脚を何度も開閉しながら、俺は岩場の洞窟を後にした。
「……さて、と」
しっかりと甲殻の下に体を潜ませ、再び洞窟の入口へと戻ってくる。そこは幾度も自分が転がり回った、あのじめっとした空間。
けれど、今日は違う。
ある程度落ち着いた。
動作確認も済ませた。
もうこの暗がりの中でじっとしている理由は、どこにもなかった。
――まずは、この世界の広さを知る。
洞窟の出口は、ほのかに淡い光に満ちていた。外には朝の陽が差し込んでいて、湿気混じりの空気と共に、草の香りが鼻腔をくすぐる。
ゆっくりと、警戒をしながらその足を一歩外へ出す。甲殻を擦るような音が、静寂の中で小さく響いた。
「おお……」
言葉が漏れた。地上だ。
高くそびえる木々。湿った地面。薄く靄がかかるあたりの風景。
――ここ、どこだ?
脳裏に浮かぶのは、モンハン世界に存在する地帯の数々。
砂漠ではない。火山でもない。
この湿り気と、陰鬱な空気……この感じは……「沼地」か?
「うわぁ、最悪……」
ぬかるんだ泥の上に足を置くたび、ぬちゃりと嫌な音がする。
だが、そうも言っていられない。まずは、生き延びるための食料確保だ。
既に少し、腹が空いてきている。
がっつりとした空腹ではないが、なんとなく落ち着かない。
前回の虫で味をしめたとはいえ、出来ることなら――いや、せめてもう少しまともなものが欲しい。
と、まずは周囲の探索から始めた。
倒木の下。草むらの影。崩れた岩の隙間。
そこかしこに、虫の羽音が響いている。
(虫、はいるな……)
少し身構え、鎌のような前脚を突き出して一匹の甲虫に狙いを定める。
ヒュッ――!
空を切る音。虫の体が宙を舞い、そのままバタバタと地面に叩きつけられた。
「やった、捕れた……」
ぎりぎり、ハサミの先に引っかかっていた。
前より慣れている。成長を実感する。そう悪くない。
そのまま、虫をくわえて咀嚼。
ザク、ザクと殻が砕ける音が頭に響く。
「……うん、イケる」
やはり味覚も変わっているのだろう。どこか香ばしく、歯応えも心地よい。
それから、岩の影に何かを見つけた。
――キノコ。
笠の大きな、それでいて色味が毒々しくないやつ。
モンハンの知識が正しければ、あれは回復薬の材料になる類だ。
慎重に接近し、脚で突いて確認。毒ではない。口に運んでみる。
「おお、これは……」
虫よりはるかに“普通の味”だ。苦味と土の香り。昔、山で採れたキノコ汁に入ってたような、あれ。
さらに探索を続けると、巣のような構造物を発見。
ぶんぶんと飛び交う音。
「……ハチミツ!」
慎重に近づく。まだこのサイズではハチたちにとって脅威ではないのか、あまり敵意を示してこない。
鎌でゆっくりと、巣の端を引っ掻く。じゅる、と蜜が流れた。
味見――
「!? う、うま……!」
あまい。あまいあまい。脳がびりびりする。
ガミザミの味覚が人間に近いのか、これは正真正銘の甘味だ。
今日の収穫は上々だった。虫、キノコ、ハチミツ。
生きていけるという実感が、ひしひしと湧いてくる。
「……ふぅ」
陽が少し高くなってきた。
木々の隙間から差し込む光が、甲殻に反射してきらりと輝く。
この世界で生きている。今、こうして――
次は、もっと深くこの地を知るために。あるいは、狩るべき相手を見つけるために。
俺はまた、脚を踏み出した。
沼地の泥を蹴り、ガミザミは森の中へと消えていく。