数日間の療養を経て、ようやく体が完全に痛みから解放された。
「よーしっ!」
思わずバンザイのポーズをとり、殻を鳴らす。
……が、すぐに冷気が背中を撫でていく感覚に襲われた。ひやりとした風が甲殻を直に撫で、思わず身を縮こまらせる。
――そうだ。今の俺にはヤドがない。
剥き出しの背中は無防備で、外を歩けば視線を浴びているような落ち着かなさに苛まれる。
「こりゃ、早めに新しいのを探さねぇとな」
自分に言い聞かせるように呟き、重たい甲殻を揺らして歩き出した。
目指す先は、前に訪れた骨塚。
あそこなら、大きさも形も様々な骨が転がっている。中には背負えそうなものもあるだろう。
骨塚に辿り着くと、空気は一段と重く変わった。
折り重なる獣の残骸は、無数の亡者が積み重なった墓標のようで、風が吹き抜けるたびに軋む音が耳をくすぐる。湿った土と血の残り香が鼻を刺し、生者であるはずの自分が異物のように感じられる。
その異様な空間で、不意に動く影を見つけた。
……あいつだ。
骨の山の間をうろついていたのは、前にもここで出会ったガミザミだった。
俺に気づくと、そいつはピタリと動きを止め、甲殻をぐっと伸ばして――。
バンザーイ!
……やっぱり同じ奴だ。あの妙に朗らかな挨拶は忘れようがない。
思わず俺もハサミを掲げて返した。
「おう」
すると相手は殻を揺らし、カシャカシャと乾いた音を立てる。楽しげに弾んでいるようで、まるで再会を喜んでいるかのようだ。
だが、その直後だった。
ズイッ、と顔を近づけてくる。
硬い顎が目の前に迫り、思わず後ずさったが、敵意は感じられない。むしろ――そいつは俺の背中をじっと見ていた。
やがてハサミを持ち上げ、俺の背中へ向けて突きつける。鋭い先端がわずかに空を切り、意味ありげに上下する。
「……なんだ?」
訝しげに問いかけると、さらに手ぶりのような仕草を繰り返す。
――気づいた。
「ヤドはどうした?」
「そのままじゃ危ねぇぞ」
まるでそう言わんばかりだった。
……くそ、やっぱりこいつ、いいやつじゃねぇか。
俺が苦笑混じりに頷くと、相手は満足したのか、甲殻をパチパチと打ち鳴らした。だがそこで終わらない。
ガシッ、と俺のハサミを掴んできた。
「お、おい……?」
強引に引っ張られる。抗う間もなく、骨塚の奥へと引きずられていく。
その様子はどう見ても「ついてこい」と言わんばかりだった。
歩きながら、俺はふと笑みを漏らした。
こんな場所で、こんな奇妙な仲間に会うなんて思いもしなかった。背中はむき出しで心許ないが……不思議と今だけは、不安よりも温かさが勝っていた。
――さて、こいつは俺をどこへ連れていくつもりなんだ?