立派なショウグンギザミ目指します!   作:ルミナリー

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昨日より強く、今日も生きる

――目が覚めた瞬間、殻の内側に走る鈍痛に、思わず声が漏れた。

 

「いだだだだ……! くぅ……っ!」

全身を走る痛みは、まるで甲殻の内側から無数の針で突き立てられているかのようだ。昨日の戦いで受けた衝撃が、まだ血肉と甲殻の隙間に生々しく残っている。硬いはずの外殻が、ひび割れた陶器のように軋み、体を少しでも動かせば痛みの波が押し寄せる。

 

「……そうだよ、ゲームじゃねぇんだよ……!」

うめくように吐き捨てる。

 

「ハンターみたいに寝たら治るとか……んな化け物じみた回復力、あるわけねぇだろ……!」

 

苛立ち混じりの呟きは洞窟の壁に反響し、虚しく跳ね返ってくる。あの連中は人間じゃない、生物兵器みたいなもんだと改めて思う。だが腹は減るし、動かなければ腐るだけだ。仕方なく、脇に置いてあった回復薬の瓶を掴む。薄く緑がかった液体が、洞窟の薄明かりに揺れている。

 

鼻先に近づけると、薬草とキノコの酸味がふわりと立ち上る。ヤオザミをなめるように野性の味を受け入れてきた自分には、むしろ馴染み深い匂いだ。蓋を外して一口含むと、喉を通る感触が違う。苦みや刺激はあるが、それが甲殻の奥へと染み込み、節ごとにじんわりと温度が戻ってくるのがわかる。

 

「……ふぅ、効くな」

声はかすれるが、確かな手応えがあった。残りを傷の継ぎ目に垂らすと、冷たい液が殻の割れ目を伝って浸透していき、熱を伴った治癒感が広がる。最後に瓶の底を少し振り、頭からざばりとかぶる。薬草の匂いが全身を包み、洞窟の空気が一瞬だけ濃密になる。

 

もちろん、これで完全に治るわけではない。鈍い痛みはまだ骨の奥に居座っているし、筋の一本一本がぎゅっと引きつる。だが、少なくとも動ける。これが、今の自分の現実だ。ゲームとは違って、傷は一晩で消えない。しかし、こうして自分で手当てをすることが、力を蓄えるということでもある。

 

ふと、昨日の光景がフラッシュバックのように甦る。泥を蹴立てて迫る巨体――ドスファンゴ。突進のたびに大地が震え、牙が泥を抉る。呼吸が詰まるほどの衝撃に身体を折られながらも、俺は何度も這い上がり、適切な斬り込みと置き螯で深く抉り、毒を流し込んだ。最後に奴が崩れ落ちたとき、耳の奥で轟音が鳴り止まなかった。

 

「……勝ったんだ、俺は……」

そう呟くと、胸の奥から生温かいものが込み上げる。痛みや疲労は誇りのバッジになり得る。あのとき必死に踏ん張った足、泥を蹴って逃げ場を作った瞬間、鋏先に感じた肉の弾ける感触――すべてが、今の自分を作っている。

 

殻の内側で、呻きと笑いが入り混じる。体はひび割れた器のように痛むが、わずかに確かな高揚が残っている。目をやると、洞窟の隅に転がるドスファンゴの頭骨が、静かに存在を放っていた。昨日の重圧が今はただの骨となって横たわるのを見て、俺はまた一度、深く息を吐いた。

 

――今日もまた、俺は生きている。

――昨日よりも、ほんのわずかでも強くなっている。

殻を揺らしながら立ち上がると、痛みは確かにそこにあるが、それ以上に勝ち取った実感が重くのしかかった。今日も、生き延びるために動かなければならない。だが、少しだけ──胸の中が軽くなっているのを感じた。

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