紫の霧を切り裂くように、俺の鎌がドスイーオスの頭上へ振り下ろされた。
鈍い骨の手応え。続いて甲高い悲鳴。巨体がぐらりと揺れ、火山の熱気を巻き込んで倒れていく。
――抵抗らしい抵抗もなかった。
地面に叩きつけられたドスイーオスは、痙攣しながら紫の泡を漏らしている。
さっきまで暴れ回っていた毒霧の主が、今はただの肉塊だ。
「……あっけねぇな、親分」
肩をすくめるように甲殻を鳴らして、俺は死体へ歩み寄った。
あれほどの毒の濃さ、あれほどの威圧感。でも実際やってみれば、既に俺の敵じゃない。
ゲームで言えば――そうだな、村クエ序盤のボス。昔は苦戦したけど、今となってはただの通過点。
俺は確実に強くなっている。
……だけど。
「調子に乗るわけにもいかねぇよな」
ここは沼地じゃない。火山だ。
沼とは比べ物にならない化け物が、そこら中に潜んでいるはず。
油断した瞬間、即死なんてことも普通にある。甲殻の内側がひやりとする感覚に、俺は気持ちを締め直す。
「さて……とりあえず親分の毒袋、いただきましょうかぁ〜♪」
ドスイーオスの喉元へ鎌を突き立て、一息に裂いた。
ぶしゅっと紫の液体が噴き出し、熱で湯気を上げる。
肉と骨の間から、ぷっくり膨らんだ毒袋が姿を現した。
美しいほどに濃い紫。
重く、鋭く、強い匂い。
「こいつは……絶対効く」
毒袋を引きちぎり、口元へ持っていく。
喉の奥でざらつくような衝動が芽生え、気づけば――
そのまま啜り上げていた。
「っく……かぁ〜っ!! 染み渡るぜぇ……!」
毒が熱として駆け上がり、甲殻の内側を叩き、視界の端で色が揺らぐ。
けれど不快じゃない。
むしろ、体の芯が研ぎ澄まされていく。
俺の毒は、また一段階強くなる。そう確信できた。
「毒テングダケは……火山じゃあまり見ねぇだろうしな」
「となれば、イーオスに会うたびに解体して毒袋もらうのが手っ取り早いかぁ」
毒を喰えば喰うほど、俺は鋭くなる。
もっと強い毒が欲しい。
もっと深い毒が欲しい。
――そんな飢えを抱えたまま、俺は火山の斜面を歩き出した。
熱風が吹き抜け、砂が舞い、その向こうで何匹かのイーオスがこちらを見ていた。
赤橙の鱗が陽光を反射し、一瞬だけ煌めく。
次の瞬間――
全員そろって逆方向へ逃げ出した。
尻尾を巻き、転げるように、必死に、我先に。
俺という“巨大なガミザミ”を見て、パニックに陥ったかのように。
「……ははっ。悪い気はしねぇな」
強者の匂いを帯び始めた自分を感じながら、俺は火山の奥へと進んでいった。