――数日が過ぎた。
あの激闘の余韻はようやく薄れ、俺の身体は静かに回復を果たしていた。
「……よーし! 治ったぞぅ!」
殻の中でバンザイをする。ギシリと甲殻が鳴るが、痛みはもう走らない。むしろ骨の奥まで軽くなった気分だ。動くだけで悲鳴をあげていた関節が、今はしなやかに力を取り戻している。
思わず殻を揺らしながら笑ってしまった。俺は確かに生き延びた。そして今、また動ける。
けれど喜びの余韻に浸った瞬間、背中を吹き抜けるひやりとした感覚に身震いする。
――ヤドが無い。
剥がれ落ちたままの俺の背は、むき出しの甲羅が外気に晒されていた。洞窟の空気は湿って冷たく、そこに直に風が触れるだけで肌寒さが骨に突き刺さる。戦いで失った殻の重みが、改めて俺に「無防備だ」と告げてくる。
「……やっぱ探しに行かねぇとな」
独りごちて、洞窟の中央へ視線を移す。そこには――。
ドスファンゴの巨大な頭骨。
数日前まで血肉を滴らせていたそれは、今やすっかり白い骨となって鎮座している。獣の気配をわずかに残しながらも、肉は俺の腹に収まり、骨だけが威容を保っていた。
この数日、俺はこいつに救われた。頭部にこびりついた肉を少しずつ削いで口に運び、飢えを凌いできた。味気はなくとも、命をつなぐ糧であったことは間違いない。
ハサミで軽く突いてみる。カン、と乾いた音が響く。
もう肉はどこにも残っていない。骨そのものも固い。
「こいつをヤドにできるのは……まだ先だな」
あまりに大きすぎる。俺の身に余る。背負おうとすれば、体ごと押し潰されるだろう。けれど、いつか――。
今はただ願う。いつの日かこのドスファンゴの頭骨を、自分の背に馴染ませて歩けるほど成長していたい、と。
そう思うと、今の背中の寒さすら、未来への糧に思えてくる。
外に出れば、新しいヤドはいくらでも見つかるはずだ。アプトノスの小さな頭骨、あるいは倒木や石殻、何でもいい。まずは背を守る殻が欲しい。
殻を持たぬガミザミは、ただの餌だ。そう、俺自身が一番よく知っている。
洞窟の出口へ歩き出す。数日ぶりに地面を踏みしめる足が、少しぎこちなく感じる。けれど軽い。全身に力が戻っている証拠だ。
岩の裂け目から差し込む光が、俺を誘う。眩しい。外はもう昼だろう。水の匂い、草の香り、遠くから響く鳥の声が、洞窟の暗闇に慣れた感覚を刺激する。
「……さて、行くか」
振り返れば、洞窟の奥にはドスファンゴの頭骨が静かに横たわっていた。数日間、俺を養い、俺を守ってくれた象徴。
今はまだ置いていく。けれど――必ずまた戻る。
そう心に刻み、俺は洞窟を後にした。
背中はまだ寒い。けれど、その寒さは新しい一歩を踏み出させる。ヤドを探す旅路へと。