――ドゴンッ!!
火山外周に、乾いた爆音が響いた。
崩れた岩壁から、破片が転がり落ちる。
赤黒い粉塵がふわりと舞い、熱を帯びた風に押されてゆっくりと流れていく。
露出した断面には、鈍く光る鉱石の層。
何度も繰り返した採掘の跡が、そこに残っていた。
ハサミを差し込み、ひとつ引き抜く。
ガリ、と硬質な手応え。
そのまま口に運び、噛み砕く。
慣れた、不快でもなんでもない味。
もう一つ。
さらにもう一つ。
手を動かすたびに、身体の奥へとじわじわと重みが沈んでいく。
足元には砕けた岩。
背中のヤドには、いつの間にか溜まった護石。
カチ、と小さく音が鳴る。
それを確かめるように、ゆっくりと身体を揺らした。
「……こんなもんか」
ぽつりと呟く。
岩壁はほとんど削り尽くされていた。
これ以上掘り進めても、得られるものは薄いだろう。
ハサミで地面を軽く叩く。
コン、と乾いた音が返ってきた。
そのまま、ゆっくりと顔を上げる。
視線の先。
火山の入口。
空気が揺れている。
熱が、そこに溜まっているのが遠目にも分かる。
あの奥に――
赤黒い世界が、広がっている。
少しだけ、間を置く。
風が吹き抜ける。
遠くで、地の底が唸るような音が響いた。
「……そろそろ行けるかな?」
自分に問いかけるように呟く。
返事はない。
当たり前だ。
だが、その沈黙が妙に重く感じられた。
あの中には、一度入っている。
そして――
逃げた。
理由は単純だ。
熱すぎた。
ただ、それだけ。
――前は。
入って、ほんの数歩。
それだけで、身体の奥から沸騰するような熱が駆け上がってきた。
殻の内側に熱がこもり、逃げ場を失い、内側から焼かれるような感覚。
呼吸が浅くなり、視界が歪み、足が止まる。
一瞬で焼き蟹になるんじゃないかと思うくらいの暑さだった。
いや、一歩遅ければ焼き蟹になるところだったけど・・・
――だが、今は。
背中のヤドの中で、護石がわずかに触れ合う。
カチ、と小さな音。
それだけで、少しだけ現実に引き戻される。
「……まぁ、これだけあるし試す価値はあるか」
軽く息を吐く。
覚悟、というほど大げさなものではない。
ただの確認だ。
いけるのか。
それとも、まだ無理なのか。
「無理なら引く。それだけだよなぁ・・・」
「そんときはまた護石集めか、別の手を考えないとなぁ・・・」
自分に言い聞かせるように呟く。
それから、ゆっくりと足を前に出した。
一歩。
境界を越える。
熱が、触れる。
二歩。
空気が変わる。
三歩。
そこで――
足が止まった。
「……おや?」
思わず、声が漏れる。
来るはずのものが、来ない。
あの、内側から焼かれるような熱。
呼吸を奪う圧。
それが――ない。
確かに暑い。
じわじわと、体温が上がっていくのは分かる。
だが、それだけだ。
踏みとどまれる。
呼吸も、乱れない。
もう一歩、踏み出す。
問題ない。
「……もしかして、どれか当たりを引いたか?」
自分の身体を確かめるように、ハサミを軽く動かす。
違和感はない。
むしろ、安定している。
そして、ようやく言葉が浮かぶ。
「……日本にいた頃の夏、くらいか?」
じっとりとまとわりつく熱。
空気は重く、逃げ場はない。
だが――生きてはいける。
「……あちぃけどな」
ぽつりと付け足す。
それでも、あの時とは違う。
拒絶されてはいない。
ただ、試されているだけだ。
「……いけるな」
小さく呟く。
その言葉には、もう迷いはなかった。
熱の中へ、さらに一歩踏み出す。
赤黒い岩の世界が、静かに広がっていく。
俺はそのまま、火山の内部へと足を進めた。