立派なショウグンギザミ目指します!   作:ルミナリー

26 / 56
毒は結構うまいようだ

――今日も俺の住処は食料で山を作っている。

洞窟の奥の石棚には、ブルファンゴの肉に鉱石、蟲、それからどっさりキノコ。山盛り。これが俺の宝だ。いや――腹に入れるための燃料タンクだ。

 

「さて……まずはこいつからだな」

 

肉をハサミで掴み、ガリリと噛み千切る。脂の抜けた繊維が歯に絡みつき、野獣の匂いが鼻を抜ける。噛むたびに、あの突進野郎を仕留めた瞬間が蘇る。うん、悪くない。いや、悪くないどころか最高だ。

 

「んじゃ次は……お前らか」

 

キノコをぱくり。普通のやつ。歯応えが良く、腹も膨れる。石皿に並べたそれを、一つ、二つと口へ運ぶ。

 

……だが、本命は違う。

 

山の片隅で、紫の傘を広げている山。毒テングダケ。俺に毒刃を授けた、紫の悪魔。

 

「はは……待ってたぜ。今日も頼むぞ」

 

ハサミの先でひとつ摘まみ、ぱくり。舌がピリリと焼ける。喉を通るとき、金属を噛んだような刺激が広がる。背筋がぞわりと痺れる。

 

「……くぅ~~……! これだよ、これ! たまんねぇ!」

 

前は一つ食っただけで死にかけた。胃が燃えて、視界が滲んで、吐くか死ぬかって苦しんだ。けど今は――違う。

 

「前は苦行だったのになぁ……今じゃ旨味に変わっちまった」

 

二つ目をかじる。

三つ目を丸ごと齧る。

ピリピリ痺れるたびに、逆に血が沸き立つ。

 

「ふははっ、もっとだ、もっと食わせろ!」

 

もしゃもしゃ、むしゃむしゃ。山盛りの毒テングがあっという間に減っていく。気づけば石棚の食料の山そのものが目に見えて低くなっていた。

 

「……あれ? 俺、もうこんなに食ったか?」

 

食いすぎてる。間違いなく。肉もキノコも、蟲もごっそり減ってる。

 

「いや、でも……腹減りすぎるの早いんだよな。……これって、成長期ってやつか?」

 

独り言みたいに呟きつつ、ふと護石を思い出す。前に拾ったやつをヤドの奥に放り込んである。確か腹減り倍加のマイナス効果がついてたっけな。

 

「……まさか、それのせい?」

 

苦笑しつつも、食った分は確実に血肉になってる。毒テングを浴びるほど食ったおかげで、口から溢れる毒の粘りが濃くなった気がする。さらに――

 

「ん? ……殻も硬くなってきてないか?」

 

甲殻を軽く叩くと、前よりも硬い音が響く。鉄分が染みてきたかのように、殻が重厚になっている。

 

「いいじゃねぇか……なんか俺、仕上がってきてんな」

 

満腹の幸福感に浸っていたその時。

 

背中から首へ、じわりと違和感が走った。

 

「ん? ……この感覚、前にも……?」

 

ゴワつく。動きが鈍る。関節が引っかかる。そう――これは。

 

「……ああ、分かった! 脱皮か!」

 

思わず声が出た。そうだ、一度だけ経験がある。けど、あの時は――。

 

「……最初の脱皮、マジで最悪だったよな……」

 

苦い思い出が蘇る。

疲れ果てて柔らかい殻のまま眠り込んじまって、しかも寝相の悪さで岩に押し付けられた。結果、背中に凹みが残った。戦うたびに気になる嫌な痕。

 

「はぁ~……思い出すだけでダサいわ」

 

爪先で岩をコツコツ叩きながら、気を引き締める。

 

「でもな……今度はそんなヘマはしない」

 

今回は違う。絶対に。

柔らかいうちに、歪みを直す。凹みを埋める。いや、もっと――強い殻を作る。

 

「俺は、もう失敗しねぇ……!」

 

静かに息を潜め、殻の割れる音を待った。

新しい俺を迎えるために。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。