火山の横穴で茹だって死にかけた俺は、水辺に浸かりながら天を仰いだ。水面に浮かぶ湯気が、まるで俺の魂みたいにふらふらと立ち上っていく。
「……よし。内部は無理。死ぬ。まだ生きたい」
肺いっぱいに冷たい空気を吸い込んで、結論を出す。
「だから今日は、入口周辺を散歩します……」
ザバァ、と水から這い上がる。
甲殻にまとわりついた水玉が、パチパチ弾けて岩に落ちた。
火山といっても、外側には採掘ポイントが点在している。
ゲーム知識が脳の奥で「ここだぞ」「あっちにもあったぞ」と小突いてくる。
「内部の希少鉱石は今は諦めるけど、外周にも鉄鉱石くらいはあったよな……」
ズリズリと乾いた岩場を歩きながら、独り言を垂れ流す。
「まぁレアは出ねぇだろうけど、今の俺には十分すぎるか」
森とは違い、生き物の気配は薄い。
……薄い、はずだった。
ゴゴッ、ゴッ、ゴゴゴッ――
「……ん?」
地面を叩く鈍い振動。
反射的にハサミを構え、音の正体を確認する。
「あっ、出た出た。害悪生肉その1」
そこにいたのは、岩が歩いているような巨体。
分厚い背甲、丸太みたいな脚、ハンマー状の尻尾。
アプケロスが数頭、隊列を組むようにのそのそと進んでいた。
「うわぁ……お前らデカいくせに、なんであんな動けるんだよ……」
その瞬間、一頭の首がこちらを向いた。
目が合った。
――あ、これダメなやつだ。
ドッドッドッ!
「うぉおっとっと!?」
突進。質量の暴力。
横腹からの頭突きが、風圧ごと俺を吹き飛ばしに来る。
ギリギリでかわすと、アプケロスは止まらない。
むしろ速度が上がった。
「うわ、やば、やば、やば!! それスイッチ入ったやつだろ!!」
怒り状態に入ったアプケロスは、死ぬまで追ってくる。
移動速度が跳ね上がり、頭突きと尻尾を交互に叩き込む、ただの突進兵器。
草食? 知らん。
縄張り意識だけで生きてる怪物だ。
「だからホーミング生肉って言われるんだよ!!」
横に跳び、岩陰に滑り込む。
ズガンッ! と岩にぶつかる音が響いた。
「はぁ……口答えしてくるサイズしてんのに、思考は完全に突進専用脳……」
息をついた、その瞬間――
ズガガガガガッ!!!
「ひっ!? まだいるのかよ!!」
反射的に転がる。
今度は軽い。だが、速い。
岩色の影が一直線にすっ飛んでいった。
「あーーーはいはいはい!!
いたねぇ、火山のロケット生肉、リノプロスくん!!」
硬い頭を突き出し、直線しか走れない突進バカ。
方向転換? できない。
減速? しない。
止まるときは――
ゴンッ!!
「……岩にぶつかって気絶、と」
頭をふらつかせて気絶しているリノプロスを見て、思わず笑いが漏れる。
「いやぁ懐かしいなぁ……
突っ込むしか脳がないって、ある意味才能だよ」
初心者の頃、何度もこいつで肉を確保した。
火山の“流れてくる生肉”。
今見ても、ありがたい存在だ。いや、ありがたくない。戦闘中や採集中は特に許さん。
視線を上げると、アプケロスがまだこちらを睨んでいる。
数頭。距離は近い。
「……火山外周、意外と賑やかじゃねぇか」
空気は熱いが、内部ほど殺意はない。
俺でも、まだ耐えられる。
「まぁいいさ。内部はまだ早い。今日は外周を荒らす日だ!」
ハサミを鳴らし、俺は岩場を進む。
火山の本番は、まだ先。
その前に、この周辺で取れるものは――全部、いただく。