黒ずんだ岩壁に、ぽっかりと口を開けた“横穴”があった。
洞窟のような暗がりだが、奥から噴き出す熱気だけは完全に火山のそれ。皮膚――いや、甲殻の表面を撫でただけで、じりじりと焼かれていくのがわかる。
「ここ抜けりゃマジで本格火山! よーし……いくぜぇぇ!」
気合だけは一流のつもりで、俺はハサミを振り上げてその横穴へ突っ込んだ。
熱風なんて勢いで殴り倒せると思っていた。
火山に住むモンスターがいるんだから、ガミザミの俺も大丈夫だろ、そんな甘い考えだった。
――十数分後。
「――――あづ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃッ!!!!」
バシュッ!! と横穴から飛び出し、逃げるように火山入口の水場にダイブ。
じゅぅぅぅぅぅぅ……と、まるで鉄板の上に落ちた野菜みたいな音がした。
「ぎゃあああああッ!? なんで俺、茹だってんのぉぉぉ!!?」
水の中で暴れ回るたび、ぶわっと湯気が立つ。
外にいるよりはマシだが、それでも体の中で熱が暴れてるみたいで、どうにもならない。
「なにこれ!? 火山ってサウナ!?
いやサウナ通り越して地獄!?」
「ショウグンもガミザミも火山にいるから余裕だと思ったのに!!?」
水面から必死に顔を出し、ゼェゼェと荒い呼吸で思考を巡らせる。
すると――原因らしきものが、ひとつ浮かんだ。
「……あ……そうだ……俺……
最近、鉱石めっっちゃ食ってた……!」
体の殻はどんどん硬くなり、色も濃く鈍く変わっていた。
それは強化の証でもあるが――熱の吸収率も跳ね上がっていた。
「バカ!バカ! 俺のバカ!!
こんな金属みたいな殻で火山行くとか無計画すぎんだろぉぉ!!」
水をばちゃばちゃかけて冷やすが、内部の熱は逃げる気配すらない。
ハサミの先もじんじんしていて、正直、泣きそうだった。
「でも……行かなきゃなんだよなぁ……」
火山は“強くなるための場所”。
もっと硬い鉱石、もっと強いモンスター、そして脱皮のための極限環境。成長の階段は、どうしたってこの地獄の奥へ伸びている。
だけど。
「耐えられるのか、これ……?
ほんとに俺……奥まで行けんの……?」
たった十分で逃げ帰ってきてこの有様だ。
入り口でこの熱なら、奥はどうなる? 歩く前に蒸し焼きコースでは?
水中で震えるハサミが、自分の弱気を代弁しているみたいで情けない。
「入口で死にそうって……
火山、どんだけバカみたいに熱いんだよ……!」
横穴の奥から、ゴォォォ……と重低音のような風鳴りが聞こえる。
まるで“来られるもんなら来てみろ”と嘲笑う声のようで、胸がきゅっと縮んだ。
「はぁ……どうすればいいんだよ……マジで……」
水面に映った俺の顔は、情けなく歪んでいた。
火山の試練は、想像していた冒険なんかじゃなく、ただただ純粋な地獄だった。