石棚の食料の山そのものが目に見えて低くなっていた。
「……あれ? 俺、もうこんなに食ったか?」
食いすぎてる。間違いなく。肉もキノコも、蟲もごっそり減ってる。
「いや、でも……腹減りすぎるの早いんだよな。……これって、成長期ってやつか?」
独り言みたいに呟きつつ、ふと護石を思い出す。前に拾ったやつをヤドの奥に放り込んである。確か腹減り倍加のマイナス効果がついてたっけな。
「……まさか、それのせい?」
苦笑しつつも、食った分は確実に血肉になってる。毒テングを浴びるほど食ったおかげで、口から溢れる毒の粘りが濃くなった気がする。さらに――
「ん? ……殻も硬くなってきてないか?」
甲殻を軽く叩くと、前よりも硬い音が響く。鉄分が染みてきたかのように、殻が重厚になっている。
「いいじゃねぇか……なんか俺、仕上がってきてんな」
満腹の幸福感に浸っていたその時。
背中から首へ、じわりと違和感が走った。
「ん? ……この感覚、前にも……?」
ゴワつく。動きが鈍る。関節が引っかかる。そう――これは。
「……ああ、分かった! 脱皮か!」
思わず声が出た。そうだ、一度だけ経験がある。けど、あの時は――。
「……最初の脱皮、マジで最悪だったよな……」
苦い思い出が蘇る。
疲れ果てて柔らかい殻のまま眠り込んじまって、しかも寝相の悪さで岩に押し付けられた。結果、背中に凹みが残った。戦うたびに気になる嫌な痕。
「はぁ~……思い出すだけでダサいわ」
爪先で岩をコツコツ叩きながら、気を引き締める。
「でもな……今度はそんなヘマはしない」
今回は違う。絶対に。
柔らかいうちに、歪みを直す。凹みを埋める。いや、もっと――強い殻を作る。
「俺は、もう失敗しねぇ……!」
静かに息を潜め、殻の割れる音を待った。
新しい俺を迎えるために。