俺はその場で固まったまま、小さく息を呑んだ。
「……ブラキディオスの、ベイビー?」
目の前に横たわる小さな身体を、まじまじと見つめる。
ゲームでは何度も見てきた。
だが、こんな幼体なんて見たこともない。
特徴的なリーゼントもまだ小さい。
「ていうか……なんでこんなところに?」
思わず周囲を見回す。
物音はしない。
親らしき気配もない。
そもそもここじゃあ狭すぎて入ってこれないし。
「いやいや……。」
警戒しながら一歩、また一歩と近づいていく。
「……生きてんのか?」
恐る恐るハサミの先で肩をつついてみる。
反応はない。
だが、じっと見つめていると、小さく胸が上下していた。
「……生き、てるのか。」
苦しそうではあるが、確かに息をしている。
その姿を見ているうちに、頭の片隅にぼんやりとゲーム外の設定資料で読んだ記憶が浮かんできた。
「そういえば……ブラキって、生まれた時から粘菌との共生が始まるんだっけ。」
視線は自然と砕けた前脚へ向く。
いびつに割れた甲殻。
まだ成長しきっていない柔らかな外殻。
「確か……幼いうちは外殻がまだ柔らかくて、自分の爆破に耐えきれず死ぬ個体も多い、とか何とか。」
だからなのか。
砕けた腕の周りには、緑色の粘菌がこびり付いていた。
「……でも。」
俺はもう一度辺りを見回す。
「親はどこ行った?」
子どもがいるなら、普通は近くにいてもおかしくない。
「もう助からないと思って置いてったのか?」
「それとも、ブラキって放任主義だったりするのか?」
「……うーん。」
考えても答えは出ない。
目の前のベイビーは、小さく苦しそうな呼吸を繰り返すばかりだった。
「えぇ……どうしようかなぁ、これ。」
頭を抱える。
「ここで仕留めちまうのが、一番安全っちゃ安全なんだろうけど……。」
ちらりとベイビーを見る。
「でも、もし親がいたらさ。」
「『お前、うちの子やったな?』って匂いでバレそうじゃね?」
想像しただけで背筋が寒くなる。
「いや、それ以前に……。」
もう一度、小さな身体を見る。
「モンスターとはいえ、ベイビーだしなぁ。」
「襲ってくるなら返り討ちにするけどさ……。」
「こんな衰弱してる相手にトドメ刺すのは、なんか気が引けるんだよなぁ……。」
腕を組み、うーん、うーん、と唸る。
考えれば考えるほど、わからなくなる。
やがて俺は、大きくため息を吐いた。
「あぁーーっ! もう知らねっ!」
勢いよくヤドを開ける。
中から回復薬を何本か取り出し、ベイビーの砕けた腕や傷口へ惜しみなく振りかけていく。
「もう後のことは知らん!! 助けてやるからな!」
「だから目ぇ覚ましたら襲うなよ!? 頼むぞ!? マジで!」
回復薬が傷へ染み込むたび、小さな身体がぴくり、と震える。
飲めそうな分は口元へ流し込んでやる。
ベイビーは抵抗する力も残っていないのか、されるがままになっていた。
薄く開いた瞳が、ぼんやりと俺を映す。
敵を見るような目ではなかった。
ただ、不思議そうに。
あるいは安心したように。
そんな曖昧な視線を向けたまま、ゆっくりと瞼が閉じていく。
苦しそうだった呼吸は少しずつ落ち着き、やがて静かな寝息へと変わっていった。
「……寝た、のか。」
俺はその場にしゃがみ込んだまま、小さく頭を掻く。
「ったく……面倒なもんに出会しちまったなぁ……。」