何日、彷徨っていただろう。
森の緑がいつの間にかくすみ、湿った土の匂いが焦げたような臭気に変わっていた。
気づけば、木の皮はひび割れ、葉は焼け焦げたように茶色く縮れている。地面に散らばる落ち葉も、触れればぱりぱりと音を立てて崩れた。まるで命そのものが乾いて、砂になろうとしているようだった。
「……変わったな」
それは、まるで世界が切り替わる境界線だった。
一歩前へ進むたびに、空気が重くなっていく。熱を含んだ風が甲殻の隙間を撫で、呼吸をするたびに肺が焼けるように熱い。
森の奥で聞いた虫の声も、鳥の鳴き声もいつの間にか消えていた。代わりに、遠くからかすかに響く“ゴォ……”という低い唸り。地の底で誰かが眠っていて、ゆっくり寝返りを打つような音。
頭を上げれば、視界の先に見える――黒ずんだ岩肌。火山特有の、乾ききった大地。まだ溶岩が流れているわけじゃない。だが、肌が確かに感じ取る。この空気、この熱。間違いない。
ようやく……火山の入り口が見えてきた。
「ようやく、ここまで来たか……」
長かった。森で迷い、ランポスどもに囲まれ、コンガ共にちょっかいをかけられ。夜は寒く、昼はぬかるみに足を取られ、それでも進み続けた。
その果てにようやく辿り着いたこの地は、まるで別の世界のようだ。
遠くの空が、ほんのり赤く霞んでいる。風に乗って、焦げた岩と鉄のような匂いが鼻を突く。乾燥した空気が肺を焼き、体の内側まで熱が染み込んでくる。
「……これが、火山の空気か」
思わずハサミで地面を叩く。乾いた金属音が響いた。湿った泥とはまるで違う、冷たくて硬い響き。地面が鳴るたびに、その下に潜む熱が応えるようだった。
ここから先は、生き物の気配が薄い。地を這う虫もほとんどいない。森の名残が、ところどころに細い影を落とすだけ。
それでも、焦げた枝の隙間に、かろうじて生き残った草が一本、熱に耐えていた。風に揺れるその細い茎は、光を反射してまるで鋼のように輝いて見えた。
「すげぇな……この環境でも、生きてるのか」
生き物ってのは、本当にしぶとい。だが、それは俺も同じだ。
何度も迷って、倒れかけても、まだ進んでいる。
甲殻の内側で、熱が籠もるたびに筋が軋む。背中の殻は“ゴワゴワ”と音を立て、いよいよ限界が近いのが分かる。次の脱皮は、この熱の中で迎えることになるだろう。
「悪くねぇ。ここで脱げば、もっと硬くなれる」
火山の熱が殻の内側を焼き、体の奥からじりじりと痛みが走る。それでも不思議と、不快じゃない。むしろこの熱が、何かを鍛えてくれている気さえする。毒で変わり始めた体が、さらに新しい殻を欲している。ここなら――それができる。
風が吹き抜け、灰色の砂が舞い上がる。
空の色も、どこか赤と灰が混じったような曇りを帯びていた
。
焦げた木々の間を抜ける風は、熱を含みながらも鋭く、頬を撫でるたびに殻の隙間が軋む音を立てる。その熱は、もはや痛みではなく鼓動のように心地よい。
「もう少しだな、火山……待ってろよ」
焦げた大地を見下ろし、俺は一歩踏み出した。
岩を踏むたびに、足先が焼けるように熱い。それでも止まらない。
森の緑が背後に沈み、前方には、赤黒い世界が広がっていた。
風の音が変わる。もはや森の囁きではない。地の底の息吹。
俺はその熱気を胸いっぱいに吸い込み、甲殻を軋ませながら、火山の世界へと足を踏み入れた